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86【前から言ってたあれをもらいに】

 今日はガスマニア帝国の宮殿にお出かけする。

 ハロルドを出して、鞍はまだないけどその下に敷くゼッケンというのを着てもらっている。こちらも後に特殊素材で作る必要があるのだけど、普段用にと頂いたのだ。しかもこれはクリスの妹のアイラちゃんのお手製だ。


 アイラちゃんは人間族の感覚では三歳の見た目だが、九歳のハーフエルフ。もともと貴族子女の嗜みである刺繍を始めたら激嵌りして、どうせ頑張るならとお母さんのナティエさんの提案で、ハロルド用のゼッケンを作ってくれたのだ。二枚重ねのキルティングの表面に、美しいエメラルドグリーンの葡萄の唐草風の大作だ。ずれないようにお腹の方に渡すベルトもちゃんと刺繍してある。


 それに、スピリッツゴッドの髪とペガコーンの尻尾で出来た頭絡と手綱を着けて立っている。今日は角と翼をひっこめて、白馬状態でいてくれている。

「ハロルド!アイラちゃんのゼッケン似合っているよ!すごくカッコいい!」

 『王子も今日は僕とお揃いだね!』

 そうなのだ、アイラちゃんは俺にもプレゼントをくれた。

 乳白色の絹で出来た軽やかなローブは仕立て屋さんで作ってもらったそうだけど、それの裾にも葡萄のエメラルドグリーンの唐草模様、そして背中に天使もといハロルドの羽根をイメージした真っ白な刺繍。それをブルーのワイシャツと真っ白なスーツの上に着る。この服はプランツさんが用意してくれた。


 今日は正式な謁見なので、明るい緑銀色のスピリッツゴッド姿だ。本当は馬車でと言われたが、このカッコいいハロルドにどうしても乗りたくて、このまま屋敷前のすっかり白いお家が並んだ海沿いのメインストリートから、パカパカと宮殿に向かう。

 俺の前には露払いのウリサ兄さん。後ろにはクリスとタンデムしているアリサ。俺の両側にも宮殿から来てくれた兵士がいてくれている。すごい大げさな行列になってしまった。


「シュバイツ王子~」

「シュバイツ殿下~」

「シュンスケー」

「シュンスケちゃ~ん」


 沿道にはいろいろな呼ばれ方で手を振ってくるのでちょっと手を振りかえしたりしている。


「キャー!」

「うぉー!」 


 個人的には、宮殿前までぱっと行って用事を済ますつもりだったのが、都民の娯楽の一環なのでやってくれと、皇太子からダンテさん経由で言われてしまった。

 ロードランダに続いての大騒ぎ。でもね、割と耐性がついてきちゃったんだよ。みんなに騒がれることにさ。


 慣れって恐ろしい。


 あれ?沿道にエルフの人がちょいちょいいらっしゃる。それから獣人さんも。住んでいる人なのか、外国から来られているのかは分からないけれど。あとは冒険者さんはもともと国境の垣根がないんだよね。


 なんて思いながら冒険者ギルドの前も通る。あ、副ギルマス兼学園長のアマラント卿もいらっしゃる。


 屋台もちょっと出てて、あ、人形焼きの屋台がある。皇帝陛下の顔はないのかな。


 馴染みのお花屋さんの前を通ったら、花束を貰っちゃいました。ありがとうございます。おや、ハロルドにも生花のカチューシャを着けてもらっちゃって。


 『お花良い匂い嬉しいありがと!』

 ちゃんとお礼が言えてえらいぞ。

 どちらのお花にも精霊ちゃんが群がっております。


 大騒ぎの中を歩いて、ようやくハロルドに乗ったまま前回は飛び越えた立派な門をくぐる。門番の兵士さんも最近少しフレンドリーになってきたのに、びしっと敬礼をしている。それに会釈をしながら目で挨拶。


 秋咲きのバラが香る庭園でハロルドから降りて、兄さんに託す。花束はアリサねえちゃんに。


 宮殿の建物の正面ではめっちゃ皇族スタイルのキラキラしたセイラード殿下がいてくれて、ちょっとほっとする。この場に友達がいるのが凄くうれしい。

 なのに。


「シュバイツ フォン ロードランダ王子殿下、本日はおめでとうございます」

 だって。距離を作らないで―。

「セイラード フォン ガスマニア第三皇子殿下。本日はよろしくお願いします」

 仕返しするもん。


 でもすぐに背中に手を当ててきて

「さ、こっちだ」と誘導をしてくれる。


 初めて来た時とは違い謁見の間までは沢山の人がいらっしゃった。

 ドレスアップした夫人や、びしっと決めてでも少し恰幅の良い紳士などの貴族もいらっしゃる。丁度これから社交シーズンなので、集まりやすかったのもある。

 途中から、俺の後見をしてくれていたドミニク卿が合流して、傍らには虎人族の女性が腕を組んで歩いている。後でご紹介くださいね!


 今日はもちろん背中に翅を出したままである。だから、

「まあ、本当に精霊王の子供さんですのね」

「翅が背中から離れたところから出ている」

「翅も光ってて綺麗」

 などのひそひそ声も黄色ちゃんが届けてくれる。


 そして、謁見の間にたどり着き、正面の皇帝陛下の前までしずしずと歩いていく。その途中でハロルドが俺の中に戻ってきた。アイラちゃんのゼッケンをウリサ兄さんが預かってくれたんだね。


 定位置にたどり着くと、静まり返る。魔法道具も使ってるみたいだけど。静かになると益々緊張するよ。


 皇帝陛下の前で跪くと、アドリアティック二世皇帝陛下が一段高い玉座から立ち上がり俺の前まで下りてきた。


「立ちなさい」

「はっ」


 そのタイミングで、脇にいる内閣書記長官という役職の人がこれまでの俺のしでかしじゃなくて、教会で癒したことや、個人名は言わずカーリンの事やクリスと一緒に帝国の子供たちを助けたこと、バジャー子爵領のことなどをずらずらと述べていく。

 ・・・たしかに、暴れてますねえ。も、もうその辺で勘弁して・・・って時間をやり過ごすと。


「陳は、このシュバイツ フォン ロードランダ王子殿下に感謝と友好の意を表すため、

 また、彼の友人になるわが国民にも彼への神々の加護がほんの少しでも届いてくれたらという願いも込めて、ガスマニア帝国名誉国民の栄誉を与える」


 お腹から響くような威厳に満ちた良い声で宣言をして、立派な縁取りの入った羊皮紙を玉座を横にして渡してくれる。

 完璧に対等であるという扱いなのだ。俺の方が王子なので、絶対下の立場なんだけど・・・。


 その皇帝の気持ちに大感激して、ちょっとウルウルして羊皮紙を受け取る。


「私、シュバイツ フォン ロードランダは、このガスマニア帝国のポリゴン町で、心優しい冒険者と出会い、さらにより良き出会いを積み重ね、学園にもお世話になっております。帝国は私にとっては第二の故郷となるでしょう。これからも、帝国のためにそしてロードランダや他の国との友好のために努めてまいります。

 この通り、ガスマニア帝国名誉国民をいただきました!本当にありがとうございました。

 また、本日お忙しいところお集まりいただきました皆様、これからもよろしくお願いいたします。」


 出来るだけ甲高い声になっちゃわないよう、頑張って挨拶を返した。帝国を第二の故郷と言ってしまったうん、第三がロードランダだよねいまのところ。一番はやっぱり東京だから。


 一呼吸おいて拍手が起こった。


 いつもの教会での演奏とは違うよね。ここはお辞儀かな。


 ペコリ


 ひょい


「え?ちょっと」

 俺を皇帝の隣にいた皇太子殿下が肩に担ぎ上げる。

「シュンスケ、そなたは小さいからお辞儀なんてしたら余計にみんなが見えないだろう」

 だからって担ぐ?

 確かに皇太子殿下もがっちり系ですけどー。

「うわ、そなたは軽いな〜。まさかその翅で浮力ついてるの?ご飯ちゃんと食べてる?」


 俺たちのやり取りが聞こえないぐらいの周りの歓声。


 元々皆さん立ってますので、俺には圧迫感はありましたよ。

 恐れ多くも皇太子殿下の肩の上からなら確かに皆のお顔が見えます。


 どうもどうも。名誉国民貰いましたよ~

 手を振る。日本のやんごとなき人を思い出して小さめに手だけを振る


 社交のためだろうけど、今日に合わせて遠路はるばる来た方もいるそうなので、俺は軽く聖属性魔法を、天井からぶら下がっているいくつものシャンデリアから降り注ぐように発する。古傷が治るほどではなくて、ちょっと疲れが取れるぐらいに薄らと。今日はお集まりいただいてお疲れさんです~。って気持ちでラメを振りまく。今日は人が多いので、ラメちゃんと黄色ちゃんと、カーリンやセイラードの近くの赤色くんぐらいしかいないけど、高い天井の空間を飛び回って魔法をかき混ぜてくれる。


 “いけー”

 “かたこり なおれー”


 その後、もっと広い別のホールに移動して、立食パーティーが始まった。


 俺の隣にはずっとセイラードがくっついている。そのそばにはクリスもいるけどね。

 さっき、皇太子兄さんに良いところを取られたからだって。

 いやいや、セイラードはまだ俺を肩に担ぐのは無理でしょう!

「肩車なら平気なんだけど今日は無理そうだし」

 うん、無理だよ。


 そして、今日も美しくドレスアップしたカーリンも一緒だ。

 他にはセイラードの護衛のブリドとラス、ダンテ卿も一緒にいる。

 見知った人たちに囲まれてお陰でありがたい壁だ。


 でもね、今日、カーリンのエスコートはセイラード殿下でしょ?

 二人とも三男三女だから、貴族だけど自由を謳歌したいという事で、婚約者を決めていないそうだ。そんなの日本人感覚からしたら普通だぜ、十一歳と十五歳でしょ?俺なんかいつになるのか、そもそも彼女なんか作れるのか・・・。二人とも友達でいてね!


 しばらく同級生たちと、先日の遠足のダンジョンの話で盛り上がっていると、ドミニク卿が女性を連れてやってきた。


「シュンスケ、紹介させてくれ」

 なんだろう改まって。

「はい」

「この人は、レイヤー。もとはレイヤー フォン ベスティア。

 ベスティアランド王国の第二王女殿下なんだが、この人と一昨日結婚したんだよ」

 なんですとー!

「すべてはお前のおかげなんだよ」

 そう言ってすっかり若々しくなってイケメン度に磨きがかかったドミニクが眩しく笑う。


 なんでも、水の女神さまにもらったエリクサーを一番に飲んでもらったドミニクは、不自由で傷だらけだった体が治って、さらにちょっと見た目が若返った。

 そこへ、俺がクリスのお母さんと妹を助けた時に一緒にいた虎人族の子供たちを。故郷の隣国、ベスティアランド王国に連れて行ったのは、もともと縁のがあったドミニク本人だったのだ。その時に昔出会っていたのに、忙しくて疎遠になっていた、王国の第二王女と再会して、もともとドミニクに好意があった彼女の方のお熱も再開して、虎人族の王様の後押しもあって、結婚したそうだ。


 レイヤーさんは、ホワイトタイガーの虎人族さん。真っ白な銀髪に、濃いブルーのメッシュ、耳と尻尾もそうなっています。がっちりしたドミニク卿にお似合いのがっちりした美女。でもしなやかさも持ち合わせた不思議な感じの女性。大変お美しいです。


 俺は貴族の女性への挨拶として右手で手袋をしている相手の右手を取り、手の甲にキスを。反対にするとお付き合いのお申込みとかプロポーズの時とか好意のある人相手になるので、人妻にはもちろんしちゃだめだ。ちゃんとセバスチャンに教わってるよ。


「それはおめでとうございます。今日はお会い出来て光栄です。シュバイツ フォン ロードランダです」

「王子殿下のお披露目も行きたかったのですが、行けなくて残念に思ってたのですが、ここでお会い出来て嬉しいです。本当に噂通り可愛い人ですね」

 レイヤーさんはニコニコして眩しく笑顔を振りまいている。

「それに、その精霊の姿の殿下をお見掛けする事が出来ると、良いことがおこると言われているんですよ」

 なんですかその怪しい都市伝説は。俺は黄色い超特急列車じゃないぞ。

「まあな、俺はお前のおかげでこの通り幸せになったからな」

 こっちも今までになかった、ドミニクが女性の肩を抱いているという絵面にラッキーを感じるよ。

「俺こそですよ!ドミニク卿。ああ、レイヤーさん、ドミニクさんは本当にいい人なんです。もちろんご存じでしょうけど、俺は一言では言い表せないぐらいに感謝しているんです。どうかお幸せに。あの、学園の講師に言われて作ったんですけど、これお守りになるそうなんです。お祝いにはちょっとチープかもしれないけれど良かったら貰ってください」


 俺の髪とハロルドの尻尾を束ねて三センチぐらいのタッセルにしたものをストラップにぶら下げたものを二つ渡す。キーホルダーにすると暗闇で光って鍵穴が分かりやすくていいんですよ。あ、お家に雇ってる方がいらっしゃったら自分で開けませんか。

 今のところ稀少です、数に限りありますしね。伸びたらまた切るけどさ。


 普通髪の毛をアクセサリーにするにしても持ち歩くなんてさ、遺髪とか、なんか戦争で生き別れる恋人のお守りみたいで気持ち悪いんじゃない?って言ったら、リフモル先生が

「何言ってんのよ、スピリッツゴッドの髪とハロルド様の鬣でしょ?ありがたくは思っても気持ち悪いとかは絶対ないから!」

 って言って、おねだりされたからリフモル先生にも一つ進呈しましたけどね。


 ホワイトタイガーのお嫁さんは凄く嬉しそうに喜んでくれて、

「ありがとうございます。大事にしますわ」

 だって。突き返されなくてよかったよ。


「それでな、シュンスケ、母さんが住んでいたお前さんの向かいの家に住むことになったんだ。だからお前の屋敷みたいにポリゴン町を繋げる扉を・・」

「勿論つけさせていただきます!」

 かぶせるようにオッケーの返事を!そっかーそれで中もリフォームしてたんだ。

「あ、俺の屋敷からも一つナティエさんが行き来できるドアをつけてもいいですか?」

「それなら、ポリゴン町のお前の土地に、ナティエ達の家を用意してはどうだ?扉はそちらに」

「そうですね」

 親のない子が集まっているところにお世話しているからと言って、親子のナティエさんとアイラちゃんが一緒にいるのもおかしいか。

「一応図面は用意しているんです」

「なら、今度ポリゴン町の大工に発注してやってくれ」

「はい!」


 もう俺自身が名誉国民を貰ったってことよりも、ドミニク卿の幸せに鐘を鳴らしてあげたい!


 この立食パーティーホールには、帝都に二台しかないと言われているピアノが、一台置いてあったんだ。

「ねえ、セイラード殿下、あのピアノを弾かせてほしいな」

「え?ほんと?ひいてくれるの?良いよ良いよ!ちょっと待ってね、おい、誰かカギを」

「大丈夫ですよ、こんなことがあるかと、鍵は開けられおりますよ」と言ってくれたのはダンテさん。

「やった!」


 おれは前に中学の担任の先生の結婚祝いに、クラスみんなで合唱した時に伴奏した曲があったのだ。

 その楽譜は母さんがちゃんとウエストポーチに入れてくれている!


「ドミニク卿、俺からのお祝いを、あちらへ行きましょう」

「何言ってんだ、今日はお前のお祝いのために集まってるんだぞ」

「じゃあ、とにかくみんなめでたいってことで。他にも新婚さんとか近く結婚する人が居たらいいな」

「まあいるでしょう」セイラードが後押しの一言を。


 楽団が静かにならしていたBGMが止む。


 そして給仕で控えていた二人の男性がピアノの蓋を開けてくれる。


 じゃあ、失礼して。

 まあ、今日お集まりいただいた皆さんへの返礼も兼ねてお祝いの曲を二つ歌おう。


 どうしても、手足を伸ばしたくて、ピアノに向かいながら少し身長を伸ばす。十歳ぐらいなら男子ならオクターブに何とか手が届くし、ペダルも余裕、それでもってまだ声変わりはしないので女性ボーカルの曲なら大丈夫。譜面台に一曲ずつ楽譜を広げる。前にひいたときにコピーしてテープでつなげて貼り合わせている、めくらなくていい一枚ものの楽譜を二曲重ねて置く。

 結婚式で定番と言われている、蝶々の歌を俺なりに可愛く歌い、花束の歌を力強く歌う。二曲で時間的には十分ないかな?


 また、キュアちゃんがエフェクトを出してくれていた。新婚さんの頭上に。うん!それでいいんだよ!


 ドミニク卿のおかげで、なんだか俺も幸せになって、気持ちよく歌った。


 また、拍手を貰って二人を見ると、二人とも泣いてしまっていた。戦争もあったし、ドミニク卿は体が不自由だったし色々あったのかもしれないな。泣かせちゃってすみません、でもおめでとう!末永くお幸せに!


お星さまありがとうございます。もっと頂けたら♪

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