22-8:誓い救う
22-8:誓い救う
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
戦いは終わりを告げた。
紫騎士は騎士へ戻り、
緑剣士の心は折れ、
白歌姫は闇騎士に敗れ、
朱天使は彼方の次元に飛ばされ、
青人形はその活動を止め、
そして、クロートを持つ女性は桜色の彼女に囚われた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
近衛乱は深呼吸をして、ゆっくりと彼女の方へ振り向いた。
牢獄の中で出会い、恋をした桜色の彼女。
しかし、そこにいる彼女は、もうあの時のサクラ・アリスでは無かった。
彼女はもう、彼が誰であるか分からないほどに壊れていたのだから。
「ねえ、あなた、少しだけ乱君に似ているね」
全身が桜色の光に包まれているためサクラの姿を見ることは出来ないが、そこから聞こえてくる声は懐かしくも心が震える彼女の声だった。
「そんな事など、今の私とお前には関係がないさ」
ポケットに入れた手でしっかりと『プロミス・オブ・AS』を握りしめる。
チャンスは一瞬。
この戦いの最中に感じたあの違和感を近衛乱は信じることにした。
あの違和感が本物であるのなら、まだ乱の希望は潰えていない。
「そうだね。だって、わたしはこれで、やっと、乱君と一緒に暮らせる虹色の世界を作る事が出来るんだよ。
嬉しいな。やっとわたしは乱君を暗い暗い次元の狭間から救い出して、やっと、わたしは乱君と幸せになれるんだよ」
恍惚とさえ取れる声色でサクラは闇騎士に語る。
まるで目の前にいるのは近衛乱ではなく、別の人間であるかのように………。
「それは無理だな」
サクラの未来を闇騎士が冷たく切り捨てる。
「なんでそんな事言うの。
わたし、クロートを手に入れたよ。そしてね、今、ラケシスも在処が分かったの。
クロートとラケシスがあれば、わたしの誰にも邪魔されない、わたしと乱君だけの次元を作る事が出来るんだよ!
そんな世界をわたしは作るんだ! 作ってみせるんだからね!
そして、そこが次元の狭間に閉じこめられた乱君の次元になるの!」
「無理だ」
「無理じゃないよ! 無理じゃないの!」
まるで癇癪を起こしたかのように桜色の体を大きく振り回しながらサクラは乱の言葉を否定し続ける。
まるで、それを肯定すれば、大切な物が壊れてしまうかのようにどこまで必死に否定し続ける。
愛する者が苦しんでいる。
救いの手を求めている。
だが、近衛乱は手を差し伸べない。
守る事が騎士の役目ならば、救うこともまた騎士の役目なのだから。
「無理だ。それはお前自身が一番良く知っていることだろう、何故なら、お前は……」
「嫌! 言わないで! それ以上先を言わないで!」
サクラの願いは、近衛乱には届かない。何故なら、
「何故なら、お前は見たのだろう。近衛乱が次元に喰われる、その瞬間を」
まるで満開の桜が強風に煽られ、数多のも桜吹雪となって散っていくかのように世界が静寂に満ちた。
その静寂はどれほど続いたのだろうか。
近衛乱にとって数秒に感じられた出来事も、サクラ・アリスにとっては時の感覚さえ無くなるほどの永久の出来事に感じられた。
「あは。はははは」
壊れた歯車のようにかみ合わない口から、笑い声が漏れる。
意志や感情が一切乗っていない、乾き、そして悲しき笑い声。
その笑い声は何処までも無で、聞いた者は絶望という単語しか思い浮かばなかったであろう。
「ははははははははは」
笑い声に混じって、魔法が放たれる。
詠唱も何もない、暴走としか思えない無作為な魔法。
サクラ・アリスの全身から桜色の光が飛び散り、辺り一面を破壊していく。
目に見えない悪夢と言う名の現実を振り払うかのように、魔法は止まるところを知らない。
「お前1人ぐらいなら、私が救ってみせる………、必ずな。だから、今だけは……許せ」
そう確かに誓い、乱は『プロミス・オブ・AS』に呪文を刻む。
今はまだ彼女を救うことが出来ない自分を悔い諫めながら、この世界を終わらせないためにも、ラケシスをサクラの元に渡すわけにはいかない。
『Drak Wings』
背中から漆黒の翼を生やし、乱は飛ぶ。
暴走したサクラの攻撃をかいくぐりながら、活動を止め、まさに人形のように動かないリリシア・イオ・リオンをしかっりとその胸に抱きしめ、サクラの感知の届かない場所まで一気に離脱するのだった。
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