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真稀的短編小説

クリスマス・ラブ

作者: 矢枝真稀

短編です。ちょっぴり早いクリスマスに、ちょっぴり心が温まる(?)恋愛小説です。

身体の芯から凍えそうな、冷たい、冷たい、風が触れる。

世間はもう、クリスマス一色だというのに、俺こと津島悠つしま・ゆうには、16年間という人生の中で、彼女と呼べる親しい女の子と一緒にクリスマスを過ごす予定はない。

早い話、彼女が出来た事がないのだ。

しかも今年は、両親は二人でディナー。五つ上の兄は大学のサークルで知り合った彼女と二人で過ごすというらしいし、三つ上の姉は、友達と旅行へ。


「なんだ、今年はみんな家にいないのか〜・・・・・あっ!?」


親父の言葉が詰まったのは、言うまでもない。忘れ去られて俺に気付いたからである。


「あっ、えーと・・・ゆ、悠は・・・」

「・・・なんにも予定はないです。あ、バイトがありました」

「そ、そう。いや、けして忘れてた訳ではないんだよ!?」


“嘘つけ”。と、言ってしまいたい衝動に駆られたのだが、既に“諦める”という事を脳内にインプットしている俺は、言葉を飲み込んだ。

父・母は、自他共に認めるおしどり夫婦で、その息子として生まれた兄は、明るくて陽気な爽やかイケメン。しかも秀才。

姉も兄同様に秀才で、俺から見ても美人だと思う。

だからこそ、成績も顔も性格も“地味”な俺が忘れられるというのは、仕方ない事だと思っている。

恨めしく思う事はない。今更ながらに思うのは、どうやら俺は、生まれてくる家を間違えたのだろうと・・・・・。

「そ、それじゃ俺がケーキを買って来てあげようっ!!」


そりゃどーも。


「わ、私も何かプレゼントを・・・」


お気遣いなく。


「いえ、バイトは遅くなると思いますので、存分に楽しんで来て下さい」

「「「「・・・」」」」


にっこり営業スマイル。やや皮肉も込めて、俺は自室に戻った。






◇◇◇◇◇






高校も冬休みに突入し、今日はクリスマス・イヴ。友達に誘われて、臨時のバイトをしている俺は、サンタの恰好でケーキ売り。


「そこのお父さん、家族のみんなでケーキを食べませんか〜?」


とか、


「恋人と二人で食べるサイズも揃えてますよ〜!」


とか、


「ちっちゃくて可愛いサイズのクリスマス・ケーキは如何ですか〜?」


とか。

必死になって売り子に徹する俺は、端から見れば、どのように写っているんだろうか?

毎年この二日だけは、仲良さそうに手を繋いで歩く恋人達を、羨ましく思ってしまう。


「すいません、この小さいケーキを一つ下さい!」


なーんて物思いに耽ってたら、凜と通る、綺麗な声のお客さん。


「はい、いらっしゃいませ!」

「あ、津島か!?」

「へ?・・・あっ!」


お客さんの言葉に、思わず間抜けな声を出した俺は、お客さんの顔を見て、再び間抜けに口を開けたまま・・・。

そのお客さんは、同じ高校の先輩。名前は、志岐京しき・みやこさん。

背が高く、吊り目でショートカットが似合う美人さんで、学校でもかなり評判の良い人物。

繋がりといえば、同じ美化委員というだけ。あまり親しい間柄でもないし、実は俺、この先輩が苦手でもある。

というのも、


「んだぁ?イヴの日にケーキ売りか?寂しいな〜」


ニヤニヤと小ばかにしたような笑みが、カンに障る。この先輩は、何かにつけて俺に絡んでくるのだ。


「・・・ケーキはスモールサイズをお一つでよろしいですか?」


敢えて無視したのは、いくら気にくわない先輩とはいえ、お客さんだから。

そりゃもう精一杯の自制心で、営業スマイルさ。


「あ、ああ・・・」


ほらね。言及してこない。さすがに人が気にしてる事を言われたら、ムカつくって分かるみたいだ。

手早くケーキをラッピングし、お金を受け取った俺はさっさと商品と釣銭を返却。プラス満面の営業スマイルを添えて・・・。


「ありがとうございました〜!」


こう言った。


「う、うん・・・じゃあ・・・」


他にも何か言いたげな先輩ではあったが、ケーキを受け取ると、トボトボと人ごみの中に紛れて消えた。






◇◇◇◇◇






昨日イヴは、そりゃもうケーキが売れた。

会社帰りの男性や、パート帰りらしき女性。手を繋いだ初々しいカップルに、お母さんの手を引いてやってきた、幼稚園児の男の子・・・。

様々なお客さんが、嬉しそうにケーキを買っていった。その光景がなんともほほえましく、なんだか自分も、嬉しくなった。

その翌日、即ち今日。クリスマスである。

だが、ケーキの売れ行きは昨日よりも著しく落ちていた。13時からのバイトで、すでに4時間が経過したのだが、売れたケーキはファミリーサイズが3個、カップルサイズが2個に、シングル(スモール)サイズが5個。

昨日の十分の一も売れていない。


「クリスマス・ケーキは如何ですか〜!!」


いくら声を張り上げようと、街を闊歩する人の波には届かない。まして、バイトを紹介してくれた友人は、今日は病欠。無論、病欠なんてのはバイトを休む為の建前であり、今頃は女の子の一人や二人なんかと、仲良く遊んでるんだろう。

愚痴を漏らしたくもなるが、それは女友達の一人もいない、俺のひがみ。

やめよう、虚しくなるだけだ・・・。


日もすっかり傾き、頬を刺すような寒風にも痛みを感じてきた。人通りは相変わらず多いが、皆、その寒さには勝てないのだろう・・・歩く速度は速く、見向きもされない。

そんな時だった。


「・・・よぉ」

「冷やかしなら帰って下さい・・・」


片手を挙げて、こっちに来る女性。それは昨日も来て、嫌味を吐いていった、あの先輩。

志岐京だ。


「ち、違う!ケ、ケーキを買いに来たんだ!!」「それはどーも〜!で、どれに致しましょうか?」


客なら仕方ない。営業スマイル全開だ。


「こ、このペアサイズを一つ!」

「畏まりました〜!少々お待ち下さい!!」


さすがに、昨日の忙しさ。ラッピングも、時間をかける事なくスマートにこなす。もちろん、手抜きなんかしていないし、実戦で鍛えられたおかげだ。


「お待たせしました!お会計千円になります!!」

「・・・はい」

「ちょうどですね、ありがとうございました〜!」


商品を渡し、笑顔で見送った・・・・・はずだったんだが、先輩はきびすを返すでもなく、立ち止まったまま。


「先輩?」

「・・・き、聞かないのか?」

「何をですか?」


モジモジと喋る先輩の意図をつかめず、なんとなく聞き返す俺。

というか、いつもの小ばかにしたような口調はなりを潜め、視線は右ヘ左へと、行ったり来たり。


「き、昨日はスモールサイズだろ?今日はペア・・・そ、その、わ、私が誰と食べるのかなぁとか」

「ああ。興味ないです」


なんだ、そんな事か。つーか、やっぱり先輩は先輩だ。彼女がいない俺に、自慢する算段だったらしい。

危うく騙されるところだった。


「・・・そ、そうだよな。なんか、悪い、ごめんな・・・」

「え?あ・・・」


先輩は力無く呟いて、昨日同様に人ごみの中へと消えていった。

先輩にしては珍しく、うなだれた姿が、小さな女の子のようにも感じた俺。

返す言葉に詰まり、その背中が見えなくなるまで、その場を動けずにいた。






◆◆◆◆◆






クリスマス当日という事もあってか、バイトは昨日よりも早く終わった。即日手渡しのバイト代プラス、余ったケーキを貰った俺だが、皮肉にもカップルサイズ。苦笑しつつ受け取って、店を後にした。

親は外食ディナーショー、兄も泊まり(多分)、姉は・・・多分いない。そんな感じだから、家に直帰する気も起きず、しばし街を散策。

ぶらぶらと、何処に寄るでもなく歩けば、人通りが激しいアーケードの中央に飾られた、大きなクリスマス・ツリーと様々なイルミネーション。

夜の闇に、鮮やかなイルミネーションは、さながら幻想的で、美しい。

そんなツリーの下、ベンチに座り込み、目を閉じて俯く女性の姿が、妙にアンバランスな感じで、視線を惹きつけた。


「先輩?」

「え?、あっ!!」


ほんの1時間とちょっと前に見たその姿。声かければ案の定、京先輩だった。


「何をしてんですか?」

「いや、あの、その・・・えっと・・・・・」


問い掛ければ、妙にしどろもどろな先輩。


「てか、彼氏とケーキ食べるんじゃないんですか?そのためにケーキ買ったんじゃ」

「・・・か・・ない」

「は?何て・・・」

「か、彼氏なんかいない!こ、このケーキだって、ホントは!ホントはぁ・・・」


語気を強めた先輩だったが、次第に声量は弱まり、最後はぼそぼそと呟いている。


「お、お前と・・・津島と一緒に食べたかったんだ・・・」

「え?な、なんで!?」


衝撃告白!!


「す、好きだからに決まってるだろ!昨日だって・・・ホントは、からかうつもりなんてなかった。バイトしてる津島に会えた時、すごく嬉しかった!けど、恥ずかしくて、いつもみたいにからかって・・・」

「・・・・・」

「無視されたのは、辛かった。今日、昨日のお詫びを言おうと思って来たけど、また素直になれなくて・・・だから、ペアサイズのケーキを買って、私には彼氏がいるって思わせて、少しでも興味とか嫉妬とか、して欲しかったんだ・・・・・“興味ない”って言われた時は、泣きたかった。ずっと津島に興味を持って欲しくて、からかったり、無茶言ったり、意地悪したり・・・気付けば、嫌われてたんだよな」


俯く先輩の足元、一粒の雫が落ちた。


「・・・ごめんな、もう、意地悪しないから・・」

「っ先輩!」

「え、あっ!?」


へへっと笑った先輩が、ベンチから立ち上がって、俺に背を向けて足を踏み出そうとした。

すごく寂しそうな、辛そうな・・・。自分でも、何をしていたのか、理解するまで数秒。


先輩の手を掴んだ俺は、先輩を引き寄せて、抱きしめていた。


「嘘・・・」

「・・・ごめんなさい、俺、先輩の気持ち知らなくて、冷たい態度とって・・・ずっと、嫌われてると思ってたから・・・」


愛情の裏返しってやつだったんだ。ずっと、遠目で傍観してた俺にとって、先輩は高嶺の花で、同じ美化委員になれたと知った時は、飛び上がらんばかりに喜んだ。

けど、日毎に無茶言われたり、嫌味や皮肉、からかわれたり。正直、嫌われてるんだとばかり・・・。


「・・・今なら私、言える・・・大好き、大好き!大好き!!」


大好きだと言う程に、先輩の口調が、強く、優しく、温かく・・・。

だから、応えよう。言葉にするのは簡単だから、今は少しの恥ずかしさと、精一杯の勇気を込めて。


「先輩、少しだけ目を閉じて・・・」

「・・・うん・・・」


先輩は、気付いたのだろうか?少しの躊躇いと、恥ずかしげな視線が、頬を赤く染めていく。

抱きしめていた腕を離して、その手を先輩の肩に添えた俺。

緊張してる。先輩の肩に添えた手が、微かに震えていた。

けど、でもさ・・・。

初めてで、やり方なんて知らない俺を待ってる先輩が、愛おしい。




そっと、唇に触れた。






◇◆◇◆◇






「なぁ・・・」


お互い手袋をしていたんだけど、片方ずつを外した俺と先輩。外気に晒された手を温めるのは、お互いの手の温もり。

恥ずかしくて、嬉しくて、話す言葉もぎこちない。

無言になって、ただ街を歩く俺と先輩だったが、先輩がふと、口を開く。


「い、一緒に、ケーキ・・・食べない・・か?」

「喜んで!」

「・・・えっと、な。い、いつか、ゆ、悠の家にも行きたい!だ、だから、悠も、わた、私の家に、き、来て欲し・・・い」

「家・・・ですか。今から俺ん家行きます?」


ホントに何気なかったんだ。両親はディナーショーとか行ってたし、兄はおそらく彼女の家。姉も多分いないから、下手な詮索もされないだろうって、思ったから。


「い、いの・・・か?」


先輩の顔には、喜びと戸惑い。けど、


「行き・・・たい」


嬉しそうに、恥ずかしそうに、先輩は頷いた。






◆◇◆◇◆






けど、まさかと思ったよ。ホントに・・・。


「お帰り、ゆ・・・」

「ただいま姉さん!・・・どうかしたの?」


家に帰れば、明かりが点いていた。まさかと思い、扉を開ければ案の定、姉の姿。しかし、姉は俺と先輩を交互に見た後、


「お父さーん!お母さーん!!ゆ、悠が!悠がーっ!!」

「ね、姉さん?」

「わ、私、何か気に障るような事をしたのか!?」


何を思ったのか、姉は大声でリビングへ。てか、お父さんもお母さんもいるのか。


「ま、まぁよくわからないけど、とりあえず上がって下さい」

「お、おじゃまします・・・」


先輩を・・・あ、今は先輩っていうより、彼女だから、京さんか。

京さんを連れ、リビングへと向かった俺と先輩の視界に広がるのは、そりゃ豪勢な料理の品々と、ポカンと口を開けたままの親、兄、そして慌てる姉。


「た、ただいま」

「は、初めまして!ゆ、悠くんと親しくさせてもらっている志岐京ですっ!」


あ、そこは彼女だと言って欲しかった・・・。


「ゆ、悠ー!まじか!?マジで彼女さんか?!」


そうですよ、兄さん。


「ジミメンの悠に、こんなに綺麗な彼女が・・・」


姉さん、失礼だよ。


「ようこそ〜!まあまあ、ぼーっと立ってないで、こっちに来て暖まって!」


母さん、普通だね。


「ハハハ!悠だって彼女くらいいるだろう!ジミメンは言い過ぎだぞ!!」


その割には、テーブルクロスにワインがボタボタ零れてますよ、父さん。





ともあれ、すぐに俺ん家の家族になじめた京さん。その姿を見て、もう一度、嬉しさが込み上げて来た俺。窓の外には・・・。


「あ、雪・・・」






ホワイトクリスマス・・・

ひっさびさに投稿しました。久しぶりに文章を書く(打つ)と、けっこうきつい・・・。

まぁ内容は王道ですが、こんな事があってもいいな〜!って感じで書きました。読んで下さった皆さん、ありがとう〜!!

次作も、頑張ります!

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