表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/246

M-20:お兄ちゃん

M-20:お兄ちゃん


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お兄ちゃん!」

 あたしはすぐさま、お兄ちゃんの側に駆け寄った。

 良かった。息はしてる。

 

 お兄ちゃんともう会えなくなる不安、

 すぐ側にいたのにお兄ちゃんを守れなかった後悔、

 そして躊躇いもなくお兄ちゃんを攻撃した彼女への怒り。


 色々な感情が弾けては心からあふれ出し、あたしは涙で濡れた瞳で桜愛理子を睨み付けた。

「あなた、なんでお兄ちゃんを狙うの?

 あたしは認めないけど、お兄ちゃんのこと好きなんでしょう。それなのに、なんで、お兄ちゃんを殺そうとするの!」

「それは、あなたには関係のないことですわ。

 もっとも、一言だけ言わせてもらえば、わたしが愛したのは、そこで無様に倒れているような男ではないという事ですわ」


 許せなかった。

 今、この女はお兄ちゃんを侮辱した。

 この女の全てがあたしにはもはや、許せなかった。


「イリル!! 何もたもたしてるのさっさと来なさい!」

「っちょ。定香さん、今、魔法の気配が………、あ、お兄様。一体何が…がば」

 魔法の気配を感じてあたしの側にやってきたイリルを掴むとひったくるように胸元に持ってきた。

「定香さん、もう少し優しく扱って下さいよ………」

 イリルがいつものように不平を垂れるが、もちろんそんなこと気にするあたしじゃない。

 イリルの杖先を桜愛理子に突きつけ、あたしはもう1人の魔法天使である彼女を何も言わずに睨み付けた。

 愛理子も何も言わず、まるであたしを哀れむかのように見下してくる。


 静かな時が、ただただ過ぎていく。


 あたしの中で魔力が高まりイリルに集約していく。

 同じようにして、愛理子の魔力も彼女の右薬指にはめられた指輪に収束していく。


 あたしから紫の魔法光、愛理子からは桜色の魔法光があふれ出す。

 

 一触即発。

 そんな状況を壊したのは、あたしでも愛理子でもない。お兄ちゃんだった。

「定香、怒りにまかせて魔法を使ったら駄目だよ。

 イリルを下ろしなさい。桜もキミの狙いはこのボクなんだろう。定香は関係ないだろう、止めてくれ」

 お兄ちゃんの声に従いあたしの体から魔力が抜けていく。

 魔力を溜めた愛理子の前でそんな無謀になるのは、自殺行為かもしれないと思う。

 でも、なんと言ってもお兄ちゃんの言葉だもん。もう考える前に体が勝手に動いちゃってた。

 桜愛理子は、それでもしばらくは魔力を維持していたけど、やがてあたしみたいに溜めていた魔力を全部霧散させた。

 そして、何も言わずにあたしとお兄ちゃんの横を通り過ぎて部屋を出て行こうとする。

「あなた、何処に行くつもり?」

「何処にと言われましても、本日はもうお暇させていただこうかと。

 本当は何も知らない誠流様とお近づきになって、静かに誠流様を殺してさしあげたかったのですが。どうやら、その様子ですと、誠流様は真実を知られてしまったようですから」

 振り返った桜愛理子は、どうしてだが今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「ですから、お覚悟ください誠流様。

 次、あなたと会うときには、あなたはわたしを愛し、わたしはあなたを殺し、あなたに秘められた力を壊させていただきますわ」

 そうとだけ言って桜愛理子は部屋を出て行った。

 あたしは彼女を追うことが出来なかった。

 本当は、お兄ちゃんを殺そうとしている奴を放っていく事なんて出来ない。

 でも、今は愛理子の魔法に当てられたお兄ちゃんの事が心配だし、それに実を言うとあたしの手は小さく震えていた。



 お兄ちゃんの体から青銅の剣が生え、お兄ちゃんが死ぬ。


 

 そんなビジョンがまるで現実で体験した出来事であるかのように、

 あたしの視覚を赤に染め、

 聴覚を悲鳴で支配し、

 嗅覚を血の臭いで被い、

 味覚を鉄の味で満たしていたから。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ