03.王さまからの呼び出し(改)
「メイリー・ジャミルを勇者に譲るか、勇者に諦めるように説得してくれんか? できれば、後者だと余にとっても望ましい。勇者には姫と結婚し王家に入って貰いたいのだ」
この台詞に辿りつくまでを、解説。きゅるるるる。
王宮から発行された召喚状はなんと素敵なことに、開けると城の門まで転送される魔法付きなんです。
貰ったら、「即、来いや」という威しなんだね! わぁ、素敵(ここで拍手)!
自宅で親父に見張られつつ俺は、乾くことのない涙を心の中で流しながら封を切った。
まず、着いたら途端に筋肉隆々の人たちに逮捕――じゃなかった。丁重に連れられてガクブルしながら王さまの私室で待機することになった。
まだ、死にたくない。人生にオタワの文字が浮かぶのまだ嫌だ。まだ十八だもの。青春盛りだもの。恋愛だってまともにできていないお年頃だもの。とリアルに涙が零れるのを我慢した。
そして、親父が言っていた「チャンス」とやらをとやらを懸命に思い出そうとした。俺が気になるあの子、この子に告白する度にどうなったかを思い出した。
「あの奇女メイリーといつも一緒にいる人よね? ……あの、あたしちょっと」とか、「ごめんなさい、メイリー・ジャミルを敵にまわしたくないの」と毎回目を逸らされた上、逃げられる俺に一体どのようにして彼女を作れただろうか。
はたまた「え、あのシャド・スペクターが貴方? え、いやいやいや、むりむりむりむり!!」とか、「お兄さんのことが好きなんです」と全否定や逆に告白された俺に一体どのようにして彼女を作れただろうか。
時々「お友達からで」と言われガッツポーズをした翌日に、「やっぱり友達にもなれません。だって……本当にごめんなさい!」と意味深な言葉を言われ去られた俺にどれがどのようにどうしたらできたというのだろうか。
そこんとこ詳しく誰か説明して欲しい。力説して欲しい。一から十全部説明して欲しい! 親父こら、俺にどこがチャンスがあったんじゃ!!
おっほん、それは今は置いておく。
さっきのは思い出した悲しみに少し暴走しただけなので、ぜひ、忘れてほしい。いつか、素敵な出会いが俺にはあるはずなのだ。
えーっと、それから、ついに冒頭の会話に繋がる。やっとやって来た王さまに着席を促されてから、会話がスタートした第一声なわけである。
あれ、でもおかしくね? おかしいよね。今この人変なこと言ったよね。
「あの、それって一体どういうことなのでしょうか?」
超下手。マジで下手に出る。だって、俺ミスターオブ平凡なモブだもの。
ぶっちゃけ、王さまとか貴族というオプションがあっても会話とかないから! 同じ場所に集まる機会とかがあっても俺個人が会話するわけがないから!! だって、伯爵の次男だよ? 家督も継げない次男だよ? むしろ、今目の前に居るのが不思議なのよ?
ね、そんな俺だも率直に聞けないじゃない? 「え、何それ。あんた勇者と自分の娘結婚させたいの?」なんて、絶対聞けないよね!
聞き違いにして、帰りたいなんて思ってても口に出せないのと一緒、一緒!
(決して、俺がチキンなわけじゃない。侮辱罪で死刑になりたくないだけだもの)
「実はな、あれが出ていく時に約束したのだ」
語り出す王さま。ところで、あれって、勇者ですよね。わかります。さすが、王様。勇者をあれ扱い。天変地異が起こったとしても絶対に、あれ扱いなんてしないよ。死ぬからね! 死にたくないから!
「差し支えなければどのようなお約束か窺っても?」
「うむ」と、王さまは顎を摩る。
王さまはうちの親父とまったく違いスレンダーで、引き締まった筋肉をしたロマンスグレーなオジサマ風の人物なので何にしても様になる。一つ一つの動作に気品が溢れてるって言うの?
人に面倒ごとを押し付けようとしてても様になるね! 無論、王さまだからっておだててるわけじゃないですよ。感想です、感想。
「無事魔王を倒して帰還したあかつきには、とある女性と結婚させてほしいと言われてな。基本的に我が国は自由恋愛を推奨しているが、一応貴族は貴族との結婚を推奨しているのは知っているな?」
「はい」
ここでご説明、この自由恋愛推奨というのは何代か前の国王さまが貴族でも何でもない庶民の娘に恋をし娶ったのが起因している。
それ以来、貴族は貴族同士の結婚を推奨はするものの庶民の方と結婚しても良いですよ。となったわけである。まあ、上位貴族ほど滅多にそんな自体は起こらないけれど。
なぜなら基本的に貴族はやはり自国だったり他国の貴族と政略的結婚をして自分たちの地位確保だの、国同士の友好関係を取り持つ宿命にあるからだ。
庶民と結婚するのは余程その庶民に魅力――金や、容姿、知名度がある場合だろう。庶民方の思いとしては地位だろう。成り上がりたい者というのは、格が欲しいのだ。
ああ、愛とは所詮、名ばかりなのだ。はい、残念。
むろん、まったく恋愛結婚がないとは言わない。我が家など母親様があの髭でぶ親父の何がよかったのかは理解できないが、他国から追いかけて妻の座に治まったらしい。親父はもっと抵抗すべきだっ……いや、俺の口からは何も言うまい。
メイリーのうちもドルークさんが追いかけたとか言うし、あるにはある。ただし、一方の愛がものすごく強い。他の障害全部撥ね退けるくらいじゃないと、ぶっちゃけムリ。
なんて、俺は上が超しっかりしたところの駄目次男だったからハッキリ言ってこれには関係なかったけどー。でなきゃ、そんなに告白して振られまくったりしませんよ。家督を継がない貴族の坊ちゃん、嬢ちゃんは実家のご厄介(つまりプーや嫁ぎ遅れ)にならなきゃ上出来だったのさ。
今回みたいに女系貴族の入り婿とか狙ってないから! 全然狙ってなかったから!! 心の隅に意識的にあったとしても、ジャミル家はなかったから!!!
おっと、また白熱してしまった。再び、王さまとの会話に戻る。
「……でだな、勇者は平民の出であるからして、ここでさす“とある女性”とは高位の女性だと余は思ったわけだ」
まさかの、勇者平民!! 態度その割にデカかったな! 家督継がないから貴族としてみなされなくても別にいいけどね!
いや、待てよ、チートだからきっとなんか裏オプションが付いているに違いない。こう、地方のとある血族とかそんな感じの。じゃなきゃ、不公平だ。
顔も良くて、強いだと、何の冗談だ。裏オプションが付いているんだろう? そうなんだろう!? いや、決して妬んでいるとか羨んでいるとかではない。ないから!
シャド・スペクターはモブであることに誇りをもって生きています。安全地帯から外に出たくないとかそういうんでもないです。ええ、ほんと。冒険するぜぇえ、あ、嘘。安全地帯が大好きです。
「もちろん、幾度か訊ねたが奴は“その女性に自分は相応しくないからまだ言えない”としきり言うのだ。で、てっきり余は王女らの誰かがその“とある女性”だと思ったのだ」
王が深く呼吸をする。溜め息を誤魔化そうとしたのかもしれない。
「奇女で通っている女性だとは誰も予想できないと思います、陛下」
うん、その流れじゃ絶対、メイリーだとは絶対思わない。
大体、子爵、男爵なんて貴族でもペーペー(伯爵ぐらいからちょっとふんぞり返れる。なぜなら、領地持ちだから。次男には関係ないけど領地持ちだから!)で勇者の身分なら平民の出って言っても子爵令嬢ぐらいになら求婚しても全然問題なかっただろう。
「実際、勇者は王女らと懇意であったし、第一王子は勇者パーティーに属していたしな」
「王女さまたちは大変お美しく、自国の貴族のみならず他国の王族から求婚されるほどの方々ですから、当然です」
皆さま、大変お美しいです。なので、メイリーや勇者にすらうずもれてあんな写真が世の中に出回るようなモブな俺が傍に立ったら見えなくなるでしょうね!
だだ、二言付け足すなら、個人的には手を出したくなるには年齢が少々足りませんけども。あと、モブ風な女性が好きなのでご遠慮したいです。むろん、悪いわけではありませんよ。美しいですよ?
あ、ちなみに、王さまが言っている姫ってのは、三人居る王女の一番上の姫君だと思われる。十七だしね。真ん中が十四歳で、下が十三歳だし。
「もちろん、メイリー・ジャミルに勇者との婚姻を強制することもできるが醜聞がな。それに、彼女は王立魔法研究所の名誉研究員だ。仕事を辞められても困る」
現在、メイリー頭の良さと天性の魔法センスを買われてこの王立魔法研究所の研究員をして働いている。貴族の令嬢なので別に働かなくてもいいので、ここら辺も奇女の由来の一つだと思われる。
ちなみに余談だが、俺はメイリーの助手だったりする。
俺の場合は、王立学院(国が建てた手習いとかする学校)卒業後、軍学校に行って騎士あたりを目指してもよかったが次男だし、モブだし、痛いの嫌いなのでメイリーが「来る?」って口利きしてくれたのに全力で甘えた結果の助手であって特に何をするわけでもない。
あえて言うなら、メイリー係。
通訳とか面倒をみたりとかそんなことしかしてないけど、無職じゃないからいいの!! 日中帯本読んでますけど、無職じゃないからいいのさ!!
「だから、そなたにはメイリー・ジャミルと結婚し、やんわりと勇者を諭しきっぱりと諦めさせてもらいたい」
ん? 聞いてない間に、会話がおかしなことに。
「協力してくれぬか?」
「結婚してですか?」
「ああ、婚約中なのだし問題ないだろう? 無論、勇者に譲るのでもいいが……」
(今朝、知ったんですけど……とは、言えない)
曖昧に笑ってから、ごまかす。
そうか、俺のメイリーとの結婚は周りからすると決定事項なのか、そうなのか。ふふふ、あはは、うひゃひゃ。悲しくて笑いが止まらない。
「どっちにしろ、頼んだぞ」と強く肩を叩かれたモブな俺。
なはは、どっちにしても、勇者を説得はしなくちゃいけないよう言われちゃったw
……これって、赤ちゃんが魔王に勝負挑むようなもんじゃね?
※5月3日にいろいろと付け足しました。