23-1:黒の真実
23-1:黒の真実
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世界には二人の”ラン”がいた。
世界には二人の”サクラ”がいた。
世界で、1人の”ラン”が二人の”サクラ”の前で死んだ。
そして、桜が狂気に染まった。
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電灯もつかない廃工場の片隅で近衛乱は目を覚ました。
「どの位、時間が経ったのだ」
桜色の世界であったもう一人の自分を思い出した事に自嘲しつつ、辺りの気配を探り、もう一度自嘲した。
ゆっくりと手を持ち上げて動かしてみる。
もう、しびれは残って無く、これなら戦える。
次に視線を動かす、すぐ横で乱と同じように横たわっている一体の人形を見る。
それは次元の命運をその体内に宿した一体の人形。その人形の名はリリシア・イオ・リオン。
その体内に宿しているMSデバイサーは次元を司るフェイトが一つ、”ラケシス”だ。
「全く持って、情けないぜ。お宝を奪う時、もっとも警戒しなければならないのは、獲物を持ち上げる瞬間だというのにな。やっぱり、あいつと出会って刑務所暮らしが長かったからか、腕が落ちたぜ」
リリシアは先の戦い以降、その活動を完全に止め、今や完全な人形となってる。
そんな中、呟いた乱の独り言は廃工場の闇の中に吸い込まれは、静かに溶けていく。
リリシアの中に埋め込まれた”ラケシス”。
サクラの元から逃げ去り、この廃工場内でリリシアからラケシスを抜き取ろうとした乱であったが、仮にも相手はフェイトの一つである。何重もの安全策は施されていて当然である。
むき出しのラケシスに触れた瞬間、乱の中にキャパシティーオバーの魔法が流れ込み、乱は一時気を失ってしまったのだ。
「まあ、良い。獲物はもう止まり、逃げることはない。あまり時間は残されていないが、慎重に奪わせてもらうよ。他人に奪われない限りはな」
乱はポケットから漆黒のMSデバイサーを取り出した。
彼の武器『プロミス・オブ・AS』、その残された枚数は10枚である。
これが闇騎士に残されたチャンス。
この切り札を使い切る前にクロートを手に入れなければ乱はサクラを救うことが出来ない。
「お前独りぐらいなら、私が守ってやるさ」
これまでにも幾度と、魔法の呪文のように口にしてきた言葉。
騎士の誓約と心に刻み、乱は静かに立ち上がった。
目の前で眠り続ける人形は、その活動を止めることでラケシスの活動もまた止めて己の居場所を感知されないようにしているが、そこにあるのは次元を生み出すほどの魔力を秘めたMSデバイサー。
活動を止めた所で、そこに存在しているその現実だけでも圧倒的な魔法的存在感がある。
それはまさに猛獣を呼び寄せる嗜好の餌である。
もう一度、辺りの気配を探る。
乱とリリシアを囲むように数百もの気配が渦巻いていた。
敵も獲物がラケシスである事が分かっているのだろう。
だから、絶対に失敗のないように万全の体勢を整えた上で狩りを始めたって訳だ。
「クロートとラケシス。この二つを使って、私が私を救い出し、お前に私が生きている真実を見せてやるさ」
これが乱が戦い続ける理由。
あの日、自分自身と誓い合った約束。
狂気の色に染まった大切な彼女を狂気の中から救い出すために、騎士が考え抜いた結論。
そのために利用できる物は利用し、奪える物は奪い、やっと志半分までたどり着いたのだ。
敵が何者であろうと、何百人であろうと、乱には関係ない。
戦う。
ただ、それだけだ。
勝ち目のない戦いであろうと、約束を果たすために、闇騎士は勝たねばならない。
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