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26.本日、厄日にて




「鬱だ、鬱すぎるぅううううううう!」






勇者御一行さま(勇者を除く)が帰った途端、片付けもせずに俺は部屋の隅で大泣きを開始。外聞? 知ったことか! ここが自宅じゃないのが非常に悲しいぐらいだ!! 自宅ならばまず間違いなく、床の上をローリングして全身でこの悲しさを伝えてますからっ!!!


「何で泣くの?」


「ええい、お前に俺の悲しみがわかるものか!」


近づいて来たメイリーを視界に入れないために、壁の方に体の向きを変える。


どうせ、勇者と決闘しないメイリーに俺の気持ちがわかる筈もないのだ。というか、元をただせばメイリーが原因なのだといい加減理解すべきだ。本人にその気がないのだとしても当事者なのだから、もっといろいろと俺に優しくすべきだ!

何が「なんで泣くの?」だよ、悲しいんだよ、察してくれよ!


(メイリーもメイリーだが、勇者も勇者だ!)


大体、決闘を申し込んだくせに内容も予定日も決まってないとか、なんだ! あれか、精神的に苦しめてから嬲るように殺る気かっ! 勇者怖い、マジ怖い!!


(俺の中ではもはや、魔王!)


こんな時に頭に浮かぶのは、もふもふの毛をしたラブリー(魔)狼のラン。もふりたい、もふってもふりまくって、その後は「待てよー」、「ヤダぁ」っていうウフフな追いかけっこがしたい。


「あー、レインの家に行きたいー」


「何で、おばさんのところに行きたいの?」


「ランをもふりに?」


「昨日も行ったのに?」


「いいじゃん、別に。俺の勝手だ、ぐえぐっ」


襟を引っ張られ呼吸が苦しくなったかと思いきや、勢い余って床に痛みが引いたはずの背中も激突。プラス、頭もごっつんこ。


(いったあああああああぁっ!)


頭と背中をさすりながら、掴みかかりそうな勢いで起きあがる。しかし、理性があるので掴みかからず涙目で睨む。


「何をする。痛いじゃないか、痛いじゃないか(大事なことなので二回言いました)」


ここ数日で俺の背中は大惨事である。青あざが最低三つはできていると思われる、確実に。


「二回言わなくても、わざとなんだから痛いのくらいわかる」


「なんですと!」


わざとだと、なんて理不尽なんだ。俺が一体何をしたというんだ。


(言うか、……)


「前々から思っていましたが、メイリーさん」


「何?」


「俺は尊厳のある一生命体であって、けっして、お前の所有物とかではないわけである」


そう、例え今他称婚約者だとしても俺とこいつはそんなんではないし、その予定もないので所有物扱いはやめていただきたい!


「だから、一つ一つの行動をとやかく言う権利はないわけです。あと、むやみやたらに攻撃もしちゃいけないんです」


もし、ここで「今まで甘やかしてきたのは誰?」とか、言われても「え、誰それ?」って返す準備は万端です。ほとんどは受け流せる気がする、さあ、来い!


「……………?」


ええええええええええええええええええええっ、何それ、わかんないみたいにこの子首かしげちゃったよ! 斜め上の反撃が来たよ!


「シャドはじゃあ、誰の?」


「俺? ……俺は、俺の、だけど?」


「じゃあ、頂戴」


「……………」



……。

…………。



空気がおかしいな。うん、何か変な地雷踏んだな、俺。よし、さっさとレイン家に行こう。ランで心癒さなきゃ。


「ちょう、だい」


(頂戴って、何だ、頂戴って)


心なしか、こちらを見つめる目が普段よりキラキラしている気がする。が、がである。「頂戴」、「はいどうぞ」で人間の尊厳を放棄するわけにはいけないのである。


「む、無理……」


「ちょ、う、だ、い」


(今、無理ってちゃんと自己主張したじゃん!!!)


さっき離れたはずの壁がやたらと近い。あれ、俺、壁に寄せられてる。むしろ、壁に寄ってる?


「あっ!! 俺は大切な用事を思い出したので、この話はここまで! それでは、去らばだ!!」


じりじり近寄っていたそれを押しのけ、立ち上がって逃げる。


「そう言うわけで、片付けは自分でするように!」


「シャド!」


「あーいーうーえーおー、あーあーあー、聞こえない、きこえないー」


耳を塞ぐ、あいうえおー、俺はモブなので聞けません。






馬小屋までダッシュしました、周囲を窺いますが、メイリーの気配はありません。逃げ切りました、俺はやった、やりきった!


「だああああ、もう、頂戴とか、心臓に悪すぎるぅうう」


「ぶるぅる?」


「大丈夫、お前の返事は求めてない。そこまで、あれじゃない」


まだ、追いかけてくる可能性があるので、急いで鞍の準備をする。


(けどさ、頂戴ってなんだ、頂戴って)


ちょっと、頂戴の意味について考えてみよう。


可能性、一。お前は一生、私の下僕。

可能性、二。尊厳? そんなものはお前にはない。


……そんな感じですか?


(正直、ど、どっちも嫌だ。こく、いやいやいや、これはない。考えてはいけない。さしすせそ、すすす。だばだばぁああ)


「俺は鞍を準備して、レインの家に行く。俺は鞍を準備して、レインの家に行く」


メイリーは何も言ってない。俺は何も聞いてない。


「あー、背中が痛い、頭痛い」


目と心をシャットアウト。

屋敷の方は最後まで振り返らなかった。






**********






「な、なんだと。レインの店に客が賑わっているだと……」


到着していざ入ろうかと思ったら中から、きゃっきゃうふふな女の人たちの声が聞こえてくる。


(俺は店を間違えたな、違いない)


頭が痛い所為で、もしくは幻覚を見ているのだ。そうだとも、閑古鳥が鳴いてないレインの店なんて認めないから!



「わふ」


待ち狼来たり。ランが扉の向こう側で俺を待つ。


「やっぱり、ここはレインの店なのか……」


ランは喋りたそうに大きく口を開けたが、人目を気にしてばくっと閉じた。


「ダーリン、やだ、二日連続なんて、そんなに会いたかったのぉ?」


釣られて、うざ……飼い主も現れる。彼女は扉を開けると、俺を招きいれようとするが、扉の前で攻防戦。

いやいや、こんなにさまざまな年代の女性が居る場所には入れません。やめて、やめろ。離せ。


「閑古鳥が鳴いてないとか……犯罪でも画策してるんじゃないだろうな!」


「失礼な! このあたしの美しさを勉強したいという女性たちを月に二度集めて講習会してるだけよ!」


「講習会? 中身残念なのに? 若づくりが上手なだけなのに?」


「本当に失礼ね! お肌のお手入れとか一応気を使ってるんだからね!」


ぷんぷんと、レインが怒り出す。


「手入れ?」


レインの顔を両手で挟んで、まじまじと見る。確かに実年齢の肌ではない気がする。


「ちょ、ダーリン、人前で」


「え?」


顔距離、約五センチ。


「ち、違う。そういうあれじゃない」


かあああっと、頬が赤くなるのがわかった。

今のは故意じゃない、事故である。


「レインさん、若い恋人ってその人ですかー?」


「そうよー」


「なああああああっ!」


モブっぽい、女性たちに今のを見られてしまった。


(あの中に運命のモブ子が居たかも知れないのにっ!)


絡んで来ようとする腕をはたき落して、ダッシュする。

死亡フラグ以外にも、今日はやたらと逃げ出すフラグが立っているようである。


「恋人じゃなあああい」


「ダーリンたら、照れちゃって、か、わ、い、い」


「ばーか、ばーか」


顔を押さえて逃げ出す。






人前で、なんたる失態! モブなのに、モブなのに! 今日は厄日だ、お祓い行こう!



久々、投稿。

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