17 手放さなければならないシークレットアイス
17 手放さなければならないシークレットアイス
「まあ、どうでもいいんだけど、ダンディなアラビアンナイトなんかとは、全くの真逆ね。」
「十の牙、持っているし、母に言わせれば『十猪の七不思議』っていうのもあるけれど、全部はわからないのよ、今も。」
「『じゅういの七不思議』、本のタイトルみたいね。」
「ほんとよ、ほんと。でも、やっと仕事も一段落したし、書きたいところよ。」
「小説家デビュー?」
「まさか。私は本だって、あまり読まないわ。」
「でも、伸子さんからもらった本は、何度も読んだわ。」
「ロンダ・バーンの『ザーシクッレト』。」
「本当に、あの本が私の人生を変えてくれた。ありがとう。」
響香は、涙ぐんでいるように聞こえた。
電話の向こうで、静かに涙を拭っているような気さえした。
響香は続けた。
「私も書いたんだよ、伸子さん。あの本を読んで、願いを……書いてみた。そしたら、本当に、あっという間に現実になったの。」
その声には、ほっとしたような、それでもどこか悲しげな感情が混じっていた。
「でも、叶った後が……」響香は言葉を切った。電話越しに彼女の表情が浮かんできた。伸子はそれを感じ取りながら、静かに待った。
「どうしてかな、私はとても……かなしい。」響香は小さく吐き出すように言った。その言葉に、伸子の胸が締めつけられるような思いがした。
「響香……その願い、叶ったんだよね?」伸子はゆっくり尋ねた。
「うん、叶ったけど、手放すことが怖くて……」響香は続けた。「本当に、もう何も欲しくないと思っていたのに、なぜかそれを失うことが怖くて。願いがかなって、それを手に入れたけど、もう手放さなきゃいけないのが、辛いんだ。」
伸子はその言葉に胸が痛んだ。響香が大切にしていたものを無意識に取り出してしまったのではないかという不安が湧いてきた。
「響香、それが怖いのは……わかるよ。」伸子はゆっくり語りかけた。「でも、それはあなたが本当に成し遂げたことだし、それを受け入れることも必要だと思うよ。」
響香は少しだけ笑ったが、その笑顔には切なさが滲んでいた。
「そうだよね、でも、どうしても……」響香は声を震わせ、涙をこらえるように続けた。「もう願いを手放さなきゃいけないって分かっているのに、その時が怖くて。私、なんでこんなにかなしいんだろう……」




