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25-1:囚われの黄金

25-1:囚われの黄金


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 目が覚めるとそこは牢獄の中であった。

 ベットも引き布団すらない固い地べたで眠っていたモノだから、体の節々が痛くてしょうがない。

 凝り固まった体をほぐそうと腕を伸ばすが、その腕には固く重たい手錠がはめられており思うように体を伸ばせない。

「痛いぜ、全く。せめてティーカに引き布団ぐらいは要求するべきだったかな」

 ほぐせるところをほぐしつつ、神野鳴恵はぼやいていた。

 彼女が鉄鬼兵に囚われこの牢獄に入れたのは12時間前。

 戦闘で疲れ切った鳴恵は牢獄に入れられるなり睡魔に負け眠りについたのだが、寝る前にちゃんと準備をするべきだったとちょっと後悔する。

「さてと。お~~い。ティーカ!!」

 ある程度体をほぐし終わった鳴恵は鉄格子の外に向かって叫びかける。

 声が届く範囲にティーカがいるか不明だが、まあこれで彼女が来れば儲けモノと言った軽い気持ちであった。

 手錠がはめられているので上半身の反動のみを利用して鳴恵は一気に起き上がる。

 寝てる間に何かをされたのなら気づいて目が覚めていたはずだが念のため身辺を確認する。

 右腕には手錠の下に金のMSデバイサー”クロート”がはめられているし、玉露の許可無く持ってきた津樹丸もあの時のまま壊れた状態で床に転がっている。

 掌が使えないので肘でポケットを叩くとちゃんと角張った出っ張りも感じることが出来る。

 囚われの身であるのが魔法が使えないただの少女である故か、もしくは他のことで忙しいのか分からないが、本当に何もされていなかったらしい。

「オレも舐められたものだね。まあ、確かに魔法が使えないオレじゃ出来ることなんてたかがしれているけどね」

「全くその通りよ。分かっているのなら、クロートを置いてさっさと逃げるべきだったの。まさかあなたこの状況で、まだクロートを守ろうなんて思っている訳じゃないでしょうね」

 檻の外から少しだけ懐かしい声が聞こえてきた。

 彼女とちゃんと話したのは一日だけであるが、あのちょっと偉そうで、でもその実内に寂しさを秘めた声は簡単には忘れられない。

「オレはどんな状況でも諦めないぜ。ま、オレに出来ることなんて世界を救うなんて大それた事じゃない。

 もっと小さくて、友達を救ってやるのが精一杯なんだろうけど、それでも、出来ることはやらないとな、ティーカ」

 まるでそこが自分の定位置だと言わんばかりに大切な騎士の肩に座っているティーカに鳴恵は笑いかける。

「ふん。馬鹿ねあなたは。何であたしはあなたなんかにクロートを託してしまったのかしら」

「それは、オレが魔法を使えないからだろう」

「…………」

 鳴恵の問いにティーカは答えない。

 だが、それは無言の肯定である。

 鳴恵はまるで無鉄砲な後輩を心配するかのように小さくため息をつくと、ティーカに言った。

「ティーカ。似てるよな、オレ達は」

「何処がよ。あたしはあんたみたいに勝ち目のないことに笑顔で突っ込む馬鹿じゃないわよ」

「うわ。酷い言われようだな。でも、オレもお前も一緒だよ。オレはオレの友人を何としても救ってやりたい。だから、今ここにいる。

 ティーカ、お前もお前の友人を救ってやりたいんだろう」

 ティーカはやはり何も答えない。

 だが、その唇は想いを達成できない悔しさによってきつく噛みしめられていた。

 その顔を見ることが出来たことで鳴恵は満足だった。

 

 それだけ悔しさを感じられるのなら、きっとティーカは彼女の友人を救うことが出来るだろう。

 

 根拠なんて何処にもないけど、鳴恵はそう信じたかった。

「それで、ティーカ。お前は無駄話をしにここに来た訳じゃないんだよな」

 この次元に来た目的の一つを達成した鳴恵は話を次に動かした。

 彼女がこの次元に来た理由は沢山ある。まだまだ鳴恵がすべき事は沢山あるのだ。

「ええそうね。あなたとの無駄話はもう終りね。神野鳴恵、出て来なさい。サクラがあなたを、いえ正確にはあなたのその右腕にあるクロートと会いたくてうずうずして待っているわ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



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