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32.カミングアウト大会開催中☆




「「シャド!」」






愛がなくても死にはしない。なぜなら、空腹に愛は関係ないからだ。

逆に腹が満たされなければ愛があっても死んでしまう。しかし、愛がなければ心が今度は虚無感(くうふく)に襲われる。


人って言う生き物は心と体が満たされて初めて空腹から解放されるのだと一体何人の人が知っているだろうか。

虚無に喰らわれ続ければ心が死ぬと一体どれほどの人が知っているだろうか。



何人が、どれほどの人が、心を虚無に喰らわれてしまった先を知っているのだろうか。




向日葵の花を見ては、君を思い出し。


消毒液の匂いを嗅いでは、貴女の死を思い描き。


怒声を聞いては、彼女の言葉に思い馳せ。




絶望さえも越え、すべてを喰らわれた先を知っているだろうか。






(あー、サイテー)


左右から聞こえた声ため息一つ。

なんという、デジャヴ感。まあ、前回と違って相手は勇者でも眼鏡っ子でもなく、途方もないアホ二人なわけだが。


(めんどくせぇの、来たよ。しかもなんなの、馬鹿なの? 新手のいじめなの?)


アホ二人こと、シュロムとルックは俺の前を華麗にスルーしたかと思えば向き合っている。おい、俺はここだぞ。と、思いつつもめんどくさいので立ち去りたい。なんでこうなった。


(いろんなことが、理解不能すぎて、ワロス)


嘲笑以外何も浮かばなかった。正直、だってこれ、かなりを通り越して死ぬほどめんどくさくね?










街に辿りついたのは、昼をだいぶ回ってからだった。その頃は腹の虫はすっかりと息を潜めており、ただなんとも言えない気持ちだけが胸の中で燻っていた。


そのせいで、レインの店やいつもの宿。知合いに会う可能性のある場所には行く気分にはならずふらふらと街をただ歩き回ってしまった。――最終的には、いつぞや眼鏡っ子と腰かけて串焼きを食べた噴水に腰を掛けていたのだから大爆笑でもしたい気分だった(もちろん、不審者に思われるのでしないけれども)。

本末転倒とはこのことである。会いたくないのに、微妙ではあるが知合いと呼べるだろう彼女がここに来ないかと少し期待していたようなのである。


まったくもって馬鹿な話だけれど、俺は愚痴る相手も思いつけないような人間なのだ。彼女にだって会って何か話せるわけでもないのに。あほよねー。いや、ほんと、救えない。笑えもしない。

爆笑? 笑えて、失笑ですよ。ええ。




普通愚痴って友人とか彼女とか、家族が聞いてくれるんじゃないかって思うかもしれないけれど、俺心許せるような人とか居ないからー、大体、基本的に他人に嘘を吐くか感情を殺して接してるし。テヘって笑いつつ、えげつないことばっかり考えてるからー。


目の前のこれとかぶっちゃけ人間相関図のカテゴリが友人なだけだし、カミングアウトすると心の友とか嘘だし。大体、向こうもカテゴライズする枠がないから友人にしてるわけだから。はい、平等。おあいこ、おあいこ。


家族にしたってこいつを含め、あの人たちに何かを期待するなんて馬鹿馬鹿しいしと思ってる。特にこいつは俺なんかにライバル心をむき出しにして人前で恥をかかせても平気な奴だ。そんな奴が話し相手になるわけがない。

父親も母親も味方ですらないわ、はっははー。






(けど、このまま勘違いしたまま殴り合いとかされても困るし。今後の被害を被るのは、俺だし)


逃げないで、愛想笑いを前面に張り付けながら二人の間に入る。


「目の前でスルーするとか、どんだけ俺の存在感が薄ければお前らは満足なんだよー、ちっきしょー」


「シャド?」


「何言ってんの、シャドくんに決まってるじゃん」


一瞬、二人があり得ないものを見るようにして、俺を見る。うおーい、本当に節穴だな、お前らの目。言っとくけど本来なら、逃げ出す処だけど腹黒さ、もとい自分への優しさから声かけてやってるんだからなー。


「で、何しに来たの?」


シュロムはきっと夕飯に俺がメイリーたちを連れてこなかったのが癪だったのだろうと思う、基本放任主義で家を突然開けたりすることを容認しているあの親たちが連れ戻してこいと態々命令するとは思えない。その点から言うと、ルックはなぜ居るのかわからない。たまたま見かけたから声を掛けたにしては顔つきが仰々しい。


「こんな時間にこんな場所で貴様はなにしている。何か弁解はあるか、愚弟」


「別に何も。ただ、ここで腰を掛けて少し考えごとしてただけさ、賢兄」


「馬鹿にしているのか、貴様……っ」


シュロムが俺の襟元を掴もうとする。後ろは噴水で水しかないので、俺はそのまま掴まれることにした。だが、いつまで経っても手は俺に伸びてこない。


――ルックが押さえたことによって、触れなかったのだ。


「何をする」


「あんたがこいつを殴りたい気持ちはわからないでもないですけど、頭に血上り過ぎっすよ」


「関係なかろう、部外者が内輪の話に出てこないでもらおう」


ルックの手をシュロムは振り払い、苛立ったを隠そうともせず睨み出す。


「いやいや、ダチが殴られそうだったら止めるでしょ、フツー」


言葉遣いはいつもよりかは柔らかだが、ルックも苛立ちを隠そうとする気はないようで険呑な雰囲気を纏っている。おー、怖。怖っ。なんでこいつもこんなに怒ってるんだ?




……なんて、嘘ー。知ってるよ。




(俺がこいつらを選択肢に入れない最大の理由。こいつら両方ともメイリーのこと好きだから。ははは、そんな奴らが選択肢に入るわけがないわー、ないない。むしろ、死ね☆)


俺、こいつら大嫌いですwあはw


「……お前らマジ何しに来たんだよ、喧嘩しにかよ。ルック、助けてくれたのには一応礼を言っとく、けど、なんで居るわけ? その様子だと、シュロムに協力させられたわけでもなさそうだけど?」


建前を崩さないためにそんなことを言ってみるw


「俺は、誰にもなんも言われてねぇよ。ただメイリー・ジャミルからシャドと会うのかって連絡を受けたから探してたんだよ」


(メイリーね、はいはい。ご苦労なこった)






いつだって俺は蚊帳の外だ。メイリーが、メイリーのために、ああ、煩いんだよ。馬鹿どもが。

手にできないものに焦がれ続けるお前らなんかに、そんなお前らなんかに俺のことなんて何も、相談する理由がないんだよ。






「あのさー、前から言いたかったんだけどお前ら人のことをダシにするのやめてくんない? 迷惑だからさ。そんなんでメイリーの好感度は上がんないよ」


「はぁ?」


「なっ」


あからさまに顔を顰めた人と、驚いた人。


お前らは本当に何も気づいてない。メイリーのことも、俺がメイリーの心を決定的に掴んでいないことも。よっぽど、メイリーの方が俺のことをわかってるよ。だって、あいつは。


「昔からお前らそうだよな、シュロムはあの人の言葉を鵜呑みにして苛めて、急に手のひら返してももう遅いんだって。あいつは魔獣並に人の心の敏くて警戒心が強いの。手遅れでした、残念ー」


よってお前はいくら見た目が合格点でも、優しくて爽やかなメイリーを攫ってもいいイケメン判定はしてやれないのだよ。


「……………」


「ルック、お前自分が思ってる以上にメイリーのこと気にしてるって知ってる? 人にどうこう言う前に自分のこと棚上げとかやめてくんない。絶賛迷惑、虫唾が走る」


他の人から間違えられる度に嫌そうな顔してたお前が、俺の友達で居たい理由に俺が気付かないとでも思ったか。ちょっとメイリーの心の嫌いな人ランキングから外れてるからって、そんな下心じゃイケメン判定はやれないのだよ。


「……………」


「もちろん、メイリーが俺のことを好きでも俺はどうする気もない。それをお前らがなんと感じてもだ。と、まあ、そういうわけで俺のことは放っておいてよ。……もちろん、決闘はちゃんとするし。絶対負けないとは言えないけどね」


なんでしょう、この二人の顔。

あらー、何まったく俺が二人の気持ちを知らなかったとでも? 馬鹿ですか? あんなにあからさまなくせに? ああ、ルックは無自覚だったのかなー。


だからって、もう誰かの気持ちを考えて行動なんてしないけどね。だって、カミングアウト大会だし本心を口にしまくって行くよ☆


「ふ、ふざけるなよ! だったら、なんで……」


顔を真っ赤にしたシュロム。いつぞやのようです。


「なんで好かれるのかって、他の誰もあいつのことを理解できないからだろ、お前らが自分のことや俺のことを理解できなかったみたいに。俺はちゃんといつだってなんだって理解した上で行動してたよ」


「んだよ、それ……」


人の心に疎いと思われている俺ですが――、うんなわけあるか。さすがにあからさまなものまでわからんとかどんだけ馬鹿よ、馬鹿なのよ。

俺は、あえて空気を読みません。だって、読んでその人の気持ちに合わせたところで何も得ないもん。


「昔はもちろん、お前らのこと嫌いじゃなかったさ。本心から仲良くしたいと思ってたよ、たとえ人のことを見下していたとしても、メイリーのことを好きだったとしても。……けど、あの日から俺はもうメイリー以外の世界中の誰も赦せないんだ」




あの日の嘆きを。


あの日の怒りを。


あの日の絶望を。




「唯一、あいつだけがあの日俺に手を差し伸べてくれたから俺は今こうしているんだ」


お前らにとって唯一など絞ることはできないだろう。

俺は選べるよ、メイリーだ。メイリーだけ幸せで、生きてそうすればいい。


もう、他のものを何も持ってない。あの日、全部失った。





世界から拒絶されてからのあの日まで俺は、正直言うとメイリーのことを結構めんどくさく思っていた。あのか弱かった俺の可愛いメイリーは死んだのだから。




懐いてくる姿は、嫉妬からひたすらに眩しかった。


俺を慕う姿は、その一途さに恐怖すら抱いた。


変わらずに俺のことを真っすぐに見つめる瞳に、憎悪を抱いた。


そのくせ、手放すにはいろいろと勿体なくて傍に置いてみたりした。




――けれど、その感情はあの日反転した。




懐いてくる姿は、愛らしく。


俺を慕う姿に、安堵し。


変わらずに俺のことを真っすぐに見つめる瞳に、好意を抱いた。


幸せになってほしいと心から願うようになった。




きっとそれまでの俺も多少は好意的な、そんな感情をメイリーに抱いていたのかもしれない。だけど、俺はもうその気持ちに応えることはできない。それはすべての否定だ。あの日までの俺の。今の俺の。すべての裏切りだ。



「お前ら知らないだろう、メイリーは一度だって俺のこと好きだなんて言ったことないなんて」



あいつは本当に俺をよく見てる。その言葉を言えば俺がメイリーのことすら赦さなくなるって知ってる。だから、言わない。



「俺が望まないことは何もしないんだ、ホントに。――そういう奴は幸せになるべきだろ?」


こんな俺がいいと彼女は言うだろう。俺でなければ意味がないと言うだろうが、俺に言わせればそれこそ意味がない。




君の世界はもっと広く、豊かであるべきだ。




「大丈夫、俺が手放せばその内、あいつはちゃんと自分からもっと大切なものを見つけるさ。あいつはそういうのが苦手なだけでできないわけじゃないんだ」


だからと言って、お前らとくっつくなんてのはないけどな!


「じゃあ、そういうわけで喧嘩はしてもいいけど、俺を巻き込まないでねー★」


(さて、行くか。しばらくどこへ雲隠れするかなー)




「待てっ、話は終わってねぇんだよ! 俺は別にメイリー嬢のことなんてなんとも思ってねぇし、俺はちゃんとお前のことダチだって思ってるっての!! 何勝手に完結してどこかへ行こうとしてんだよ、ざけんなよっ!」


「無自覚おつ」


何かあれば一緒に騒いだ。一番仲が良いのはきっとお前なんだろう。近くにいたからかわる。

お前はメイリーが傍にいる時俺と間違われないかと少し期待して、呼ばれなかったこと安堵して、その感情が名を持つことを無意識に拒絶したんだ。


俺に間違われるのをあれだけ嫌っていたお前が、気が合うからという理由で傍にいるわけがない。


「……お前は本当に真っすぐだな。もう、思えなくて残念だよ。お前も俺を嫌うといいよ。で、ついでに放っておいてくれ」


「待てっての!」




愛しています。

愛しています。

愛しています。

世界に何度も、世界中のすべてにその言葉を何度も投げかけた。



嫌わないでください。

嫌わないでください。

嫌わないでください。

それだけの言葉すら届かなかった。




「それは理由の一端で、お前がどうこう言う問題じゃないんだ。本当に全部が赦せなかったんだよ。あの夏の日から。きっとわからないだろうけどさ」


蓋をして、見なかった感情。

いろんな感情を俺は見ないふりをした。それが一番楽だったからだ。

けれど、最後の感情を手放してしまえば俺はどこでもない深い闇に囚われそうで、手放せなかった。






この世界ごとお前らへの感情を捨てることで、メイリーを幸せにすることだけを生きがいに、俺は俺を保っているんだよ。





いろいろ遅くてすみません。

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