表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/45

05.俺の日常




「遅い」






誰のお言葉でしょう?

正解、他称婚約者のメイリー・ジャミル。




有休取れなかった。


事実上の上司であるメイリーに電子コールしたら、駄目だって言われた。

前々から言っても自分と同じ日じゃない限り休ませてくれないんだからいつものことって言ったらそれまでなんですけど、うん、休み欲しかった。もう、家から出たくなかった。


勇者と次鉢合わせしたら今度こそ殺されてしまうに違いない。ガタブル。



余談、電子コールというのは魔法で声を電波化して特定の相手に伝言を送りつけるという素敵な方法です。ただし、条件があって相手の顔と名前が正確にわかっていないと駄目だというね。


ほら、無駄に電子コール飛んできたら怖いじゃない? そういう配慮が魔法に籠ってるようだよ。

詳しい方程式知らないからわかんないけど、解読できる人ならそういう条件とかなくせるらしいけど(メイリーはやろうとしたらできると思われ)、俺にはちんぷんかんぷん。だって、モブだもの。


そういや、なんか昔から俺へ電子コールがメイリーや家族、親しいモブ仲間からしか来ないのって前回からの話、俺の顔がわからないということのような気がしてならない。


更に余談、着信拒否は相手の顔や名前がわからなくても簡単にできる(声に含まれるキーワードとかで遮断可能)。俺は昨日から勇者関係の電子コールはキーワードで無視中。


特に勇者はチートだからわかんなくても絶対送りつけてきていると思われるので、顔と名前で拒否。調べたらハイラント・ヴァリエンテって言うらしい。ちゃんと読んだら昨日の新聞に書いてあった。



「遅くない、遅くない。時計見てみ」


「八時二分だ。ほら、二分遅い」


「部屋に来るまでに二分かかっただけだっつの」


やれやれと、ため息交じりに部屋の中に入る。プンプンと怒ったままのメイリーを鏡台の前に座らせる。


「ほら、飴でも食べなさい。怒るのは糖分が足らんのだよ」


ポケットから非常食の飴を出す。


「そう言う時は、カルシウムだ。しかし、カルシウムが足らないと精神不安定になりやすくなるが、医学的根拠はない」


「朝から御講義ありがとうございます」


そう言いつつも飴を貰うメイリーを、心の中だけで少し笑う。

こいつのこう言うところは可愛い。もっとこういうところを前面に出せば男にモテるだろうに、あ、いや、勇者にモテてるからいいのか。振ったけど。


意外と知らんところでモテてるのかもな、顔は綺麗だしな。ファンぐらいはいそうだ。


「イチゴ味か、悪くない」


「はいはい、喋らない。化粧が上手くできないだろ」



俺の朝は、メイリーの迎えから始まる。

朝八時に到着後、着替えだけすませている彼女に化粧を施し、髪の毛を結ってやる。


以前は、自分でやっていたのだが、めんどくさいらしい。特に化粧が。


だが、しかしこんなに綺麗な顔なのである。化粧せんでどうする。勿体ない! と、一度化粧と髪の毛を結ってやったら毎朝の俺の仕事になった。

抗議したが、もちろんさっきのように色々とまくし立てられて撃沈したのは言うまでもない。






「よし、出来た。ふ、毎度ながら完璧だぜ。なんか最近俺、職にあぶれたら髪結いとかになれる気がする」



モブの特徴その三、手先は無駄に器用。



変な所で人より秀でるのがモブ!!



「……一生、助手してろ」


「ぎゃん、酷い!」


なんて、奴だ。俺が髪結いになれるわけないと、最初から否定するなんて。しくしく。

良いんだ、どうせ、モブだもの。


「はいはい、所詮素人ですよ。ほら、左向け、左ー」


角度を変えさせて、確かめる。

今日の気分はまず両サイドに三つ編みを作り、それを後ろに持っていきバレッタで留める簡単なものだ。全体は緩く流すのがポイントである。


昨日勇者に告白された時は、後ろでお団子でした。ついでに言うと小さな白薔薇のコサージュ付き。


メイリーの髪は羨ましいことに金髪で猫っ毛だ。ちょっと結いにくいけどサラサラで、羨ましい。


俺なんて伸ばしたら変なところではねるので短く切りそろえている。

普通の髪型以外するなという啓示に違いない!! 髪の毛すらモブな俺!!



「シャド……昨日、城に呼ばれたみたいだけど何の呼び出しだったの?」


うおー、こいつがなぜ昨日別れてからの俺の行動を知っているのだ!


「ほら、そりゃ、勇者様のことに決まってるじゃん! いやー。初めて間近で陛下見たわ、ありえんくらいイケメンだった。若い頃はモテたに違いない。あれは、女を泣かせる顔だね」


結婚のことも言われたが、それは黙っとく。


昨日一晩考えたことだが、あの馬鹿両親ズをなんとか説得しないといけないと思っている。


俺と結婚するとか言ってるけどこいつは口下手なんだぞ。もし、他に好きな人がいたら可哀想じゃないか。皆、奇女って呼ばれるからってメイリーは女の子なんだぞ。

勇者がわかってるかどうかは知らんが、もっと馬鹿両親ズはこいつのことを考えるべきだ。


今後に運命の出会いとか待ってたらどうするんだ、まったく。



「わたしと勇者を結婚させろとでも言われた?」


ちょっと考える。

諦められるように説得しろとは言われたが、王女のことは言ってもいいのかわからないし、モブはいらんことは言わないものだ。


「いいや、逆。諦めさせるように説得しろってさ、お前に仕事辞められたら困るってさ。よかったな、さすが名誉研究員!」


綺麗に整えたばかりなので頭を撫でくりまわすようなことはせず、ぽんぽんと軽く叩く。


「大丈夫だ、俺なりにいいようにすっからな」


「別にシャドは頑張らなくて良い」


「がーん」


ふふふ、だが、モブは打たれ強いんだぜ! 雑草根性!


「大丈夫だ、まかせろ!」


メイリーのため息になんか負けないぜ。


「準備もできたことだし行くか」


「……シャドの馬鹿」


「何、え、いきなり、馬鹿? それはカルシウムの件のことか!?」






またまた、溜め息を吐かれた。なんでだ?



メイリーの「……一生、助手してろ」は、「一生傍に居てね」の意味。そんなの絶対、わからんしw

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ