第十一話「迷子の二人」
カルマside:
困った。
どうやら僕たちは迷子になってしまったようだ。
シーナも森からどうやって出たらいいかわからないらしい。
もう日が傾き、辺りが暗くなってきている。
このままだと森から出れず、みんなに心配をかけてしまう。
「カルマはどうしてこの森にいたの?」
「ん……? あ~それは……、道に迷って……気付いたら森の中に……」
「……どうやったら道に迷って、こんな森深くまで来るの……?もしかして……かなりの方向音痴?」
「いや……、ちょっとこの辺来るの初めてで……土地勘なくて」
「それでもこれは……かなりひどいと思うよ……」
「うっ……」
そう……なのか、今まで一人で遠く行ったことなかったし……気付かなかった。
「でっ、これからどうする……? わたしはまだ索敵系の魔法は使えないし」
「そうだね……、もう暗くなり始めたしどこか安全な所見つけて、そこで一晩過ごすしかないか……。でもこの森の中で安全な所なんてあるのか……」
この森は魔物がうようよいるし、夜になれば夜行性の危険な魔物も多い。
「それなら私に任せて。結界魔法と魔除けの魔法をかけておけば大丈夫なはずよ」
「そうか……なら安心だな」
そうか……この子は魔法が使えるんだったな……。
「うん」
ぐぅーーーー。
シーナの方から何やら結構大きい音が響く。
音が大きいので何かと思ったが……、どうやらそれはお腹の音だったようだ。
「ふっ……ははははっ。ふふっ、シーナ……お腹空いたんだね。ほら……パン、肉もはさんであるぞ。少しなら食料持ってきたから」
「じゅるり。…………そっ、そんなことないもん。それにさっき拾ったツクの実があるから」
頬を赤くして必死に否定するシーナ。
このむくれる顔もなかなか可愛い。
「ふっふふっ、そうか……ならこれは僕が食べるな」
「あっ……、…………うーー」
しゅん……。
ものすごく欲しそうな目でこちらを見つめるシーナ。
「いらないんじゃなかったの?」
「いっいらない……から」
……これはちょっとおもしろいかも。
肉を挟んだパンを近付けると幸せそうなとろけたような顔になり、遠ざけるとしゅんと悲しそうな顔をする。まるで子犬みたいな反応するからとても可愛い……。
「そう。なら遠慮なく……あ~~ん」
「あ~~、……うぅ……おいしそう」
きらきらきらきら。
「……………………」
なんだかかわいそうなってきた。そろそろやるか……。
「やっぱりお腹いっぱいだから……よかったら食べる?」
「なら……もらってあげる……」
瞬間、にぱあと笑顔になり、これ以上の幸せはないといった表情でむしゃむしゃと食べ始めるシーナ。
「……………………」
結構大人っぽいところもあっておとなしい子だと思っていたのだが、こんな子供のような顔もするんだな……。
どきどきっ。
心臓がばくばくしてる。
僕はこの子のことが好きなのかもしれない。
「はむはむ……。……ん?カルマは食べないの?」
「あぁ……。君に全部あげたから」
「えっ……どうして?」
「……君がかわいかったから……つい」
「っ!?……ごほっ……ごほっ。なっ……何言ってるの」
照れる姿もかわいいなあ。
「ほら……、水」
僕は持っていた水のはいった水筒を渡す。
「ごくっごくっ……ぷはぁ……。……じゃあ、これ……食べて。まだ半分残ってるから」
そう言ってシーナが渡すのは、先ほど僕があげた肉入りパン。
しかもさっきまで彼女が咥えていたやつだ。
「いやっ……いいよ」
これ食べたら間接キスになっちゃうよ。もしかして気付いてないのかな?
「ほら、遠慮しない」
「だから……かっ……間接キス……だって」
「うっ……、そうならそうといってよ……。じゃあツクの実食べて」
リンゴみたいに真っ赤になるシーナ。
「わかったよ」
彼女からツクの実をもらう。
実はこれはこの辺の地域でしか取れない果実である。だからこれを食べるのは初めてである。
「うまい」
「そうでしょ。その甘くてそれでちょっと酸っぱくて、その絶妙なバランスがいいの」
「そうだね。これはなかなかうまい」
「あとね…………」
この後も僕たちはたわいない話をしながら歩き、一晩過ごすのにちょうどいいところがないか探したのだった。
見つけたのは小さな湖とその辺りにすこし開けたところ。
「きれい……」
「……湖だね。これなら身体の汚れを落とせるな。僕は魔物の返り血も少し浴びちゃったし」
早く入りたいな……。血が付いてるのはあまり気分はよくないしな。
「その前に……っと……、聖なる光よ……、魔を遠ざけ……、いかなる攻撃も通さぬ鉄壁の結界よ、アイギスっ!」
シーナがルーンを唱えると……、湖とその周辺を丸ごと包む結界らしきものが展開される。
「防御結界よ。ついでに魔除けの効果も付加してあるから絶対魔物を寄せ付けないし、通させもしない」
「すごい……、こんな高度な結界を広範囲にできるなんて」
ただの結界だけでなく改良して効果を加えるなんて……、おそらくかなり高度の魔法であると思われる。
「ん……、ありがと」
「それじゃあ……、カルマ……入ろうか」
ぬぎぬぎ、ぬぎぬぎっ。
そういうと彼女は当然服を脱ぎ始める。
「ちょっ……ちょっと待ってっ!僕がまだいるって」
脱ぎかけの服のすき間から彼女の絹のように白い素肌が覗いている。
「…………ん?なんで?」
「なんでって……僕は男の子だよ。はっ裸が見えちゃうじゃないか」
「……あっ……そうか。そうよね……。わたしは女の子よね」
「そっそれじゃ、先にいいよ。僕は後で……」
「ん~~。……わたしはあまり汚れてないし、魔法でなんとかするから。じゃあ……あっちにいるね」
「わっわかった」
シーナは衣服を直すと、さきほどの少し開けた方へ行った。
「ふ~~。びっくりした」
「じゃあ……さっさと洗い流すか」
湖で身体を洗い流し、明りのあるほうへ行くと、どこからか持ってきたのか毛布二枚をもったシーナがいた。
「あっおかえり」
「その毛布は……?」
「ひみつ。それよりはやく寝よ。もう結構……夜遅いし」
「あ……うん、わかった」
彼女から毛布を渡されるとそれをかけ、シーナの隣に寝転がる。
女の子の隣に寝るのはどきどきするな……。こんな可愛い子だったらなおさら……。
「おやすみ……、カルマ」
「あっう……うん、おやすみ」
すーーすーー。
すると聞こえてくる寝息。
……って、はやっ!
そんなに疲れてたのかな?そりゃ……女の子なんだしな……、こんな森で歩き回ったんだし。
横を見るとやすらかに眠るシーナのあどけない顔。
どきどきっ。
だめだっ……、こんな状況で眠れるかっ。
結局なかなか落ち着かず、眠るまでかなりの時間がかかったのだった。
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ありがとうございます。
こんな稚拙な文章ですが、これからもよろしくお願いします。