4-1:緑剣士
4-1:緑剣士
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朝が来た。
布団を引いていないベットの上で体育座りのような体勢で眠っていた剣士はゆっくりと瞼を上げる。
昨夜も『闇法師』と戦い、命を長らえることが出来た。
朝がやってくる。
そんな当たり前のことが剣士にはもの凄く嬉しいことだった。
「おはよう、津樹丸」
剣士は、一晩中抱きかかえていた相棒に語る。
相棒もその刀身を緑に光らせるが、残念なことに鞘に収まっているため、刀身に浮かんだ文字は分からない。
いや、見えずとも剣士には相棒の浮かべた文字が分かっている。
「今日も一日、がんばろう」
そう言うと剣士は朝食を作るべく立ち上がった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝の通学路の中で、一人異質な雰囲気を持つ生徒がいた。
他の生徒達が和気藹々と道を進んでいく中、学生服を着て、学生帽を被った緑剣士だけはまるで違うレイヤーの世界にいるかのように一人浮いていた。
剣士の手には鞄はない。
その代わりに握られているのは恐らく竹刀を納めているであろう縦長の袋だった。
生徒達の内数人は、剣士に腫れ物でも見るかのような視線を送ってくる。
そんな目で見られることなんて剣士にとっては慣れた事だし、他人が自分をどう思っていようと、剣士は全く気にならなかった。
ただ一刀、この手にいる相棒さえ、自分を信じてくれていれば、それだけで良い。
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「おっはよう。ツッキー」
教室の席にたどり着いた剣士を出迎えたのは、妙に愛嬌のある声だった。
「おはよう、修助」
剣士は必要最低限の挨拶だけを済まし、席に座る。
それ以上話を繋げようなんて微塵も考えていなかった。
「ツッキー。相変わらず、つき合いわりいな。そんなんじゃ、友達出来ねえぞ」
剣士の真っ正面に座る彼は、安い笑みを貼り付けた顔で剣士に迫ってくる。
クラスメートが剣士を避けている中、席が前の彼だけは、剣士の無愛想も殺気だった雰囲気も全く気にせず、気軽に話しかけてきていた。
「別に、僕は独りで十分だから」
友達を作りたいなんて思ったことはない。
誰かと一緒に笑ったり、喜びを共有したいなんて考えたこともない。
生まれたときから、月島の一族の運命を背負う宿命なのだ。
友達など、必要ない。
『闇法師』を葬る。
ただそれだけのために、修行を重ね、今を生きている。
他のことは、緑剣士―月島 玉露―にとって、余計な物でしかないのだ。
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