表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/45

12.実兄が敵だった件について




「剣をとれ」






実の兄に剣を向けられながら俺はあさっての方向を見る。


(一体、モブな俺がこいつと喧嘩するようなフラグはどこで立ったのだろうか)




一時間半以上をかけて歩いて御帰宅した俺の足は、棒みたいにパンパンだった。

ご飯食べて、風呂に入って今日はオールナイトな気分で本読むぜーって思ってたのに、それが玄関を開けて「ただいまー」って言ったら「剣をとれ」って何これ? 新手のいじめ? 何なんなの?


金髪碧眼だからって、同じ両親から生まれたのに顔立ちがはっきりしてるからって調子に乗らないでいただきたい!! グリーン最高! 栗毛万歳! 一般大衆でモブな俺ひゃっほい!


ただし、思ってても喧嘩になるから言わないけどね。モブだから、心の中だけで叫ぶよ!




「第二騎士団の副団長さまと剣を交える趣味は俺にはないんですよねー」


階段の踊り場で立ってるシュロムに近づき、ロングソードの先っぽを指で沈める。

ここで出されたのがサーベルとかだったら「チャンバラごっこでもしたいの?」って、思うところですが(それでもやらないけど)、ロングソードってあれですよね、本気で()る時のあれですよね。


全力でお断りだからね! 自分の部屋で静かに本読むんだもの!!



ごほん、ごほん。我がお兄様のシュロムくんはなんと軍学校に通いきっちりと三年過程を終了後、騎士団に入り貴族のボンボンたちをばったばったとなぎ倒し、現在では二十一歳のくせに副団長とかやっているんですね。普段は、城に近い場所に家を借りてるんですよ。自腹だろうけど、それって、収入良い証拠だからっ!


あー、本当に嫌ですね、厭味ですね。チート撲滅運動誰かしてくれないかな。はい? 俺はしないよ、モブだもの。



「いいから、剣をとれ! メイリーと結婚だと! 許さん!! お前より、勇者! 勇者より、私のほうがよっぽど良いじゃないかっ!」


「きゃー、弱いものいじめ反対ぃ!」


問答無用とばかりに振り回される剣を紙一重で避ける。ふははははー、避けるのだけは得意なのさ!


「ちょっとシュロム、何、態々難癖を付けに来たの? あと、自分がメイリーに似合うとかそういう寝言はやめるといいよ!」


「寝言じゃない!」


うっわー、寝言じゃないんだって。この人も頭の螺子吹っ飛んだ?

メイリーから長年いじめてたせいで、嫌われてるの自覚ないとか重症すぎるんですけども。


「寝言じゃないなら、こっちこそ許しません! ドルークさんと一緒に断固阻止します! いじめするような子にはあげません!」


避ける一方では、後ろの扉にやがて追い込まれてしまうので、傘立てから傘を取り出す。「剣をとれ」とか言うなら、剣を先にこちらに渡して貰いたいものだ。


モブは喧嘩をふっ掛けたりしても売らないのということを、平穏世界を生きる生き物なのでそういう物騒なものは持たないということをぜひ理解していただきたい!


「いじめてない!」


「はい、ダウト! 自分のしたことが思い出せないなら、ドルークさんのメイリー子育て奮闘日記を読め! 事細かにお前の悪事が記載されてるわ!!」


メイリー子育て奮闘日記とは、ドルークさんがメイリーが生まれた日から現在に至るまでの成長日記が毎日どこで見てるんだってくらい事細かに書いてあるストーキング成長日記である。

一度、ジャミル家でかくれんぼをしていた際にあれを見た時の俺の衝撃ったらない! こんな物が世の中にあるのかっていう恐怖に、お前も堕とされてしまえ!!



○月×日

うちのメイリーがあまりにも可愛すぎて、今日も死にそうである。

しかし、うちの娘があまりにも可愛すぎるのかプレザントのところの上のジャリが泥団子を投げてきた。下の方が助けていたので今回は許そうと思う。堂々とは仕返しできないのが辛い。ち、爵位め。シャドくんが爵位を継ぐことになったら今までの仕返しを思いっきりしようと思う。


今回の仕返しとして、二人が投げ返していた泥団子にこっそり石を入れて置いた。急所に当たらなかったのが、やや不満。



ぬわああああんて、書いてあるこんな日記を読んだ時の俺の気持ちをどうしてくれる!

石が入ってたのを後から知らされた時の恐怖ったらないわ! 六歳の秋に重すぎる秘密を共有してしまったわ!


帰り際、「うちの子これからもよろしくね」って笑顔で言われた時読んだのがばれたのかどうなのかと三日間涙が止まらんかったわ!


あとで、あの発言が「メイリーを守る会の会員入会のお知らせ」だと知った時はもう、いろいろと何かが吹っ切れたわ(今じゃ名誉会員らしいよ)!!



「意味のわからないことをぬかすなっ!」


「ぬおっ!」


傘で剣を弾いたら、ざっくり切れたですけど、ひぃいいっ! あぶないよー、怖いよー。


「昨日、聞かされたこっちの身にもなれ!」


持ってても意味がないので、傘の柄を投げる。

おー、本気でやばくなってきた、後ろがもう二メートルぐらいしかないんですけども。


「こら、馬鹿息子ども玄関先で何してる!」


「はいはい! 帰って来たらシュロムが剣を持って突っかかって来ました! 俺は本しか持ってません!」


「シャド、お前!」


(嘘は付いてないもの、事実百パーセントだもの。傘投げたけど)


剣の攻防が止んだので、地味に距離をとる。


シュロムはバツが悪そうに目線を彷徨わせている。へへへ、いい気味だ。


「あーあ、母さんの傘をこんなにして、帰ってきた時に見つかった時は自分たちで言い訳しなさいよ」


「だって、さ。シュロム」


「な、お前がそれを持ったんだろうが!」


「切ったのは自分じゃないの」


我が家の母親様(我が家で最強は彼女である。逆らったら死亡フラグが立つのだ)は現在、メイリー母であるシレーナさんと執事を連れて美容の旅に出ている。世界で一番怖い存在である。勇者よりもガタブル度が上である。上記で説明したような日記を書くドレークさんをねじ伏せてシレーナさんと旅行に出る人物に関わってはいけないのだ。


傘の件は、よって無関係を貫く方針だ。


「それで、なんでこう言うことになったのか説明してごらん」


「私はメイリーがこんな取り柄もない愚図と一緒になるなど断固として反対する人間の一人として、堂々と決闘を挑んだだけです」


堂々? 堂々って「とれ」って言っておきながら、一人だけ剣を振りまわすことですか?


「メイリーちゃんのことはドレークと僕が決めたことで、お前に関係ないことじゃないか」


「関係なくないです! 私が駄目でなぜ、これなら良いのか理由を聞かせてください!」


何これ、めんどくさい。


シュロムってメイリーのこと嫌いじゃないの? あれなの、自分のお嫁さんより弟のお嫁さんが綺麗とか許せないの? どんだけ心狭いのよ、君。


「はいはい、そんなに政略結婚がお望みならお見合い写真をプレゼントしてあげます」


「父様、私はそういうことを言ってるんじゃありません!」


本当になんだ、こいつ。


「あのさー、親父居るからこの際ハッキリ言うけど別に俺、メイリーと結婚する気ないから」


良い機会だ、親から説得しよう。

メイリーにはぜひ、人の良さそうなイケメンくんと結婚して貰いたいと言う俺の意思を聞いて貰おう。


「ふざけるなよ、こっちが、こんなに……、人を馬鹿にするのもいい加減にしろっ!」


「は?」






わけがわからない。

背中は玄関の扉にぶつかっていて、顔が痛い。口の中には血の味がする。


「痛っ」


触れた頬には確かな痛み――俺、殴られた。

勇者といい、ルックといい。お前といい、どいつもこいつも本当に何だよ!


「愚図がっ!」


「わー」っと何かを叫びながらシュロムは家の外に飛び出していく。俺はこのままか、ふざけんな。


「なんだあれ、意味わからないんだけど」


「鈍感」


「ど、鈍感?」


ルックには鈍いって言われて、父親には鈍感って。


「僕は治さないよ、その痛みお前はもう少し味わったほうがよさそうだ」


「あっそ」


ケツの埃を叩いて、叩かれた拍子に落とした本を拾う。


「言っとくけど、訂正しないから。俺はメイリーとは結婚しない」


「理由は?」


「俺じゃ駄目だから」


俺はモブでそういうのはしない。


「却下」


「……却下されても、俺は明日、メイリーん家に行ってドルークさんにも言うから」


「もっと却下」


イラっ。


「言うったら言うから!」




ザー。




「シャド、お前人の気持ちもう少し考えなさい」


体に冷たい水滴が滴る。魔法で頭から水を掛けられたようだ。


「考えてないのはどっちだよ! ……って、ああああああああああああっ、俺の百ギニーの本がっ! まだ読んでないのに! アイロン! いや、ドライヤー!!」


親父は保留。

本が水浸しだ、早急に乾かさなくては!! くぅ、こう言う時魔法が思いっきり使えないのは辛いぜ!!


「話はまだ……」


「話より本! あぁ、文字がっ!」


声を無視して、自室に向かう。読んでないのに、本を駄目にされてたまるかっ! どうか、乾いてね、ハニー!!






**********






息子の相変わらずの本の虫っぷりに、スぺクター伯爵は酷い頭痛がした。

あの様子では、シャドはシュロムに殴られた頬の傷のことさえも忘れているだろう。


(せっかく大事な話をしてたのに……。好きなことの前ではどんな話も意味がないところがうちの奥さんそっくり)


普段は影の薄い息子に久々に、血の遺伝を感じた。

そうは言っても、今は昔よりも意識的に影を薄くしているような気もするが。


「強情なとこも本当にリーフそっくりで嫌になるなぁ」


玄関に置いてある呼び鈴を鳴らす。


「旦那様、ご用でしょうか?」


すぐに現れた初老のメイドに用を申しつける。


「シャドが頬に怪我しているから、魔法は使わず薬だけ出しなさい」


「かしこまりました」


老女は足早に消える。




(シュロムにも言い聞かせないとだし、いっそ、リーフが帰って来て二人に言い聞かせてくれれば楽なのに)


ガツンと一発、二人に言い聞かせてくれるに違いないのに、想う人物は生憎と不在だ。


「いつもこういうめんどくさい時は居ないんだから……」






その場に居ない妻を想う。



シャドが無駄なところで今回は男を見せました。が、兄貴の心を思いっきり勘違い。そして、嫁さんズ名前だけ登場!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ