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79【改めまして、ロードランダ王子です】

ウェイズの家名を変えました

今のところ、ここしか出番ないんですけどね

 とうとう、ロードランダ王国に入る。厳密にいえば再入国だが。

 ガスマニアとロードランドを隔てる地面の線はどうやらユグドラシルの根っこらしい。俺の乗った馬車の一行は、検問を受けることもなくするりとロードランド入りする。

「世界樹が」「森が」

 フィストアタッカーのメンバーの中の二人がラーズベルト領では世界樹を見る事が出来なかったらしい。見れる俺達にはずうっと同じ風景だったのだが。しかし今回みんなが通行証を得ずに入れたのは俺の連れだからとユグドラシル本人から聞いた。


「戦の間は、ここの門は一方通行で、今みたいにガスマニア側からロードランドへ入ることはできなかったそうです。もし、入る事が出来ても、フェイクの森が広がるところに連れていかれ、さまよった挙句、大陸のはずれか別の島のダンジョンに放り出されたらしいです」

 向いに座るカーリンの話を聞いている。

 え?そんな相手に喧嘩打ってたの?

「ただ、商人とロードランドに帰る人と、傷ついたり病に苦しんでいる人、世界樹が見えている人は入れたそうです」

 そう言われているかもしれないけど、ロードランド国民でも悪いやつは戻れないのはもう知っている。


 先日一直線で飛んだ、南に面しているシュバイツ湖に船を浮かべれば早いのでは?と思ったんだけど、精霊にまもられていて、対岸にたどり着けないんだって。どんな動力を試しても、ぐるっと回って、元の岸に着いてしまうそうだ。

 そりゃね、女神さまがちょいちょい来てる湖だもんね。一般の人がぶっちぎるのは難しいか。今の御一行様では飛んで行けるんだけどね。


 今日の馬車を引いてくれているのはハロルドだ。空間魔法を使って、二時間で王都に入り、さらに十分で富士山のような、世界樹の南向きの五合目にあるロードランダ王国のグローベスエルフェンス城の外門にたどりついた。後ろを付いて来てくれている、フィストアタッカーの馬車たちにも空間魔法の効果が届いていて、ちゃんと並んでいる。

 まあ、後ろの馭者はびっくりしただろうけど、ハロルドの馭者はもちろんウリサ兄さんなので、ハロルドと楽しく会話をしながら走っていたようだ。

 カーリンに続きウリサ兄さんも今に精霊魔法の使い手になりそうだね。


 城のふもとの更に向こうに湖が広がっていて、今は昼前だからキラキラと光っている。その向こうにカーリンのお家があるんだろうけど、うん、すでに世界樹の裾が大きすぎて、ラーズベルトの建物なんか分からないぐらい遠かったんだ。


 俺は急に二千五百メートルの標高にたどり着いたみんなの様子を見て、一行全体に軽く回復魔法をかけてみる。

 こめかみを抑えていたカーリンが

「殿下、ありがとうございます」

 ってぱあぁっと明るい笑顔になったのが印象的。


 そして、ハロルドは到着予定の時間を黄色ちゃんに頼んで父さんに伝えていたらしくて、門の前にはたくさんの近衛兵がずらりと並んで出迎えてくれた。兵隊さんがみんなエルフなんだよ?それがびしっとおそろいの軍服で並んで立っているんだ。なんと絵になる事か。


 少し余所行きの冒険者スタイルになったアリサねえちゃんが馬車の扉を開けてくれる。

「シュバイツ殿下付きましたよ」

 再入国してから、みんな俺のことをシュバイツと呼ぶ。俺も言われ慣れなきゃいけないしね。

「はい」

 アリサの補助を受けて、馬車を下りると、続いてドレスアップしたカーリンの下車を俺が補助する。

「お疲れ、カーリン」

「殿下有難うございます。ですが、これからですわよ」

 カーリンは、あくまで後ろ盾になってくれているガスマニア帝国の貴族の代表として付いて来てくれている事になっている。まあ、父さんのファンらしいから、連れてきたんだけどね。


 侍従長のプランツさんの誘導で、奥に立っている父さんのところに歩いていく。でも父さんは俺のこの短い脚で歩いているのが待ちきれないようで、すたすた歩いて近寄ってきた。


 がばっ

「駿介ぇ」

 ・・・台無し。


「と、父さん!」

「三日ぶりだけど、逢いたかったよ」

 ちょ、後ろにはお父さんのいないクリスが立ってるんだけど!

 おでことほっぺたに、高額貨幣の顔がキスをしてくる。俺は日本育ちなので勘弁してください。


「もー」

「ははは。ごめんごめん。シュンスケが可愛いから止められなかったね」

「素晴らしいですわ(エルフ親子の抱擁はいつ見ても絵になるわ)」

 カーリン、なんか言葉が漏れてる。


「カーリン嬢も、わざわざ来てくれてありがとう。ちゃんと歓迎するから、楽しみにしててね」

「ありがとうごさいます」

 美しいカーテシ―でお辞儀をしていた。


 俺も、父さんがさっき立ってた所にいっぱいいらっしゃるエルフの皆さんの前で、格好つけたかったのに!多分大臣さんとかですよね!


「クリス君もよく来てくれたね」

「先日は突然でしたのに(お風呂)ありがとうございました」

「先日も思ったけど、なかなかしっかりした子だね」

「でしょー」

 父さんにクリスを褒められて少しうれしい。


 城のロビーに入り、俺は、ウリサとクリスだけを伴って自分の部屋というところに連れていかれる。他の人たちも、今回滞在する客間に案内されている。


 このグローベスエルフェンス城のメインの建物は三階建て。アリサたちが滞在する建物は別館になっている。どちらも美しい白い石造りの城に、葡萄の蔓がきれいな地模様を彩っている。

 そして、三階は王族の部屋だ。前回窓からお邪魔して泊まった王の寝室は 真中の階段を挟んで東翼のエリアだったらしいけど、今回は西翼の突き当りの角部屋だった。

 観音開きドアの手前には一対のドアがあって、片方が侍従の部屋、向かいが専属護衛の部屋だそうだ。というわけで、侍従の部屋をクリスに使わせる。


「こ、この広い部屋が僕の部屋ですか?」

「そう、将来侍従になってほしいって言ってたでしょ?」

「・・・・頑張ります!」


 俺の第一王子の部屋と言われたけど、応接室と、壁一面の書棚のある、執務室(勉強部屋?)とベッドルームと専用バスルーム、でもメインのお風呂はあの八合目だ。キッチンはない。三方向にバルコニーに出る窓が。

 ラーズベルトで滞在した部屋に勉強部屋と応接が加わったような。俺一人用に2L。それぞれも、帝都の部屋よりでっかいし・・・。

 うん、落ち着かない。ベッドも当然のように天蓋付き。

   挿絵(By みてみん)

 勉強部屋(執務室)の机にプランツさんがコーヒーとクッキーを置いてくれた。

 バジャー子爵領の後から、ちょいちょいコーヒーを飲んでいた俺は、やっとブラックが飲めるようになっております。紅茶もいいけど、やっぱりコーヒーだぜ。


「シュバイツ殿下」

 旅装を解いて、クラシカルなジャケットスーツに着替えてきたクリスが部屋に入ってきた。

「お、カッコいいじゃん。そんな服持ってきてたっけ」

「先ほど、プラッツさんが僕の部屋?に来られてこのセットを出してくれて」

 とジャケットの裾をつまんでいる。

 わあ、プラッツさんありがとう!

「うん、似合っているよ。え?クリスの話は二日前にプラッツさんにしたところなんだけど」

「ですよね。でも僕の部屋であれってことは」

 と言いながら、二人ですたすた歩き、この部屋のクローゼットを開ける。クローゼットなのに何故か観音開きのドアだなと思ってたんだけど

「・・・ははは。クローゼットというより衣裳部屋じゃん。なんかキラキラしてない?」

「まあ、殿下の服はもちろん揃ってますよね」

「まだ、ここで生活するつもりないんだけど」

「僕もですよ。とりあえず、プランツさんに教えていただいた、あ、これですね」

 そう言ってセットされた一揃えを出してきた。

 うわ、この服全部サイズ調整と温度調整の付与魔法がついてる・・・。どれを着ても、ちっちゃい精霊ちゃんもできるんですね。

「さ。殿下お着換え手伝いますよ」

「いや、まだ侍従ごっこはしなくても。クリスには側近になってほしいんだけど」

「俺が両方やりますよ。さっ、練習させて」

「はい」


 プランツさんもクリスも張り切りすぎ。

「え?これ?」

「華美な服も着慣れていきましょうね」

 上は、つやつやした白地の生地にアイドルグループの王子ルックみたいな、シルバーのレースのようなラインが前や脇についていて。さらに肋骨風のデザイン。

 そして、なぜか股下が三センチぐらいしかないホットパンツでハイソックスの上から膝上までのブーツ。

「ちょ、なんでクリスはハーフパンツで、俺には太もも丸出しなんだよ」

 普段の学園の制服もハーフパンツだけど、今よりは長くて、出でているの膝頭から下だ。

 こんな短いパンツは、夏のビーチとか風呂上がりの部屋とかしか着ないぜ。ハッキリ言ってボクサーパンツよりちょっと長いだけ・・・汗

「そりゃあ、僕とは違うでしょ。似合ってるからいいじゃないですか」

「えーそういう問題じゃない!」

 クリスは淡々と俺に服を着せていく。右肩から左腰にサッシュをつけられて、あ、この金具は剣を取り付ける用かな。

「このマントは裾が切れこんでいて殿下の翅みたいですよ」

「ほんとだ。あ、クリス、三つ編み出来る?」

「はい、王都のお屋敷で教えてもらって練習もしました、ちょっと待っててくださいね」

 といって、バスルームに置いてあったブラシを取ってくる。

「マントの前にすればよかったですね。このスツールに座ってください」

「いったんマントを脱ごうか」

「大丈夫ですよ。それにしてもシュバイツ殿下の髪は俺と違って細いですねえ。妹の髪より細いかも」

「まじか、アイラちゃんより?ちょっとショック」

「ショック?きれいな髪ですけど?」

「細い髪って禿げるって聞いたことがあって」

「殿下は禿げないでしょう。人間族じゃないんですから」

「エルフにも禿はいたじゃん。

 禿げないといいんだけど。黒髪の時は太さも違うんだけどね」


 それにしても、クリスに付いて来てもらって良かった。もともとは自分一人で来ようと思ってたんだけど、結構気分的に心強く感じるな。友達のありがたみを感じるぜ。うん。出会いはあれだったけどね。


「さ、出来ましたよ」

 最後に自分でも確認をするために姿見の前まで動く。

 おお、エルフ王子の誕生だぜ。

 せっかくだから、風の神様の剣を装着してみる。

 出してもらって興奮しているのか剣がフーフー言う。

「こら、静かにしてくれないとすぐに仕舞うぞ」

 静かになった。

 短パンの尻ポケットに、スマホを入れようとして、

「クリス、こっち向いて」

 ブラシを片付けに行こうとしていた子を

 パシャ

「なあ、俺の写真も撮ってくれない?」

「いいですよ」

 パシャパシャ。

「あ、もう一枚」

 パシャパシャ

 一枚と言いつつ何回押すんだよ。


 チリンとテーブルのベルを振ってみると。プランツさんが来てくれた。

「上手に着れましたね」

「はい、クリスが選んでくれました」

「僕はプランツさんの言われたものを着せただけですよ」

 師匠と弟子って感じだな。


「プランツさん、この魔道具で姿絵を撮ってくれませんか?ここを押すんです」パシャ

「それぞれで撮り合ったんですけど、二人並んだのが欲しくて」

「なるほど、分かりました、ではバルコニーに出ましょうか」

「はい。太陽光の下の方が良いです!」


 そうして、王子と側近兼侍従の二人組アイドルがスマホの中で誕生したのだ、なんてね。

 歌うか?


 俺は部屋に戻って、手持ちの姿見も出して二枚鏡の前で翅を出してみる。

「うーん、ないな」

「え?そうですか?」

 マントの上に翅は変だね。

「なんか、うるさいよ」

 マントを外して翅をマントのように少し下の方に畳んだようにして出してみる。

「なるほど、その方が美しいですね。ケープマント見たいです。さすが殿下」

 プランツさんからオッケーが出ました。

 俺の翅は、なんか筋に沿ってうっすらと光るんだよね。

「美しいという表現はいまいちわからないですけど、こっちの方がきっと椅子とか座りやすいです。軽いですしね」


 ノックの音がする。

「はいどうぞ。あれ?ウリサ兄さん」

「遅くなりました。殿下、私のことはウリサとお呼びください」

 ちょ、泣きそうだよ俺。

「ウリサ、どこへ行ってたんですか?」

「この城の中の案内をしていただいておりました」

 なるほど。


「それより、ご挨拶にとエルフの方が何人か来られております」

「ああ、ご紹介しましょう。殿下こちらへ」プランツさんがウリサ兄さんから引き継ぐ。


 自室の応接に行くと、二人のエルフが扉の前で立っていた。さっき、城の玄関で父さんの付近に並んでた人かな?

「おお、これは。改めてご挨拶させてください。

 私は、ウェイズ フォン ケルン 内務大臣を務めさせていただいております」

 俺の右手を取り跪いて手の甲におでこを当ててくる、すこしカチリというのは眼鏡だ。

 ウェイズと名乗った人は、金髪、目は濃いめの青色。オシャレの眼鏡(目は悪くない)をかけてて、ちょっとインテリな賢そうなエルフ。内務大臣と言ったら、首相みたいな感じかな。国の政治のトップの人だな。しっかし、三十代ぐらいにしか見えない。もうエルフに年齢は追及しない。気になるときだけ鑑定すればいいか。

「俺は、ファーレイ フォン アガート 外務大臣をやっている。カーリン フォン ラーズベルトの遠縁で」

 確かに、紫色の髪と濃い緑色の目が、カーリンのママのグルナさんの色に少し近い。この人もグルナさんより若く見えるんだけど。

「カーリンは、俺の孫のえーっと玄孫ぐらいか、いやもっとか?まあそんな感じだ。グルナも別嬪だったが、カーリンもさっき会ってきたけど、可愛いだろう?学友だってな。仲良くしてやってくれよ」

「はい!」

 ファーレイさんは普通に握手だった。はい、この挨拶の方が良いです!


 大臣二人と、プランツさん、ウリサ兄さんとクリスでぞろぞろと大食堂というところに連れていかれる。

「それにしても、シュバイツ殿下、先日はパンボの件ありがとうございました」

 ウェイズ大臣が話をしてくる。

「いえ、俺も、このクリスの件ですし、解決して良かったです。な」

「はい、これでまたお祖父様に会いに行けます」

「リーニング伯爵夫婦は王子のお披露目に来られるぞ。貴族は当主か代理は全員来ることになっているのだからな」

 プランツさんが教えてくれる。

「良かったな」

「はい、母上と妹も来るので、楽しみです」

「じゃあ、リーニング伯爵たちを合わせる部屋でも押さえてもらおうかな」

「僕が自分で手配してみます」

「そうですね、練習です」

 プランツさんが手伝ってくれるようだ。うんうん。


 初めてであった頃とは別人のように生き生きと輝くクリスを少し眩しく感じながら、王城でも初めての夕食に向かう。


お星さまありがとうございます。もっと頂けたら♪

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