22-3:折れた剣
22-3:折れた剣
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鉄鬼兵の一斉射撃はしかし、玉露とリリシアの結界によって阻まれた。
「ごめん、助かったぜ」
右腕に光る黄金のブレスを庇いながら、鳴恵が礼を言ってくれる。
状況は全くわからないが、今ここで確かめなければならなないのは、ただ一点のみだ。
後のことは、どうだってかまいはしない。
「リリシア、一つだけ教えて。あいつらの狙いは、やっぱり鳴恵なの?」
剣士の問いに、友はただ静かに頷いた。
”そっか”とだけ呟き、玉露は津樹丸を握りしめる。
こいつらからは微弱ながら、闇法師の気配も感じるし、躊躇う理由はなさそうだ。
鳴恵から魔力吸収の気配を感じるのは気がかりだが、それは鳴恵と距離を置いて戦えばよいだけのこと。
元々接近戦が玉露の本分だ。
自分が鳴恵から離れることは敵も鳴恵から離れることになる。
いつもは戦うことにこんな理由付けなどしないはずなのに、どうしてだか頭の中でそんな打算をしている玉露がここに居た。
「玉露、気をつけろ。こやつら、妾以上に戦闘に特化され作られた兵器だ。汝の腕は認めるが、その上であえて忠告させて貰おう。気をつけろ」
「ありがとう、リリシア。でも、僕は津樹丸が居てくれれば、それで大丈夫だから」
そう言って玉露は駆けた。
相棒である津樹丸を握りしめ、鳴恵を守るために一気に鉄鬼兵との距離を詰めていく。
相手の実力は未だ未数値である。
まずは牽制として、剣を持つ鉄鬼兵に切り込む。
剣と剣がぶつかりあう音が鳴り響く。
『危機』
津樹丸の緑の刀身に文字が浮かび上がる。
その言葉に玉露も同意であった。
たった一撃だけであったが、いつも見てきたこの剣技を見抜くには、それだけで十分だ。
この鉄鬼兵は、玉露と同じ月島の型を使った。
何故という疑問が浮かんだが、すぐにかき消えた。
大切なのは答えを導き出すことではない。
戦いに勝ち残ることだ。
一度距離を置くべく剣を持つ鉄鬼兵から距離を取る。
しかし、そのすぐ背後に槍を持つ鉄鬼兵が立っていた。
こちらの動きはまるで素人であるかのように緩慢であったため、難なく避けれた。
この動きの差は一体何なんだ?
一方は達人のごとき剣技を持ち、一方は素人当然の槍術である。
疑問は隙を招くと分かっていても、この違和感こそがこの鉄鬼兵の正体に近づく確信もまたあった。
槍を持つ鉄鬼兵は足止め要員、剣を持つ鉄鬼兵が再度迫り来る。
「っくそ」
自分と全く同じ型を使う敵。
全く同じ剣技であるのなら、残された差は、速さ、力、そして魔力だ。
津樹丸に魔力を込め、鉄鬼兵に斬りかかる。
剣と剣。
二人がぶつかり合い、
力と力、
魔力と魔力、
技と技。
その全てが互角であった。
いや、ただ一つだけ互角でない物があり、他の全てが互角な分、この差が妙実に現れてきた。
玉露と鉄鬼兵の差、それはMSデバイサーの性能差だ。
一つの終わりを告げる、渇いた音が鳴り響いた。
「え? うそ」
津樹丸が止められた。
いや、それだけならまだ分かる。
相手は玉露と同じ剣技を使っているのだ。
だけど、
だけど、
だけど、
「だけど!!」
それなら、どうして津樹丸が折れたの。
それはあまりにもあっけない。
今まで数多の闇法師を葬り去ってきた月島が秘宝の一つがむかえるにはあまりにもあっけない終焉であった。
「津樹丸!!!!」
刀身が二つに折れたMSデバイサーにかつての光りは戻らない。
何かを伝えたいのだろう。
だが、刀身に映し出される文字は、アンテナの壊れたテレビの様に読み取ることは出来なかった。
「津樹丸!!」
ここが戦いの最中であることも忘れ、玉露は膝を付き、津樹丸を抱きしめる。
生まれてからずっと一緒だった相棒。
これからもずっと、ずっと、ずっと友に戦っていくのだと疑いの無かった未来が、今、音もなく崩れ去っていく。
『……露』
これが辛うじて、読みとることの出来た、津樹丸の最後の文字だった。
そして、刀身が二つに折れた津樹丸から光が消えた。
魔力が消えた。
意思が、消えた。
「嘘……、津樹丸……」
玉露の腕を真剣が滑り落ちる。
刃が服を、素肌を切りつけるが玉露はソレにさえ、気がつかない。
ここが何処であるのか、自分が誰であるのか、すべてを忘れ、ただ津樹丸が死んだ。
その現実を受け止めることが出来なくて、焦点の定まらないうつろな瞳で、空を見上げるのだった。
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