77【白いペガコーンの急行便 3】
75話のドアーフの工房を地下に移しました・・・
急行便は4話まであります。お付き合いくださいませ。
「さて、ここからまた、ハロルドだな、朝十時に出かけてからまだ四時間」
“瞬間移動ってずるいねー。でも僕ポリゴン町の林檎パワーで、めっちゃ頑張れるよー”
“そりゃいい”
ラーズベルトの冒険者ギルドに扉一つをくぐって戻ってきた俺達だっだが、またハロルドを乗合馬車の前に出して、クリスと一緒に飛んで乗る。
「じゃあ、国境へ行こうか」
「うん」
今度は街道を普通に乗馬。同じ道には商人の荷馬車と冒険者たちなどが行き来している。帝都では圧倒的に人間族が多かったのに、ここまで来ると種族が混在している。もちろんエルフ系もね。
国境まで一キロちょっとのところで、ハロルドを自分に納める。
「ねえ、クリス、ここから人間族姿でロードランダに入ってみない?」
「わかりました」
「危ないから手を繋ごう」
冒険者として腕に覚えがあっても、二人とも見た目は六歳児。
「はい、シュンスケさん」
男同士で手を繋ぐなんて、この世界に来る前は保育園の遠足以来だったかもしれない。
小さい身を守るために、少しでも大きな群れにって小魚とか小動物の本能でしょ?
一人より二人だけどね。六歳児なんて後ろからひょいと来られたら簡単かもしれないしね。この世界の人は欧米人みたいに大きい人間族も多いし、狼系の種族の人はもっと大きいんだ。一応白色くんたちで警戒はしているけど。
そうして二人で人間族に変身してガスマニア帝国とロードランダの国境に着いた。
ここは、シュバイツ湖の東の端。
左手つまり西側に大きな湖とそのそばに富士山もとい世界樹が見えている。まあ、大きいから、ラーズベルト辺境伯領からずっと見えているんだけどね。
ガスマニア帝国とロードランダの境目をずうっと紫色に光る少しうねった丸太のようなラインが地面から少し浮いてのびていて。そのライン上に突如大きな門がドーンと立っている。凱旋門のように、門だけだ。門の表面には見たことのある蔦が絡まっている。あ、蔦じゃなくて帝都の屋敷にもあるエメラルド色の葡萄だ。
そこでは、ガスマニア入りする人は身分証と馬車などの大きな荷物のチェックを、逆にロードランダに入る人は、世界樹の結界を抜けられない人だけ身分証を出してお金を払って通行証を受け取るのだ。
おや、通行証のお金でもめている二人組のエルフがいるよ?
「ちっ、なんでロードランダで生まれ育った俺達が、里帰りで通行証に金払わなきゃいけないんだ」
「ほんとですね、ボス。しかも一人ずつ大金貨一枚するとか。痛いっす。しかし確かにさっきからここから見えているのは荒野しかないですし。本当に門の向こうはロードランダですかね」
ガラの悪いエルフって初めて見たー。漫画とかにもいたかな、チンピラなエルフ。そっか、外国で悪い事したことがあったら帰って来るのにも一人百万円いるんだ。
長い耳にずらずらじゃらじゃらとピアスが付いている。なるほど、人間の耳の倍は付けられるのか。うん。
お名前はサピラとノツロ、どちらも八百歳前後なのに、何百年もチンピラしているのかね。なるほど、前科どころか詐欺と傷害罪で現在進行形でお尋ね者。鑑定できるステータスにはバーンと出ていた。
お金があっても身分証で跳ね返されるはずの二人。知らないのかな。どっちにしても入国できない事。
「なんだ?人間のガキが。こっち見るな」
「蹴とばすぞ!こるあ」
でかいおっさんエルフが二人、俺たちに向かって少し踏み込んで凄む。
その様子を、帝国側の門番がはらはらした様子で見ている。
「くすっ」
「シュンスケさん、笑っちゃダメだって、くっ」
「そんな、クリスだって笑ってるじゃん」
「だって、くすくす。いかにも悪人そうで」
「ほんとう、見るからにユグドラシルから跳ね飛ばされそう」
「なんだとー」
“はねとばしてみようか?”
「ひゃ」
突然女性の声がした。
女神様の声かと思ったけど、初めて聞くような聞いたことあるような。
“うーん、ガスマニア帝国に戻られるのも嫌だな”
帝国のみんなもいい人ばっかりだしね。
“じゃあ、この大陸じゃないところに行ってもらおうかね”
“そんなこともできるの?じゃあ、大陸は続いているけど、手配書の出ているトルネキ王国の冒険者ギルドへ、出来る?”
手配元まで俺の鑑定には引っかかってたからな。
“ああ、じゃあ王子、あのエルフを誘ってみて”
“わかった”
おれはそのことをクリスにも耳打ちする。
きっと俺達も悪い顔でにやついていたかもしれない。俺達も通れなかったりして。
とりあえず、クリスと手を繋いだままで煽ってみようかな。
「おじさんたち、エルフさんなのに世界樹が見えてないんだ」
「「なんだと?」」
「僕たち人間族だけどはっきり見えてるよねー」
「ねー」
「お、俺には見えてるぜ」
下っ端が見栄を張る。
「お、おお、俺だって、懐かしい風景だぜ」
さっき荒野って言ってたじゃん。
「じゃあ、お金は要らないね」
「僕たち、ここ通るの初めてなんだ、おじさん達先に通ってお手本を」
「「なに?」」
「え?通れないの?」
「やっぱり何か悪い事してきたんじゃないの?まさか、逃げるためにここへ?」
「い、いやいや、通れるぞ、ほら。えーい」
下っ端が門をくぐる。
うん、突然いなくなったよね。
「おじちゃんは?」
「潜れるぜ、ほ、ほら」
といって、ボスの方も一歩踏み出した途端に消えていった。
「一仕事しちゃったね」
「シュンスケさんさすがです」
“あっちで、つかまったよ”
「ありがとうユグドラシル。ちゃんと罪を償って、お金出して帰って来れるようになるといいね」
“そんなことより、ようこそ王子、早く入っておいで”
「クリス、ユグドラシルが呼んでくれているから入ろう」
「シュンスケさん、さっきからずっとやり取りされているんですか?」
「そう」
“ハロルドもお帰り”
『ただいま、世界樹のおばちゃん』
「おばちゃんって」
『あんたたちも、おばちゃんって呼んでおくれ』
「えー」
「あ、聞こえました!すごい。でもおばちゃんってお声じゃないです」
「だよねぇ」
確かにユグドラシルって呼びにくいけどさ。〈ユグドラシル〉ってお呼びするぜ。
門をくぐった先には、いまはまだ外が明るいから光ってないけど、魔道具の街灯がずうっと並んで、賑やかなお土産屋さんが両脇に並んでいた。
「おや、人間族の子供だね。ひょっとして冒険者かい?」
「はいそうです」
「これ、あげる」
お菓子屋さんの店先で、おばちゃんエルフが、大きいビー玉サイズの棒付き飴を二つ差し出してくる。
「え?そんな、お金払いますよ」
「人間の子供なんて珍しいからな。」
「そうだね、人間族は来るけど、最近は君たちみたいな小さい子供は見ないからね、儂らにはラッキーだよ。貰っときなさい」
隣の木工細工のお店の前で、エルフのおじさんが声を掛けてくれる。
「ありがとうございます」
「帰りにも寄ります。お土産買いますね」
「おー」
お菓子屋さん、木工細工、ちょっとしたお土産を置いている雑貨屋さん、麻っぽい素材の羽織、湖の魚のお寿司?かなあれ。お漬物屋さん、食事処みたいなものもある!帰りに絶対寄る。と考えながら歩いて行って、ふっと門を振り返る。
ああ、浅草。大きな提灯は無いけど雷門みたい。でも、ちゃんと石造りで葡萄が絡まっておりますよ。・・・エルフの国って観光客相手に結構商魂逞しいのかも。
さて、王都に向かわなきゃ、お土産通りが途切れたところに大きな道が横切っている。
これを西へ折れると世界樹と湖に挟まれた王都に出るはず。
「ハロルド、普通の馬バージョンで行こうか」
『おっけー、まかせて』
再び白馬のハロルドにクリスとタンデムする。
国境門から、王都に着いたのは夕方だった。ハロルドを仕舞って、冒険者ギルドのレストランコーナーに行く。
「王都の名物って、何かおいしいものあるかな。お腹空いたね」
歴史の長いエルフの国ならではのご馳走に期待が膨らむ。
「昼にシュンスケさんがキノコのパスタを作ってくださいましたが、たぶんここもキノコの料理が多いです」
「まじ!ほんとだ。キノコのシチューとかグラタンとか、あ、ドリアもあるんじゃん。そっか酪農とか言ってたもんな」
「ええ、牛乳とかチーズとか」
じゅるり。
冒険者たちをざっと見て回ったら、俺みたいな鑑定持ちはいない。じゃあ正体はばれないね。ほとんどがエルフさんだ。
「すみませーん」
「はい、おや可愛い冒険者だね。兄弟かい?いや、似てないか」
「俺達、仲良し冒険者なんだ」
さすがにギルドの中では手繋ぎは無し。
注文を取りに来てくれたのは、ぽっちゃりエルフのおねえさんだった。
「俺ね、キノコと鶏のグラタン」
「僕はシチューとパンのセット」
「グラタンは少し時間かかるから待てるかい?」
「だいじょうぶ」
おねえさんが引っ込んだので、テーブルのピッチャーからグラスにセルフスタイルで水を入れてくれるのはクリスの方だった。
「はいシュンスケさん」
「ありがとう。
あ、ここのお水美味いよ。ユグドラシルのお水だ」
「そうですよ」
「ひょっとして、この国は水道水が美味しかったりしてね」
「ええ、ガスマニアよりは。シュバイツ湖から引いていますからね。シュバイツ湖のお水は世界樹でろ過された水だとお祖父様が教えてくれました」
「へー」
さすが、ロードランダ出身だ。
あ、お料理がきた。
「わーいグラタンだ。はふはふ。うんまーい」
「シチューも美味しいですよ」
「良かったな、チビども」
隣から手が伸びてきて頭を撫でられた。
油断して避け損ねた。まあこの人に悪意はないのは分かってるけどね。
「君らは何しに来たんだ?」
一人の若いエルフの兄ちゃんが声を掛けてきた。
「ガスマニアの帝都からお届け物の任務で。今日はもう遅くなっちゃったので明日行こうかと」
「ああ、なるほど、お子ちゃまはお使いぐらいしか頼めねえよな」
「俺らエルフからしたら、人間族の子供なんて、赤ん坊だな」
がははは!
こ、これは何だろうからかわれている?この兄ちゃん達は確かに八十代だ。それに比べれば実年齢の十九歳でだって赤ちゃんかもな。
「そうですね。僕達まだ六歳なんで」
「ええ、学校もこれからなんですよ」
クリスもノリ良く付き合ってくれる。
「え?六歳で冒険者?そんなルールだったっけ」
「実力があれば免許貰えるんだぜ?まあ、エルフには関係ないがな」
横からマッチョなエルフが加わってくる。
「たしかに、お前なんか五歳までまだオムツだったもんな」
成長が遅いってそういう事?
思わずクリスを見ると、静かに首を横に振ってやれやれな仕草。
「でも、こいつらは帝都から来たってんだから、大したもんだぜ」
「どう見てもまだママのおっぱい吸ってそうなのに」
それはいくら何でも赤ちゃん扱いがすぎるよ。あ、クリスのこめかみに青筋が見えそう。だめだよ。どうどう!
「あんたたち、こんなかわいい人間ちゃんをからかわないの。
ごめんねえ。この兄ちゃんたちはまだ八十歳だから、ガキなのよ、しょうがないでしょ?」
「あん?姐さんひでえ。
悪かったよ坊やたち。俺はスツピとこのでかいのはパーパス。今日は王都に泊るのかい?」
「さっきギルドの部屋を取りました。外の宿は俺らには高額なんで」
「それで、依頼の届け先ってどこなんだい?」
「それは、アルジル伯爵のお屋敷です」
今度はクリスが答える。
「そうか、じゃあ長距離を移動して来たんだろ?今日はとっとと休んで、明日に備えな」
「はい。ありがとうございます!」
なんだ、気の良い兄ちゃんだな。年齢を意識せずに見た目でやり取りした方が良いような気がする。うん、エルフは見た目!
「これはあたしからのサービス」
と言って、給仕のお姉さんが持ってきたのは、シャーベットだった。
「うわぁおいしそう」
「いいんですか?」
「いいんだよ。さっき料理をおいしそうに食べてくれてただろ?もう少し見たくてね」
「「いただきます」」
「わ、これは桃のシャーベットですか。爽やか」
「うん、果肉の触感もあっていいね」
俺たちのテーブルに一緒に座って、頬杖をついてお姉さんがニコニコしている。
「君たちはまだ学校でもないだろ?たしか帝都の学校は十歳からだっけ。学費のために冒険者している人間族の子も見たことはあるよ。偉いよね」
「俺は休み明けに二年生になりますよ」
「そうなんだ、夏休みいっぱいまで滞在したらいいのに」
「どうして?」
「なんかね、王子様のお披露目があるんだよ。この国の建国以来の貴重な行事だし、せっかくだから見たらいいと思ってさ」
思わずクリスと顔を見合わせる。
先に口を開いたのはクリスの方だった。
「その話を僕も聞きました。王子殿下のお披露目見たかったんですけど、生憎、帝都学園の入試と重なってて」
そんな、残念そうな顔をしないで。演技上手いぞ。
「え?当日は来るでしょ?」
「まあ、入試は終わっているはずですからね」
「そうなんだ、二人とも見に来れるんだ」
「「はい」一応」
「楽しみだねえ。どんな方なんだろう。まだお小さいとは聞いているけど」
「きっと国王陛下に似て麗しいでしょう。ね?シュンスケさん」
こら!クリス!
国王陛下はなあ、俺に会ってギャン泣きするハイエルフだぞ!まあ美形だけど。
でもクリスとこんなやり取りが出来るのは嬉しいけど。
ご飯を食べてギルドの宿泊部屋に行く。なんとか二人部屋を取れた。子供だからね、鍵のある安全な部屋が要るよね。
「ねえ、クリス、お風呂行かない?」
革鎧を外しながら聞く。
「え?このギルドはシャワールームしかなかったと」
二人部屋の窓際には葡萄の蔓が。
「ねえ、お風呂に行ってもいいよね」
『ええ、今丁度ブランネージュが来るところよ』
「じゃあ予告して?友達と行くからって」
ユグドラシルの声はもちろんクリスにも聞こえている。
「え?どういうことですか」
『わかったわ・・・待ってるって』
「よし、じゃあクリス、麗しい人とのお風呂に行くぞ」
さっきの仕返しだ!
「え?」
二人分の革鎧や装備のセットを俺のアイテムボックスにササっといれて、世界樹の八合目に〈男湯〉暖簾の前に瞬間移動ぶと同時に、急激な標高差による体調不良を誤魔化すべく、回復魔法をちょこっとだけ発動する。
「お邪魔しまーす」
「うわあ凄い大きい―お風呂。ここって、あ、あの人」
「やぁ、待ってたよ」
「待ってたって、ついさっきユグドラシルに伝言頼んだんだけど」
「いや、前に来てくれた時から待ってたよ」
もう、このひとは。
「しゅ、シュンスケさん、あの、この人って」
「紹介するよ父さん、クリス フォン リーニング君」
「シュンスケさんのお父さんってことは・・・やっぱり」
「今晩は、初めまして、田中稔樹です」
せっかく緊張しているクリスに気が付いて、違う名前を名乗ってくれたのに
「はははは、初めまして。ブ・ブ・ブランネージュ国王陛下」
なんか、風呂に入る前にのぼせそうだな。
高額貨幣さんが腰タオルでクリスと握手。
俺らは二人とも変身を解いてエルフ状態で入浴。
露天風呂にはハロルドも足を折って浸かってる。何とも貴重な絵面だ。
露天でまったりしながら
「へえ、今日はギルドで泊まるんだ。ここで泊まればいいのに」
「クリスの任務の付き添いだからね」
「開いてる部屋はいっぱいあるのに」
「そりゃそうだろうけどね」
「ところで、クリスはリーニング伯爵の孫だね」
「はははい」
「今、あそこの婿さんが問題でね。クリスや、その妹がいるなら何とかできないかな」
「なるほど。問題のある人だって、クリスのお母さんのナティエさんも言ってました」
「そうなんだよ、伯爵の名前を使ってあちらこちらで付けで飲食したり、金を借りたりして、借金が膨らんでいるんだよ。でも、婿養子であって、跡取りではないからね。ほら、エルフは長生きだから、代替わりはまだしないしね。でも、それぐらいでは私が動くのが難しかったんだけど、正式な跡取りにはクリスの方が良いし、大臣に根回しできるな。
ほんと、クリス、君がいてくれてよかったよ。君のお祖父さんお祖母さんの悩みが解決できるね」
クリスが、ぱぁっと笑顔になる。まぶしいぜ。
「ありがとうございます!」
「じゃあ、父さんお風呂ありがと」
「ああ、いつでもおいで。クリスも」
「ありがとうございました」
「あ、父さんこれ」
さっきギルドで買った冷えた瓶入り牛乳を渡す。
「おっいいねえ」
「クリスも」
みんなで腰に手を当ててごくごく
ぷはぁ、うまい。酪農の国の牛乳最高だな!
お星さまありがとうございます。もっと頂けたら♪
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