32 時を重ねた水滴の魔法
伸子は、帰りの電車に揺られながら、吊り広告に目をやった。
そこには「ライオン」のマーク。にっこり笑うライオンの顔。
その瞬間、古い大学の講堂にあった、ライオンの口から絶えず水が流れる音が、鮮明に蘇った。
壇上で、ふと漏らした独り言。
拾われたマイク。
拡声された言葉たち。
「Glasses are a part of my face... I wish to enter a hole... I desire rice with raw egg. Correction: fermented soybeans.」
会場がざわめく。
「ナマタマゴ タベル ニンゲン、イルワケナイダロウ…」
ほんの、10分前に、チカホの柱が、5時の時計を映し出し、時を知らせた。。
そして、その時あのカナリアの残響もまた、遠くできこえてきたかのようだ。
カナリアの残響
汽車は、豊富な水資源を求めて走った。
水を、熱にかえて――空へと還す。
夢だった。
つながりたいという夢が、水を蒸気にして、汽車を動かした。
あの頃、夢の原石は、石炭だった。連れていくカナリアに命託して、地中深く、海深く 、と石炭を掘った。
そして、その汽車の通る場所に、町が生まれていった。
ライオンの口からこぼれる水の音だけが、あの時も、今も、胸に沁みていた。伸子もまた、時を同じくして、北広島に向かう電車の中で、あの時の響香の顔を思い出していた。
報告書が何も書けない苦悩を聞いて、響香はしばらく黙っていた。
あの時、伸子はつぶやいていた。
「その魔法、魔法は、どうやったらかかるのか?」
響香の話が、伸子の心に一筋の光を灯した。
日本で起きたこの魔法。
それを検証し、世界に紹介することこそ、日本ができる国際貢献ではないか。
漫画やアニメ、ドラマを通して過去をたどり、発信することで、
この魔法が現実に存在することを証明できる。
伸子は、報告書をまとめようと決意した。




