84【遠足はダンジョンハイクで】
学校の秋の行事と言えばそう、遠足です。
日本にいた時も、春の遠足は単純に観光とか歴史のある史跡をたどったりとかそういう文化的なものが多かったけど、何故か秋は、ハイキングとか蜜柑狩りとか、フィールドワークとか体育系になったんだよね。運動が苦手な子や文科系の子は全然楽しみじゃないとか言ってた。自分は好奇心が多い方なのかどっちでも楽しかったけどね。
俺が通っているガスマニア帝国国立学園では、学園の隣の森の奥の方にダンジョンがあるそうだ。そこに潜って行って帰るというのが、遠足だ。
まず冒険者登録しているものとしていないものに分けられる。そして、冒険者はランクによって即席のパーティー分けをされてランクの上から潜るのだ。
現在王立学園に所属している冒険者で最高ランクのやつはD、先日カーリンも単独Dになったそうだね。冒険者は、最低のGランクは難しいけれど、Eランクは危険な依頼は少なく、毎日のようにちゃんと頑張れば十分生活できるのだ。その上のD以上は、魔物討伐の際には強制的に召集が掛かったりするが、断然報酬が変わってくるので、毎日がつがつ活動しなくても余裕なので、EとDの間には深い隔たりがある。そして、Dランクから上にランクアップするには普通十年単位の活動が必要とされていた。
そして、俺はたまたまクラーケンを討伐したことによって得たAランク。うん、経験は全然ない。でも今日は絶賛ぼっちでダンジョンチャレンジをさせられることになった。遠足って一人ぼっちで取り組むものなの?
ただ、こう見えてもおれは隣国の要人なので、連絡用の魔道具を渡されている。
「えっとこれは」
「ここを押すと、通話が出来て、こちらのランプが光ると、このボタンを押せば相手の会話を聞ける」
・・・めんどくさい。インとアウトが別のスロットなのね。やだ。妖精ちゃん達の便利さをもう手放せない。でも、せっかく用意してくださったので黙って借りる。
ダンジョンは普段は冒険者の小遣い稼ぎのための施設だ。魔物の肉や素材を得てギルドに売れば、安定した収入になるそうな。それでも他の依頼もあるので、時期によってはギルドに来る人が居ないときもある。まあその程度の魔物だ。だが、放置しすぎると去年末のように溢れて大変なことになったりするのだ。というわけで、今回の遠足は、去年のようなことが出ないような予防も兼ねていると。
入り口の前には、広場があり、ギルドの出張所と、野営のためのトイレやシャワー、キャンプをするスペースが揃っている。今回は遠足のくせに一泊二日(林間学校ではないのか)で、今日は二つの転移魔法の道具を渡されていて。一日目の夕方には転移の魔法道具を置いて戻ってきて、次の日の朝に続きをアタックするようになっているそうだ。
「では、シュンスケタナカ」
「はい!」
「最下層の五十とは言わないが、せめて三十を目標に。今日は十八ぐらいかな」
「がんばります」
今回の遠足の統括は、この帝都の副ギルドマスター兼学園長にして公爵(皇帝の従弟だそうだ)の、アマラント卿、この人は元Sランクだ。髪の色は殿下達と一緒。ボルドーカラーで目は濃い青色だ。
ガスマニアダンジョンは最下層が五十と言われているが、確かではない。まだ最下層に到達した人はいてないそうで、最高は三十五階層だ。そこに過去に行けたのはこのアマラント卿たちのパーティーだけだそうだ。
異世界ならではのダンジョンにいよいよ行けるとあって、うきうきで入り口前に立つ。
時間は、朝八時。一番最下層を目指す俺から入る。
「シュンスケ・・・頑張ってね」
俺の次はカーリンとブリド、そして新五年生の二人のDランクパーティだ。
「健闘を祈る」
「そっちこそ、怪我しないでよ。でもあれ持った?」
「もちろん」
そう、同級生には一人一本ずつエリクサーを貸し出しております。これで心置きなく出発できる。
バタン。
えーっとこれは、扉をくぐったけど、やっぱり明るい森の中。微妙に植栽の位置がずれているので、違う場所に転移したような感じだな。階段はまだ上り下りしていないので、GFというところだ。
遠足のしおりにはGF層の地図が付いていた。地下二階層までは、冒険者じゃない子がアタックするところで、梨や林檎、柿、栗など木になる果物やキノコなどを採取するエリア、ときどき野生の普通のイノシシとかが出るそうな。イノシシでも、日本人感覚じゃ十分猛獣だけどね。ぶつかったら死ぬし!でも、こういうところを回る方が遠足って感じだよね。あと、キノコだけに特化した鑑定の魔道具をグループごとにレンタルされている。毒があるかどうかとか。俺にも渡されたけど自分のスキルで鑑定出来るから要らないよね。
半分以上の生徒がアタックする場所だけあって、もともとの森ぐらい広いです。一番危ないのが迷子になって戻ってこれない事らしい。
俺は、梨を一つ頂いて、そのまま木の間をひょいひょいと飛んで行く。猿じゃないよ!精霊ちゃんだもんね俺。地図に乗っている次の階層への階段の入り口を目指す。
「ここか」
そこに横たわっているのは、大きな蕪だ。
これは、みんなで引っ張るのがセオリーかなってめんどくさいー。
俺は蕪をそのままサブボックスに収穫というか収納した。すると、蕪のお尻の大きくくぼんだ跡に下へ続く階段が出現した。
「うん、楽勝だね」
階段を降りきると、上の方でどさりと音がした。見上げると階段の穴に白いものがかぶさっていた。
もう蕪が再出現したのか?早い。
しかし、サブボックスの蕪は無くなっていない。
鑑定では〈甘くて美味しい蕪、煮てよし焼いてよし、葉も捨てるな〉とあった。さっそくダンジョンの恵みよありがとう。
地下一階層は少々生き物が増える。
階段を下りたところから、ハイキングコースのような土の道が蛇行をして進む、後ろは崖になっていて、後退はできない。地下だというのに蕪のおしりのまわりはもう空になっていて、太陽はないけれど、GFよりは少し樹木の密度が少なくなり、代わりに清らかな水が流れている。しかし、しおりや鑑定によると、ここでとれた魚は生食不可。必ずよく焼いたり煮たりして食べること、と出ている。そんな魚は不要だな。
しかし、昼ごはんは弁当でもいいが、夕食は炭水化物以外は必ずダンジョンで採取したものと言われているのだ。きついね。
まあ、食材はもっと下でも出るので、個人的に美味しそうではない階層はさっさと通り過ぎる、
地下三階層に来た。ここからは冒険者だけのフロアとなり、ちらほらと大きめの動物と小さな魔物が出てくる。
動物と魔物の違いは、母さんの小説にもあったのと同じで、魔物には俺達魔法が使える人と同じで、体の中に魔力が循環していて、心臓の近くに魔石があるそうだ。魔法使いも体内に魔石がある人があって、魔力の強い人の中には大きな魔石を持っている人もいるらしい。俺にも魔石があるのかな。かなり魔力は多い方だと思うけど、そんな大きな魔石が入るスペースがそもそもこの六歳児のサイズの体には無いぜ。
だから、この世界では魔物イコール悪い動物ではなくて、大量発生したり大きく力が強いので遭遇すると危険だから討伐するということになっている。あるいは食料の一種という事でもある。他の動物と違って絶滅などは考えずに狩り尽くしてオッケーなのである。
「お、フォレストボアの瓜坊。可愛いけどほんとごめん」
プスッと脳天を一撃。
穴を掘った地面に向かって血抜きをして、熱湯をかけてから皮をはいで・・・小さいから解体も楽。
うん、俺一人の晩御飯ならこれで十分だよね。
ブロック肉にしたら塩コショウとハーブを塗りこんで、アイテムボックスに入れる。さっきGFであくの少ない山菜も採集済みなので、晩御飯の件はこれで解決。まだ朝だけどね。
あとは、ときどき水を飲みながらひたすら下へ進むだけ。水はもちろん女神さまにもらったポットから出してます。カーリンもそうしてるみたいで、疲れてないんだって。良かったです。
一応やばいやつは討伐するけどね、売れそうなもの以外はダンジョンに吸収されるそうなので放置で進む。
というわけで年末に出会った針金ヒヒは美味しそうではないので、討伐しながら放置。
オークとミノタウロスは収納していく。蛇や虫系は好きなやつはいるらしいけど、俺は討伐さえご免蒙りたいのでスルーで、どんどん進む。
そうして気が付けば地下二十階に到達していた。
通信機がピコピコ言いながら光っている。
「はい、こちらシュンスケ」
『おーシュンスケ、もう昼だぜ今は何処だい?』
副ギルマス兼学園長のアマラント卿だった。
「いま丁度二十階層ですね」
『まじか、早いな。昼めし食う場所あるのか?そこはいきなり真っ暗だし臭いだろう?』
そう、ここからはいきなりのアンデットゾーンになるので、臭いんです。
いままでマイナスイオン豊かな自然がいっぱいだった。一個上は熱帯植物のジャングルだったけどね。
「だいじょうぶです。えっと、アナザーワールド使っていいですかね」
『そうか、さすがにお前は良いスキルを持っているんだな。もちろん良いぞ。落ち着いてゆっくり食べた方が、昼からもしっかり活動できるからな』
「はい、ありがとうございます!」
お言葉に甘えて、アナザーワールドに入り、軽くシャワーを浴びて着替える。そして、キッチンで、さっき仕込んだフォレストボアの肉を太い糸で縛って、フライパンで表面を焼いていく。
そして、片手鍋に酒・醤油・ショウガ・砂糖と蜂蜜と塩を入れて火魔法で溶かして、焼き目を付けた肉を入れて煮込み開始。
煮込んでいる間に、おにぎり弁当を食べる。
「みんなどんな感じだろう」
さっき、Gランクパーティの子が怪我してたよな。魔物にやられたのじゃなくて、躓いて転んで。
「キュアちゃんちょっと、それ食べてからでいいから行ってきてくれる?」
小さくちぎった唐揚げをほおばっているキラキラしたプラチナ色の妖精ちゃんにお願いする。
この子は俺が初めて生み出したらしい聖属性の精霊ちゃん。だから名前も俺が付ける事が出来た。しかも、
“うん、しゅばいちゅおうじ、いってくゆ”
舌足らずにも俺の名前を言ってくれる。・・・可愛すぎだろ。それにこの子は、他の子と違って、甘いものも好きだけど、お肉も好き。食べ物の好みが大人だった。そんなギャップもいいぜ。
口のまわりが鶏の油でギトギトしているので、おしぼりで拭いてやるその端っこで自分の手も拭いている。
ウエストポーチに入れてきた、ユグドラシルの葡萄をちぎって他の精霊に与えながら、自分の口に放り込んでいるうちに、キュアちゃんが帰ってきた。
“せいらーどがここんとこ、けがしてたから、そっちもよりみちした”
≪ここんとこ≫っていいながら自分のひじの辺りを指さすのがたまらん可愛い。なんだろこれ。うん、ちょっと女の子のパパになりたての男の人の気持ちがちょっとわかるかも。
「そっか、えらいぞ、おまえも葡萄貰おうな」
“あい!”
人差し指で頭を撫でる。
“セイラードが、さんきゅっていってたぜ”
赤色君からも報告が有りました。
キッチンの火を止めて、鍋で焼きボアを放置してダンジョンに出る。
「くっさ。違うフロアに戻って食べればよかった」
吐きそう。不織布マスクをして、胸元にローズマリーのアロマオイルを垂らす。これで自分の顔のまわりの臭いだけは防げるだろう。
「じゃあ、突っ切りますか」
全身から聖属性魔法と光魔法で紫外線を出す。
ピカピカきらきら光りながらダッシュで出口を目指す。ふふふ、マッピングは不要だぜ。紫色ちゃんがナビしてくれるからな。暗いエリアはこのコにお任せ。
ゾンビとかグールとか色々諸々が俺のまわりでどんどん消えていく。何もせずとも勝手に。なぜ?
最後にボス部屋に到着。
今までのボス部屋は、まあ普通の刀や剣ではヤバイと思っても、風の女神のミッドソードの前には敵がいなかった。一刀両断で、堅そうなゴーレムでさえ蒟蒻のように切れてしまうのだ。我ながらずるい武器だぜ。
でもさすがに地下二十階層でしょ、油断はだめだよね。
俺は今まで以上に慎重にそろりとボス部屋の扉を開けた。とたんに、ドーンという音がした。うわっもう来た?と思って身構えたら、司祭様の服を着た骸骨があおむけになってひっくり返っていた。あれ?なんで?と感じる間もなく骸骨はサラサラと粉になって消えていく。服も残っているけど気持ち悪いから放置していいですか?
“さすがおうじね”
“あんでっどには、おうじのせいぞくせいまほうは、げきやくね”
俺の魔法が毒みたいな表現はやめてください。
貴金属や魔石っぽいやつだけ、気持ち悪いからサブボックスにいれて、その奥にある宝箱も箱ごとサブボックスに入れる。
すると、下に行く穴が出現したんだけど、司祭様の服が被っていたので、足で蹴飛ばしながら穴を広げて、その下へ進む。
そこから地下三十階層までは同じようなアンデットのフロアで、ひたすら暗いところを自分自身が光りながら走っていく。途中から、バキバキと骨を踏み始めて、走りにくいし、気持ち悪いので、翅を出して飛ぶ。
「やっと、アンデットゾーンを過ぎたぜ」
早く通り過ぎたくて、飛んで進んだから、まだ十四時だ。十六時以降十七時までにはダンジョン前に集合になっている。早すぎても成績に響くのだそうだけど何の成績に?遠足でしょ。
そして眩しい階段を下りてたどり着いた、地下三十一階は、パソコンの待ち受けでよく見た、グランドキャニオン風の場所だった。
今日も夜も1本予定です~
お星さまありがとうございます。もっと頂けたら♪
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