24-4:朱が告げる真実
24-4:朱が告げる真実
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闇夜に真紅の翼が舞い降りたが、その輝きは、刹那で消えて、世界は再び夜の闇に包まれてしまった。
「っく、ここが限界か」
魔力が尽きた赤髪の次元監視者はそう言って、近くにあったビルの壁に背中を押しつけた。
近衛乱の策略にはまり、何処とも知れぬ次元に飛ばされた秋生は、可能な限り最速で、魔力を出し惜しみすることもなく、全力を使い切ってこの次元に戻ってきた。
あの狂気に染まった桜色の暴走を止め、自らの使命である次元を守り抜くために。
使い切った魔力が回復するにはもう少し時間が必要だった。
秋生は荒れた息を整えながら、真っ赤に彩られたコインを投げ飛ばす。放物線を描いたコインは反対側の手に落ちてきた。
「表か……」
コインには天使が描かれていなかった。
弱き者に救いの手を差し伸べてくれる者は、そこにはいない。
「お前は醜い、醜い豚なんだよ!」
罵倒が聞こえてきた。
声は秋生の立っている場所のさらに奥から聞こえてきた。
表通りからの光が殆ど差し込まない路地裏で罵倒が響き渡った。
「この気配、クレデターか。全く、この次元の生き物ならともかく、クレデターとなれば見過ごすわけには行かぬな」
小さく呟き、秋生は体に鞭を打って罵倒の聞こえた方へ歩き出した。
魔力は殆ど回復していないが、そんなことを理由に次元のゆがみを次元監視者が見過ごすわけにはいかないのだ。
特に、今はクロートが関わっている。下手な次元振動一つが次元の崩壊に繋がる可能性だって捨て切れないのだ。
重たい足を前に出しながら、秋生は進む、彼は何時でも次元を守るために進み続けるのだ。
「言うな!! 言うな!! ゆうな!!」
悲鳴が聞こえた。
悲壮という色だけに染まったその声はしかし、秋生は聞いたことがあった。
何処で出会ったのか思い出せないほどの薄い記憶の中にだが、この声を聞いたことがあった。
自然と秋生の足が速くなる。
心が胸騒ぎを起こしてきた。
あるはずのないことが起きているそんな予感が鼓動を、足を速くさせる。
「なあ、もう認めろよ。
お前は独りなんだよ。そんな涙と鼻水と涎で豚のように醜い顔になったお前と誰が友達になれると言うんだ。
剣を持つことも出来ず、不様に負けることしかできない無力なお前なんて誰も必要としてないんだよ。
お前は独りだ。
独りだ。
独りだ独りだ。
独りなんだよ!!!!」
そこには邪悪と言う形容詞しか思いつかないクレデターがいた。
そこには狂乱と言う形容詞しか思いつかない月島玉露がいた。
玉露は両手で耳を塞ぎながら、体を丸くしながらクレデターに怯えていた。
その震える姿にはもう緑剣士の面影を見いだせない。
「月島の人間が、何故もそんなにも、情けない姿をさらけ出しているのだ?」
月島の一族に取って、何よりも憎みべき対象である闇法師を前にして、緑剣士はまるで赤子も同然の醜態をさらけ出していた。
剣士が唯一無二の相棒を相棒を失った意味を、自らが居るべき次元を持たぬ真に孤独な次元監視者には理解出来ていなかった。
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