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「アーサ! そっち行ったで!」

 キナコが声を張り上げている。目の前で、四つのブロック状の生き物が地面に転がった。

「わかっちゃーる」

 返事をして、アーサが道を塞ぐように仁王立ちになった。

 右手には銃を、左手にはビームソードを、それぞれの手に握っている。生き物が通り過ぎようとしたとき、タイミング良くソードを振り下ろした。

 生き物が跳ね上がる。続け様、これがとどめだと言わんばかりに、生き物に向かってアーサは銃を連発で撃ち込む。黒い生き物は耐えきれなくなったのか破裂した。

「さっすがー」

 キナコが呼びかけながら駆け寄ってきた。いつものように、黒いチュニックのポケットに手を入れたまま走っている。髪はフードに隠れてほとんど見えないが、フードの下で跳ねる髪は、どうやら金髪であるらしい。

 アーサは丁度銃を仕舞っているところだ。銃は光のブロックに包まれ、空に消えていく。

「早よ片付けんと」

「せやね」

 ビームソードを構え、アーサは目の前の黒い壁を一瞥した。壁は呼吸するように波を打ち、二人との距離を縮めてくる。僅かに風が吹いて、アーサの赤いケープがなびいた。

「嫌やわ。『ウイルスに潰され死に』とか」

 キナコが愉快そうにうそぶいた。

 見渡す限り、高く黒いウイルスの壁が出来てしまっている。それは黒光りをしてアーサ達を見下ろしていた。あながちキナコの言ったことも間違いではなさそうである。

 実現するのはご免こうむるが。

 ウイルスが一斉に襲い掛かってくる。アーサは咄嗟にビームソードを中段に構えた。

 背後から、ウイルスに向かってレーザービーム射撃が放たれた。

「いえーい。十二連チャーン」

 振り向けばキナコがピースサインをしていた。その肩の辺りで細い筒のようなものが数本浮いている。アーサは、それがビームを発したのだと了解した。

 背後にエネルギーを感じ、硬直する。顔のすぐ横をレーザービームが通り抜けていった。

「阿呆」

 気配を感じて、振り向き様ビームソードで薙ぐ。目交にはウイルスの大群。アーサは再び銃を出すと、ウイルスに向かって連射した。

「最後外したッ!」

 悔しそうに、アーサが叫んだ。そんなアーサをあざ笑うかのように射撃を逃れたウイルスが舞っている。

「わお、それを引いたって十連続」

 そんな会話を交わしながら、大群に向かって突っ込む。

 回転して、自分の周囲にいたものから順に消去させていく。

 止まると、ウイルスは次から次に襲いかかってくる。それらを切り捨て、連射攻撃。どうやら背後でキナコも似たようなことをしているらしい。酷い音がする。

 アーサを軸にするように、ウイルス達は渦を巻く陣形に変化していた。

 銃弾に当たると、ウイルス達は次から次へと爆発するように消えていく。

 それは見事で、小さな花火がぽんぽん爆発しているみたいだ。

 黒一色だけれども。


 振りさけ見れば、キナコの方はもう終わっている。アーサは残りのウイルスを銃で削除する。

「そっち片付いた?」

「あらかた」

 キナコの問いに一言答え、アーサは一息ついた。

 誰が放したのかは分からないが、ウイルスが仮想空間中に広がったら大問題だ。

 それをやる馬鹿がいる。

 それだけは確かだ。

「なあ、キナコ」

「何?」

「このウイルス放した奴、相当懸賞金掛かっとると思わん」

 何しろ、仮想空間の広範囲にウイルスを放したのだ。メンテナンスという名目で、何時間ゲームが運営できなくなったか。

「一万は堅いな」

 キナコはまた愉快そうに言った。一万、というのはあくまでゲームの中での金額だが。

「せやろ」

 アーサも、色んな意味がこもった笑みで以て、呟いた。

◇ ◆ ◇


 ピピピピピ――。

 耳障りな機械音に、私はぼんやりと目を覚ます。叩き起こされた、というのが妥当か。

「なんやねん」

 窓からは光が漏れ、それは私に今は朝であるという事実を突きつけた。今日何曜日だっけ、ああそうだ月曜日だ。目覚ましを止めると同時に、時刻を確認する。

「……遅刻――!」

 飛び起き、急いで制服に着替える。一階へ下りると、手早く顔を洗い、キッチンに駆け込んだ。

 朝ご飯のパンを受け取り、座る時間も惜しいと立ったまま食べる。「そんなに時間が惜しいんか」母の突っ込みが入る。

確かに行儀悪いけども座っとる時間がもったいないやんか。

 食べ終わると、私は即座に廊下に置かれていた鞄を手に取った。

「一階に置いといて良かったわ。ほな、行ってきます」

「対策の方向性間違っとるやろ。行ってらっしゃい」


 家の前に置いてある自転車にまたがって、勢いよく地を蹴った。腕時計で時間を確認する。始業二十分前だ。私が中学校に着くまでもおおよそ二十分。ギリギリだ。

「おわっ」

 片手を話した反動で、よろける。上手く体勢を保ちながらスピードを出して、一目散に学校へとひた走る。

 学校に辿り着き、校内の所定の場所に自転車を置いたときには、始業五分前になっていた。

 慌てて教室へと走る。途中誰か先生の咎める声が聞こえた気がしたが、無視した。

 教室のドアを勢いよく開けると、ドアの近くの子が驚いたようにこちらを振り向いた。もしかして、アウト?

 ドアの一番近くにいた子が、セーフセーフ、と小さな身振り付きで言った。私はその言葉に内心ガッツポーズをしながら自分の席に座る。

「樹夏。おはよう」

 クラスメイトのガガーリンが話しかけてきた。無論ガガーリンはあだ名である。私は上半身を後ろに向けて、彼女と向かい合う。

「おはよう」

「今日もギリギリだったねぇ、早く起きたりしないの?」

「せぇへんよ」

 やって睡眠時間が減るやんかー。そう呑気に返す。話の話題は次第に昨日のサイバーポリスのウイルス騒ぎへと移っていった。どうやら昨日の騒ぎをいつの間にか公表していたらしい。

「何、おもしろいこと?」

 耳聡く、おもしろいこと好きのミヤハルがこっちの方に歩いてくる。

「みやっちが苦手な奴やで、ゲーム」

「そうそ、ホロゴ」

 私とガガーリンがよってたかって言うと、ミヤハルは頬を膨れさせた。

「知ってるよ、ホロゴってあれでしょ。ホログラム・ゴーグルのことでしょ、それくらいハルでも知ってるもん。だから教えてよ」

 ホログラム・ゴーグル――株式会社エヴィが生み出した、”ゲームを体感できるゴーグル”。

 まあ、この辺は基礎知識だとは思うけど。

「サイバーポリスっちゅうのは、ネットゲームのこと。ホロゴをかけてプレイすると、ゲームを体感できんねん」

「なるほどね」

「ネットの世界を守って、お金稼ぎ。なんとまあ現実的なことでしょうか」

 だから昨日徹夜してまでばら撒かれたウイルスを駆逐していたわけだけど、結局犯人は分からず仕舞いだった。"アーサ"には悪いことをしてしまったと思う。ああ、気分が沈む。

 あの時間まで起きていたのならば、"アーサ"だって朝の生活に支障が出ただろうに。

 一度も会ったことはないが、"アーサ"が女性で、私と同じ学生であると言うことは知っていた。それだけに、何の収穫もなかった徹夜の罪悪感は、重く私の肩にのしかかるようだった。

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