短編小説 間奏お話 その① 皇帝じぇせふゅぬ と 何出茂薔薇子(なんでもばらこ)
「台所で世界をかえる。」その本流からそれた、エピソード 間奏バージョン①
伸子と響香が、恵庭の素敵な喫茶店 「スウイートグラス」(※2)の談笑中、生まれた架空の人物 「何でも薔薇子」
「何でも薔薇子」その彼女と、その憧れの人 皇帝じぇせふゅぬ のお話
皇帝じぇせふゅぬ と何でも薔薇子
何でもばら子のにくむべき相手は、ごがねむし、ちゅうれんじばち、ばらぞうむし。
コガネムシの幼虫は、土中の根を食べて、株全体を弱らせる。
原因がわからぬ様子の怪しいバラの鉢を見たら、この幼虫がいることが多い。
心配な薔薇の鉢をひっくり返しては──
「やっぱり、コガネムシガの幼虫が2匹もいたわ。」
と、ため息の間もなく、根源のコガネムシを抹消。「もうダイジョブよ、きっと。」といって、そのバラを新しい土にうえもどし、大事に養生コーナーにつれていき、活力剤を水でうすめて、それをかけてあげる。「これなら、肥料とちがって、負担がすくないはず。」そして、場合によっては、適用の粒状の殺虫剤をまく。
薔薇の回復と害虫たちの撲滅は、何でも薔薇子の栄冠のあかし。
そして──何でも薔薇子がこの地球上で最も憎むべき相手。
それは、ゴマダラカミキリ。
成虫は葉や樹皮をかじる程度だが、本当に恐ろしいのは、幼虫。
幹や枝の中に潜り込み、内部を食い荒らすので、気づいた時には枝がスカスカに…。
株元に木くずのような糞が落ちていたら要注意。
何でもばら子は全バラのパトロールを欠かさない。
もし、ゴマダラカミキリを見つけたなら──ギロチン刑。それが彼女のおきて。
そう、本気で。この憎むべき相手達、
ごがねむし、ちゅうれんじばち、ばらぞうむし、かみきり──
その地域一帯の撲滅を目指しているのだ。
ばら子=バラの母であり、園芸医であり、バラの庭の法廷人。
そんな何でもばら子の惑星に入った者たちの、
エンゲル係数(※1)ならぬ“園芸係数”は、けっこう高い。
そして、同じく国家予算レベルで“園芸係数”を引き上げた、もうひとりの人物──
皇帝じぇせふゅぬ。
彼女は宮廷画家ルドゥーテとともに、名高い『バラ図譜』を編み、
戦火の下にあっても、イギリスの植物園からバラを取り寄せるルートを築いた。
バラのために国境を越えた、まさに先駆者。
そして彼女が築いたものは、いまもフランスの文化遺産として受け継がれている。
そんな皇帝じぇせふゅぬの姿をみた〇メゾン宮殿。──
あの日誓った、何でも薔薇子の情熱もまた、
ただの園芸家の域をはるかに越えた、文化遺産として語り継がれるべき情熱だった。
19世紀、皇帝じぇせふゅぬが、ナポレオンとともに造った
バラとともに息づいたその宮殿に、
何でもばら子が足を運んだのは──
まだ結婚してまもない、20世紀終盤のことだったという。
皇帝じぇせふゅぬが情熱を注ぎ、
文化と美の調和を育てた〇メゾン宮殿は、
いまや世界中の誰もが知る、バラの聖地。マルメゾン宮殿。
そして今もなお──
地球上のいたるところで、静かに、やさしく、
世界の“愛”の輪を育み、ふくらませている。
※1 「エンゲル係数」19世紀のドイツ統計学者エルンスト・エンゲルによって、提唱
支出のうち、食費が占める割合
※2「スウイートグラス」2023年10月31日 閉店




