24.勇者パーティーがやって来た
「はじめまして、ジャミル子爵令嬢。この度は唐突なる申し出に応えくださり、心より感謝申し上げます。僕の名前は知っているでしょうがグランツ・ミリュー、どうぞ、気軽にグランツと呼んでください。あ、君、この服を掛けておいてくれないか?」
勇者を除くパーティー御一行(王子だけだと思ったのに、扉を開けたら数人いました。事前連絡っ!!)をメイリーと一緒に渋し、おっほん、快くお出迎えしました。
迎えましたが、差し出された服にフリーズ。
金髪碧眼のこの無駄にキラキラした王子、今、なんつったよ!?
「お前の目は節穴か」
不機嫌オーラを垂れ流しながらメイリーは差し出された服をひっつかんで、御一行さまに投げつけようとする。
「ぬわああああぁっ、メイリー、ストップ、ストップ! 俺は怒ってない、だからするな、やめなさい!」
慌てて服を掴んで、それをやめさせる。不敬罪で死刑など断固断る! 死ぬ時は「わしは幸せじゃった、ガクっ」って、ベッドの上で老衰したいんだっ!
「シャド、止めないで」
「止めるよ、全力で止めますよ! つーか、服放しなさい、伸びる、伸びる!!」
すんごい良い素材を使っているだろう(触り心地がはんぱないよ!)オフホワイトのコートがぎちぎちと不吉な音を上げている。
お願いだから、メイリーちゃん放してちょうだい!!
「これは、失礼しました。そちらの背の高い方は執事か何かかと……」
「いえいえ殿下、そのようなことを殿下がお気になさることなどございませんとも。むしろ、一歩後ろに下がって突っ立っていたわたくしめが悪いのです。執事と間違わせたわたくしめが悪いのです、お茶の準備をしてたばかりにエプロンなどを手に持っているわたくしめが悪いんです! 海より深く反省しておりますので、なにとぞお広いお心でこれとわたくしめをお許しください!!」
存在感が微妙すぎるモブな俺が悪いんです、承知済みです!! だから、お願い許してください、恩寵をください!!
自らの頭を深々と下げる。ついでに、メイリーの頭も押さえる。
「痛い」
「お前は黙ってなさい、コートもいい加減手を放しなさい」
一向に放さないので、無理矢理奪う。壊してない、壊れてない、大丈夫!
不気味なほどニコニコとしながらポール型のコートハンガーに、服を掛ける。あら、素敵。ほら、素敵、全然大丈夫に見るわぁー。腕のところの皺は元からだよね? 誰か元からって言ってください。ガクブルしちゃうからっ!
「まさか貴方が、件のスペクター伯爵子息だったとは……失礼しました」
「こちらこそ本当に、失礼いたしましたっ!」
コメツキバッタのように俺が頭を下げた結果、和解しました。コートのことはとりあえず、何も言われませんでした。イエスっ!
あーなんだか、王子の顔にも心なしか笑みが浮かんでいる気がするなぁ。やったね、俺は使命を果たしたよ! 生きるって素晴らしい!!
なのに、メイリーは相変わらず不機嫌。せっかく事なきを得たのにも関わらず、出会い頭よりもどす黒いオーラが出てる。
お前、来る前に散々笑顔っぽい感じの顔って言っただろうが! お前に叩き込んだ王子さまへの対応はどうしたんだよ!
お兄さん、もう首が飛ぶんじゃないかって気が気じゃないんだからね、ほんとやめて。本当にやめてください。土下座するからやめてください。
えー、王子さまは、メイドさんが子爵家に居ないことを知りませんでした。
いや、なんていうか正確には召使い的な人間が家に居ないことに大変驚いておられました。立場の偉い人は下に尽くす人が居ることが当然だと思っているんですね、さすが、ブルジョワです。「僕は、君たち下々の生活など興味などないよ」ってことですね。
「ねー、まだ、中に入れないのー」
御一行さまの一人――と言っても、こんな子居たか? と、首をかしげたくなるような程度の感想しか浮かばない人物が声を掛ける。
玄関先でむくれているのは、赤毛のセミロングをした十代前半の少女だ。正直、記憶にない(俺の低スペックな頭では、モブ子とボンキュッボンを除き縁がなさそうな美人、美少女等は削除されているせいだと思われる。変な夢は抱いてはいかんのだよ。モブな俺は慎ましく生きてます!)。
少女は街で少年たちが普通に来ているような質素な動きやすそうな服を着て、ベルトにダガーを一本さしている。
「ねーねー」
くりくりした緑色の目をした愛らしさの塊の様な生き物は、王子にまとわりつく。キラキラと輝く笑顔が眩しい。俺に引っ付いて来たちびっ子はこんなに可愛くなかったぞ! おい、こら、責任者出てこい! ちょっと、この差はなんでなのか説明してくれ!
「ピュア、挨拶もなくなんですかその態度は、知らない人のお家に入る時はちゃんとご挨拶しないと駄目でしょう?」
先生が子供を叱るように王子は「メっ」とちびっ子を叱る。途端に、しゅんと、見えない尻尾と耳が垂れ下がる(気がした)。何この生き物、横の怖い生き物と本気でチェンジを希望するよ!
「はじめまして、ピュア・ビーです。えっと、……ねー、おうじー自己紹介って名前以外何言うんだっけ?」
(あらやだ、ほんと可愛いわ、この子)
こう言う妹とか欲しい、可愛くない兄とのトレードでも構わない。
「自己紹介なんて、名前とよろしくって言うだけだと思うよ。そうだよね、ダム」
ダムと呼ばれた熊の様な体格の男は頷く。
おー、俺この人は知ってるぞ。ドルークさんにいびられやすい人ランキング上位の人物で、ダム・シアリアス。第一騎士団長、二十七歳独身。女運が悪くて、付き合う人付き合う人曰くつきなんだそうな、優良物件なのに可哀想に。いやぁ、勿体ないね、黒髪にダークブラウンの切れ長の目のカッコいい風なのにね!
おかしいな、顔がニヨニヨしちゃうな。ざまあとか思ってないよ!
「ダム・シアリアスだ。お父上にはいつもお世話になっている」
シアリアスは、メイリーに握手を求める。
「で?」
「手を出されたら、嫌でも「こちらこそ」って言えって教えたでしょうがっ!!」
わけがわからない風にするメイリーの手を、第一騎士団長の手に重ねる。握手成功。メイリーは瞬時に離して、俺の服で拭いたけれども成功とする。
「汚い……」
なんで、丸く収まった瞬間に君は爆弾発言するのんだよ! 仮に思ってても、心の中でそう言うことは言おうよ!
ほら見て、第一騎士団長やけに顔がしょんぼりしちゃったよ! おいおい、男は繊細だってなんど言わせるんだよ、残念なイケメンでもこれだけ無碍にされると応援したくなるだろ!!
閑話休題。それは、置いとく。
なぜなら、俺には聞かなければならない重要な話題があるのだ!!
「あのぅ、もう一人勇者パーティーっていましたよね」
男の願望を押し詰めたような、ボンキュッボンな方いましたよね! 修道服に身を包んだ神聖なエロいお嬢さんがっ!
「今日はなんで、居ないんですかね!?」
王子も残念イケメンもいらないのでアダラ・プワゾンさん呼んでください。
あ、可愛いちみっ子はこのままステイでお願いします。
「アダラは「人の恋路を邪魔する馬鹿は、馬に蹴られてぐっしゃぐしゃのところを鹿に喰われて死んじゃうんですのよ、ほほほ」って言って、来なかったよ」
残念すぎて泣けるな。うん。あの素敵ボディを間近で見れたかもしれなかったのにな。ベールをとったお宝な瞬間とか見れたかもしれないのにな!
勇者の味方をしない味方だったことを喜んだ方がいいんだろうけど、複雑。なんか、複雑。
「シャド」
ぎゅぎゅぎゅっ。
「痛い、痛い、痛ったたた」
この効果音は抱きしめる音とかではない、人の引き締まっていないお腹の肉をつねる音である。痛い、痛い。
「何するんだよ、痛いって! 俺の素敵なお肉に何をする!」
「すけべ」
「女の子がすけべとかそういうセクハラ的な言葉を口にするんじゃありません。さっきからなんだんだ、まったく」
眉間の皺に軽く小突く。
「そういう喧嘩腰の態度は、可愛くないぞ」
「ごめんなさい」
おふっ、何この切り返しの早い謝罪。早すぎて驚いたよ。
「め、メイリーさん?」
汗がだらだらするよ。こんな素直に謝るなんて何、何の前触れですか? 怖いな。怖いよ。
「もう中入っていーい?」
焦っていると、先ほどと同じように可愛いピュアちゃん(可愛いのでちゃん付けで呼ぶよ!)がまた訊いてきたので慌てて三人を中へ入れる。
さっきの素直な生き物は白昼夢に違いない。
居間に、移動しました。
メイリー含む四人はすでに席についており、俺だけがあくせくとお茶の準備をする。あれ、なんかおかしくね? いつもだからいいんだけどね。
「いろいろ玄関ではありましたが、それでは本題についてお話させていただきましょうか」
「何だ?」
メイリーは相変わらず上から目線なので、定期的に小突いて「直せ」と教えることにします。敬語は常識って一番初めに教えたのにな!!
「勇者ハイラントと……」
「ない。迷惑だ、金輪際関わるな」
注いでいたお茶がカップから零れて、受け皿に流れ落ちる。
「あ、すみません、すみません。……メイリー、もう少しいろいろとオブラートにだな」
コップの中身が零れないようにワゴンの端に避けつつ、嗜める。
「彼は本気で貴女のことを」
「関係ない、迷惑なものは迷惑だ」
つん、とメイリーはそっぽを向く。王子さま、フリーズ。きっと女性にこんなにも冷たくされたことがないに違いない。
「はくしゃくしそ、ししゃ? ……おにいさん、このクッキー食べていい?」
「どうぞ、どうぞ」
お茶と一緒に、クッキーを小皿にとってピュアちゃんの前に置く。続いて、シアリアス、王子のところにも置く。
「メイリー、もう少し優しく。ほら、お茶でも飲んで気を静めて、それ、ヒッヒ、フー」
「ラマーズ法で気は治まらない」
メイリーのところにお茶を置いた瞬間、お茶は彼女によって一気に飲まれる。ああ、酷い、俺がこんなにも心を込めたのに、味わえよ!
「勇者ではいけない理由とは何だ?」
未だ固まったままの王子を差し置いて、シアリアスが問う。しょぼん男はどうした。なに、かっこつけてるんだ、威厳とか、け。
「愚問だ。なぜ、勇者のほうが良いなどと言えるのか、それこそ理解できない」
最近、勇者なんてどうでもいいのよ的な発言をよく聞きますね。昨日も、どこぞの酒場で聞いた気がしますね。あ、いえこれは、俺の勝手なる解釈でしたね。
「ハイラントはシャド・スペクターに決闘を申し込みました」
「はいっ!?」
いきなり復活した王子がわけのわからないことをほざく。俺、知らん。聞いてない。要説明、要説明。
「僕があなた宛てに出した手紙に書いてあったでしょう?」
「ミテマセン?」
だって、メイリーの家で見たし、中身同じと思うじゃないの。
体中を叩いて、手紙を発掘する。あれれ、どこかな、どこだろう。あはは、そんな重要なことが書いてあるとか冗談キツイ。鳥はやっぱり不吉に違いない。鳥全滅するか、焼き鳥になれ。
(発見!)
尻のポケットからよれよれの青い手紙を出す。男の子なので、びりびりと破く。
「えー、前略……ふんふん、ほー、へー」
俺はメイリーの様に読み上げたりなんてしないよ。そんなサービスはないよ。あれ、でもおかしいな。季節の件はあるけれども、本題というか手紙の部分がない。
「王子さま、一言申し上げても?」
「なんでしょうか?」
「これ、前文と前付まではあるのですが、主文以下がまったく書かれていないんですけれども」
王子さま、ニッコリ。俺も、ニッコリ。
「……書き損じですね、コレ」
「書き損じですか、それ」
再び、お互いニッコリ。
「困りましたね。ジャミル子爵令嬢からの手紙が来た際に、「喜んで」と書かれていたので。受けると伝えてしまいました」
「勇者からの決闘をモブが受けるはずないだろうが!」って言って、頭を殴ってやりたいけど、この人王子です。
「あはははははははははは」
ボリボリと、ピュアちゃんがクッキーを美味しそうに食べる音だけが世界に響いていました。
あの素直なメイリーはこれのフラグだったに違いない。
キュピーン、死亡フラグが立ちました!!
駄目だ、鬱だ、死のう。勇者と決闘なんて無理ざんす!
勇者の居ない勇者パーティー登場、美女は居ないけど美少女は居るよ!そんなこんなで、次回、久々勇者ターン。といっても、前回同様、勇者の視点じゃないよ!!あと、この小説で素敵無敵なイケメンとか期待したら残念なことにしかならないから、皆気をつけてね!