03
レッドベレー隊の本拠地は秘匿されている
魔法が何重にもかけられ、フェイクとフェイクを通して情報が通達される
だから天使の事を報告する部外者は本拠地を一切知らないだろう
各【厄災】に対する組織のリーダー達は、各本拠地を知っている
直接訪ねることもあるからか…大体は私的な用ではある
しかしシーカーから他のリーダー…そう、"深淵狩り"のリーダー、【巡礼者】、"竜狩り"のリーダー【フラン】…
彼と彼女の基地に行くことは少ない、行く必要も感じられない
巡礼者は基本的に手紙での会話であるし、フランは…その、そもそも竜狩りが排他的でもあるから会うことは少ない
良い奴ではある、そうなのだが…周りが残念だとでも言おうか
至上主義の仲間を持つとはなんとも可哀想である、関係ないからこそ哀れに思える
「隊長!おかえりなさい!」
「…あぁ」
すれ違う兵士が私の姿に気付いて、敬礼をする
一応この組織のリーダーだ、されて当然なのだろうが…慣れたものでは無い
もとより私は1人だった、長くひとりで戦っていたから…慣れてない
連携もあまり得意じゃないし、事務仕事だって…
ツヴァイは象徴であるからこそ大丈夫だと言った
私という存在が天使をただ滅するだけで隊員達は活力を得るのだと
自分たちもそうなりたいと、思うと…言っていた
「…むう」
援護だけで良いのに
私の手が届かない所にそれが届けば、良いと言うのに
…やはり、よく分からないものである
そう思いながら、隊列を組んで走る隊員達に軽く手を振った
〇
「教会…」
ぼーっと建物や隊員を見ながら歩いていると、とある建物にたどり着いた
赤い屋根とステンドグラスが特徴的な教会である
確かここにはシスター・ノアと数人の回復魔法や祈祷を使うシスター達が居た筈だ
シーカーはそう思いながら木製の大扉を開いて中に入る
「────ah、ah──」
中には長絨毯を挟むように長椅子があり、奥には大十字架がある
十字架には乾いた血が付いている
そして、その目の前でノアが跪いて祈りを捧げていた
数人のシスター達が周りに居たが、シーカーの姿を見て一礼してゆっくりと消えていく
どうやら自分たちは邪魔だと判断したようだ、シーカーにとってはどうでも良いようだったが
「………」
「Gospell armen─────ah?… smell of ash……」
静かに彼女に近づくと、彼女は何かを呟きながら立ち上がった
そしてそのままゆっくりとこちらに振り向く
「あぁ…シーカー様、welcome to We are home…」
「…母国語が出ているぞ」
「…申し訳ありません、どうしても抜けなくて」
彼女は優しく笑いながら言った
元は遠い国のシスターだったそうだ、今もその母国語が出てしまうことがある
止めさせるのも酷なことだ、なんたってその国は滅んでいるのだから
「Ah…シーカー様も懺悔に来たのでしょうか…?」
「いや…久しぶりに基地を見て回る気になっただけだ」
「Oh…それは珍しい事です…シーカー様が天使以外に興味をお持ちになるとは」
「私は殺戮兵器では無いぞ…」
サラッと心のない人扱いされたことにシーカーは傷付いた
天使に底知れぬ復讐心と怒りがあるとはいえ、心が無いわけじゃない
流石にその言いようはどうかと思う
「教会はどうでしょう?居心地はよろしいでしょうか?」
「…それはこの基地のどこにでも言える話だ」
ほとんど基地に居ないせいか、数時間でも基地に居ると妙な感覚を覚える
深いでは無いそれは、恐らく彼女の言う通り居心地が良いという奴なのだろう
しかし、そこで立ち止まる訳にはいかない
ゆっくりと瞳を閉じる
浮かぶは燃え盛る村、灰となり消える人々と崩れゆく平穏
いつまでも私の心にしがみつく切り払えない過去
『ウジのように蔓延るねぇ、君たちは本当に』
その中心に居た天使
六羽根の、青とオレンジ色のオッドアイを持った天使
私の全てを奪った、仇
…奴だけじゃない、それ以外の天使だって同罪だ
奴らは厄災なのだ、生きているだけで害であるのだ
奴と、そして全ての天使を狩り尽くすまで、私は止まれない
「…ここは何を祀っているのだ?
隊員達は、シスターは…お前は、何に祈っている?」
キュッと瞑った目を開き、彼女は十字架を眺めながら言った
祈るのは結構だが、何に祈っているのか…さっぱりである
その問いにノアは柔らかく笑う
「……なんだって、いいじゃないですか
ひとは、ヒトは…何かを支えとして生きているのですから」
〇
教会から出て、次の場所へと向かう
次に行く場所は決まっている…あの場所だ
「た、隊長…く、鍛錬場が───」
「…分かっている」
そちらの方向へ向かおうとした時、1人の兵士が走ってきてそう言った
シーカーはため息をつきながら彼を下がらせる
どうやら鍛錬場が使用不可能になっているらしい、何故だろうな
アイツらは本当に水と油だ…どう足掻いても合わせることは出来ない
手に持っている2人の得物を見ながらそう思った
あれほどに仲が悪いのも此処では珍しい物である
協力して天使を滅ぼすべきなのに、アイツらはどっちかと言うと天使よりも敵対してそうだ…
「────ッ!」
「──!───!!」
「…はぁ」
進んでいると、ズガンズガンと凄まじい音が聞こえてきた
時折雷の落ちる音と凄まじい閃光が見える
どうやら竜狩りの雷を使ってまで殴りあっているようだ
スカーレッドが隻腕といえど流石にやりすぎだと思う
いつしか勝手にどちらかが死んでそうである
その場合は処理班が忙しくなるのでやめて欲しいところだ
カツカツと石畳を歩みながら鍛錬場に移動する
一応場所を分ける為に壁などを作っているがぶち抜かれているようである
ていうか壁再生係の魔法隊はどうした
…と思っていたら、ノビている隊員達の姿があった
「ハァー…お前達、殺り合うのが早いな」
「遅いぞ、シーカー」
「もそっと早く来ていれば無駄な体力を使わずにやつを切り刻んでいたのにのう…」
スカーレッドは苛立ちを隠さず、アヤは酒の入った瓢箪を腰に戻しながら言った
どうやら片方は酒を飲みながら戦っていたようだ…
東方特有の合気という奴だろうか…
私は適当に思いながら彼女達の得物…槍と紅刀を鍛錬場に突き刺す
「他の隊員に迷惑がかかってる、私がまた来るまでに終わってなかったら2人とも殴り飛ばす」
「…ハッ、言ってくれる」「ほーう…そこまで長引くと思っているのか、お嬢は」
シーカーがそう言うと、彼女達は獰猛な笑みをして得物に向かう
すれ違うようにして突進…そのまま引き抜いてアヤは振り払う
「さて、いざ参る」「お前など隻腕で十分だ」
鍛錬場から出ていくシーカーの耳に、激しい金属音と落雷の音が響いた
また来るまでには恐らく終わっているだろうと彼女は思いながらその場を後にしたのであった