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プロローグ

ガサッ……ガサガサ……


低木をかき分け進む。

どこに向かっているのか、それもイマイチ分かってない。

でも、ここには陽生の退屈をなんとかしてくれる。

そんな期待があった。


「ぷはっ!」


低木を掻き分けた先には、開けた丘があった。

こんな場所、今までに見たことがなかった。


「ちょっと、なんで私までこんな道……うわ毛虫!?」


雨宮澪あまみやみお

図書室で本を読んでいたところ、陽生に無理やり連れてこられた。

集落ではよくおじいちゃんおばあちゃんからチヤホヤされるのを目にする。


「だ、だから僕はこういうの……無理だってぇ……」


青海蒼真あおみそうま

ケータイを眺めてたところを連れてこられた。

でも、眺めてたケータイの画面がついてなかったから、陽生も少し戸惑ったようだ。

これでも、陽生より一つ年上である。


「それより、見ろよ!凄いな!」


日高陽生ひだかはるき

冒険や発見、新しいことというのが好きで、よく島を駆け回っている、

知らないもの、というのが彼の原動力になる。

しかし、そういった意味では、彼にこの島はあまり合っていなかった。


継島。

漁業が盛んな島。

観光業に力を入れている様子はなく、閉塞的な小さな島だ。

中央には小高い山があり、体を動かしたい老人達のちょっとした散歩道になっている。


そしてここは、その山に隣接した丘だった。

陽生はぐったりした他二人とは対照的に、元気よく駆け回っていた。


「……ん?……おーい!あれ、なんだと思うー!?」


丘の中央に、ちょっとした小屋があるのを陽生が見つけた。

壁面にはヒビの入った、石造りの建物だ。

屋根からはアンテナが突き出している。


「んー……農具箱かしらね」


「いや、空き家じゃないかな。この辺りが開墾されて、放置されたんだったら説明もつく」


口々に、そんなことを言い合っている。


「ま、とりあえず中見てみれば分かるだろ」


陽生がノブに手をかけると、蒼真が制止する。


「いやいや、ダメだよ。もし万一誰か使ってたら……」


「だーいじょぶだいじょぶ、誰か使ってるなら鍵くらいかけるだろ?」


思いのほか、軽い力でドアは開いた。

ドアを開けた瞬間、ひんやりとした空気が肌をなでる。

中は見た目以上に広く感じた。

天井は高く、地下に少し彫り込まれてもいるようだ。

そして吹き抜けの壁には、円形の枠の中に針、時計のようなものがズラッと並んでいる。


「……わぁ……」


陽生だけじゃなく、その後を追ってきた澪と蒼真も陽生の背中から感嘆の声を上げる。

大きく張り出された地図。

僕らの普段見る地図と違って、鮮明に描き込まれており、宝の地図よりよほど魅力的だった。

地下には大量の本が見えた。

分厚い本が何冊も棚に収納されている。

いや、高く積み上げられてもいる。


時計のようなもの一つ一つが僅かな光を帯びており、星を見ているような気分だった。

陽生の憧れる秘密基地というのは、こういうものなのだろう。

ふと、そう思った。


「ね、ねぇ、これ、触ってみてもいいのかな??」


キラキラした目で陽生は蒼真に尋ねる。

蒼真は蒼真で、周囲の機器に夢中だった。


「あぁ……」


蒼真はぼんやりと、適当な返事をする。

それを肯定と受け取った陽生は、時計のようなものに手を伸ばし……。


「ちょちょちょ、まてーい!!!」


突如上から声がした。

見ると上階から一人の女性が陽生達を見下ろしていた。


「キミたちいつから!?どこから!?だれから!?いや誰からは違う……えーっと、とにかく!なんでここにいる!?」


「えっと……」


澪と蒼真は顔を見合わせ、陽生を指差した。


「え!?ちょ、オレ!?」


下に降りてきたお姉さんは、コツッといい音を出しながら、陽生にゲンコツを喰らわせた。


「こういった機器は精密なんだから、勝手に触らないでよね。いやまぁ、キミが触れようとしたのは安全なものだからいいけどさ」


そして陽生の横を通り過ぎ、コツッ、コツッと澪と蒼真にもゲンコツを喰らわせた。


「まぁ、見る感じ、この子が主犯格なんだろうけどさ、勝手に付いてきちゃうのもお姉さん、感心しないぞ?」


全員、謎のお姉さんの登場に呆気にとられ、喋ることすら忘れていた。


海原真琴うなばらまこと

この島に非常勤で来ている気象予報士だ。

東京の研究所に所属していて、春から夏あたりはよく来るらしい。

島民とは顔を合わせることは少なく、よくここに籠もっている。

そしてその建物をよく見たら、至る所に酒瓶が落ちてたのを見るに、少しだらしのない大人なのだろう。

寝癖もすごいし。


「んー、なるほどね。退屈しのぎに探検してたら変わった建物を見つけた、と」


なるほどなるほど、と頷きながら陽生達の話を聞いていた。

少し悩むように頬に手を当てる。


「普通なら、出てけー!って言うんだろうけどなぁ……」


子供たちの方をチラリと見る。

全員が全員、様々なものに興味津々だった。

はぁ、とため息をひとつつく。


「いいか?キミたち。ここは気象観測所だ。ここにあるものは、とーっても、繊細なものばかりだ」


真琴の方にビシッと向き直る3人。

やりづらさに、頭を掻く真琴。


「キミたちがどーしても興味があるということなら……うー……まぁ、いてもいい」


パァッと子供たちの目が輝く。

対照的に真琴はその熱い視線に少し押されていた。


「でも、約束はちゃんと守ること。守れなかったら追い出すからね!」


「うん!」


3人揃って、元気よく返事をした。

真琴は昔、自分も気象観測所に勝手に入って怒られたことを思い出していた。


約束事は大きく3つあった。

1つ目が勝手に何かを触ったりしないこと。

2つ目が暗くなる前に帰ること。

3つ目が真琴の言うことはちゃんと聞くことだった。

真琴は約束事を紙に書いて、観測所の入り口にぺたりと、しっかり貼り付けた。


陽生達はその様子を真琴の後ろからしっかりと見ていた。


陽生は秘密基地が出来たことのように喜び、ポツリと呟いた。


「オレ達の……新しい……居場所」


ここから、陽生達の新しい冒険がはじまった。

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