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11.別名は本の虫




「いいところに来たのう、シャド坊」






「どもども。いい本、入ってます?」


ルックの部屋を飛び出してやって来たのは行きつけの本屋。

しかも、新書じゃなくて古本屋。この独特な臭いがモブには堪らんのですよ(決して、変な臭いフェチなんかじゃない)。


わけわからんことを言われた時は本を読むに限るってことで来たわけです。本を読んで集中して、あんな変なことを言われた事実なんてきれいさっぱり忘れちゃうのだ!




何を隠そう、実は俺にもメイリーのようにあだ名があるのだよ! 


ちゃらーん、その名も『本の虫』!


学生時代は学校他、近くの図書館の本を読み漁ったもんさ!


むろん、今でも暇があれば本を読むので現在進行形で本の虫でござい。弱そうなあだ名ですが、モブだからいいの。モブに強そうなあだ名はいらん(付いてたらモブじゃない)。




さて、この店の店主ですが、丸眼鏡の老人でラッヘンさんという。年老いてもふさふさな髪はやや後退しつつもオールバックができるほどで、かなり羨ましい。将来は俺もああなりたいものだ。


「丁度、お前さんの好きなハボン・メモリアの本が入ったところじゃ」


「ハボン・メモリア!?」


乙女の様にきゃーっと心の中で悲鳴を上げる。なんだと、俺のお気に入りの作家じゃないか!!

え、何、運命の出会い? 俺のために神さまが準備してくれたご褒美?


「なんてタイトル、なんてタイトル!?」


カウンターから身を乗り出して、ラッセルさんに尋ねる。早く教えてくださいよ!! もったいぶるなんて、酷いですよ!! ささ、どうぞ、どうぞ!


「そう慌てるでないわ、えっと、……ふんふん、シラサギの城じゃな」


テンションアゲアゲ!!

聞いたことないタイトル! 俺、その本持ってない!!


「買う、買う! いくら!?」


「百ギニーかのう」


「百っ!」


くそ、ぼりやがって!!


一冊の本の定価は高くても、印刷技術が発達した今じゃ五十ギニーがいいところだ。

たしかに、ハボンの作品はそれ以前のもので手書きだったり、印刷してあるものでも相当古いが……。


財布の中を慌てて覗く――あー、今日ルックなんかのために使わなければ、結局あのステーキしか食べれなかったし、帰り道では酒瓶も買わされたし!!


あいつに、今日だけで百五十ギニー近く使わせられた俺に、百ギニーだと!!


「あの、八十くらいに値下げを……」


「次男坊とは言え、伯爵家の人間がケチケチするもんじゃぁない。人間性を疑われるぞ」


ここで、まさかの貴族属性がアダとなった!!


(くそぅ……)


「ひょひょひょ」っという笑い声にもう一度財布の中を覗く。どう見ても、百ギニーぴったり。


今月の残りあと十日。給料日まで考えるとあと十五日。他になんも買えないし、できない。家に帰るのも徒歩になる。だが、欲しい。


(家に帰ったら一応へそくりとかはあるが……)



モブの特徴その五、モブ貯金を持っている。



説明しよう! モブ貯金とは、いつ不運フラグの被害に合うかわからないので貯めたへそくりのことだ!


「ほれ、さっさとせんか。明日には店に出すぞ」


「買う!!」


「まいど!」


あ、言わされた。






道端の噴水にどっしりと腰を下ろし、本を開く。

家に帰るまで待てません、なぜなら虫なので。こう言うのは貴族でも躾がいき届かなかったんですね、残念!


(なになに、今回はニンジャだと!)


俺がハボン・メモリアを好きな理由、独特な世界観。

ニホンと言う国でサムライだったりなんだりが戦ったりするのだ。初めてこんなことを思いついた人だ、胸がときめかないわけがない。


(ふんふん、なるほど、なるほど。フリーで働くニンジャが縁あって出会った姫のために奮闘するのかっ!)


実を言うと、モブだ、チートだという言葉もこの人の本から学んだ。


全ては、著者のあとがきに書いてあったことだ。


モブとは、ヒーローや、ヒロイン。サブキャラクターでもなんでもないものをさすのだ、と(ようは、名前もない一般大衆ってことだな)。チートとは、人間業ではないことができる卑怯な存在をさすらしい。


無論、俺にはシャド・スペクターという名前があるが、世界でみたら俺なんて貴族Bとか、街民Dとかにしかなれない背景のような、空気のような存在であって、絶対に特別になんてなれないので、モブなのだ。


メイリーのように魔法の才能があるわけでも、頭が良いわけでもない。

勇者のように魔王を倒すなんてそれこそ無理難題ってもんだ。



……。


二人ともチート寄りすぎて涙が出るわ!!




補足させていただきますと、あのシュロムにすら劣るんですよ? 地位も能力も、あいつどっちかって言うとチートよりで正直むかつく。毎回毎回会う度に弟に嫌味しか言わない兄貴ってどんなもんよ!


もう少し、俺に優しくしてくれればいいのに! きぃー!!


あれか、昔頭に接着剤付きのリボンを留めてハゲにしたことまだ根に持っているのか! 大人げないな、水に流せよ! 

それか、ハゲになってしばらくいろんな人に笑われたことを根に持っているのか!


シュロムったら、小さい男ね。やーね、そんなつまらないことをいつまでも愚痴愚痴と言うなんて、ぷんぷんしちゃうわ!


ついでに、ほんと、ルックは馬鹿なんじゃないだろうか! 下手しなくてもルック以下ですが、何か!?


に、も、関わらず俺が結婚だと? 大体、どこをどうとったらそうなるのだ!


説明求む!



(絶対に、メイリーには名も知らぬ人の良さそうなイケメンくんが似合うってのに!)



結婚式では、俺はメイリーの花嫁衣装を見ながらおいおいと泣きだし「こんな子ですがよろしくお願いします」とドルークさんと為を張るくらいうっとうしく花婿に絡む予定だ。


花束を投げられたら、きゃーきゃー言ってる乙女の傍に行き肩とかぶつかって「大丈夫ですか?」って心配するとかする運命的なフラグを手に入れる予定なのだ!




「……ほんと馬鹿だろ、俺が結婚するわけがないって」


気分がそがれたので本を閉じる。

お家に帰って読みましょう、躾のいき届いたボンボンだもの。


歩いて帰らないとだもの。




早めにこの湧いて出た結婚話は、白紙に戻してしまわなければならない。

こんな話はあっては駄目なのだ。


モブはつつましく、応援して良いところを見るのだ!


勇者を説得し、馬鹿両親ズも説得し、素敵な出会いをメイリーにあげるのだ! それでこそ、モブ! モブな俺の仕事なのだ!!


(絶対、メイリーに素敵な旦那さまを見つけてあげるのだ、ふふふのふー!)




モブは夢を見ないし、現実世界にしか生きない。


なぜなら、モブだから。





モブの世界はキラキラと煌めいても輝いてもいないのだ。人を輝かせるためにあるのだ!!



ハボン・メモリアは転生キャラ。死んでるのでまったく、物語には関わりませんが! あ、1ギニーは200円なので、本は2万円くらいってことで。

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