85【ゲットしたのはお宝より良いものだったかもしれない】
秋の遠足なのに学友無し(ボッチ)で潜った、学園の隣の森の奥のダンジョン。
お弁当を食べてアンデットゾーンを過ぎた先が グランドキャニオン風の砂漠だった。
気温は、寒いです。砂漠は全部暑いって思いがちだけど、地球にも寒い砂漠ってあるよね、モンゴルとか南極大陸とかさ。
そこはスキップフロアになっていて、階段を行くのではなく、段々になっているフロアをおりていくんだよ。とは黄色ちゃんの情報です。うん、だって遠足のしおりは冒険者じゃない人用のフロアまでで。それ以下は自分でギルドで仕入れるように言われていた。でも、ダンジョンマップって結構高額でさ、俺はお金はあるけどケチってしまいました。
だって、力強いお友達がいるんだもん。一人じゃないよ!寂しくないよ!精霊ちゃん達と一緒だもん。楽しいよ!
何枚かの棚を行った先にボスが地面から出てくる場所があって、こいつがフロアボスだ。
でっかいスナギツネが出てきて、体のまわりに砂嵐を纏っている。
この世界の狐ってなんで可愛くないんだろうね。魔物図鑑で見たのもそうだったけど、目つきが最悪だ。赤いし。小さいころに児童図書館の絵本で見た狐とか可愛かったのに。可愛くないから遠慮しないぜ!悪いな。一撃で倒す。
そして、また同じようなスナギツネが。フロアの先を行くたびにだんだん大きくなっていく。ちょっと違うアプローチでアタックしてみようかな。
多分こういう、乾燥したところを好む奴って絶対シャワーやお風呂嫌いなんだぜ。ってなわけで俺は、青色ちゃんを二人呼び出す。男の子バージョンも来てくれた。
「このこはきっと砂だらけだから、洗ってあげようね」
“きれいにしてあげよう” “たきのしたであらっちゃうぜ”
スナギツネの頭上から、大量の水をどわぁっとぶっかける。
ウオオオッ
凄い叫び声をあげてのけぞる狐。やっぱり分かってないなー。のけぞるから顔にお水がかかるんだよ。
しばらく流れていた水流が終わる。
ごわごわに広がっていた毛が一発でしゅーんとなって、
“ほっそ”
“よわそう”
「そうだね、蹴ってみようかな。えーい」
凄そうに見えたスナギツネは水をかけて蹴とばしたら消えていきました。ドロップアイテムは無し。魔石ぐらいください。
でも、こういうのを倒さないと次のフロアに行けないんだよねなんて思ったら、次のフロアが二つ出現した。
「どっちが良いの?」
もちろん、聞くよね。
“こっち” “えーこっちだよ”
これは、緑色ちゃんと黄色ちゃんで意見が分かれました。
「それぞれ詳しく」
“こっちはいっぱいあそべるし、みんなおみずによわい”
緑色ちゃんはフロアを制覇していくルートってことだね。
“こっちはひとつやっつけたら そのあとは あなでひゅーんとえっと、ちかごじゅうへ”
ショートカットってことだな。一気に最下層!最高じゃん。
まだ午後十五時。
「緑色ちゃんごめんなさい!黄色ちゃんを採用」
“がくーん”
「ごめんて!」
お詫びのチョコ。
“やったー”
喜びに舞い踊っている黄色ちゃんには採用祝いのチョコを
他の子にも配るけどね。青色ちゃんはさっき水をいっぱい出してくれたし。白色ちゃんとかもその前のアンデットゾーンで頑張ったしね。そうやって遠足ならではのおやつモグモグタイムをとった。
そうして五十階にショートカットした俺は、これぞ砂漠って風景を飛んで超える。上の砂漠と違って、暑いです。気温はえっと温度計で、四十度。インフルエンザに罹った人の体温より高いのでは。なんかギラギラした太陽が真上にある。もう三時なのに!
俺は一度、アナザーワールドに入って革鎧を外し(まだ海竜の鱗を貼ったのはもらえてない)長袖長ズボン、バンダナ、そして、水泳用のゴーグルを装着して出た。
日光かどうかわからないけど直射はだめだ。これでも色白ちゃんなんだからきっと紫外線に弱い。普通の人なら。
もちろん服には全部温度調節機能を付与しています。着るエアコン。
「さて行くぜ、遮るものはいないんだから、一直線だ」
“おうじこっち!”
不採用だったのにちゃんと方角を教えてくれる緑色ちゃん。いい子だ。
「ハロルド暑いの大丈夫?」
『大丈夫だよ』
じゃあ出てきてもらっちゃおう!
手綱を煌めかせて、ペガコーンが出現する。念のために風魔法と、逆に発動した火魔法で周りを涼しく包む。
さあ行くよ。
砂漠の上をペガコーンって反則だろうな。蹄のはるか下の方で、五階建てのビルほどありそうな、でっかい蠍が苛々したように鋏を振り上げたり、尻尾を砂地にたたきつけては砂埃を巻き上げている。
「残念でしたーあっかんべー」
『残念でしたー』
“あっかんべー”
あっかんべーを二十匹ぐらいの大型蠍にかまして空を駆けていく。
うん、みんなでダンジョンを馬鹿にしているぜ。
でも凄く広い。前にラーズベルトから帝都に飛んだぐらい距離があるね。早馬で二日って言ってたっけ。四十分だけどね。そんな熱い砂漠を反則わざ無しでは無理だわ。うん。多分砂漠を歩くと砂にこもった熱とか照り返しの熱とかすごいだろう。ビーチに住んでいる俺は分かっているぜ。
“あれ、あそこに、だんじょんぼすがいるの”
俺の目の前を飛ぶ緑色ちゃんがちっちゃい人差し指を向こうに突き出す。
砂に埋もれた遺跡のようなものが現れた。
お城の跡かな。ポリゴンの教会のような柱が並んだ感じもわかる。教会かな?
入り口がぽっかりと空いている。
その前にかろうじて砂にまみれた石畳がある。
「ありがとハロルド、また夜にちゃんとブラッシングするね」
『うん、まってる!』
そう言うハロルドを俺の中に戻す。
柱の間に扉。ドアの取っ手をちょっとつつく。だってここは日光に当たってるんだもん。 やっぱり熱っ、手袋しなきゃ。
子供用軍手をはめながら、ドアの取っ手に冷たい水をジャージャーかける。
扉を開けて、そこに入ると今来た扉が勝手に閉じて消えてしまった。
「後戻りできないってことだね」
扉が消えたことは、自分の目で見たわけじゃなくて、白色ちゃんの視界で共有したから。 五十階層のフロアボスは最下層だからダンジョンボスだ。たぶん俺が初めての挑戦だ。だから前を向くしかない。何がいるか分かっていないから。だけどこいつは・・・。
「あなたは、ツタンカーメン?」
だってどこかで見たような金色と青のストライプの帽子?冠?を被った人の顔がまあまあ上の方から青い目で見下ろしているのだ。
そいつがのっそりと近寄ってくる。そして目が怒っている。
『むふー』
鼻息も荒い。
間違えたかもしれない。顔はツタンカーメンっぽい。
だけど体は動物。金色というか黄土色というか、ライオンかな?縞がないから。
あ、この人は
「スフィンクスさんだ!」
たしか何かのゲームで出てきたから知ってる。俺がエジプトの古代文明に詳しいわけではない。そして言うべき答えも知っている。
なんで、こんなゼポロ神の世界にいるんだ?そういう事ではないのか?
『よく来たな、ゼポロの孫よ』
うひゃ。
『汝はこれからいう、なぞなぞが答えられるか』
きた!こたえられるぜ!
「はい!答えは〈人間〉です!」
『むぅ、まだ問題を言って無いぞ』
しまった!間違えた。食われるのか!
身構えていたら。
『答えは合っているからな。とっておきのなぞなぞだったのにな。残念だ』
そんなにショボーンとしないでーと心の中でつぶやいていると、スフィンクスは小さくなっていく、最後はガチャガチャのカプセルトイみたいな大きさになって動かなくなった。人間だと思っていた顔は、女の子が遊ぶ着せ替え人形の彼氏みたいに柔らかいプラスチックのようになっていた。
そのタイミングで携帯のアラームが鳴る。午後十六時半だ。そろそろ地上に戻らなくちゃ。
大きなスフィンクスの居たフロアの後ろで、宙に浮いた大きな魔石がゆっくり自転している。あれがこのダンジョンの核ってやつかな。あれを取ったら、もしかしてまだダンジョンのどこかにいる生徒や冒険者が危ないかもしれないんだっけ。
その手前に宝箱?鑑定して見たら差し支えなさそうなのでそのまま、さっきのと同じようにサブボックスに入れる。あちらこちらに入れたら面倒だもんね。
俺はなぜか小さいスフィンクスを拾って手に乗せてみる。
「生きてる?」
『王子よ、わたしは生き物ではない』といって、手の上でライオンの体が立つ。
俺を王子って呼ぶってことは、
「ハロルド、この子って」
『初めて見たけど、同じみたいだねえ。僕はあの湖から遠くに行った事がなかったからね』
“このこは、ずぅっとここにいて、うごかないの”
緑色ちゃんの解説。
“あたしも~まえに かおみたのは いつだったけ、えっと、さんぜんねんまえぐらい?”
黄色ちゃんも久しぶりらしい。
「スフィンクス」
『なんでしょう』
呼び捨てでも大丈夫そう。
「また今度会おう、じゃあ元気で」
手に乗せた彼をまた地面に置こうとすると、
『え?ちょっと』
スフィンクスは慌てて俺の袖口を咥えて引っ張る。
「え?なんだよ」
『えー、置いて行っちゃヤダ!』
小さくなったからって可愛く言ってもお前は可愛くないぜ!
『王子ぃ。わたしずっとここで、うっひっくひっひとりで』
あ、泣き出した。
なんかこれ、俺は悪くないよね。
初対面はあんなに威圧して来たのに、何だこの変わりようは。
「もう、しょうがないな、ちょっとここに入ってて」
アナザーワールドを開けてテーブルに置く。
『わ、私ダンジョンから出られるの?』
「ここは俺のアナザーワールドだからもうすでにダンジョンではないな。
ダンジョンから?出られなかったの?」
『そう。かれこれ三千年以上』
「・・・こいつはダンジョンから出してよかったのか?」
“だいじょうぶじゃない?”
“おうじしだい”
“こいつ、りょうりじょうずなんだぜ”
赤色くん、良いこと教えてくれた!それは大事なことだな。
『呪われた私なんかだめだと思っていたのだ』
じゃあ、何が原因か分からないけどとりあえず〈隷属解除〉
すると小さなスフィンクスは小さなライオンになった。
「あれ?人間の顔は?」
『もともとこちらです』
といって金色のスーツを着た男性になった。サイズは他の精霊ちゃんが大人になった感じ。
「どっちにもなれるの?」
『はい』
「頭だけ人間は?」
今の顔はツタンカーメンみたいなのは被っていない。
『もう無理です、あれは呪われていたからなのです』
うーん
「人型は大きくなれるの?」
『あ、はい。どちらも大きくなれますが、大きいのは可愛くないと思いますけど?』
といいながら、ゆっくりと大きくなって途中からテーブルを下りて床に立つとウリサ兄さんぐらいの身長で止まる。
おお、中々かっこいい紳士じゃないか?うん、イケメンだ。金髪の碧眼で褐色の肌。なんか欧米系のがっちりしたイケメンだ。
思わずざっくり鑑定する
〈スフィンクス 上級精霊 スキル獣化 家事全般 経理事務 五属性魔法 元ダンジョンラスボス〉
これは!すばらしい!
「よし、スフィンクスくん、このアナザーワールドの管理をお願いできますか!」
だだっ広い空間の向こうの方に森その手前の平地を畑とかにしたいんだよなー。そしていつも出入りしているところに家。
「俺さーこう見えて忙しくてさ、掃除とか片付けが中々で。頑張ってるんだけどね」
“あたしたちは、おおきくなれないから、むりなのー”
黄色ちゃんも気にしてくれていたんだね。
『わかりました、誠心誠意頑張らせていただきます』
「たのんだよ。まあ、のんびりやってくれたらいいんだけど」
『・・・いえ、もうのんびりはこりごりです』
「ははは」
“こりごりー”
“こりごーり”
スマホの時計は十六時四十五分。
「今からダンジョンの外に出るけど、怪我人居る?」
“さっきいたけど”
“みんな、ちりょした”
「キュアちゃんえらいぞ!」
“えへへー”
「ダンジョン制覇しただとー」
アマラントさんが叫ぶ。
「はい!ダンジョンボスはこの子」
といって、金色のライオン姿になってもらったスフィンクスを出す。
スフィンクスはライオン状態になっていたら、ハロルドと同じように俺から出入りできる。ただし、俺のスキルではなくて、俺と一部のスキルを共有できるらしい。まあそれは家事スキルと経理事務のスキルだけどな。それはそれでありがたいからいいけど。
スフィンクスをルーペ状の鑑定の魔道具でみるアマラント卿。
「たしかに、元ダンジョンボスとなっているな。しかし、今は〈シュバイツの従僕〉となっているが」
あれ?いつの間に変わった?
「はい、こう見えても王子なので。王子と言えばライオンがペットでもいいでしょう?王宮で飼わせてもらおうかな?」
適当なこと言ってるぜと思いながら、フォレストボアのチャーシュー丼も鑑定してもらって、〈ダンジョンでゲットした食材〉と表示され、条件をクリアしたので、指をくわえてみているカーリンや殿下達に一切れずつおすそ分けしながら、食べた。
ちなみにスフィンクスはライオンに変化するとは言え、完全な肉食ではなかった。普通に人間の味覚だったので、今後の料理に期待している。
というわけで遠足一日目にダンジョンを攻略し終え、アナザーワールド専用の執事をゲットして終わった。
金銀財宝や変なお宝より良い出会いだったのは確かである。
遠足二日目は、あのダンジョンのラスボスがどうなったのか気になったので、スフィンクスがいたところまで転移で行く。
すると、ダンジョンコアの前の宝箱があった場所に、ダチョウぐらいの卵が鎮座していたので、それをそうっとしたまま、グランドフロアに戻り、普通科の子とお友達になりながら、いろんなものを採取する一日にした。
立派な松茸を籠いっぱいに収穫しました。みんなには価値が分からないみたいなので。独り占めです。父さんに少し分けてあげようかな。
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