22-9:紫色の帰還
22-9:紫色の帰還
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「全く、変わったわね、あなたは?」
魔力が底をつき、まるで眠りにつく少女のようにその場に倒れ伏せたサクラを見て、ティーカは嘆きとも取れる声を漏らした。
畏怖の色として恐れられている紫を宿した妖精である自分に、隔たり無く接してきてくれた彼女は、こんなんなじゃなかった。
彼女は変わってしまった。
もうあの日の優しい彼女は居らず、ここにいるのは独りの壊れた少女。
「でも、あなたはこんな羽根を持つあたしを見捨てはしなかった。
だから、あたしもあなたがどんなに壊れようとも見捨てはしないわ。あなたへの恩を返すためなら何処までも……」
「そーいうのって、恩じゃなくて友情って言うんじゃないのか?」
ティーカの側から、この臨場感に似合わぬ、だが心の靄を消し飛ばす声が聞こえてきた。
ティーカが視線をサクラから、彼女―神野鳴恵―に向ける。
鳴恵は逃走されないようにその両手を後ろに回され手錠をはめられているというのに、恐怖など一切感じていないようだ。
それどころか、何故か希望に満ちた瞳を輝かせている。
「あなたも馬鹿ね。あんなMSデバイサー早く捨ててしまえば良かったのに。そうすれば、こんな目にも会わずに済んだ物を」
ティーカの罵倒に鳴恵は笑って答える。
「でも、オレは、オレにクロートを残していった奴が何を思ってオレにこいつを託したか知りたくてな。
その答えはまだ分からないけど、ここまで来たことを後悔してないぜ。
それに、別件でしなっくちゃ成らないことも出来たしな。丁度良いぜ」
その笑顔はあまりにまぶしすぎて今のティーカには直視しかねるほどだった。
「そう。なら、これから後悔しなさい。鉄鬼兵、その女を連れて先に戻りなさい」
ティーカの命令に鉄鬼兵が動きを再開する。
手錠を繋がれた鳴恵はまさに捕虜のように従順に鉄鬼兵の後へ付いていく。
次元の狭間に鉄鬼兵と鳴恵が消え、倒れていたサクラも他の鉄鬼兵が彼女の次元へと連れて帰った。
残っているのはティーカと流誠。
そして、心が壊れ自分を見失っている玉露と、戦いに敗れ意識を失っている小歌だ。
「少し、この次元にいないだけで、結構こっちも変わってしまったような気がするわね」
「そうかな。ボクはティーカが戻ってきてくれたから、それだけで元通りだと思ってるけど」
「ッシャ。あんたは相変わらず、微妙にくさい台詞をさらっと言うわね。聞いてるこっちが恥ずかしいわ」
「ごめん。でも、これが今のボクの本心だから。それに、またティーカと会ったらその時は、絶対に言おうと誓っていた言葉があるんだ。ティーカ、ボクは、キミのことが………」
流誠のその後の言葉が何であるかティーカは確信していた。
していたからこそ、今は聞きたくなかった。
サクラの事、これから生み出されるであろう次元の事、今は他に考えなくてはならないことが山積みなのだから。
だから、ティーカは流誠の唇を塞いだ。
妖精と人間の口づけ。
二人は何も言わず静かに互いの唇を重ね続けた。
想いは伝わった。
だが、言葉としてはちゃんと聞いていない。
そんな逃げ道を作ってしまった自分が情けなかったが、これが今のティーカに出来る精一杯。
クロートが再びサクラの手元に戻った今、なんとしても次元を生み出すという大罪を犯す友の暴走を止めなくてはならないのだから。
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