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38.あいことば(side:レイン)




『女の子を泣かせるなんてぇ、サイテーよぉーにしとく』






自分で言っておきながら吐き気がするほど胸糞が悪くて堪らない。



(ああ、もうっ! なんでこんな気持ちになるのよ。泣いてるだなんて、嘘まで言って。……同情? あの子に? そんなわけないわ。これは確かめただけ。あの子が泣いているって言って、ダーリンが振り向くかどうか確かめただけなんだからっ!)


レイン・ドゥンケルは、メイリー・ジャミルが嫌いだ。

恋敵だから嫌いだとか、生理的に嫌いだとか言う理由ではない。彼女が抱く感情に名前を与えるならば、同属嫌悪が近いだろう。かつての自分に似た言動がレインを苛立たせ、疎ましく思わせるのだ。


昔、彼女は王子様を信じていた。

その人さえいればすべてがうまくいくのだと信じていた人が居た。

ピンチの時には必ず助けてくれて、自分を守ってくれて、愛してくれるのだと思っていた人が居た。


だが、彼女が信じていた王子様は、王子様でもなんでもなかった。そんなものなんて居ないと、幻想に過ぎないと現実を受け入れるほかなかった。


その他にも大切な人が、沢山居た。

メイリーが他の何かを必要としなかったのとは違い、彼女はそれらが大事だったし、好きだった。愛していた。

大切で、大切で、――それを失う日がくるなどとは、思っていなかった。


でも、彼らにとって自分はそうではないのだと彼女は身を持って実感した。


泣こうが、わめこうが、誰も助けてくれなかった。

心から助けを求めたのに、その時その誰も何もしてはくれなかった。否、ずっとそれよりも酷かった。


(べっつにぃ、それだけよ。それだけなんだか、ら……)


体を掴む誰かの手、暴力。

蔑んだ目で見る親しい人たち、暴言。


老化しない体を欲しいなどと思ったことなどない。

他の誰とも比べ物にならないほどに高い魔力も欲しいなどと思ったことなどない。


好きでこんな風になったわけじゃないからこそ人なのに、人じゃないと扱われることは苦痛だった。

でも、だからと言って彼女は「自分のすべて」を周りの人たちに理解して欲しかったわけじゃない。

欲しかったのはただ、それでも良いと「個人」の存在を許容してくれる「誰か」だった。


(そうよ、あたしはあんな顔面崩壊女なんて気にしてないんだから……っ!)


そもそも、助けてと泣き叫んでも誰も助けてくれない自分と、常に誰かから手を差しのべられているメイリーではそもそも立場が違うのだ。

大切だと思っていた幾人もの人たちが敵へと、変貌したことのないメイリーの肩を持つ理由など一ミリグラムもないことなのだ。

レインは思考を切り替える。


(そうよ、同情をする余地もない。あれは、ただの敵よ。あたしからダーリンを奪う、敵)


大体、泣けないぐらいなんだと言うのだろう。そんなことで誰かの愛を得られるなんて理不尽だ。「泣きたい時には目薬常備で、泣き真似でもすれば?」程度にしか思えない。


(良い感じ。なんか、考えれば考えるほど苛々してきたわ)


たった一人だ。

たった一人でしかない。

もう、たった一人しか欲しいとレインは思ってない。


なのに、……だ。


(思ってない。思ってなんかないんだからっ! 絶対、違うわよぅ。別に、思ってないわ。そんなわけなぁいじゃないの)


振りかえって欲しかった。追いかけて欲しかった。先ほどからある思考が頭に浮かぶ。そんなこと考えるはずもないのに。

振り返られたらまた独りぼっちになるしかないのに、振りかえって欲しかったなんて、あるわけない。






部屋の中からは浅い寝息が二つしたことを確認してから、明かりの消えた部屋に足音無く忍びよる。

気配をなるべく殺して近寄ったせいか近寄ってみてもそのどちらからも寝息は途絶えなかった。


手に持った水差しと、コップを机の上に置く。


(ダーリンも、ランも気持ち良さそうに寝ちゃって……可愛いんだぁからっ!)


レインはシャドの右手の中指へと手を伸ばす。


彼女がその部分に触れた途端、緑色の閃光がシャドの指の周りで円を描く。光が消える頃には、何もなかったはずの指に黄色の魔石が三つ嵌めこまれた銀色の指輪が嵌められていた。


(そろそろ手入れが要るかと思ったけど、まだこの魔石の魔力は大丈夫ね)


スっと、指を離す。

指が離れると指輪は石の色だけ違ったデザインの指輪へと変貌し、それから、また何もなかったように消える。


「ほー、それが秘蔵っ子を隠せた理由かー。そんなもん作ってやってまで低すぎる魔力補ってやってるなんて、自分健気やなー」


バっと勢いよく、レインは声がした方へと振り返る。


「……ぬけぬけとよくも顔が出せたわね。アンタといい、あの化物といい、ここは、あたしの領域(テリトリー)よ」


彼女の見つめる先には金色に輝く立て割れの目が二つ漂っていた。


「先にこっちの領分に手ぇ出したん自分やんかー、責任転嫁せんといてぇな」


ピンと伸びた耳、揺ら揺らと揺れる尻尾。ギザギザの歯の生えた大きな口。漂う目玉の方から獣の形をした影がレインに向かって伸びる。


「あんま怖い顔しすぎるとその部分だけ皺になんで? それにや。約束守らんかったのはそっちも、同じやろ? なー、もうチョイ仲ようしようや、こっちもそっちも同じ目的を持った仲間やろ?」


「仲間? 冗談でっしょ。仲間じゃなくてそっちの都合で利用してるだけのくせに」


ぐるん、と獣の形の影は尻尾を回す。


「酷いなぁー、今まで自分が動きやすいようにいろいろしてあげてたっちゅうのに。今かって、眠りの魔法使ってそこの人間と魔獣寝かせてやってるやんかー、他にもこの店に敵意持ってるような人間が来づらいように街中に魔法張ってるのも気づいてるんやろー? 感謝しろとは言わへんけど、ちょっとぐらい気ぃを許してくれてもええと思うでー」


大きな声を出しても起きることのない、シャドとラン。

いつからその魔術が発動していたのかは知らないが、目玉の言うとおり眠りの魔術によって彼らは寝ているのだろう。

店の件については、彼女自身も店の内外に魔術を施しているのでこれに限っては本当に余計なお世話である。


「あら、ならあの化物女から逃げ切れるように弱点でも教えて欲しいわぁね。どこに居ても付いて回って来てあんたたち迷惑だし、気持ち悪いわ。ぶっ殺してやりたいのに、できないのも凄くムカツクもの。……なのに、勝手にそっちがしてることで感謝しろとか寝ぼけるのも大概にしてちょうだいよ。厚かましいのは偽善的で嫌いよ、あたし」


「相変わらず、手厳しいなー。万能とちゃうねんから、出来ることと出来ひんことがあるものよー?」


影はテトテト二足歩行で窓際を歩き回る。目玉もその二足歩行に合わせ行ったり来たりを繰り返す。


「でもなー、どーしよっかなー、特大サービスしたるかなー、悩むなぁ。んー、いろんな国をまわりながら、魔力の低い人間探して、報告するんが役目やのにこの国に留まりまくってここ十年くらい適当にしか仕事せんかったしぃ。そんな相手に優しゅうしたらあれに怒られるしなー、どないしようかなー」


目玉の持ち主は、こちらの様子を窺うようにチラチラと視線を寄越す。おまけに、色を変えながら。

レインは苛立ちから頭の血管が爆発しそうだったが、ギリギリと唇を噛むことによってそれを抑える。


「あのさぁ、用がないってんなら早く帰ってくれぇない? いい加減、目障り過ぎて消し炭にしたいんだけどぅ?」


ダンっと、床を踏み鳴らす。シャドもランも起きることがないとわかってるので、大きな音で二度ほど。


「用? 用がなかったら来てへんよ。あるで、あるで。そこの寝てるそれと勇者との決闘やけど、ボードゲームで決めるらしいわ。最初は勝てるような勝負がエエんやって、ド派手に勝負したいやろうに、可哀想やなぁどっちも」


「どっちでもいいわ。どっちが勝っても負けてももういいもの」


勝っても、負けてもシャドは誰のものにもならない。それが既に分かっているから、彼女は動じなかった。

ニタリと口の端だけを上げて、醜く嗤う。


「ごっつ、あくどい顔してんで自分。……出会った頃のあの素朴な感じはどこへ行ったんやろか、悲しいわぁ」


「アンタたちと会ってからはずっとこんなもんじゃないの。ほら、用はそれだけなんでしょ。とっとと帰って、とっとと消えて、とっとと死んで」


「冷たいわー、ホンマ。まあ、ええわ。あ、そこの兄ちゃんが起きたら適当に濁しながらゲームのこと伝えといてな。……あー、そう言えばやけどー、どこかの誰かの大切な手紙をさっきどっかに落としたっぽいねん。どこかの誰かにとってはどうしても棄てられへんどえらい大切なもんや。拾ってもええし、捨ててもええで。まー、弱点になるかはしらんけどな」


ブルっとレインは体を嫌悪感から震わせる。


「き、気持ち悪いわねぇ、……あの化物女が居なくなったらあたしは全力で逃げ出すわよ。それこそ、絶対にあんたたちには捕まらないわよ」


「こっちにはこっちの段取りと都合っちゅうもんがあるのよ。あれに考えがあるみたいにな。せやから、自分も好きにしたらええわ」


「あっそ」


「というわけで、意外と自分のこと好きやからのおまけっちゅうことにしといてや。ほな、月のない日にまた会いましょ」


「永遠に会いたくないわね、さようなら。月のない日まで」











『なぁんにもなくなちゃったぁ……』





草もない。木もない。何もない。

瞼を閉じればそれらがあったはずの世界を思い出せるのに、幻を見ていたかのように瞳の先にはなく、目に映るのは乾いた大地と青い空だけだった。

時折、吹く風が砂塵を舞わせ、白かった服をはためかせる。短くなった髪が首に纏わりついて気持ち悪いと、感じると同時に、自分以外の何もここにはないのだと思い知らようされるようだった。


いつもと同じ青い空がそこにあるのに。


手を空にかざす。

何もなくなって、いつもは届きそうにもなかった空が近く感じられた――けれど、空はやはり遠く届きそうもなかった。


日差しが眩しくて、醜い自分が嫌で、どうしようもなく太陽に焦がれた。








「さーてと、めんどくさいけど、探し物でもしようかしらぁー」


泣いてるって言って振り返ったら、また、信じれる(あいせる)気がしたの。


なんて、ね。嘘よ、嘘。

愛してもどうしようもなくこの世界は冷たいのを知っているもの。











街中を走り回る。


(ない、ない、ない。あの店がない!?)


街の隅から隅まで走りまわったのに、あるはずのものが見つからず、メイリーは焦っていた。


「なんで……?」


段々と消えていく街明かりを見ながら彼女は唇を強く噛む。






メイリーは、レインの店を見つけることができないまま、夜は無情に更けていった。




なーんつって。

ははは、この手の女性は振り向いたら振り向いたで文句を言うに決まってる。


さてさて、折り返したのでレインの過去も微妙に書いてます。

書き過ぎたらやっと立てなおされつつあるストーリーぶっ壊れそうだから自重しますたー(-ω- )

いろいろ今回伏線盛り込みましたので、時間ある方探してくれる嬉しいです。

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