24-3:紅対玉露
24-3:紅対玉露
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二人の戦いは互角であった。
それ故に技量は紅の方が上であると言える。
二人の武器は真剣と木刀である。
その圧倒的な戦力差をモノとせず互角に戦っているのだ。紅という剣士がどれ程の剣術を身につけているのか自ずと知れてくる。
仁司丸と紅の持つ木刀が激しくぶつかり合い、二人の剣士は一度距離を取った。
「へえ、流石、月島を名乗っているだけのことはあるね。本家の人間、良い腕してるよ。それじゃあ、僕も本気ださせてもらおうか」
そう言って、紅は右手一本で木刀を構え直し、彼女が自ら編み出した剣技を披露する。
「紅流剣技 十六夜!」
その剣技を玉露は知っていた。
彼女が使った剣技はまさに、玉露の親友が使っていた剣技であったから。
「え?」
玉露の思考は停止し、脳裏に鳴恵の笑顔が浮かび上がる。
親友と呼べる彼女が恋しかった。
戦いの最中だというのも忘れて、仁司丸を手放し、彼女を求めてしまう。
「鳴恵……」
紅の木刀が玉露ののど元に突きつけられる。
しかし、既に玉露には紅など見えていなかった。
孤独な剣士が見ているのは幻影。
鳴恵、リリシア、津樹丸。
孤独な剣士が思い描いた現実から逃げ出すための虚像である。
「あれ、もしかして、あんた、鳴恵の知り合い? へえ、世間って狭いものだね」
紅はそう言って、木刀を玉露ののど元から離し、地面に落ちた仁司丸を拾い上げる。
「でも、だからといって、コレを使って良い訳じゃない。あんたは本家の人間なのだろう。それにそれだけの腕だ。焦らなくても、すぐに清斬の使い手になれるよ」
紅は笑いながら、玉露の肩を叩き玉露を励ますが、それが逆効果でしかない。
「無理だよ。僕の津樹丸はもう壊れた。壊れたんだ!!
それにリリシアも、鳴恵も居なくなった。居なくなったんだ!!
僕はもう独りなんだ!!」
癇癪を起こした玉露が吼える。
だが、紅はそれでも玉露の肩をもう一度叩いた。
「独りじゃないさ。僕は鳴恵の事は生まれたときから知ってるし、リリシアってリリシア・イオ・リオンの事だろう。
なら、大丈夫だって。あいつらは絶対に友達を裏切ったりしない。何よりも友情を大切にする奴らだよ」
「でも、でも、僕は鳴恵にも、リリシアにも、酷いこと沢山してきた。
あの二人は僕の事友達って言ったけど、友達って言ってくれたけど、でも、心の中じゃ、もしかしたら、思ってないかも知れない。
こんな、こんな津樹丸が居なくなって役立たずになった僕なんて、もう必要ないって思っているかも………。
だから、二人とも居なくなったのかも……そしたら、やっぱり、僕は独りなんだ!!
怖い、怖い、怖い、独りは怖い!!」
玉露の言い分を聞いた紅は一度空を仰ぎ、心を決めてから、躊躇わず玉露の頬を引っぱたいた。
「!?」
「確かにそんなことを言っている限りじゃ、あいつらの友達にはなれないだろうよ。まあ、人生の先輩として偉そうなこと言わしてもらうけど。
確かに今のお前は独りだ。でも、その孤独から抜け出すのは戦う力を取り戻す事じゃない。
僕の親友にさ、神野小夜子って奴が居る。
知ってるかも知れないけど、鳴恵の母親の小夜子の事だよ。
小夜子は戦う力なんて全くない。ただの一般人。
でも、それでも悪魔と戦い続けてきた僕とオータムの大切な親友だよ。彼女が親友だって僕は、胸を張って言うことが出来る。
だから、必要なのは戦う力じゃない。
必要なのはただ一つ、友達だって思うことだよ」
紅にぶたれた頬が痛かった。
そして紅の言っている意味が分からなかった。
月島の人間として、剣術だけを磨き上げてきた玉露にとって、剣こそ己が存在意味。
それを切り捨てた玉露など玉露ではない、いや切り捨てたら何も残らない。
無と友人になれる者など、居るはずがないのだ。
「嫌だ。僕には津樹丸が必要なんだ。津樹丸が居ないと僕は僕じゃない。
津樹丸が居ないと僕は鳴恵とリリシアの友達でも居られないんだ!!」
そうとだけ呟いて玉露は逃げるように階段へ向かって走り出した。
紅はそんな玉露に手を伸ばしかけて、止めた。
これは玉露達の問題であり、紅達があまり踏み込むべき問題ではないのだ。
玉露が、そして、鳴恵が、リリシアが、答えを見つけなければならない事だ。
「それにしても、鳴恵とリリシアと玉露か。まったく昔の僕達とはまた違った三人組だけど、僕達の後を継いだ三人なのかな。ねえ、小夜子、オータム」
この同じ空の下にいる友人達に語りかけて、巫女服の紅は宝刀である仁司丸をあるべき場所に戻すべく境内に向かうのだった。
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