3-2:二人の性別は
3-2:二人の性別は
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その教え子の名前は、藤永 小歌という。
「ねえ、久我先生、ず~と気になってるんだけど、なんでいつも肩に妖精さん乗せてるの?」
この聖霞ヶ丘大学において、その美貌と奇抜な服装と自由奔放な性格で知らぬ者はいないと言われ、今年度ミス聖霞ヶ丘確実と呼ばれている教え子の一言に流誠は、凍り付いた。
「え、何を言っているの、藤永さん」
ゴスロリ姿の教え子の言葉は間違っていない。
一人で部屋にいても暇だと言い張るティーカは、流誠の出勤日にはほぼ毎日、聖霞ヶ丘大学に着いてきている。
しかも、時にはステレスの魔法を使っているからと、講義中まで肩に乗っていたりするのだ。
”藤永さん、ティーカが見えている。ってことはもしかして、学園中のみんながティーカを……”
頭の中をフル回転させ、事態の収拾を図ろうとするが、動揺が激しく何も思いつかない。
肩に妖精を乗せて講義しているなんて、理事長の耳に入ったら即、変質者扱いされて、クビ確定だ。
そんな暗雲立ちこめる未来を想像していた流誠を安心させたのは、今もまたそこが定位置と言わんばかりに彼の肩に乗っているティーカだった。
「流誠。この子だれよ。ステレスの魔法が効かないって事は、この子もあんたと同じく魔法の素質が高いみたいだけど」
いつも以上に不機嫌な声で、ティーカは小歌を睨み付ける。
が、対する小歌は脳天気なほど笑顔だった。
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好奇心旺盛過ぎる小歌の性格なら、本当のこと知れば怯えるどころか、余計に首を突っ込んできそうな気がする。
流誠はMSデバイサーがあるが、小歌は自ら戦う術さえも持っていない。それでもし、クレデターとの戦場へ出しゃばってきた時、流誠は小歌を守りきれる自信がない。
そのため真実を言うことを躊躇って言葉を濁す流誠だが、小歌は思いの外しつこく、「小歌は真実を知りたいの」の一点張りでけして引かないのだ。
昼休みの今、カフェテリアで昼食を取っていた流誠の前に、またもや白と黒のコントラストが美しいゴスロリがやって来た。
「久我先生。そろそろ、本当のこと言おうよ。異世界とか、ファンタジー世界とか、どんな話でも、小歌絶対に笑わないからさ~」
小歌は流誠の隣に座り、何の躊躇いもなく彼の左腕に抱きついてくる。
二の腕を包み込む、豊満で柔らかい感触が、男を誘惑する。
「藤永さん。みんなが見てるから、離れてくれないかな?」
藤永小歌の奔放ぶりは校内でも有名で、流誠と小歌を遠目に眺める観衆の約半分は、流誠を哀れむものであった。
「えっ。じゃあ、先生の教官室で、二人っきりで……」
顔を紅く染め、俯いて言葉を濁す小歌。
その純情さたるや、男の理性を三度は吹き飛ばせる破壊力を持っている。
”魔性って言葉、こう言うときに使うのかな?”
だが、流誠は惑わされない。
小歌の熱烈的アタックでも彼の心には細波一つ起こせない。
久我流誠。彼の心の中にいる女性は、ただ一人だ。
「残念だけど、藤永さん。ボクは非常勤だから、教官室を持ってないよ」
「でも、先生となら、小歌。その……、だから、ねえ、先生、お願い。本当のこと、教えてよ」
かみ合わない会話に、流誠は小さくため息をつき、先程から肩の上で何かに耐えるようにピクピクと震えているティーカに戦いていた。
”ティーカ。お願いだから、ここでは爆発しないでくれよ”
流誠の背中に流れる、冷たい汗は簡単には止まりそうにない。
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藤永小歌。
三人目の魔法使いである、この歌姫が覚醒するのは、もう少し後の話である。
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