18-4:良い今宵を
18-4:良い今宵を
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闇騎士はポッケトから漆黒に彩られたカードを取り出した。
これが彼のMSデバイサー”プロミス・オブ・AS”だ。
異星人が咆吼を上げ、乱に向かって駆け出す。
迫り来る巨体に乱は恐れることなく、ゆっくりとカードの標準を会わせる。
プロミス・オブ・ASは次元監視者の監視の目に引っかからぬよう、もっとも最低の部類に属するMSデバイサーである。
その最大の弱点は、一枚のカードで使える呪文はたった一度である事だ。
MSデバイサーは無限にあるわけではない。限られた枚数で闇騎士は戦って行かねばならない。
『Wake Up Black Pledge』
カードに呪文が刻まれていく。
異星人が飛び、一気に乱との距離を詰めていく。
異星人の手が乱の頭を握りしめ、そのまま砕こうと力を込める。
少女の悲鳴が聞こえる気がしたが、それ以上に頭の骨が軋む音の方が大きい。
そんな状態にあっても乱は冷静だった。
頭が砕けそうな痛みに臆することなく、プロミス・オブ・ASを異星人の頭に貼り付けた。
『Drak Hole Release』
そして、魔法が起動し、漆黒の砲弾が零距離発射で、異星人の頭を貫くのだった。
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「ねえ、あなた何者なの? 私の知っている地球人はあんな、ファンタジーじみた魔法使わないわ」
戦いが終わり、乱の倒した異星人達は霧となって消えてしまった。
少女が言うには自分たちが侵略してきた証拠を残さないために、死んだら死体を残さないように処置さているとのことだ。
「通りすがりの、黒い魔法使いだったと思って貰えれば良いさ」
異星人に思いっきり握りしめられた頭の痛みも引き、乱は帰路につくことにした。
そして、少女もまた愛する人の元にまた戻ることにした。
「魔法使いって、私魔法は信じてないだけどな」
「異星人が存在するんだ。魔法だって存在するだろう」
「それは地球人の意見だわ。私たちからしてみれば、私たちが存在していることは当たり前のことなの」
公園の出入り口で少女と乱は最後の会話をしていた二人はどちらとも無く夜空を見上げた。
「なあ、最後に一つだけ聞いても良いか?」
「私の名前と、私の出身星以外はね」
「お前が何処の誰だろうが、そんな事は私にはどうでも良いことだ」
「どうでも良いことか。なんか直接言われるとちょっと傷つくな。ま、大切なのはそこじゃないのは確かね。それで、質問って何?」
夜空には数多の星が美しく輝いていた。
きっとこの星空を見ればあいつは歓喜の声を上げるだろうなと乱は思った。
「お前は、今、幸せか?」
「どうだろうね、私は同胞を裏切っちゃったから、これから一生逃亡生活よ。そんな人生が幸せなのかと問われると、分からないわ。
でも、これで、彼とは一緒に居られるわ。そこだけは、幸せとかじゃなくて、嬉しいと感じるわ」
「そうか」
「ねえ、今度は私から、質問。あなたは今、幸せ?」
「いいや。1人で辛いね。だから、これから私はあいつと幸せになっていくさ」
「そっか」
そして、少女と乱は互いに名乗らぬまま別れるのだった。
偶然に今日という日にこの場で出会った異星人と魔法使いは、もう二度と会うことが無いだろう。
だから、『さよなら』は言わなかった。代わりに二人の言葉から出てきた言葉は………、
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「良い今宵を」
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