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笑って許す……わけねーだろー 前座のモブ令嬢が卒業パーティの主役をさらってしまった件  作者: チョコころね


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1.モブ令嬢と卒業パーティ


 学園の卒業パーティで、王太子殿下が何やら画策しているのは、皆分かっていた。

 会場へは婚約者のグリーグ公爵令嬢をエスコートせず、平民出身の『聖女』と連れ立って来たのだからあからさまである。

 私――エレイン・デュフィも在学中からその気配を感じ取っていたが、態度を決めかねていた。


 シルヴェーヌ・グリーグ公爵令嬢は才色兼備。

 国一番の淑女として令嬢達の頂点に立っているだけではなく、妃教育や王太子殿下の婚約者としての公務も忙しいのに、成績も上位から落ちたことはなかった。


(……だが、王太子が他の女(せいじょ)と一緒になるには、彼女の価値を貶めるしかない)


 本日、()()()()()主張が王太子殿下から繰り広げられるのは間違いないだろう。


 学生も教師も、主張が嘘だとは分かっても、曲がりなりにも相手は王族、しかも次の王様だ。

 うかつに(たしな)めて、恨まれれば未来が怖い。


 ちなみに王太子は国王夫妻の一人っ子。

 いかに愚かな真似をしようとも、替えの利かない存在だった。

 ゆえに周囲が増長させ、本人が慢心しているともいえる。


(まぁ元々の資質かもしれないけどね~)


 エレインも、顔しか取り柄の見い出せない王太子を嫌っていたが、婚約者のシルヴェーヌ嬢の王太子を見る目もとっくに冷めているように思う。


『だったら破談になった方が良いのではないか?』と、(イチ)令嬢として思うのと、

『この国の将来の為には、優秀なシルヴェーヌ様を王妃にするしかないのではないか?』との、臣下としても思いがせめぎ合っている。


 そしてエレインにはもう一つ問題があって、王太子と聖女を囲んでいる貴公子達の中に、彼女の婚約者が交じっているのである。


 エレインの婚約者は国王陛下の右腕、宰相を務めているケリー公爵の長男のロドニーだ。

 王太子と公爵令嬢や、他の貴族の子弟達と同じようにエレインとロドニーも10歳前後で婚約した。

 いわばガチガチの政略結婚勢である。


 以来、特別に甘い関係ではなかったが、それなりにうまくやれていたとエレインは思う。

 16歳で入学した学園に、市井(しせい)で見つかったという『聖女』様が、無試験で編入してくるまでは。


 聖女とは祈りの力で、他者の怪我や病気を治す事が出来る乙女の事だ。


 国内では大体50年に一人位の割合で、それらしき力を持つ少女が見つかる。

 この度見つかった少女は、かすり傷を治せる程度だという。


 それでも『聖なる力』の発現である。

 神殿は鳴り物入りで彼女を迎え、この先、貴族と交流もあるだろう彼女に、行儀作法を学ばせるためと称して学園に押し込んだ。


 だが彼女は、礼儀作法が壊滅的なまま学ぶこともせず、ただただ毎日、周囲の貴族子息に笑顔を振りまいていた。

 貴族の子女は、どのような場においても冷静でいられるように、感情を抑制する事を幼い時から教えられる。

 己に向けられる、情感溢れる表情の物珍しさから気を惹かれ、虜になる令息達が出たのは、仕方のない事だったかもしれない。


 ただ彼らは、彼女が笑って手を振るのが『男子生徒』、しかも王太子とその側近だけだと言う事には気づかなかったようだ。


(神殿では一体どういう教育をされていたのでしょうね……)


 過去、『聖女』が王家に嫁ぐ事はあったらしい。

 ただ側妃どまりで正妃になった事はない。それでも、その後見である神殿への見返りは充分な物があっただろう。


 神殿の企みはどうあれ、容姿も十人並み、どこが優れている訳でもない『聖女』に、男子生徒が、己の婚約者が、惹かれていくのを見ている内に、エレインの心もどんどん冷え込んでいった。


 分かっている、学生の時だけの事だと。

 今だけ甘酸っぱい想いを味わっていたいだけだと。

 聖女が王太子のものになるなら、それ以上進める訳はないのだ。


 その証拠にロドニーは、エレインに何の弁解もしなかった。


 それまでと同じように、婚約者としての義務、月に一度のお茶会も行っていた。

 ロドニーはまるで何もなかったかのように、あたかも日頃から婚約者として親しくしているように、ふるまっていた。


(学園で顔を合わせる機会があっても、嫌そうに目をそらされるのにね……)


 互いの両親の前で、卒業後から婚儀までの計画さえ、微笑みを浮かべて進めていた。

 結婚はエレイン(おまえ)とするのだと。

 学生の内の『聖女との戯れ(あそび)』には目をつむれと。

 

 歴史ある公爵家の子弟。金茶の髪に、蒼い瞳――容姿端麗で成績も優秀。

 ロドニーは、誰もが羨む夫になるのかもしれない。

 父親のあとを継いで宰相になって……時折、王太子と結婚した聖女と親しく言葉を交わすのだろう……



 そんなの



「……やってられないわ」


 私は、幼い時()()()()から流れていた女性ボーカルの、冷たい声を再現するように小さくつぶやいて、手にしていた扇をパチンと閉じた。

 そして、人々のざわめきの中、王太子が何やら言い出したステージへ――自分の婚約者の元へ静かに歩き出した。


「……皆の者、静粛に! 私はこれから今の婚約者である……シ」

「お待ちください」


 セリフを遮られた王太子殿下から、不機嫌そうに睨まれたが私は気にしなかった。

 心を決めた以上、もはや怖いものなどなにもない。


「デュフィ侯爵令嬢か。今取込み中なのだが……」


 私は制服のスカートをつまみ、(うやうや)しく頭を下げる。


「はい。国の若き獅子たる王太子殿下にあらせられては、これから貴重なお言葉を私共に発せられるおつもりではないかと、僭越ながら愚考いたします……ですがその前に少しだけ、私に時間をいただけませんか? 御身の重大な発表の前の露払いとお思いください」


 この国の王太子殿下は、(哀しい事に)へりくだった人間に弱い。

 大袈裟な口上は彼の虚栄心を満足させたらしく、案の定渋々ながらも身を引いてくれた。


「……さっさと済ますがいい」

「有り難き幸せに存じます」


 私は胸に手を当て殿下に軽く頭を下げると、己の婚約者の前に向き直った。


「ロドニー・ケリー公爵子息」

「何の真似だエレイン。殿下のお言葉遮るなんて……!」


 気にしているのは殿下(あるじ)のお言葉でなく、聖女(あるじの女)の視線のようですが。


「すぐ終わります、ロドニー様。私との婚約解消に同意していただければ」


 ざわっと会場が沸いたのが分かる。

 ロドニー様は(腹が立つことに)何が何だか分からないという顔をしていた。


「……はあ? 何をいきなり」

「いきなりではございません。この2年の間、私は婚約者として遇されていませんでしたので」

「そんな事はないだろう、きちんと会っていたし、エスコートも……」

「同じ学園に通っているというのに、会っていたのが月に一度の互いの家による茶会のみ。社交界へのエスコートは馬車で迎えに来て入り口に入るまで、を『きちんと』とおっしゃいますか?」


 ちなみに入り口を通った後、彼は『聖女』に直行している。


(まぁ大抵、王太子殿下も一緒だったから、主人の元に行くのは当然だとでも思っていたのかもね)


 貴族でない聖女(かのじょ)は、常に『殿下の招待』という体で参加していた。


 最初は何か言い訳もされた気がするが、2度3度となる内に、それすらも無くなった。

 今の今まで、そんな扱いに文句の一つも言わず、ただ微笑んでいただけの婚約者を甘く見ていたというか……


(気にも留めていなかったのでしょうね)


 ロドニー様はお言葉に詰まったご様子だ。


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