80【パレード♪パレード!】
その日はまだ夏だというのに夜明け寸前から起床して、ユグドラシルの風呂に瞬間移動できる魔道具がなんと自室の洗面所の側にあって、クリスに連れていかれ、彼の手で全身を磨かれてしまった。ちょっと恥ずかしい。
そうして、今度は寝室に戻り、今日の長時間の行事に疲れることがないよう、マッサージまでされてしまった。子供の体はなぁ、くすぐったいだけなんだぞ。笑い転げて疲れたじゃん。きみ、受験勉強の合間に何の勉強をしてたのだ?
「プランツさんに教わったんです」
そのうえ、今までにないキラッキラの地模様の光る白い生地に、金色で縁取りされたジャケットスーツ、なのにショートパンツにニーハイ状態の足。俺に絶対領域は需要はないだろう!って突っ込む相変わらずのファッションだ。
何故かすっかり床まで引きずる髪を、編み上げたり三つ編みしたりして、ひざ下ぐらいまでに調節してもらった髪をぶら下げる。クリスが血筋のせいか結構器用で、ちゃんと男の子らしい仕上がりに結ってくれるのだ。
今回もマントはお断りして自分の翅を出す。こっちの方が軽いから!
「早く散髪して、ハロルドの手綱にしてもらわなくては」
「あんなに短めの髪型にこだわっていたのに伸ばしていたのはそういう事だったんですね」
「そう、ウリサ。あとは鞍なんだけど、そっちの素材が、ここら辺にはなくてね。まあ、機会があったら探しに行くんだけど」
俺の部屋にはウリサ兄さんもいる。やっと呼び捨てが出来るようになったんだけど、一呼吸が毎回必要だ。
「その時は、必ずお連れ下さい」
「殿下、僕も!絶対だよ」
ウリサ兄さんとクリスもいつもより数段上等だと分かる装いだ。
「もちろん」
コンコンコン
「はいどうぞ。あ、父さん」
今日のブランネージュ フォン ロードランダ国王陛下父さんは、絹のような素材の聖職者のような衣装で、これもまた、緻密な模様の地模様と、きんきら金の刺繍で、いかつさはないけど、華やかな装いに、ティアラに近い王冠を被っている。
「駿介。わあ可愛いね」
父さんは、いつも駿介と呼んでくれる。この名前も父さんが一生懸命考えてつけてくれたらしいからね。子供が生まれて二種類の名前を考えるのも大変だったんだろうな。
駿介の駿の文字は、風を操って早く走る馬って漢字で、父さんも大好きなハロルドのイメージなんだって。俺もハロルド大好きだから、嬉しいぜ。
“僕も王子が大好きだよー”
でも、シュバイツとしてこの国に来てからは、父さん以外はシュンスケとは言ってくれなくなってしまったよ。早く海のお屋敷に帰って学園に行きたいな。だって、まだここが俺の家とは思えないしね。
「それで、これを被ってみて」
父さんは手に金色の葡萄の蔓をかたどった輪っかのようなものを持っている。
「こ、これは、アティママ神様の・・・」
「似てるでしょう?これは、ユグドラシル様の冠を模しているんだよ」
「ユグドラシル様も人型のお姿があるの?」
“おや?みせてなかったかしら?”
「うん、あ」
窓際に現れたのは、アティママ神に似た、でもパールのような白い髪に白いお顔の、天平風の天女のような女性だ。土の女神より少し軽やかな印象の衣装に薄絹の領巾を纏っていらっしゃる。おばさんと呼ぶってやっぱり難しいよね。
「ああ、なんて美しい。いつもお声だけで」
「本当です。お姿を見れて光栄です」
俺とクリスが窓際に掛け寄る。
確かに父さんが持っているような冠を被っていらっしゃる。クインビーちゃんは色があるんだけど、他の固有精霊さんは基本真っ白だ。
「これは、お久しぶりです」
『ブランネージュは久しぶりですね』
「そうなの?」
「ああ、三千年ぶりだね、お姿を見たのは。会話はしていたんだけど」
『王子が近くにいるから見えたのですよ』
「父さんは今はハイエルフだからね。精霊じゃないから難しいのだ。
そう言えば、久しぶりにムーさんやハロルドに会えたのも、駿介が近くにいたねえ」
え?あれって三千年ぶりなの?
『ねえ、王子、僕も出して』
「わ、わかった」
ハロルドを部屋に出す。
『ハロルドも、可愛い王子を見たいのね』
『うん。わあ素敵だね』
「そう?サンキュ、あ、窓から誰か」
「クインビーちゃんだ」
クリスも分かったみたい。
『おめでとう王子。ねえ王様、その冠を早く王子に被せて』
「あ、ああ」
うん?なんか乗っかった?全然重さがないんだけど。
「ふわあ、まぶし」
クリスがつぶやく。
「ええ?」
「ああ、冠を乗せたとたんに殿下がいつもより光っている」
ウリサ兄さんの言葉で、姿見を見る。
「うえ」
こんなエフェクト要らないんだけど!
『素敵ね、私、今日はこの一等席にお邪魔しようかしら』
と言って、鏡越しに冠の中にクインビースピリットが座るのが見える。
『じゃあ僕は後ろを歩く』
「いや、ハロルドは一旦俺に戻って」
『わかった』
「今更建物の中の階段もな、バルコニーから出るか。こっちに」
ウリサ兄さんのつぶやきに父さんも答える。
「そうだね。私が先に真ん中にいくから、後でおいで」
色々考えられていた段取りを、いきなり始めから変更できる臨機応変さもすごいよね。
バルコニーに出た父さんに民衆が声を掛けている。
今日はお城の門が解放されて建物の前の庭園の広場には人が溢れている。
わあぁぁ
おおおぉぉ
父さんは人気なんだなー。さすがだぜ。
城の前から、王都の湖の辺りまで、沢山の人が押し寄せていた。
凄い人。
東京のやんごとなき人の年賀の挨拶のようだ。テレビで観たのしか知らないけどね。
ウリサ兄さんに手を取られて、父さんのいるバルコニーまで行く。
だけど、立派な手すりに体の半分は隠れている。
「兄さん、クリスと一階の玄関に出ておいて」
「わかった、行こうクリス」
「私たちも降りますね」
プランツさんとクリスが離れていく。
『国民の皆さん、そして世界樹が認める皆さん、紹介します、我が息子、
シュバイツ フォン ロードランダ です!』
父さんの発声の後、バルコニーの三階の手すりに立って、両手を振る。
どおっ
大衆から発せられる声が大きくなっている。
それを、黄色ちゃんに抑えてもらった。
俺は自分のより大きな、ハロルドの白い羽根を借りてバルコニーから飛び立ち、ホバリング状態で、民衆の中ほどまで進む。
お尻のポケットから出したスマホから、風の女神さまのチェンバロの伴奏のイントロを流す。それを黄色ちゃんに王都中に拡張してもらう。そして、自分の声も
~~空から降りて~~
~~山をかける~~
~~川に沿って~~海を超えて~~
~~今日も明日も~~風は歌う~~
~~世界の~~心を~~
お父さんがお世話になった人たちに、今はこれぐらいしか出来ない俺だけど、
みんな!こんにちは!初めまして!
シュバイツ フォン ロードランダこと
田中駿介です~
よろしくね~
という気持ちを込めながら、風の女神の歌を歌う。
いつもよりかなり広い範囲を濃度は薄く聖属性の魔法を発動する。
北国とは言え、夏の晴天の下、キラキラは見えるかな~なんて思ったけど、
ハロルドの白い羽根や、ユグドラシルの山のような枝葉、そしていつの間にか湖の上に現れて浮かんでいる、白鯨のムーさんからも潮吹きのようにキラキラと魔法のラメが降っている。
湖に鯨って・・・。
「もう一回歌いまーす。みんなも歌いましょう」
そうして、同じ曲をもう一度。
目の前の大衆が、一体になって同じ歌を歌う。
ハロルドが俺から飛び出て、俺を乗せる。今度は自分の翅でラメを飛ばして回る。頭の冠ではクインビーが自分の翅をパタパタしてラメを飛ばす。
その後ろを、天女のようなユグドラシルが飛び、その後ろを父さんが。そして白鯨がゆったりと列になってぐるりと王都の空を一周する。みんなしっかり姿を現してくれていて、下の人たちが手を振っている。
いつしか俺は歌を歌い終わったが、民衆は何度も繰り返してくれる。王都のみんなの歌に乗って、精霊たちと空をパレード。
「結構派手に出来たんじゃない?」
『少しやりすぎじゃない?』
『こういうのは派手な方が良いのでは?』
『ホッホッホッ』
ムーさんもご機嫌だ。
グローベスエルフェンス城の前に降り立ったのは、ハロルドに乗った俺と、父さんだけだ。いつのまにか、ユグドラシルの姿はなくなり、白鯨の姿は湖の上で透明になっている。
そして、黄色ちゃんの音の調節を解除。
わあぁぁ
おおおぉぉ
また、歓声が起こる。と言うかずっと叫んでくれていたんだけど、バルコニーより近いからすごい。
「素晴らしい王子デビューになりましたね」
後ろに着いたウリサ兄さんが言う。
「そう?」
「まあ、千年は語り継がれるのではないでしょうか」
「クリス、千年は言い過ぎでは?」
「そうでもないですよ。我々はエルフですからな」
プランツさん・・・
王都ではこれから二週間、お祭りだそうです。
今度はペガコーン状態のハロルドに乗ったまま、お城からまっすぐ湖に向かってゆっくり歩いていく。
沿道には魔法のロープが張られていて。国賓だろうが上級貴族だろうが、身を乗り出して手を振っている。
俺の前と後ろには、美しい兄ちゃんで揃えられた近衛兵の楽団が、行進曲を奏でながら歩いていく。
ははは、ありがとう、さっきは歌ってくれてどうも
なんて思いながら馬上で両手を振る。
民衆の騒ぎの中でも、親しい人の会話は黄色ちゃんが届けてくれる。
「あ、セイラード第三皇子殿下」
「おーいシュバイツ王子殿下」
とうとう正式に殿下同士になったな。
あ、カーリンと、お父さんの辺境伯と夫人。
「シュバイツ殿下の絶対領域が」
「お母様、鼻血が出そうです」
なに?やっぱり隠そうよ俺の太もも。
その並びにはラーズベルト冒険者ギルドのインテルさん。今度は手綱の相談をしなくちゃ。
反対側には、アルジル伯爵と、その隣のナティエさんとアイラちゃんの側にいるのは!ナティエさんのお姉さん?じゃなくて、
「ねえクリス、あの方たち」
「はい、お祖父様とお祖母様です」
うわ、若い。あれでお祖父ちゃんお祖母ちゃんなのか。うん、まだまだ大丈夫、ちょっと安心。
おれは、馬上だけどぺこりと頭を下げると、貴族らしいお辞儀を返される。
あ、ドレスをきたヴィーチャ姫がいるじゃん。
「南国の人魚なんだから寒くない?肩が出ているよ」
「大丈夫!シュンスケ!シュバイツ殿下!麗しいわよ~」
照れるじゃん。
『あら、あなたは、初めて見る子だわね』
頭の上でクインビーちゃんがつぶやく声がする。
“ほんとだーこのこは、きらきら~”
“きれいじゃん”
どういう事?
白色くーん
“ほい”
俺の頭の上の冠の中で、小さな精霊ちゃんがビニールプールで遊ぶ子供たちのようになっていた。その中に
“これは、ラメちゃんかな・・・”
“あたし、らめ?らめなの?”
舌足らずで〈だめなの〉みたいに聞こえるから不採用で
“キュアちゃんにしよう”
多分、俺の聖属性の癒しの魔法を振りまくってたから発生したのかもしれない。
白色ちゃんの視界越しに見たその子は、全体にプラチナの色合いの女の子の精霊ちゃんで、髪の毛からちらちらと俺がいつも使うようなラメが飛び交っている。
『五属性以外の小精霊は初めて見るわ』
ユグドラシルの声が聞こえてくる。
「すごいですシュンスケさん!新しい精霊ちゃんを・・・生んじゃった?」
「生むって・・・出来ちゃったんだねえ。すごいね。俺が?
たまたまでしょう。」
“でも、この子は大事にしなさいよ”
「もちろん」
手を頭の方に持っていくと、俺の指に乗っかった。
ハロルドの上に乗ったままだったけど、そうっとその指を前に持っていく。
“キュアちゃん。これからよろしくね”
“しゅばいちゅおうじ、はじめまして。よろちくね”
じーん。初めて妖精ちゃんに名前を呼んでもらったぜ。駿介じゃなかったけどな。そんなことはこだわらないぜ。他の子よりさらに舌足らずなのも、生まれたてほやほやだから?
「すごいですねー。綺麗し可愛いし。みんなも可愛いけどね!」
“きゃはは、クリスもかわいいよ”
“え?僕?”
「ああ、こう見えて、こいつら結構」
バシッ
「いてっ」
“なにを いおうとしたのかな”
紫色ちゃんに鼻をペシリとされてしまいました。
「いえ、何でもありません!」
沿道の人に手を振ったり、頭のまわりでわちゃわちゃする精霊と会話をしたりしながら、少しカーブした道を実に三時間かけて歩き、シュバイツ湖の護岸近くまで来た。
「ムーさん来てくれてありがとう!」
『なんの、また歌を聞かせてくれてありがとう』
「また、遊んでね」
『早く、落ち着いて、南の島に来なさい。海竜も来たがっていたからな』
「そうだね、うん、会いに行くときは連絡してもらうね」
湖からゆったりと浮上した白鯨が南に向かってターンをしながら飛んで行く。
それを王都のみんなが手を振っている。
南海岸のガスマニアでもなかなか見ることが難しい白鯨を見れて、みんな喜んでいるのが分かる。幻と言われる存在は、みんな素敵だ。
この出会いとつながりをもっと広げて大事に出来たらいいな。
『そうね、この世界はもっともっと広いのよ』
護岸の手すりに絡まっている葡萄の蔓から、世界樹の声がする。
「長生きするようだし、色々ゆっくり見ていきたいね」
「俺が動ける間はついていきますよ。後五十年ぐらいは」
「ウリサ」
いいのかそれで、ありがたいけど自分の人生をもっと大事にしようよ。って言おうと思ったら
「その後はおれがずっと付き合います」
「クリス」
「こんな歩く奇跡に着いていくなんて、何を差し置いても面白いに決まっているしな」
「ははは」
奇跡って、俺にはどれもただの偶然なのに。
「良かったな駿介。じゃあ、戻ろうか」
パチン
父さんの合図で俺たちは気が付くと、王城の大広間に転移していた。父さんの魔法によって。
お星さまありがとうございます。もっと頂けたら♪
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