27.転落、そして浮上?
「さよぉならぁーまた次回もよろしくぅー」
レインに手を振られて女性客たちが去って行く様を物陰から見つめる、俺。え、何してるのって、か、勘違いしないでよね、ストーカーとかじゃないんだからね、待ち伏せてるけど違うんだから!!
(げふげふげふ、イタイ、俺イタイ。心も痛い!)
逃げ出してからランをもふり損ねたこと思い出したから来ただけなんです、この不吉なネックレスを投げ付けてやろうと思いなおしただけなんです。本当に変態とかストーカーとか、根暗な感じのあれじゃないんです。断言できます、ええ、ほんと! ちなみに、お祓いは行く時間がなかったので行けなかった。しかし、神さまには縋りたかったので教会に寄付(一ギニー)と幸福のお守りとしてお肉屋さんでランのお土産を買うついでにうさぎの足をゲットして来たのでもう大丈夫、オーライ。超どんとこい。
「もう、皆帰ったっぽい?」
そろそろと店の中を窺う。どうやら、もうレイン以外の人間は居ないようだ。
「よし、行くか……」
思うものの足がなぜか物陰から動けない。いやね、ぶっちゃけ意図してなかったし、あれは本当に事故だったので恥ずかしがる必要も逃げる必要もないのはわかってるんですよ、ええ。大体、思春期なんだよね、青春なお年頃なのだよ。恥ずかしがって当然、むしろ、乗っかったレインが悪いぐらいな勢いなんだよ、こっちとしたらさ。
(でも、恥ずい、めっさ恥ずい……くぅ、動くんだ、男を見せろ俺の足)
堂々と中に入って、「さっきぶりなだな、おいコラ、こぬやろー」と言ってランもふったらネックレス投げつけて逃走するだけでいいんだぞ、行け、動け、俺の足! お願いだから、動いてくれっ!!
返事がない。どうやら、俺の足は死んでいるようだ。
「……………」
か、帰ってもいいんじゃね? 勇者に殺られたら今日の失態なんてもう誰も思い出すまい。うん、そうしようかな、さすがに死んだ人に対して「実はスペクター伯爵の次男さん、他所に好きな人が……」とか「あらまぁ、じゃあ四角関係だったの? 最近の若い子ってすごいわねぇ」などとネタにされるまい。
し、死にたくねぇええええええええええええええええええええええええええええっ!
される、する、絶対誰かがする、え、ありえない。何これ、勇者に殺されただけでも不名誉なのに、何で奥さま方の井戸端会議の話題提供までする破目になるんだよ、嫌だよ、ふざけんなしぃいいいい。
(はっ! だが、どっちにしろもう人居ないんだから訂正も無理なわけだし、中に入る姿を見られる方がアウトなんじゃないかっ!?)
「も、もう、帰ろうかな。死にたくもないけどこれ以上の話題提供も嫌だな、うん」
繊細な男の子なんです、俺。モブだけど、人権は保障されたい。
「さっきから、ダーリン、何してんの?」
「ぎゃふん、げふ、きゃぁああー」
絹を裂くような悲鳴出ました。
「はい、どーぞ」
差し出されたコーヒーのカップを受け取る。
「ども」
無言で飲む。
(て、展開が悪化するとか、聞いてない。やっぱり、厄日だ、死ぬ、次なんかアクション来たら死んでしまう!!)
俺のライフはもうミリ単位すら残ってないのに思わず出た悲鳴によってよりパニくってしまい、見られたくない勢いでレインの手をとって店の中に入ってしまった。神さま、お願いです。誰も見てないと言ってください。幸運のお守りあげるからマジ頼みます。
「しゃど、しゃど、肉ノニオイ! 干シ肉、干シ肉!」
「ランぁあああん、いつも通り過ぎるお前にきゅんとした!!」
近寄ってくるもふもふに抱きつく、前足で顔面叩かれたけどこれはこれで癒される。違うよ、違う、ドMとかではないです。動物による癒しを受けていただけですから!!
「ラン、かわゆす。お兄さんの最後のライフを持って行かれた気もするけど、もういいや。なんかいいや、奥さま方も勇者ももうなんでもいいや」
「アツクルシイー」
ベシっと、蹴られてランが手の中から逃げて行く。思わず、手を伸ばしたまま硬直。切ない気持で黒い獣を見つめる。
「振られた」
「あたしが居るじゃないのっ」
「レインほどの年増は範囲外なんで」
お断りしますと、余った左手でレインを制止させる。ストップ、ストップ。寄らないでくれ。
「酷いっ! 人前でキスしようとした仲じゃないのぉ」
スススと、寄ってくるレイン。俺はカップを持ったまま、スススと別の場所へ。寄るな、これ以上人に誤解されたくないざんす。
「なんで、地味に遠くへ行くのよ!」
「当たり前だろが、窓の外から人が見て勘違いされたら困る!」
「あーん、あたしを弄んだのね、ヨヨヨ。あの子と天秤にかけて、あたしを捨てるのね、シクシク、悲しいわぁん」
「嘘泣き、やめれ」
床にわざとらしく横たわってまで悲しさを表現するとか、あざといわ。
「あたしに会いに来たんじゃないのっ!?」
「ランに会うついでに、ネックレス返しに来ただけだっつの!」
「やっぱり、弄んだのねー。酷い人ね、道具だけあればいいってことなんでしょ!」
泣いたかと思えば、プンプンと怒り出すとか、お前は何がしたいんだ……。つか、わざと服の埃をこっちへ飛ばすなよ。
「はいはい、俺が悪かったです。道具だけで満足してます、事実です」
「ダーリン、さすがにそこまで、開き直られると辛いです」
次、真顔。
「お前は本当に何がしたいんだ!」
コロコロと表情を変えて、体全体で感情表現して。
(レインとメイリーを足してわったら、いい感じになるんだろうなぁ。きっと、好みだろうなぁー)
ま、そんなこと考えたって現実は、世知辛いままですけどね。
「いやーん、呆れないでぇ」
「れいんモ、アツクルシー」
遠巻きの声に抱きつこうとした体勢のまま、レインが今度はピシりと固まる。さすがに、ペットから言われると辛いようである。
「ラン、愛は暑苦しいものなのよ……、だって、情熱が燃え盛ってるんですものぉっ!」
「ゴーゴゥ」
「今のって声援かしら、ダーリン!? 行けってことかしらっ!!」
「ぜってぇちげぇよ、ネックレス黙って受け取れよ」
鞄から取り出した、ネックレスをレインに投げる。キラキラと光る石が放物線を描く、少し眩しいそれ。
「あ、やっぱり、なんかそれを手放した途端に体が軽くなった気がする。呪いが晴れた気がする」
「呪いとか、失礼な! 愛しか籠ってないわ!!」
「逆に重い……」
そして、白けた。主に俺の心が。
「人の愛を重いだなんて……」
カラン。
「ごめんくださいな」
会話の途中で、急に開いた扉。しまった、焦り過ぎてて看板をクローズにするの忘れてた。人が来るとか予想外!! 逃げる、隠れる、一体、どうする!?
「あら、ごめんなさいねぇ、お店もう閉めてたつもりなのよぉ」
扉から背だけ向ける。無駄に大きいのでどこにも逃げられない、隠れられない。残念である、残念すぎて今夜も眠れないー。空気、空気。俺は空気。気にしないでください。
「あらお気になさらず、店自体に用があったわけではありませんわ」
柔らな声だった、思わず振り向きたくなるような。むむむ、もしやこれが運命のモブな彼女かもしれない。ネックレスがなくなったので厄が取れたんでないかね?
「貴方に会いに来ました、シャド・スペクター」
ヤバイ、マジで運命来たかも知んない。きゅんきゅん。心拍数上昇してます、恋ですか、愛ですか、ディスティニー?
冷たい手が、俺の手を掴んだ。白いとは言えない、手だった。南の血が混ざっているのか少し浅黒い手。
期待して見た顔は――、外套で一切見えなかった。……チッ、まだ完全に厄払いできてないようだ。
久々ですみません、ごめんなさい。ごめんよーーーーーーーーぉお。言い訳は報告で。。。