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02.人生は日陰道一直線(改)




「サプライズ結婚の予定だったのに……」






何残念そうに言ってんだよ、残念がるなよ!


居間でくつろぐ髭でぶ――もとい親父を殴りたい衝動に駆られるのは、少し前に勇者を敵にした俺ことシャド・スペクターくんです。あー、殴りてぇ。

てかさ、メイリーをジャミル家へ送り届けてから猛ダッシュで帰った俺へのこの発言は、殴ってもいいという了解のサインと受け取っていいんじゃかろうか!?

その帰りに、勇者と思しき殺害(ぼうがい)行為を大量に受けた俺に対して多少は憐れむべき。誰か優しさを下さい。


あと、あの勇者に常識を!!




「メイリーちゃん美人だし、頭良いし、やったね。よ、三国一の花婿!」


父親(ニコニコと笑いながら)の発言に俺は言葉を失くす。拳がプルプルと震えてしかたない。おっかしいなぁ! 表情筋がやけに強張るなぁ、ピクピク痙攣してるんだけどもっ!


「で、いつ俺に報告予定だったのかな? ん? 言ってみ。ひと月か、半年か? ん?」


「前日に、明日結婚式って言われたら楽しくない?」


(こんのぉお、髭でぶがああああぁああ)


何が、「前日に、明日結婚式って言われたら楽しくない?」だ。楽しくねぇよ、寝耳に水どころか、寝てる最中に凍った池の中に落とされる勢いだよ! こいつ馬鹿じゃないの、ねえ、馬鹿でしょ!!


というか、どうやって前日まで隠し通す気だよ。自分の息子をどれだけ馬鹿だとこいつ思ってんだよ。


髭と脂肪を必要以上に蓄えた、蓄えに蓄えたこのスぺクター伯爵が俺の親父。

昔は痩せていたのに幸せ太りとストレス太りを両方くらいまぁるくなった残念な人ではあるが基本的には人の良い父親なのである。むろん、このようにかなりちゃめっけの強い男の一面も持っていたが、否、知っていたがまさか自分の息子の結婚式をサプライズ演出しようとするほど頭がいかれていたとは知らなかった。


(知りたくもなかった!)


「別に、婿養子ぐらいいいじゃない。自由恋愛が基本の世の中で次男なのに、爵位継げるなんてラッキーだとでも思えば」


「はぁ? 婿養子なの、俺!?」


メイリーと結婚するだけでなく、婿養子だと。勇者を敵に回した上に、これ以上どんだけ俺は日陰道を生きる予定なんだ。


「当たり前でしょ、メイリーちゃん一人っ子だし」


「断固拒否する」


「拒否をさらに拒否する」


くるんくるんと親父は髭を弄る。

今、大事な話なんだから弄るなよ、こんぬやろーめ。

大体、承認してねぇよ。結婚なんてしねぇよ。むしろ、メイリーはイケメンで地位や、金を(プラス性格の良いをここに付けたそう。あの勇者のような性格は駄目だ、断固拒否する)持った人が似合うという俺の持論を何が何でも受け入れてもらいたい!!!


「しっかし、まいったね。勇者」


「あん? なによ、それ」


ポンっと四角い板が机から取り出される。


「データ新聞じゃんか」


データ新聞とは一度、基盤を買えば常に最新の情報が本体に送信されてきて見ることができるすぐれものだ。もちろん、結構良いお値段がするが一年分の契約料金が紙新聞を買うよりかなり格安で済む上に一年分の情報が嵩張らずに保存しておけるとこもあって人気を博している。

我が家は多少は金持ち貴族様なのでこのような人気商品が溢れているのであった、ちゃんちゃん。


(まあ、それはいんだけどー)


どれどれと、覗きこんだ新聞の一面の見出しに目眩がした。噴き出さなかったのが奇跡だ。


「あの有名な某奇女、勇者を一刀両断する!?」に、「勇者、魔王の次の(ライバル)はS伯爵次男!!」とか……紙だったら破り捨ててしまいたい。


(高いから折ったりはしないけどな、へへへ。多少力入れても折らないけどな、へへへ)


でかでかと映ったメイリーの写真には犯罪者のごとく黒い某線が一本目のところに入れられているだけなのに対し(むろんのこと勇者は顔だしで綺麗に映っている)、俺の写真は顔の半分まで映っているものやピンボケだったりと無残なものばかりだ。おい、一流のカメラマンが撮ったんじゃないのか? 現在のマスコミはどうなっている。情報伝達の早さ以外にも気を配るところがあるだろうが。


この差。モブだからって扱いが酷いぞ。


「言っておくが、メイリーちゃんとの結婚の話はお前たちが生まれてくる前……そうあれは懐かしい軍学校時代に僕とドルーク(メイリー父の名前)で子供が生まれたら結婚させようねって約束から始まったのだよ。ああ、あの頃は若かったなぁ。あの頃に戻りたいなぁー。リーフ(俺の母親の名前)とは既に出会ってるからもう少し前でもいいかもしれないなー」


うんうんと、一人で懐かしんでる親父、おつ。あとで告げ口しよう、関わりたくないから間接的に。


「懐かしい話はいいんだわ、問題なのはうんな話今の今まで一度も聞いたことないってこと」


「結局のところ、本人たちの意思が大事だと思った時期もあったわけよ」


髭がくるりんと揺れる。


「ほぅ」


あったわけってことはもう、ないわけだな。詳しく聞かせて貰おうじゃないか。


「いつまでもお前が彼女とか作らないのが悪いんだよ、チャンスはあったのに」


ふざけんな、なかったわ。何かしらに邪魔されたわ。自分でもフラグバッキボキにしてしまったわ!



つぅーっと、一通の白い封筒が差し出される。

金の縁取りに、赤い蝋印。


「一言言うと、お父さんもドルークも先見の能力はない。ついでに言うと、僕たち子供の幸せを考える良い親なんだよ、基本。うん、基本的にね」


冷や汗タラリ。あんたは本当に基本的にだよね、だって、この封筒、あれですよね、あそこからくる呼び出しの封筒ですよね?

いやだわぁー、誰か目の錯覚って言ってちょうだいよー。いやだわぁあああ。



「怨むなら勇者を恨むように、以上!」






王さまから呼び出しくらった。俺、死んだ。確実、生きてても人生オワタ。



※4月30日にいろいろと付け足しました。

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