19-6:鳴恵と流誠
19-6:鳴恵と流誠
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「ティーカの奴、何を残していったんだ」
右腕にはめた金のブレスレットを眺めながら、鳴恵は呟いた。
このブレスレットに触れた瞬間、小歌の体は電流が走ったかのように一度大きく跳ね、そして電池の切れた人形のように地面に倒れ込んだ。
鳴恵がこうして身につけていても何の問題はない。
だが、小歌が触れるとこの金のブレスレットは反応を起こした。
小歌にはあって、鳴恵にはないものがあるというのだろうか。
(それって、やっぱり魔力なのかな? クレデターのこと知っていたから、この人もリリや玉露みたいに魔力を持っていると考えるのが妥当だし)
「藤永さん!」
声が聞こえた。
きっとこの大学の講師であろう青年が小歌に向い走ってきている。
厄介な事態になってきたが、当事者である鳴恵が逃げ出すわけにはいかない。
ちゃんと説明して分かってくれるかは謎だけど、真実をありのままに話そう。
鳴恵はそう決めたが、彼女は知らなかった。
この目の前の青年もまたティーカに選ばれた魔法使いであることを。
「今の波動、キミがやったのか? 目的は一体なんだ」
小歌の状態を確認しつつも流誠は一片の隙も見せない。
多少なりとも戦いに慣れている証拠だ。
鳴恵は事態がさらにややこしい方向へ進んでいることを嘆いたが、それだけでは何も始まらない。
「波動? 悪いけど、オレにはさっぱり分からない。
今、ここであったことを端的に話すと、小歌さんがオレのブレスレットに触れた。そしたら、どうしてだか、小歌さんが急に倒れしまったんだ。
すまないけど、理由は分からないし、これ以上のことはオレにはさっぱりだ」
そう言って、鳴恵は右腕にはめたブレスレットを流誠に見せつけた。
「それは、MSデバイサー………」
「小歌さんもそんなこと言っていたけど、オレにはさっぱり分からない。これについて詳しく聞きたいなら、本来の持ち主であるティーカっていう妖精みつけて、あいつから聞いてくれると助かるかな」
ティーカという言葉を聞いた瞬間、流誠の顔が大きく変わった。
希望、激怒、疑心に満ちたなんとも形状しづらい視線が鳴恵を捉える。
「その目、もしかして、あなたもティーカを知っているのか?」
「ああ、ボクは、ティーカを守る騎士だ!」
流誠はポケットから漆黒のカードを取り出し、鳴恵に見せつける。
MSデバイサーについての知識をほとんど持っていない鳴恵が、そのカードが魔法を使うデバイスであるとは知らない。
知らないが、流誠の気迫から何かを感じ取り、しらず背中の弓に手が伸びる。
「ティーカを守る騎士。だったら、今、あいつが何処にいるのか知っているのか?」
流誠は首を横にふった。
「知らない。ボクは次元監視者から、ティーカを守り通すことができなかった。
でも、それでもボクはまだティーカを守り抜く事は出来る。
ティーカを捉えた次元監視者を見つけだし、ボクはティーカを助け出す」
「へえ、そういう諦めない心を持っている奴、オレは嫌いじゃないぜ。
でも、悪いな。このブレスレットはどうやら相当に厄介な物らしい。
だから、オレがもっとも信頼できる、リリシア・イオ・リオンっていう友人に渡そうと思う。教会なら、このブレスレットの事も何か知っているだろうしな」
流誠の目は鳴恵を捉えて離さない。
「そのブレスレットはティーカの持ち物だった。なら、いずれ次元監視者が回収にやってくる。
その時、ボクは来名秋生を倒す。
イヤだというのなら悪いけど、ちょっと強引に渡してもらうよ」
「あ~オレの話、聞いてないぽいな。っというか、ちょっと前にも聞いたような台詞だな」
今日は一体なんだというのか?
魔力を一体持たぬ少女は右腕の金のブレスレットを一瞥し、覚悟を決める。
背負っていた袋を一瞬でほどき、次の瞬間には弓矢を構え、その狙いを流誠に向けていた。
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