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88【北国の森へ】

 新学年になって始めの定期試験を終えた。そう、学園にも定期試験があったのだよ。二カ月に一度はあるんだけどね。定期試験の後は、採点や成績を付けたり、先生方の次の授業の準備があるらしくて、三日の試験休みがある。その後週の二連休があるので、計五日の連休が取れた俺は、試験で疲れた頭を世界樹の大浴場で癒している。大きなお風呂には父さんとクリス。

 クリスはようやく父さんと話すのに緊張が和らいできたように見える。

 「え?お祖父様が?」

 「うん、なんかクリスに領地に来てほしいんだって、だからついでに駿介も同行してね」

 「わかった」

 「殿下がついでって、恐れ多い」


 リーニング領は、王都から世界樹を乗り越えた北東に位置する大きな森を有する領土だ。その森の恵みは、建国以前からリーニング家を支えてきたものだそうで。俺も興味はあった。


 ガスマニアの森と、動植物がどのぐらい違うんだろう。


 「真冬になる前に行けて良かったな」

 「はい!」

 何しろリーニング領をさらに北に行くと、昼のない極夜という日があるそうだ。夏の北欧の白夜の反対だな。それは寒いだろうな。


 次の日、クリスと王都の冒険者ギルドを訪ねた。

 ばっちりニット帽をかぶっているのけど、

 「あら、君たちは」

 「しっ!」

 前回俺の身分証を見たお姉さんはさすがに鋭くて、それ以上話さないでくれと頼む。

 

 「お姉さんトナカイ車の席ふたつ」クリスが券を買ってくれる。もちろん〈小人〉だ。

 そう、ハロルドでも良かったんだけど、馬車ならぬトナカイ車に乗りたかったのだ!トナカイはこの世界でも寒さに強くて、雪が積もり出すと、車の部分が後ろに畳まれて、そりにチェンジするらしい。


 ギルドの裏にトナカイ車乗り場があって、直列の二頭立て。立派な角が横に張り出しているから、並べないんだよね。しかも今回は特急に乗る。

 前の子の角に赤いリボンで鈴がつけられている。

 雪がふぶいたりしたら、この音で周りに〈そりが通るよ〉と警告するために取り付けられているのだが、普段からつけているらしい。特急だから危ないからね。

 目はまだ金色だけどこっちも冬になると青くなるそうだ。青い目のトナカイも見に来たいね。


 「シュンスケさんはい。これ、馭者席だって、乗る?一つしかないし寒いかもしれないけど」

 「クリス最高!乗る」


 馭者席の左側に座らせてもらう。助手席ってことだね。

 「失礼します。今日はよろしくお願いします」

 「おや、可愛い冒険者だね。あちらはもう雪が降ってるけどその恰好で大丈夫かい?」

 「大丈夫です。もこもこのやつ持ってきました」

 そう言ってウエストポーチをちょっと叩くと、おじさんはうんうんと頷く。


 王都のクローゼットにはクリスにも俺にもボアの付いた暖かいショートコートが入れられていたので、それに温度調節と防汚の追加で付与をして、それぞれ携帯している。


 馭者のおじさんは、もちろんエルフなんだけど、耳の先っちょが欠けている。

 「これは昔、大寒波が来た時に凍傷になっちゃってね」だって。

 それを聞いて思わずニット帽で耳ごとガード、この帽子はエルフ用に耳ついてるんだよ。まあ、今日は凍傷にはならないだろうけどね。


 「ホイっ ホイっ」

 独特な掛け声でトナカイは馭されながら街道を走っていく。鈴の音も素敵だ。クリスマスソングの効果音みたいだよ。この世界にはサンタさんはいないかな〜。


 俺は、少しハロルドに手伝ってもらって、トナカイに話しかけてみる。

 “トナカイさんこんにちは、僕はこの子の中にいるハロルドだよ”

 “はろるどさま?しろいはねの おうまさま?”

 “そう!”

 “わーあたしたちは、はろるどさますきだよ~”

 “えへへ、ありがとう。それで、このこは王子だよ”

 “おうじ?おうじって、せいれいおうのこども?”

 “そう!”


 「ハロルドすげー」

 『ふふふ』

 “いまは、おしごとちゅうだから、あとでおうじとごあいさつしたい!”

 “おともだちになってあげてね”

 “うん!” “あたしも!”


 話をしながら俺はトナカイを鑑定する。

 立派な角だけど、二頭とも女の子だった。


 二時間も頑張ったトナカイは休憩に入る。思った以上に雪が積もってるからと、そりに付け替えもするそうだ。


 「おじさん、トナカイに近寄っていいかな?」

 「あぁ?角に気を付けるんだよ。逆にトナカイに何かあったら困るからそっちも気を付けるんだよ」

 「はい。もちろんです」

 「シュンスケさん?」

 「クリス、この子たちに挨拶するね」

 「はい。話が出来るんですね!さすがです」


 “こんにちは、シュンスケだよ”

 “あなたが、おうじね”

 “あえてうれしいわ”


 「すごい、シュンスケさんにすり寄って行ってる」

 「ね、可愛いね」

 「はい」

 俺は二頭の鼻先や眉間を撫でながら少し回復魔法をかけてやる。

 「馬より小さいから大変だよな。ご苦労さん」

 “あら、これはきもちいいわ”

 “ほんと、つかれがとれちゃった。ありがとおうじ”


 「ほう、坊主、中々のトナカイ使いになれそうだぜ」

 「ありがとう、俺にも一度馭者をさせてくれないかな」

 「おう、俺が隣にいるから構わないぜ」

 「やった!ありがとう」


 そりに履き替えたトナカイ車の今度は右側の馭者席に座る。

 この国はなんと日本と同じで車は左側通行なんだ。まあ、車の免許を取りに行く前にこの異世界に来ちゃったものだから、運転の経験はないけどね。


 “じゃあいくよ”

 「ホイっ」おじさんをまねて掛け声を入れてみる。

 手綱は動かさない。

 “はーい”

 “がんばる!”


 軽快な鈴の音を鳴らしながらそりが進む。目的地までは一本道なので、ナビがなくても大丈夫らしい。

 俺は手綱からちょろちょろと二頭に回復魔法をお届けしながら操作していた。


 その後もう一度休憩をはさみながら、この世界のトナカイは五時間もそりを引いた。

 このトナカイのそりは、魔法の得意なエルフの国らしく五時間で三日分の距離を行くよう付与されている。でも、そのぐらいリーニング領は遠かった。。

 “ごくろうさま!ありがとう”

 “ぜんぜん”

 “こんなにらくなのは、はじめて”


 リーニング領の冒険者ギルドでそりを下りてトナカイたちを撫でまくりながら挨拶をしていると、ギルドの中にいたリーニング伯爵がやってきた。


 「殿下、トナカイを気に入られましたか」

 「あ、伯爵、すみません寒いのに出てきてもらっちゃって」

 「いえいえ、それにしても良くなついていますね。今日初めて見たんでしょう?」

 「お祖父様すごいですよね。さっきから、お話しされているんですよ」

 「なんと」

 「種を明かすと、ハロルドのスキルで会話をしていたんですよ」

 “俺たちはもう友達だもんな!”

 “あたしたちと、おうじはともだち”

 トナカイにシュバイツ湖で採れたニジマスの切り身をあげる。ソテー用に骨を取った新鮮なもの。塩はまだ振ってない。

 「トナカイは魚食べるんですか?」

 「そう、そりを引くにはタンパク質要りそうだしね、鑑定(と、びっくりしたからスマホも検索)にもあったんだ。ね?」

 “これおさかな なの?”

 “すごくおいしい!”

 「へえ、俺たちずっとトナカイと付き合ってきたんですけど、鹿と同じと思ってました」

 「鹿の餌も食べるだろうけどね」

 鹿せんべいって何で出来ているんだろう。小麦粉?


 魚の切り身を直接触った手を道端で火を混ぜた水魔法のお湯で洗ってアルコールスプレーをかける。


 「お待たせしました。では行きましょうか」

 「はいこちらへどうぞ」


 そうして、俺たちはリーニング伯爵領の領主館へ向かった。


お星さまありがとうございます。もっと頂けたら♪

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