24-5:交われぬ赤と緑
24-5:交われぬ赤と緑
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「あっ」
月明かりさえ差し込まぬ路地裏で、玉露と秋生は出会った。
闇法師に怯え続けていた剣士は、縋るかのように右手を秋生に差しだした。
「助けて。助けて、僕を助けて」
それは、真に孤独となった者の魂からの懇願だった。
震える手を前に前に差しだし、赤き天使に救いを求めている。
だが、その手が届くには秋生は遠すぎる。
玉露は惨めに地面に倒れ込み、そんな玉露を闇法師が嘲笑する。
「止めて、止めて、助けて」
闇法師から逃げるように、暗き闇に舞い降りた赤く輝く天使に向かって救いを求める手を差しだす。
憔悴しきった玉露は既に立ち上がる気力さえも残っていない。
地面を這いながらも秋生に近づいていく。
「助けて」
「いいや、そいつはお前を助けないぜ。お前自分の顔見てからものを言った方が良いぜ。そんな醜い豚にも劣る奴を助けるなんて本当の天使でもない限り無理な話だぜ」
「たすけて」
「いい加減こっちに来いよ、玉露。どうせそいつはお前を助けないんだ。
叶わない希望なんて持つだけ無駄なだけ、そんな希望はより絶望を深くするだけだ。
こっちに来いよ。俺たちは全力をお前を助けてやる。
ここは深い絶望に包まれた世界だから、それ以上の絶望なんて感じない世界だ」
「たす……けて」
「月島玉露。俺たちにはお前の力がどうしても必要なんだ。
太古より俺たちを狩ってきた憎むべき月島の一族。
俺たちの月島の恨みは何処までも深い、まるでお前のその孤独であるかのようにな。
だから、手を組もう。俺たちはお前を使うことで月島の一族を滅ぼし、お前は俺たちと友にいることで孤独を感じない。
いい話だろう。だから、俺達と一緒になろうぜ」
闇法師がそっと玉露の後ろに立った。
たったそれだけの事で、玉露は親にしかれる子供のように竦み上がった。
引きつった悲鳴を断続的に上げながら、秋生の元に這っていく。
そして、やっと彼に触れられるその場所までたどり着くことが出来た。
「助けて」
最後の気力を振り絞って秋生に差しだしたその手を、しかし、秋生は握りしめてくれなかった。
玉露の手が何もない空を切り、地面に堕ちる。
秋生は次元監視者である。
この次元の者と接触する事はそれだけで次元振動を引き起こすきっかけとなりうるのだ。
クロートが発動する可能性がある今、無用な次元振動を引き起こすわけにはいかないのだ。
「すまぬ、月島の人間。小職は、次元監視者である故な、お主ではなく、次元を守らねばならぬのだ」
秋生の言葉はもう玉露には届かない。
差しだした手は握り替えされなかった。
その現実を前にして、孤独な剣士の心と、体と、技は闇に浸食される。
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