M-19:狙われた
M-19:狙われた
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「ううん、流石は誠流様。朝食も頬が落ちるほど美味でしたけど、昼食はまさに想いが咲き乱れそうなほどの美味ですわ」
お兄ちゃんとあたし、そして桜愛理子を加えた三人でテーブルに座って一緒にお昼ご飯(あたし的には朝ごはん)を食べている。
あ、ちなみにイリルは椅子に座らないし、食事もしないからソファーの上に放り捨てておいたよ。
桜愛理子がいるだけで厄介なのに、これ以上話をややこしくしてしまったら、物語が終わらなくなっちゃうからね。
「ありがとう、桜。なんかそこまで褒められると嬉しい以上に恥ずかしいかな」
「あら、わたしは本当の思いのままを述べたまでですわ。もっと胸をはって良い、腕前だと思いますが」
なんか、会話にあたしが入る隙がない。
折角のお兄ちゃんお手製料理もイマイチ味が分からないままあたしはサンドイッチをただ静かに食べ尽くした。
桜愛理子がまるで、お兄ちゃんの恋人気取りであれやこれやしているのは正直、気にくわない。
今すぐパラレル・ティーカに変身して魔法の一発でも与えないと気が済まないぐらいにあたしの想いは今にも弾けそうだ。
でも、そんな怒りさえも気にならない違和感をあたしはお兄ちゃんに感じていた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「どうした、定香?」
愛理子とお兄ちゃんの会話を無理矢理遮ってあたしはお兄ちゃんに呼びかける。
途中乱入された愛理子が悔しそうに頬を膨らますけど、そんなこともお兄ちゃんの変化に比べたらどうでも良いことだ。
「昨日の夜、何してた?」
また、お兄ちゃんの体から青銅の剣が生まれる映像が頭に浮かぶ。
歪みそうになる顔をなんとかごまかし、あたしはお兄ちゃんを見つめる。
ほんの僅かでもお兄ちゃんの変化を見逃さないように、真剣にお兄ちゃんの瞳を見つめる。
実はちょっと恥ずかしいけど。
「なんで、そんなこと聞くんだ、定香」
「なんでって、ちょっとだけ気になったから。なんか、今日のお兄ちゃん。いつものお兄ちゃんと違う気がするの。
何処がって上手く言えないけど、でも、いつも毎日一緒に暮らしているから感じるの。なんでか、お兄ちゃんが遠くに行ってしまうようで不安なの」
お兄ちゃんは何も言わなかった。
ただ、小さく笑っただけだった。
それはまるで、自分の死期を聞かされた入院患者のような自虐的な笑みにあたしには見えた。
横で桜愛理子が何か呟いたようだけど、お兄ちゃんにだけ注目していたあたしには上手く聞き取れなかった。
「大丈夫だよ。定香、ボクは何処にも行かない。
約束するよ、ボクは何があっても定香の側にいるって」
お兄ちゃんはそう言ってくれたけど、あたしには信じられなかった。
そして、それは彼女も同じだったみたい。
「それは、無理ですわ、誠流様」
桜愛理子が椅子からゆっくりと立ち上がった。
この時、あたしはやっと気づいた。
愛理子の左薬指にはめた指輪に魔力が溜まっていることに。
そして、彼女がお兄ちゃんに近づいていた本当の理由を今更ながらに思い出した。
「お兄ちゃん、逃げて!!」
「なぜなら、わたしに殺されるのですから」
あたしの叫びと愛理子の魔法が放たれるのは同時だった。
あたしの目の前でお兄ちゃんは桜色の光に飲み込まれ、静かに床に倒れ込んだ。
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