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【旧稿】台所シリーズ 第1部 台所で世界をかえる (ただいま編)  作者: 朧月


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12 ~名古屋の風と四間道の叡智~イントロ

12 ~名古屋の風と四間道の叡智~イントロ


「あんなに暖かったのに、急に冷え込んだわね。旭川あたりなら、初雪かもね。」

「またね。今度、また、旅の話をゆっくり、きかせてね。」

ヘッドライトをつける。秋の日暮れははやい。


たん、たん、たん、たん、、、、 、、、。とピアノの和音

夜にむっかってと雪がふりつもると、

悲しみがそっと、胸にこみあげる♬、


おととしの秋、桑田佳祐さんのコンサートの終盤の曲

『白い恋人たち』(2002年)

空いた助手席に響香のかわりに桑田さんの声がするような気分。

響香の車の後をわずかにすすんで

ウインカーの音が桑田さんの音に交じって左折する。

結局、イントロさえも、


旅の話は、ひと言も奏でずに、終わった。


旅のイントロは、なんだったのだろうか?


まるで、この助手席に本物の「白い恋人」とやらが、手袋をして乗り込んできたような旅のはじまりだった。

伸子は、まずは、名古屋旅行を懐かしく思い出していた。

それは、彼女にとっての長旅の序章に過ぎなかったのかもしれない。


2022年11月21日。ほんの少しの不安と、期待が胸いっぱいに広がっていたあの日。彼女の一日が、六五歳の特別な一日と刻まれた初めての一人旅。その一歩を踏み出したことで、、彼女の人生が新たな章を迎えた。


長女が手配してくれた飛行機のチケットを手に、心の中で何度も感謝の言葉を繰り返す。「お母さん、好きなことをしなよ」というその一言が、まるで背中を押す風のように、伸子の心に吹き抜けた。

千歳空港で働く長女、加奈 の駐車場の「いってらしゃい」を搭乗前の席でまた、何度も思い返した。

「イヤホン もってくればよかった。あんなに、シュミレーションした一人旅、、、」


名古屋城の「金鯱の間」へ足を踏み入れると、目の前に広がる天井絵が、未知の空間に誘ってくれるようだった。

どこか異世界に迷い込んだような感覚を覚え、これまで歩んできた道を一瞬で忘れてしまうほどだった。

イヤホンを忘れたことを悔いたのは、あの 搭乗をまつ千歳空港のみだった。


名古屋城を後にして、伸子は四間道へと足を延ばした。江戸時代からの歴史を感じさせる古い町並みが続き、木造の建物や白壁が今もなおその姿を残していた。


まるで時代を遡っているかのような感覚が、伸子を包んだ。


ふと通りかかったガラス工芸店。中に入ると、色とりどりのガラス細工が光を浴びて輝いていた。その中から伸子の目に止まったのは、小さなトナカイのガラス細工だった。冬の季節にぴったりのその形は、伸子の心を温かく包み込む。「これ、響香にぴったりかも」と思いながら、そのガラス細工を手に取った。

ふと、かつて娘たちと一緒に訪れたサザンのコンサートのことを思い出す。響香も誘ったあの日、その瞬間が、まるでガラスのように透明に輝いていた。


響香が皆が 一斉にみなが席を立ち、音楽と一体になる瞬間を、驚いていた。

予習にと、録音テープをあげたのに、響香は、「CD 買っちゃった。」と席にもどってきた。

アルバム「southern all stars killer street」


長い旅をアルバムに例えると2曲目はきっと横浜あたり。


東京の街並みみたいと、いいわけして、一人早々出発して、 表参道でおりて、横浜へむかった。

418外苑どおり (外苑西通り東京都道418キーラーストリート 

あの418号の標識は、今まさに通り過ぎる、この北海道道46号の標識 とそっくり。

江別と北広島を結ぶ代表的な道道  通称きらら街道。

あの時見つけたこのおしゃれな発見も、かすむ長い長い旅の話。

て、あの旅の一曲目のイントロは?

とにかく、信号機で待つ人も、前とは違って見える。


やはり、一曲目のイントロは名古屋と、信号機の止まったところで、カーステを操作して、ボリュームを下げた。

四間道を歩きながら、伸子はこの町がどのように成り立ってきたのかを想像した。江戸時代、町全体で水を共有し、火災を防ぐために広い通りを作り上げたというその知恵と団結力に、北海道から来た自分は少しショックを受けるほどの感動を覚えた。歴史の浅い故郷では、人々が数百年にわたり力を合わせて町を作り上げてきた姿を目にすることはなかったからだ。

名古屋城を囲む堀も、伸子に強い印象を与えた。その人工の河川は、防御だけでなく、水を運ぶ役割も担っていたという。その巧妙な設計に、伸子は北海道の自然とは異なる、手による美しさを感じる。

川が街に寄り添い、生活を支える存在となっている名古屋の風景が、心に深く刻まれた。

シミュレーションを繰り返していて、その日の予定には少しだけ余裕がないことを実感していた。

それでもどうしても訪れたかった水道記念館を目指し、足早に向かう。記念館に到着したのは、閉館時間間近のことだったが、伸子はあわただしくもその展示物に目を通しながら、名古屋の水道の歴史とその発展に思いを馳せた。慌ただしさの中で感じる、この場所でのひとときが、しっかりと彼女の心に残っていった。


その夜、桑田佳祐のソロ活動三五周年記念コンサートを体感した。

桑田の言葉が響く。「お互い元気で、頑張りましょう」。その言葉は、まるで今の伸子に向けられたメッセージのように感じられた。仕事も定年が迫り、娘たちも巣立ち、これからは自分自身の人生を楽しむ番だと決意して、伸子はこの旅を始めたのだ。

 名古屋駅ちかくのホテルのベッドでも、伸子はガラス細工を入れた箱をそっと手に取り、静かに微笑んだ。

この旅が、終わりではなく、新たな人生の幕開けであることを、心から実感していた。


一緒に開けようと思ったその箱は、響香に託して正解だと、家につくころにはおもうようになっていた。

 うぱうぱうぱ   と、風の調べ かわのせせらぎ♬

桑田さんのコンサートのラストの曲が、カーステからながれる。


『100万年の幸せ!!』(2012年)


新しいきみがいるから、、、。歩いて行こう♪

あのラストの曲をリピートさせて、ふたたびボリュームをあげた。

伸子にとっては、これがスタートの曲だった。

100万年程のものがたりがはじまる、スタートの曲。




読んでくださりありがとうございます。

この12話は、台所シリーズ(長旅編)第一話 とほぼ同ぶんです。

12話とともに 長旅編もよろしくお願いします。

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