第十六話「パーティで…… 」
「これで……よしっと」
僕はタルトに最後のフルーツを飾り付け、お父様へのプレゼントを完成させる。
僕が作ったのは四葉のクローバー型のアーモンド入りのココアクッキーや、しっとりさっくりメープルクッキー、プリン生地の上にシュカの実をはじめたくさんのフルーツと生クリームを使った特製タルト。
「お父様、おどろくかな~~」
結構自信作である。ちょっと張り切り過ぎて作りすぎてしまったが。
「おいしそう…………じゅるり」
「…………はっ!?……だめだっ。これは……お父様へのプレゼント……、プレゼント……。たべちゃだめだ……これはプレゼント……、…………ふにゃっ?」
目の前のデザートについよだれを垂らし、食べたくなるのを必死に抑えてると、突然誰かに後ろから抱きつかれる。
「こんな所にいた。シーナちゃん~~?……わあぁ……おいしそう……。これどうしたの?」
「……お父様へのプレゼントにと思って……」
「シーナちゃんが作ったの?」
「うん」
「すごいっ!おいしそう……。ときどきどっか行って見つからないと思ったら厨房でこんなことしたのね」
「……はい。お父様を驚かしたくて……秘密にしてくれる?」
「うんわかった。……代わりにちょっと食べていい?」
「ん~~、クッキーならちょっと多く作りすぎたし……」
ぱくっ。
「何これっ!おいしいっ!」
ぱくっ。
ぱくっぱくっ。
ぱくっ、ぱくっぱくっ。
「ちょっ……だめだってっ!なくなっちゃうよ」
「ふーーふがぁっふほへぎふぅふあ?(えーーだってこれおいしいもから)」
「だ~~め」
「ふがぁふ……ごくん。ねーー……だめ?」
きらきらきらきら。
「うっ……」
まるで子犬のようにうるうるとねだるお母様。それはエリスと似ていて……、思わず抱きしまたくなるような…………てっ……だめだ。
危うくそのあまりの可愛さに陥落されるところだった。……ていうかあなた本当に僕の母親ですか…………。
「だめです。それにそろそろドレスに着替えないと……」
「う~~~、……けち」
「けちでいいですよ。お母様も早くドレスに着替えないと」
最近お母様がなんだかものすごく子供っぽく見える。いやもともとこういう人だったのか?
表情とか仕草とかエリスにそっくりだし……、親子似たということか……。
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落ち込む僕。
格好はあのふりふりのドレスである。
濃い青を基調としたドレス、手には肘まで隠れるロンググローブ、足にはハイヒールを身に付けた僕。ハイヒールはいまだに慣れず足がふらふらする。
メイド達に着替えを手伝ってもらったのが、着替え終わりメイド達の方へ向くと彼女達が固まってこっちを見ていたのだ。やっぱり僕には似合っていなかったのだろうか?
もうすぐパーティは始まり僕は出なければならないのに、途端に不安になってきた僕。パーティはたくさんのお父様の友人やらほかの貴族やらが集うのだ。その中一人だけ浮いてたらどうしよう……と落ち込む。
「だいじょうぶよ。きっとシーナちゃんはパーティの参加者のだれよりも綺麗で可愛いわよ。だから自信持って。私が保証するわ」
「う……うん。……でも……」
「ほら……鏡。こんなに可愛いでしょ。だから自信持ちなさい」
鏡に映るのは顔を真っ赤に染めた少女。
「わかった。がんばってみる」
「さあ、もう始まるわよ」
「これよりっソフィネット家当主、アルバート・ウィンドル・ソフィネットの誕生日パーティを開催いたしますっ」
執事がパーティの開催を宣言する。
「おめでとうございます、ソフィネット侯爵」
「私からもお祝い申しあげます」
「皆さん、ありがとうございます。どうか、今宵はお楽しみになってください」
大広間はたくさんのきらびかな恰好をした人々。テーブルの上にはたくさんの豪勢な料理やデザートが用意されている。皆お父様の周りに集まりお祝いをしたりお話をしている。
緊張する。
この中を僕は……、
そして……、
「ソフィネット公爵長女、シーナ・ウィンドル・ソフィネット様、ご入場!」
先ほどの執事が入場を告げると、僕は前へ進み出た。
「「「「……………………」」」」
ひょっとしてやっぱりどっか変だったのかな……。みんなこっちを見て固まっている。
「あ、あのーー」
「「「「…………っ」」」」
「これは…………なんとも」
「ぜひ、ダンスのお相手を……」
「これほどとは……」
今度は私を見てあちこちで話し声が。
皆こっちを見つめている。恥ずかしい。
「…………シーナ?」
……と、貴族達に混ざって見覚えがあるような金髪の少年を見つける。
「……ん?どこかで…………っ!? ……まさかっ……カっ……カルマっ?」
それは紛れもなく二週間前森で会い助けてもらい、1日だけだが共に過ごしたあの少年だった。
「シーナっ!」
「カルマ様っ」
「どうかしたのですか……?」
「カルマ様、ちょっとお待ちに……」
呆然と立ち尽くす僕のところに、カルマは彼の周りに集まっている貴族達の合間を抜け近寄ってくる。
「シーナっ。まさかこんなところで……」
やはりカルマだった。
このパーティは貴族しか招待されてないはず。なので最初はカルマはだれかの召使いかなんかなのだろうと思った。
……だが違った。問題はその格好だった。
「えっ……どうしてここに……?それにその格好……」
カルマは周りの貴族たちと同じ、身分の高い者しか着ることが許されないであろう装飾のたくさん施された上等なものを来ていたのである。
「シーナ……。あの時の服装から身分の高い者とは思ってたけど……、まさか君があのソフィネット家の長女だったとは…………」
「カっカルマ王子……。このようなパーティに……ようこそおいでになりました」
いつの間にか後ろに来ていたお母様がカルマにあいさつをする。
………………ん?
「…………王子?」