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42.舞台裏(side:???)




(ここ、どこだろう)






メイリーはシャドを探すために街中を相変わらずぐるぐると歩き回って、気がつけばいつの間にか薄暗い路地に居た。


夜が明けてからかなりの時間が経っているはずなのに、そこは暗すぎた。おまけに、道を考えず歩き回ったせいでどこかさえわからなかった。


溜め息を吐いてから、額を右手で押さえた。


(私がシャドを見つけるんだ……)


足は棒みたいに筋肉が強張っているし、寝ていないから眠気もあった。お腹が空いた気だけはしなかったが、脳よりも体は正直で切ない音を立てている。


――このまま、足を止めて座り込んでしまおうか。



地面に座り込みたい気持ちを抑えて、頭を振る。

ここで立ち止まっていても彼は迎えになんて来てくれないのだから、自分が行くしかない。行くしかなかった。


(ムカつくことを考えよう)


あの女のことで頭の中を埋め尽くす。

妄想の中では、シャドとレインは仲睦まじく……彼が、彼女を邪険に扱わなかったとしたら……。


一秒にも満たない時間で血液が沸騰したかのように、体が熱くなった。額にはいつもより太めに血管が浮き出ている。正面から見る顔は、まさしく般若のそれであった。


「絶対、だめ……。許さない」


左手で思いっきり、路地の壁を叩く。レンガを素手で殴ったせいで、手はかなり痛かったが眠気はどこかへ飛んでいった。これは、プラスに考えることにする。


深呼吸をする。なるべく、深く大きく。まるで、肺にたまっていたすべての空気を入れ替えるようにして――それから、手のひらに収まるサイズの火の玉を想像した。


暗い路地は一瞬にして明るくなる。


はずだった。

手元には何もなく、路地は暗いままだった。


「……?」


簡単で、火に関する魔法、魔術はメイリーがもっとも得意とするもののはずだった。だが、何度頭の中でそのイメージを浮かべても何も出てこなかった。


(何かがおかしい。早くここを離れないと)


暗い路地をメイリーは走りだした。


途端、どこからか金属同士がぶつかるような音がした。聞き覚えのある音だった。剣と剣がぶつかるような、高い金属音。


彼女は後ろを絶対に振り向かなかった。止まって、振り返ることだけはしなかった。


後ろから何かが近づくような足音はなかった。

しかし、どれだけ走ろうとも路地を抜けることはできず、また、奇妙な気持ち悪さも治まらなかった。


必死に足を動かし、前だけを向く。


目の前にはいつのまにかぎょろりとした二つの目が浮かんでいた。

その二つの目と、視線が交差する。


「なんで」


追い抜かれることは絶対になかった。走っていたのに、前で待ち伏せされるのも考えにくかった。


「追いかけっこ、ちょっと飽きたわー」


のほほんとした間の抜けた声だった。


「魔獣っ……!」


メイリーの脳裏には一つの可能性が浮かんでいた。

この路地に入った時点でも既に自分はこの目玉の化物の罠に嵌っていて、ここはこの化物が作った特殊な空間なのかもしれない。


そう考えれば、魔術が使えないのも、路地から出られないのも合点がいく。けれど、それもまた、おかしな話だった。


ここは王都で、街には幾重にも王都を守るための魔獣避けの魔術がかかっているはずだ。現に生まれてこのかた、魔獣なんてものは見たことがなかった。


「なーなー、おとなしゅう捕まってくれへん? 自分を捕まえな、どやされてしまうんや」


聞き慣れないアクセントの言葉遣いだったが、その獣は流暢に人の言葉を喋っている。賢い証拠だ。自分に、サシで戦いに来るぐらいだし、弱いことも期待できそうにない。


(丸腰だ。付近には武器になりそうなものもない)


そもそも、魔法が使えない時点で分が悪すぎる。

彼女の強さは、魔法込でというよりも、魔法に依存する部分が高い。もちろん、剣術や格闘術も学んだが魔法なしで戦って勝つことなどそこには想定されていない。


「シカトはあかんでー」


しゅっとどこからともなく風が吹く。はらりと、髪の一房が地面に落ちた。自分の髪だった。


「心が痛いわぁ。そういう、冷たい態度は、ヒトを傷つけるでー」


一瞬だけ、痛みが彼女を襲う。

服に今度は切れ目が入る。髪とは違い服の下は柔らかい肉しかないため、服ごとそれも切れたようだった。


(考えなくちゃ)


頭をフル回転させる。

躊躇うことなく向けられる刃は鋭いが、たいした怪我や殺す気は相手にはないはずだ。最初に確かに『捕まえる』と言っていた。


選択肢は、投降か。逃げるか争い時間を稼いで、第三者の介入を待つか。

どちらにしろ、善作とは言い難い。


(もし捕まれば、シャドと一生会えないのかもしれない……)


捕まっても命が保障されているのは、今だけだ。なら。


「私にはやるべきことがあるっ!」


目玉はメイリーの返答に楽しそうに笑った。見えないはずなのに、目玉の下に大きく歪んで笑う口が見えた気がした。


とはいえ、戦う為の武器はないし、実のところ逃げるしかできない。


(シャドを見つけて、家に帰るんだ!)


再び闇の中を彼女は駆けだした。











「このクソ猫。この記憶のどこが仕方のない出来事なのか説明してくださいよゥ」


「反省してます。すんませんでした」


ぎょろぎょろした目玉の持ち主は、目をうるうるさせながら別の何かに向かって許しを乞う。


「君ィ、連帯責任って言葉をご存じかね」


「ホンマにわざとと違うんや、獣の性と言いますか、理性がログアウトしてしもて……つい」


「つーいー? ついでに、連帯責任ですかァ。ぶっ殺しますよ?」


ベッドの上で大量のチューブやらよくわからない機械に繋がれた姿のメイリー・ジャミルを見ながら、舌打ちしたのは赤いジャケットを着た白い大きなうさぎだった。器用に、二足歩行をしながら愚痴愚痴と怒りをそれはつらつらと、述べる。

鼻の上の眼鏡が鼻の動きに合わせて上下した。


ぎょろぎょろとした目玉はついに泣きだし。床にわっと体を伏せた。

現れた体はピーンと張った耳、毛の長い尾っぽ、ダルマみたいに丸い体は全体的に灰色で、縞模様がついていた。


「嘘泣き禁止」


「嘘泣きだなんて。ただ、ちょっと好きな時に泣けるだけや」


顔を上げた猫はニッと大きな口を歪ませて笑う。


「くたばりやがってください」


再度、舌打ちをしてからうさぎは機械の先に接続された硝子板に視線を戻した。


「仲間やん? 連帯責任ぐらいなんやねん。そんな記憶を見るより、目的の記憶を探してお仕事せなな!」


「しね。責任の製造者が言うんじゃねェです」


よよよと、猫は体を床の上でしならせた。


「酷い、あんまりや」


「へっ。……君、魚を釣るための準備をなぜ手伝っているのかちゃんと覚えてますか。もしかしたら、今回がこの茶番劇を止める最後の機会になるかもしれないってのに!」


「そんなん、わかってるし」


猫はぐでーんと大の字に寝転がったまま返事をした。


「もう、あの女は壊れる。寿命が近いわ。せやから、裏でいろいろ個人的に考えて動いてる。最終手段としては苗木の養分にして、時間稼ぎするほかないな」


その言葉には、うさぎは返事をしなかった。


「ホンマ、現実は世知辛いわ。……あの子んとこへ帰りたいなぁ」



うさぎが鼻をひくひくと動かしながら、ちらりと視線やる。


「諦めたことをほじくり返さないでくださいよォ。胸糞が悪いったらありません」


もう、そこにはなにもなかったので、返答は返ってこなかった。











街中でシャドが出会ったのは見覚えのある鳥だた。シャドは心底うんざりした顔をして回れ右をしたのだが、鳥が頭に移動をしたので大きすぎる溜め息を吐いた。


「ご丁寧にどうもー」


鳥は満足したかのように頷くと、器用にぶら下げた鞄から手紙を取り出す。


「やだ、これ国王からよー。焼き捨てる? 焼き鳥にするぅ?」


頭の上は言葉を理解したのか、慌てた様子で手紙を頭の上においてから飛び立った。その際、頭を軽く蹴られたので彼は苛立ち気味に隣りに居たレインを睨んだ。


「酷いこというから、受け取り拒否し損ねたんですが?」


「やぁね、可愛い冗談じゃないの」


渋々シャドは頭の上の手紙を取り、蝋で留められた封を開ける。中には手紙が一枚と、別の封筒がもう一つ。




「『四日後、城にて勇者との決闘を言い渡す。13時までに城にくるように』だってさ」


「あたしはダーリンの味方よ!」


「うるせー」






グシャッと、手紙を握りつぶしてからシャドはズボンのポケットにそれをねじ込んだ。




4日後に決闘するらしいよ。へー

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