第六話「守るための力Ⅰ」
今回長めです。
あれから一カ月。
ちなみにこの世界では体感時間で一日30時間くらい。一カ月28日で一年12カ月で僕がいた世界とはちょっと違う。それで一年で336日,10080時間で前の世界の365日,8760時間より長いのである。
だが不思議なことに、この世界と記憶上の前の世界の同じ年齢ぐらいの人を比べるとなんら見た目に変わりがないように見える。なので僕の10歳の見た目は前の世界の10歳のものと同じくらいである。
で………それはそれとして僕は今、魔術書を読みふけている。
リフィアさんに貴族としての(または淑女としての……)礼儀、作法などを教わる傍ら空いた時間にはひたすら魔術書を読みふけり、すでに与えられた魔術書の9割ほどは暗記してしまっている。
魔術書は日本語ではなく、スクリット語という異世界の言葉なのだが、なぜか僕にはそれが読めてしまう(話し言葉も同様)。エリスの名前といい、言葉といい、本当に僕はシーナであるというのだろうか……?
なぜそこまでするのか、それはエリスや母さんや父さん大切な家族を守るためだ。
どうやら僕、シーナは三年前に魔法学校へ馬車で向かう途中賊に襲われ死んだことになっていたらしい。いっしょにいたエリスは侍女達の手によって命からがら逃げて助かったらしいが、僕はエリスを守るため賊の前に立ちはだかり致命傷を負い、後日捜索隊を出しても見つからず死んだと思われたらしい。
そのおかげエリスは助かったが、たくさんの侍女や護衛の騎士の犠牲を出してしまったらしい。
次また同じようなことがあったら今度はエリスは助からないかもしれない。だから僕はエリスやみんなを守るために魔法を勉強することを決心した。
通常魔法は12歳で魔法学校に入り、そこで初めて教わるものらしい。今僕は本来、体はだいたい13歳のはずなのだが、なぜかあの事件のままの姿、10歳程度の体なのである。
成長しきっていない未熟な身体、精神力では魔力が暴走する危険があるため、両親には止められたがエリスを守るための力が欲しいこと、今の僕の精神年齢は15歳であることを考慮して、なんとか許可を得ることができた。一ヶ月間礼儀、作法をきちんと学び、ものにすることを条件として。
そして今日、待ちに望んだその日である。
ようやく魔法を学ぶことができるのである。先生はなんと優秀な魔術師でもある母さん自身が教えてくれるとのこと。
ところが約束の時間になっても一向に来るようすがない。どうしたのだろうか?
直前になって反対されてしまうのだろうか……?
もし反対されてしまったらどうしよう……。
エリスを守るには…………。
するとこちらの広場に向かって息を切らしながら走って母親の姿が……。
「はあはあ……待った?……遅れてごめんね」
「どうしたのですか……?」
「アルがねえ……、直前になってやっぱり娘にはまだ早いとかもしもシーナに何かあったらどうするんだとか言って止めさせようとするから……」
ちなみにアルとは父親のアルバート・ウィンドル・ソフィネットのことである。
「えっ……」
「大丈夫よ。ちゃんと説得しといたから。あの人はああ見えて娘のことになるとかなりの心配性なんだから……」
「よかった……」
「僕は「わたしっ」魔法……」
「わたしでしょ。」
「うっ…………。本当にわたしじゃないとだめ?」
「家ではよくても貴族である以上、今後ほかの貴族と会うこともを出てきます。そのときに恥をかくことになるのはシーナちゃんなのよ」
「う……うん、……わかったよ……」
精神は男でもシーナは女の子なのである。だから僕は淑女としての礼儀作法をこなさなければならないのだ……。男なのに……。
「わっ……わたしは……これからまずどんな魔法を習うのでしょうか?わたしに魔法の資質はちゃんとあるのでしょうか……?魔術書はしっかりおぼえましたが……知識だけで魔法は扱えませんし……」
もしそうだったら、魔法は諦めて剣術を習うしかないか……。海斗だったときは祖父に剣道を師事してたんだし……。魔法よりも危ないからかなり反対されそうだけど……。
「心配しなくても大丈夫よきっと。あなたは名門ソフィネット家の血をひいてるのだから、少なくとも魔法を使える人の一般レベル以上はあるはずよ」
「なら……いいのですけど」
「そんなに心配なら早速、魔法資質を調べてみましょう」
「これは……?」
母親がだしたのは直径10センチほどの手に乗るほどの大きさの水晶。
「これは魔力量を数値化したり変換資質を計測するためのマジックアイテムよ」
「これはどうやってつかうのですか?」
「こうやって……手をかざして……魔力を込めるっ」
次々と浮かび上がる異界の文字。その示す内容は……。
術者:シルヴィア・ウィンドル・ソフィネット
魔力:6589、
変換資質:火…124、水…6370、土…235、風…340、光…5309、闇…78、
「100で常人レベル、500で実用レベル、5000で宮廷魔術師レベルよ」
「えっ……、ということは……」
「そう、私は元宮廷魔術師なのよ」
「すっすごいです。お母様」
「ちなみにお父様は私よりすごいのよ。元ランゴヴァルト王国近衛騎士団長で英雄だなんて言われてたのよあの人」
「お父様もお母様と凄すぎです…………。これで僕が低かったら…………」
「だいじょうぶよ。あなたは私たちの自慢の娘なんだから」
「お母様……」
「ほら、これに手をかざして」
「う、うん」
そして水晶に現れる僕のステータス。
術者:シーナ・ウィンドル・ソフィネット
魔力:9713
変換資質:火…448、水…9192、土…332、風…7230、光…7890、闇…135、
……………………。
……………………………………。
……………………………………………………。「「えっっ?」」
「こっこれは……、この年齢でこんなに……ありえない……一般レベルどころじゃないわ。宮廷魔術師でもこんなに魔力があるひとはわずか数名と言われてるわ……」
「それに魔力は大人になるにつれ増えるものなのよ……。この年でこれほどあるとなると将来……」
「なんか……すごい?」
「すごいどころじゃないわよ……。これは史上稀に見る逸材よ……」
「これならエリスを守れる……?」
「十分すぎるわよ……。守るどころか有り余るほどよ」
「よかっ……た。わたしにも資質が……。これでエリスを守れる」
「それじゃあ、封印を解きますから試してみましょう。ちゃんとルーンは覚えてますか?」
この魔法を使うのに必要となるブレスレットは生まれてすぐに作られるらしい。魔法学校に入学するそのときまで保管しとくものらしい。
そして万一、未熟な者が誤って使わないよう、ブレスレットには封印が施されている。ちなみに以前のシーナは入学する直前だったので、魔法はまだ使ってないらしい。
「はい。魔術書に書いてあるものはほぼすべて」
魔法を発動するには、まず第一にブレスレットに魔力を込め杖(実際は決まった形はないので自由に変えれる。今はデフォルトのままである)を発現させる。この杖に術式を保存、記録することによって術式の展開速度が速くなり、結果必要な唱えるルーン(魔力の込められた言葉)が少なく済むのである。
第二に、起こす現象を頭で浮かべながらルーンを唱える。このときのイメージが非常に重要でこれが明確なほど魔法は強くなるらしい。
このルーンはあくまで魔法を発動するに当たって補助的な役割をするのであって、熟練した魔術師となればルーンなしで発動することもできる。正しくイメージとルーンを唱え、必要な魔力を込めることによって術式が展開されるのである。
まず唱えるのは初級中の初級の風属性の魔法。
「風よ……、空気を揺るがせ……吹き飛ばせ……、ウインドっ!」
成功すればただの強い風が起きる。
だが実際起こったのは嵐のような暴風。
石、花壇のレンガ、広場にあったイス、目の前にあるあらゆるものが飛ばされ、木々が激しく揺れ、ついに根こそぎ飛んでってしまう。
「ひゃあぁ~~~~」
パリンッ。
何かが割れるような音。
「防御結界がっ……」
その音はこの屋敷とその周辺を覆っていた防御結界が破られた音であった。
「なっなんでっ」
荒れ狂う風。
ゴゴゴォォォーーーー。
それに伴う轟音。
10秒ほど経ってようやくあらゆるものを吹き飛ばし防御結界までも破った暴風は収まる。
たった10秒だったがそれは何十倍の長さに感じられた。
二人とも衣服は乱れ、髪はぼさぼさである。
「たった初級の魔法でこんなに……。結界まで破るなんて……」
「初級の魔法のはずだったのに……」
「どうやら魔法を本格的に学ぶ前に、魔力のコントロールをなんとかしないとね……」
「……はい……。すみません……」
「いったい何があったのですか?……まさか賊が侵入っ?」
駆けつけ慌てふためくたくさんのソフィネット家の私兵達。
「いいえ、違うのよ。この子の魔法で……」
「「「えっ?」」」
---続く---
今回ちょっと長くなってしまいました。
それに展開遅すぎるかも……。
書きたいことがたくさんあってどうしても文章が長くなってしまいます。
小説書いていると時間がかなり早く過ぎ去っていきます。
書き始めてから、次時計を見たら四時間経過してたり……。