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勘とデータとダウンバースト

ピコン……。

雨量計がゆっくりと、回数をまた一度カウントする。

あれから2日。

今日が家に帰らないといけない、約束の日だった。


「……今日の昼ごはん、どうしよっか」


仰向けに寝転がっていた澪が、そんなことを言う。


「……買ってくるかぁ」


蒼真も同様に寝転がっていたが、起き上がり、外へ出る支度をする。


「陽生はどうする?」


陽生は座ったままだった。

ボーっと、観測データを眺めている。


「あ、あぁ。悪い。お願いしていいか?」


「はいはい、いつものね」


この島の数少ない食堂では、お弁当販売もしてくれるおばあちゃんがいた。

このお泊まり会、もとい家出では、そのおばあちゃんに朝、昼、夕、全ての弁当を任せていた。


「ま、栄養が偏ったりしてなさそうだし、別にいいけどね」


その様子を陽生同様、ボーっと見ていた真琴は、栄養の偏った弁当を口に運ぶ。

どうやら、報告書とかも一段落して、明日には帰ってこれるようだ。


「それじゃ、行ってくるねー」


「留守番は任せたよー」


「うん、頼んだー」


パタン。

その音が聞こえると、陽生は再びモニターを見つめる。


「うーん……いやまぁ、悔しかったのは分かるよ?

でも……ねぇ……」


同じ苦しみを何度も経験してきた真琴は、励ましの言葉が見つからず、言葉を詰まらせる。


「まこちゃん……まこちゃんも、同じようなこと、何度も経験してきたんだよな」


「んー……いや、うん、まぁそうだね。

なるべくキラキラした気象予報士の様子を見せたかったけど、仕方ないね。

そうだよ。何度も何度も天気の急変を言い当てて、何度も何度も無視されてきた。

未来を見る仕事って言ったけど、みんな、あたしの見る未来は信じられないんだ」


今まで、カッコいい道具を見てきた。

今まで、天気を言い当てるカッコいい真琴を見てきた。

でも、現実はそんなカッコいいだけじゃないらしい。


「でも、あたしはその度に何度も立ち上がって、今度こそは!って思ってきたんだ。

いつかは伝わるはずだって。

そのための工夫もたくさんしてきた。

図にしたり、学校で講義したり、人嫌いなあたしが、人のために努力したんだ」


その言葉には、苦悩が多分に含まれていることを陽生は理解する。

陽生の目には、涙が溜まっていた。


「オレ、たぶんまこちゃんと出会ってなかったら、漁師さんと同じ意見だった。

絶対安全だって。

天気の急変なんて起こるはずもないって」


「そうだね。

だったら、あたしは陽生くんを救ったわけだ。

誇らしいよ」


どうすれば良かったのだろうか。

その言葉が、陽生の頭の中でこだました。


「陽生!まこちゃん!」


バタン!と大きな音を立てながら、少し雨に濡れた澪と蒼真が駆け込んできた。

泣いていたなんて見せられない陽生は、ぐしぐしっと涙を拭った。


「どうしたのかな?2人とも」


陽生をチラリと見て、言おうか言うまいか逡巡する。

そしてお互いに顔を見合わせ、頷いた。


「積乱雲だよ、前より、うんと大きいの」




澪と蒼真は傘を差しながら、3人分の弁当を買って、気象観測所へと戻る途中だった。


「陽生、大丈夫かしらね」


「まぁ、ゆっくり考えてもらうために、1人……いや、まこちゃんと2人にしたんだろ?」


あの表情を見ていた澪と蒼真はさすがに心配していた。

大人に信じてもらえなかったのは2人にとっても大きな心の傷となっていた。

でも、陽生のはそれ以上だった。


「……雨、続くわね」


「そうだね。今上を流れてるのは、高積雲かな」


先日、真琴から教わった雨雲がこの上にあると思うと、何やら不思議な感じがした。


「あ、でも、あそこに高積雲の切れ目があるわね」


「え、どこどこ?……あぁ、あれか、雲の切れ目からも雲が見えたから、気づかなかった……」


途端、恐ろしいものを見つけたと気づく。

高積雲の切れ目から、鋭く広がるかなとこ雲の輪郭が顔を出したのだ。

平らな、厚みの少ない高積雲とはまるで違う。

空の上に、とんでもない怪物がいるかのようだった。


「あ、あそこ……」


指差した先はこの島の沖の方。

この辺りとはまるで違う。

黒く塗りつぶした、そんな表現が正しいと思うような非常に暗い、雲の底。

直感的に、これはやばいと2人は理解した。

今まで吹いたり、止んだりだった風は断続的に吹くようになっていた。


「し、知らせなきゃ!」


途中、傘が抵抗になるからと畳んで、全速力で気象観測所に駆け込んだ。





真琴はチラリと陽生を見る。


「……どうする?陽生くん」


「……やるよ。観測するんだ」


陽生は決意して、さっきとはまた違う、真剣な表情で画面に向き合った。


よくよく確認すると気圧が下がっている。

すごく細かい変化で、異常は無いとも思うレベルだ。

湿度も上がっている。


「間違いないね。積乱雲の下でよく見られる特徴だ。

ただ、この程度ならまだ大丈夫……。

蒼真くん、ビデオ通話にして、その積乱雲見せて!」


蒼真は携帯を手に、外へ出た。


「うわ、まじか。

あたしがいない間に、そんな連続的に起こるかな、普通」


真琴は自身の運のなさを嘆いた。


「これは、このままいけば、またガストがくる。

……いや、今回はそれだけじゃ済まないかも……」


真琴は真剣な表情で、頭を抱える。


「来るかもしれない。

ダウンバーストが」


真琴がこの前言っていた。

ダウンバーストにならなくて良かったと。

そのダウンバーストが目の前まで迫ってきている可能性があるのだ。


「いい?ダウンバーストっていうのはガストの比じゃない。

過去には船の転覆だけじゃなくて、ビルのガラスが吹き飛んだり、飛行機がバウンド事故を起こしたりもした危険なものだ。

いい?あたしが建物の中へ入れって言ったら、すぐ近場の頑丈な建物に入るんだ。

約束してくれるね」


こくりと、力強く3人は頷いた。


「私、おじいちゃんに知らせて、船を戻すよう伝えてくる!」


「僕は住民に避難を促すよ!……島役場の放送室まで行けば……!」


各々が出来ることを探す。


「陽生くんは、どうする?」


「オレは……」


ガストの時、必死に調べて、予測して、信じてもらえなかった。

積乱雲の時も、真琴の説得に漁師は耳を貸さなかった。

陽生は直感的にこう答えた。


「オレはここで観測する。そして予測するんだ。今度こそ伝わるように」


感覚でも、勘でもない。

ちゃんと未来を読むんだ。


「そうだね。それがいい」


真琴はそう言って、微笑んだ。

そこからテキパキと指示を出す。

澪には蒼真がケータイを貸して、真琴や陽生といつでも連絡を取れるようにして、真っ先に向かうよう伝えた。


「それじゃ、始めようか。

小さな観測隊諸君」


「はい!」


力強く、返事をした。




「それじゃ、一度外の雲の様子を見ておこうか」


陽生は観測所の備え付けの設備で真琴と連絡を取る。

陽生は外の様子を窓から見る。


「なんか、前までとは全然違う。

積乱雲がこっちな近づいてきていて、空全体が暗いんだ。

遠くの方には……なんだろ、なんか線?カーテン?みたいなのが見える」


「うん、さすがにまずいかもだね。

いいかい?あれは雨の筋だ。

あれが近づいてきてるのは、明らかにやばい証拠だよ」


真琴がより一層、真剣な表情になる。


「まこちゃん!こっちもついたよ!」


澪の声がした。


「おっけー、それじゃあ交渉を始めようか。ちゃんと陽生くんの観測を聞いておいてね」


「うん!ここまでも全部聞いてる!」


偉いぞー、と真琴が澪を優しく褒める。


「さぁ、陽生くん。

気温や気圧に変化はあるかい?」


「えっと……気温が……なにこれ!10度も低下してる!

気圧も8ヘクトパスカル落ちてる!」


「うわ、ヤバいねこれ。

全国ニュースにもなるかも」


あたしも中々見ないよ、と真琴は少し震えた。


「聞いてたね、澪ちゃん。蒼真くん。

交渉のコツは、前回どうだったか、を意識させることだ。

あと、さっきの数字もちゃんと使うんだよ」


「……うん!」


陽生はそのまま観測を続けている。

蒼真も確保したデータを胸に、島役場へと駆け出した。






「おじいちゃん!」


さすがに異常を感じたのか、ガストの時より人が集まっていた。

みんな口々に、この程度の雨……と騒いでいる。

澪は自分の声が届くか、少し、不安になった。


「どうした?澪。

ちょっとおじいちゃん今真剣だから……」


その言葉を聞いて、陽生と蒼真、それに真琴のことを思い出す。

途端、澪にスイッチが入った。


「私達だって真剣だよ!」


「み、澪?」


普段聞けないような声を聞いて、澪の祖父は一瞬硬直する。


「今からダウンバーストが来るかもしれない。

これは前のガストをすごく強くしたものなの。

ガストの時も、転覆した船、多かったでしょ?

今回はそれの比にならないほど、強い風が吹くの!」


漁師が1人、また1人と「またかよ……」と落胆の声を漏らす。

澪は少し怖くなったが、拳を握りしめ、続ける。


「おじいちゃんも老眼でも分かるでしょ!?

あの大きな積乱雲!

前見えた積乱雲よりさらに大きいんだよ!」


指差した積乱雲は、勢いそのままに、こちらに向かって接近しているのが見えた。


「だから、今すぐ船を戻して!

それに、船を今日はもう出さないで!」


澪の祖父は澪の方へ、ゆっくりと歩み寄る。

澪の前に立つと、ポンと、頭に手を添える。


「澪……」


「おじいちゃん……」


伝わった。ようやく。ガストの時じゃ出来なかったことを。


「ごっこ遊びをしてるんじゃないんだよ。

じいちゃん達は」


ダメだ。

何も分かってない。

ごっこ遊びなんて、私達もしていない。

澪の中で、何かが切れた。


「私達も、ごっこ遊びをしていない!」


パシッと祖父の手をはたいた。

澪はキッと漁師全員の方を見た。

対照的に祖父は自分の手を見て、あわあわしていた。


「軽度のダウンバーストが発生する場合、気温は5度程度の低下、気圧は2ヘクトパスカル程度低下する!

それでも小型船舶の転覆だけじゃなく、窓ガラスやトタン屋根の破損、樹木が幹ごと倒れたりもする!

中規模のダウンバーストでは、気温は8度ほど低下、気圧も5ヘクトパスカル程度低下する!

被害もより大きくなるし、被害範囲もさらに拡大する!

さっき調べて来たデータでは、今回気温は10度程度、気圧は8ヘクトパスカルまで低下してるって言ってた!

明らかに異常なんだよ!

気づいてよ!」


その声は、説明より、慟哭に近かった。

澪はプレッシャーの中、大量の涙を堪えている。


「でもよ、嬢ちゃん。

俺達は今日の晩御飯を食べるためにも、海に出なきゃいけねぇんだよ」


1人の漁師が優しく、澪に近づく。


「分かってる!

私もおじいちゃんがどんな仕事してるかって、昔から見てるから!

でも!もし事故に遭ったりしたら、今後一切の晩御飯が無くなるんだよ!?」


漁師はたじろぐ。

普段大人しい澪がいきなり騒ぎ出すものだから、人が次から次へと集まってくる。


「今日の晩御飯は!

本当に自分の命より大事なの!?」


静まり返った。

一瞬のようにも、数時間のようにも感じた。

静寂を切り裂いたのは澪の祖父だった。


「孫の頼みだ!

孫がここまで真剣に考えたんだ!

もう今日は船を出さん!

もし帰ってこない船がいるようなら、今後一切の漁を禁ずる!

いいな!」


おおお!!!と大きな声が上がった。


「いい説得だったよ」


ポケットからポツリとそんな言葉が聞こえてきた。

澪はペタッと、その場で力なくしゃがみ込んだ。





蒼真は走っていた。


危険も、被害も、データも、全て抱えたまま、島役場まで。

他2人とは違い、真琴から直接アドバイスを受けることが出来ない蒼真は不安に駆られていた。


「え?だうんばあすと?……なんですかそれ」


蒼真が相談に来て、開口一番それだった。

職員は後ろを振り返り、知ってる?と聞く。

聞かれた職員は首を横に振る。


「ですから、ダウンバーストはとても危険で、過去には飛行機の事故にも……」


「あー、ごめんね。僕らはさ、そうした漫画の話は全然でね。

できればよそで……」


ここも漁港と同じだった。

調べようともせず、子供の妄言だと処理をする。

何か、何かしないと。


「では、放送室を!

放送室を貸していただけませんか」


「いやいや、あれはおもちゃじゃないんだよ。

これ以上邪魔するようなら親御さんを……」


「邪魔しているんじゃありません!」


話は永遠平行線だった。


「ごめんね、おじちゃん達忙しくてさ。

今まで何度も台風だって来たんだから、今回も大丈夫だって」


明らかな厄介払いをされている。


「雲がどうの、風がどうの言うけどさ。

そんな感覚的な話しされてもね」


「では……」


と、持ってきた紙束を机の上に並べる。


「これはさっき気象観測所で取ってきた気圧、気温、湿度、風向、風速のデータです」


「は、はぁ」


職員は眼鏡を手に取る。

どこを見れば良いのか分からず、目が泳いでいるのが分かった。

蒼真は職員が持っていた資料を、蒼真が指させるように机の上に戻した。


「まずはここ。

気圧がこの5分で6ヘクトパスカルも低下してます」


「う、うん、なるほど?」


職員は資料と、蒼真の顔とを交互に見ていた。

大人でも知らない、そんな知識が子どもからポンポン出てくることに驚きを隠せないでいた。


「次にこれ、気温です。

気温もこの5分で5度の低下が確認できます。

風速計も最大瞬間風速は24m/s。

これは気象庁の基準で、即時避難を呼びかけるレベルです。

しかもその方向は横風ではなく真下から吹いているんです」


聞いていた職員は「ちょ、ちょっと待ってくれ」と言って、より真剣に資料を手に取り、見始めた。

分かってはいなさそうだが、それでも必死に理解しようと努めていることは分かった。

そこまで言うと、ようやく後ろの職員が、カタカタとキーボードを叩き始めた。

蒼真はトドメとばかりにダウンバーストを改めて説明する。


「ダウンバーストは、見えない風が降ってくるんです。

その被害は先ほど説明した通り、小規模なものでも建物の大きな損害は免れません」


ちょんちょん、と後ろの職員が、話していた職員の肩を叩く。

職員は目を見開いた。


「これが……くると……?」


「はい、間違いなく。

いえ、違いますね」


もう来ているんです。





バタン!

観測所の扉が勢いよく開いた。


「ちょっと!外すごいことになってるわよ!」


「いやぁ、思いのほか凄いことになっちゃったね」


観測所からも、外の様子は聞こえてきた。

鳴り止まない船の汽笛、警笛。

漁港からも警鐘が鳴り止まない。

島役場から発信されるアナウンスからは、慣れない職員が必死に不要不急の外出を控えるよう伝えている。


「さ、キミたちも中に入って。

そろそろ雨も強くなるし、たぶん本格的に、来るよ」


陽生は少し外の様子が気になった。

ダウンバーストってどんなものだろうか。

そんなちょっとした好奇心。

ここまで大袈裟にして、外したりはしないだろうか、

そんな大きな不安。

色んな気持ちを抱えて、すぐ情報を得られるよう澪からケータイを受け取り、外へ出た。

雨が相変わらず、ポツリと頬を撫でた。


「静かだ……」


風がない。

音がない。

直感的に感じた。

外した。

ここまで巻き込んで。

これだけの事をして。

オレは、きっと……。


「今すぐそこを離れて!」


ケータイから、凄い怒声が聞こえた。

その声に驚いて観測所の方を見る。


「陽生!はやく!気圧計が一気に下がってる!」


澪が必死の形相で訴える。

慌てて観測所に駆け込む。


ゴオオオッッ!


体がのけぞる。

バランスを崩しながらも、観測所に入り、バタン!と慌ててドアを閉めた。

いつか言っていた空気の重さを、身を持って感じた。


「空気って、こんなに重いんだ……」


窓から外を見る。

葉っぱや石ころだけじゃない。

枝や看板、屋根が宙を舞っていた。

真琴も、ビデオ通話にした蒼真のケータイから外を見る。

そこには凄惨な光景が広がっていた。


突如観測所が暗くなる。

その数秒後、再び電気がつく。


「停電が起きたみたいだね。

非常電源を備えておいて良かったよ。

ダウンバーストっていうのは……いや、あたしたちが観測する気象っていうのは、こんな風に、色んなものを壊していく。

ううん、ものだけじゃない」


動物も植物も、人も。


「キミたちはこの島を救ったんだ。

だからさ、もっと誇っていいんだよ」


陽生達には、自分達の功績とか、観測したことへの誇りとか、そうしたものが無いわけでは無かった。

しかし、目の前の、約20分にも及ぶ破壊活動から目が離せないでいた。




「ダウンバーストには2種類あるんだ」


翌日、なんとか戻ってきた真琴はただいまも言わずに解説を始めた。

陽生達を見るなり、そわそわしていたから、語らずには居られなかった、という顔だ。


「マイクロバーストと、マクロバーストって言ってね、この二つは範囲や大きさ、時間や被害が大きく変わってくる」


結局あの後、陽生達は気象観測所で泊まっていたことがバレて怒られた。

そして、ダウンバーストの被害を抑えたことも褒められた。

けどやっぱり、危険なことはしないでと怒られた。


「マイクロバーストはとても狭い範囲で起こるものでね、時間としては5分とかで収まるんだ。

それでもダウンバーストである事には間違いない。

大きな被害を残して去っていく」


漁師の人たちは、それから少し真琴の言うことを聞き始めた。

何かあったのか聞いても、恥ずかしそうに笑うだけだった。


「それじゃ、マクロバーストはより広範囲ってこと?

それなら被害の密度は小さいし、屋根が飛んだりは無いってことか!」


「いいや、その逆だ。

マクロバーストはマイクロバーストより強いダウンバーストだ。

より広範囲に、より長時間、より大きな被害を与えていく」


島役場には新たに、災害対策室が設けられた。

気象とかに詳しい人を新たに雇うらしい。

島役場の職員が最近、気象の本を読み始めたとも聞いた。


「今回来たのは、そのマクロバーストだった。

知ってる?東京でもそのニュース流れたんだよ?」


「と、東京で!?」


キラキラした目をして、真琴を見つめる。

このダウンバーストは全国的に話題となった。

もちろん、その規模や被害も目立っていた。

しかしそれ以上に、被害者の少なさに誰もが注目した。


「そういえば、東京で思い出した」


陽生はふと、口を開く。


「ん?なにかな?陽生くん」


「まこちゃん、なんか荷物減ってない?」


澪も蒼真も、口を揃えて「確かに」と呟く。

そう、行きと比べてカバンが一つ減っていた。


「え、あ、あれ……あ……」


預かっておくと言っていた、重要書類が入ったカバンだった。

3人は、またか……と思いながら笑い合った。

今日も継島では、悲痛な叫びが響いていた。


「うおぉーー!あたしの書類ーーー!!!」

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