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76【白いペガコーンの急行便 2】

 革鎧を装着して、すっかり冒険者スタイルで、ラーズベルト辺境伯領の冒険者ギルドのカウンターに再度訪れた俺とクリス。

「では、シュバイツ殿下、お届け品はこちらです」

 そうして渡されたものは、かつてスーパーでたまに見かけたハナビラタケにそっくりな〈フリルフリルマッシュルーム〉違うのは大きさがマスクメロンぐらいあって大きい。たしかに、うん美味しそうだ。

「そして殿下がご購入されたのはこちらです」

 そう、おいしいキノコだと聞いたからもちろん買うよね。鑑定しても、一日の賞味期限にはならないんだけど、あ、生食ですか。了解です。

 アイテムボックスにふたつ収める。宮殿にお届けするほうは、ガラスケースに入っていて、俺用のは柔らかい紙に包まれている。

 いまはまだ朝の十時。

「では明日の午前十時までにお願いします」

「はい、わかりました」

 “ハロルド、帝都の宮殿までどのぐらいかかる?”

 “空を飛べば一時間かな”

 “さすが!”

 “瞬間移動なら一瞬でしょ?”

 “せっかくだから、飛んで行きたいじゃん”

 “飛ぶ?乗る?”

 “乗る”

 “へへへー頑張る!”

 俺の内なる会話はクリスには聞こえてないけど、察してるよね。


 あのキノコはセイラード殿下が好きらしいんだけど、まだバジャー子爵領かな。もう帝都に帰ってるのか?

 黄色ちゃんに聞いてみる。

 “うん、いまはきゅうでんで、ろーどらんだにいく じゅんびしてる”

 “じゃあ、殿下にお昼前にキノコを届けるって伝えて”

 “わかったー”


「じゃあ、アリサねえちゃん、行ってきます」

「油断はしたらだめよ。ちゃんと気を付けてね」

「ありがとう」

「クリスも、気を付けて」と俺の後にクリスの頭を撫でている。

「はいアリサさん。ありがとうございます」


 ギルドを出て、正面に停められている乗合馬車の近くに白馬状態のハロルドを出す。

「まあ、真っ白な馬。どこから来たのかしら」

「あれは、ハロルド様かもしれないぜ。先日見たぞ」

 外野の声を無視して、クリスを抱えてタンデムする。

 今回は俺が後ろ。やっとお兄ちゃんポジションだ。クリスはまだ飛ぶのは無理なんだよね。

 今日も裸馬です。精霊だからね、物理的な摩擦とか気にしなくていいんだよ。前回俺がウリサ兄さんを乗せた時に理解しました。


 『じゃあ、行くよ』

「出発!」

 領都の混み合った街道はギャロップ程度の速さで駆けていく。

 沿道から人が手を振ってくる。

「「はろるどさまー」」

 『みんなおはよう』

 ちゃんと挨拶を返して、えらいぜ。

「シュバイツ殿下ー」

 呼びかけられちゃったから、手は振ってみる

「きゃー。かわいい!」

 髪の色が黒くてもハロルドに乗ってるのが俺って解ってるのね。

 『そろそろいいんじゃない?』

「そうだね。クリス、さらに走って飛び上がるよ」

「っはい!」

 駆け足が速くなっていく。

 白馬は角を伸ばしながら白い羽根を広げる。


「ハロルド様がペガコーンになられているわ」

「「「いってらっしゃーい」」」

「「『行ってきまーす』」」


「うわぁ、すごい」

「空を飛ぶのって、いつも思うけど気持ちいいよね」

 『そうだね。たのしいでしょ、クリス』

「はい!ハロルド様。ありがとうございます」


 ものの十分でバジャー子爵領が見えてきた。今は地面から二キロメートルぐらいの上空を飛んでいるので、結構小さいから、城のトウモロコシ畑の詳しい様子を見ることはかなわないけど、北側の葡萄畑は一面に葉っぱが広がっている。

 南の麦畑の方は、収穫が始まっていて、縞模様が出来ている。よかった。


 “おうじ、せいらーどが、もんをとびこえて、きゅうでんのていえんに、おりていいって”

「え?一国の宮殿にそんな簡単に入っていいの?」

 “ふつうのまちのなかに、そらからおりたほうがたいへんじゃん”

「そりゃそうか、赤色くん」


 南の光る海の手前を目指す。

「空が近いとまぶしいね」

「でも、空って涼しいですね。夏なのに」

「寒いぐらいでしょ。革鎧に温度調節も付与しておいてよかったね」

「はい」

 鳥よりも高く、雲の下の方を掠るほどの高さだと、下の人からはあまり認識されない。ヘリコプターより小さいし、音も静かだしね。


 見覚えのある風景が近寄ってきた。

「一時間かからないね」

「結局四十分でしょうか」

 『もっと手前で降りて、歩くつもりだったから』

「ですよね」

 日付や時間は、冒険者に登録すると、ステータス画面で確認できるようになる。依頼時間に遅れないよう、間違えがないようにするための便利なシステムである。俺はスマホで確認するんだけどな。


 ハロルドは海岸の灯台付近まで来ると、東にカーブしながら百八十度方向を変えて今度は北上する。


 美しく手入れされている宮殿の庭が見えてきた。ふわりとバラの香りがする。確かに前方はバラ園状態になっている。

 見上げている外門の門番の頭上を越える。

「おーいシュンスケー」

「セイラード殿下!」

「「シュンスケちゃん」」

 王妃と王女様もいらっしゃる。

 『着陸するよ』

 着陸態勢に入りました、なんて。

 地面に接触すると軽やかな蹄の音を鳴らしながら減速していく。


 ハロルドをお披露目しよう。

 クリスと一緒に、ペガコーンから飛び降りて、そのままみんなの方に近寄って行く。

「こんにちは皆さん。上空から失礼いたしました。この子はハロルド、湖付近に住んでいる精霊だよ」

「大丈夫。よく来てくれたね。それに、貴方があのハロルド様ですか。」

 『君がセイラード?』

 ハロルドに名前を呼ばれてうれしそう。

「お会いできて光栄です。シュバイツ王子には仲良くしてもらってますよ」

 『そう、これからも仲良くしてね』

 近寄ったハロルドの頬をセイラード殿下が撫でている。

「もちろん」


  白馬と王子ってやっぱり似合うぜ。


「シュンスケ、私のことも、紹介してくれないか。

 皇帝陛下も会いたがってたのだが、会議を抜けられなくてな」

 宮殿の建物の入り口から皇太子殿下も出てきた。

「ハロルド、こちらの方は、この国の皇太子のアスランティック殿下。それにマルゲリータ皇后さまとヴィゴーニュ王女殿下」

 『みなさん、こんにちは。シュバイツ王子のスキルになったハロルドです』

「え?スキル?」

「まあまあ、それより、お届け物」

 ガラスケースとギルドの書類を出して。

「あ、ああ。サインね。あれ?これ本当にフリルフリルマッシュルーム?いつものとは色が違って真っ白」

「まあ、収穫されてまだ三時間たってないんじゃない?それにアイテムボックスに入れていたし。生もいいけど、スープパスタにしようかと俺もついでに買っちゃった」

 と言って俺が買った紙包みの方を見せる。

「なるほど、料理長にリクエストしよう」

 好物の話をするセイラードは綺麗な笑顔だぜ。

 サインはセイラードがする。ガラスケースは後ろに控えていた侍従さんが持って行った。


「ところで、シュンスケちゃんと一緒にいるエルフちゃんは?」

 ヴィゴーニュ王女殿下が聞いてくる。

「二人並んでいるのも良いわ」

 皇后さまがつぶやくけど。何が良いんだろう。

「この子は、以前に王都で保護したエルフですよ」 

「ああ、エゴンの」

 皇太子が少し眉根を寄せる。

「はい」


「あ、その子の入試の手続きしているから。二人の犬人族と三人分。八月に入ったらクリスだけでも帝都に返して」

 セイラード殿下からの重大連絡が。

「まじ?よかった。ドミニク卿かな」

「そう。学費はお前が持つんだろう?」

「もちろん」

 振り向くと、少し青い顔をしたクリスが。

「クリスなら大丈夫!過去問全部合格ラインだったじゃん。それに、毎晩勉強してるでしょ?」

「で、でも」

「私もクリスと学友になるのを楽しみにしているだ」

 セイラードからの追い打ち。

「・・・頑張ります!」


「皆さん、俺たちは急いでいるので。申し訳ないけどこれで」

「ありがとう。次はロードランダ王子のお披露目だな」

「・・・よろしくね」

 苦笑するしかないね。


 出る時は門の外まで、ハロルドから降りたまま小走りで出る。

「じゃあ、次は先にポリゴンだよ」

「はい」


 門の外で再びハロルドに乗って飛んで行こうとすると、門番たちが敬礼して送り出してくれる。

「「お気をつけて」」

「ありがとう、行ってきます」


 また、空を飛ぶペガコーンは今度は東に進路を取る。街道から少しずらして。こっちは、ラーズベルトより少し近い。いつも転移魔法でばっかり往復しているから、新鮮だ。初めて本格的な買い物を経験したマルガン領都を飛び越える。


「ねえ、東側のポリゴン町の入り口から入ろう」

 『うん?いいよ』

「クインビーの顔を見たいからさ」

 『クインビーはこっちにいるの?』

「そう!」

 『ぼく、彼女の蜂蜜が大好き』


 門のちょっと手前の街道に降り立つ。

「こんにちは」

 ポリゴンの門番は冒険者が交代で請け負っている。

「おや、シュンスケとクリスじゃん」

「すごいなー白い馬?ペガサス?いや角あるからユニコーン?」

「全部正解ですけど、ペガコーンです。名前はハロルド君」

「ハロルド?聞いたことがあるような無いような」

 そう、ハロルドはもともとシュバイツ湖の近辺でしか目撃されない子だったから、そこから遠い地域の一般の人は存在を知らなかったりする。皇族の皆さんは教養として、習っていたから知ってたけどね。

 『こんにちは、ハロルドです。今後はちょくちょく来ると思うからよろしくね』

 お、りっぱな挨拶えらいぞ。

「「よ、よろしくです」」

「お話が出来るなんて」

「スゲー」


 街道を歩いて、自分の土地にいく。犬人族の二人は今は帝都にいるから、ここの面倒を見る人はいないけど、精霊ちゃん達がお世話をしてくれている。


 『おや、王子とクリスじゃない』

「クインビー、久しぶり!」

 『そろそろ、蜂蜜を取りに来てほしいわ』

「そうだねなかなか忙しくてさ」

 『瓶はありますの?』

「うん、いっぱいあるよ」

 『じゃあ預けておいてくれませんか?』

「いいの?」

 『ええ』

「じ、じゃあ」

 と言って、蜂蜜用に作ってる六角形の蓋をされた空瓶がいっぱい入った樽を五つ出す。

 即座に消えてしまう樽。

 『相変わらずクインビーの魔法はすごいねー、アイテムボックスあるんだもんな。ぼくなんか風魔法だけなんだもん』

 『おや誰かと思ったら、ハロルドじゃない。久しぶり』

 『元気だった?最近王子のお馬さんしてるんだ』

 『まあ、それはいいわね』

 精霊同士の会話っていいなあ。和むわ。

 スマホでパチリ。ハロルドの角はクインビーの体長の三倍ぐらいの長さかな。

 “おうじ。あっちのほう、りんごがみのってるわ”

 “すこしまだあおいけどね”

 緑色ちゃんと紫色ちゃんからの報告が。

「ほんとだ!まだあと一月はかかると思ってたんだけど。

 この木一本分を食べ頃にできる?」

 “まかせて”

 “すぐよ”

 真ん中の林檎の木がキラキラと光ると、真っ赤に実った林檎がたわわに実った。魔法だ。

「すごいね」

 『おいしそう』

 ハロルド、精霊のくせによだれが! 

「今、少しもらおうか」

 『うん!』

「僕が、採ってきます」

 クリスが駆け寄って十個ぐらいをもいでくる。持ちきれないからさっそくマジックバッグを活用しております。

 きれいな布で磨くとピカピカになった。

「はい、シュンスケさん」

「おー、では早速」

 ガブリ

「うんまー」

 『王子、僕も僕も!』

 ハロルドの口にも一つ入れてやる。

 『おいしー』

 そうだ、林檎を一つ風魔法で半分に切って、器に置き、蜂蜜をかける。

「はい、クインビーの蜂蜜掛けたよ」

 『わー王子大好き』

 なんか、甘ったるいカレーが食べたくなってきた。なぜ。

「とりあえず後で、孤児院の子に手が届くところぐらいまで収穫してもらおうかな。あ、栗のイガが少し落ちちゃってるから気を付けてもらわないとだけどね」

「それより、シュンスケさん」

 クリスから、時間切れの合図が。

「ああそうだ!こうしちゃいられない。ハロルド、ゆっくり食べてくれてていいから、終わったら戻ってきてね」

 『うんわかったー。あ、王子、綺麗な空樽ある?』

「あるよ、ここに置いておくの?はい」

 『じゃあ、もう少ししたら帰るね』

 俺名義の土地の一坪の小屋の扉を開けるようにして、ポリゴン町の冒険者ギルドの扉から入る。

「あら、シュンスケ君?遠くへ旅行中なんじゃないの?」

 掲示板の前でセレさんが掲示物の整理をしていた。

「そうなんだけど、クリスの依頼遂行中で」

「えーっと、あ、母上」

 ちょうどランチタイムの忙しい時間に来てしまったな。

 冒険者ギルドのレストランコーナーで給仕をしていたナティエさんを確認する。

 美しいエルフのウエイトレスにランチを運んでもらっている冒険者は嬉しそうだ。しかも、ナティエさんは伯爵の娘だから立ち居振る舞いも上品だ。


「さっき林檎食べたけど、お昼ご飯にしようか」

「はい」

 そう言えば、俺がこの世界に来て初めて見た、狼獣人のウェイターさんは、エリクサーを譲ってもらって、冒険者に復帰したらしい。うん役に立ってよかったよ。


 “ただいま”

「あ、ハロルドが帰ってきた。お帰り」

「シュンスケさんの中に?」

「ほんとどうなってるんだろね」


「あら、シュンスケ様とクリスじゃない」

「母上」

「ナティエさん」

 サンドイッチとスープのセットを隣のテーブルに持ってきた彼女に少し立ち止まってもらう。


「今からクリスが冒険者としての任務で、ジャンク商会に行くのですが、ついでにアイラちゃんとナティエさんも一緒に会いに行きませんか?」

「ジャンク商会とは・・・」

「おそらくクリスとアイラのお父さんのクラッツさんのお身内だと思います」

「!有難うございます。ご一緒させてください」

「じゃあ、アザレさーん」

 もう一人の給仕の女性に声を掛ける。

「おや、シュンスケ君とクリス君じゃない」

「お忙しいところ、申し訳ないですけど、昼からナティエさん借ります。どうかお願いします」

「えー、ただではいやだわ~。あたしが忙しくなるんじゃない」

 もう、ランチタイム終わるでしょ!

「じゃあ、時間的にもちょうどいいですし、厨房のみんなに賄いを作るんで!」

「よっしゃ!」

「ちょ、アザレ、何を頼んでいるのよ」

「ナティエ、シュンスケ君の料理は美味しいのよ」

 毎日レストランで働いている人にそう言われたら照れるな。

「そうと決まれば善は急げってね」

 俺も第三皇子に提案したあれ食べたいんだよ!

「僕も手伝います」

「いや、クリスは孤児院でアイラを呼んできて」

「はい!」


 厨房へ歩きながら、軽鎧の上から料理に使っているエプロンを装着。バンダナを頭に巻いて、コッソリ除菌ソープを出して手を滅茶苦茶洗う。


 アイテムボックスから食材を出す。この世界の乾燥パスタとカット済みのベーコンと玉ねぎとホウレン草、バター、牛乳とコンソメの素だけは日本のメーカーのキューブを。そして大きいから半株ぐらいのフリルフリルマッシュルーム。高級食材ではあるが、日本のマツタケやトリュフほど高価ではない。栽培されているものだからね。


 寸胴にいきなり熱湯と塩を入れて、パスタを茹でる。その間に、バターを温めて、ベーコンと玉ねぎをカットして、中華鍋のような大きなフライパンで炒める。そして丁度良い大きさに手でちぎってほぐした真っ白のきれいなキノコを投入してほうれん草は、カットしてから少し塩をまぶし、水魔法と火魔法で下茹でしておく。そこへコンソメ、牛乳を入れてほうれん草を加えて。とろみはちょっと反則だけど水溶き片栗粉で。塩コショウで味を調えたら、少し芯が残っている状態のパスタを入れて。出来た!

 厨房の鍋だけ借りて、すべて火魔法の超エコな料理だ。


 力まかせで作った「フリルフリルマッシュルームのスープパスタ」

 どうだ!多分今頃、宮殿でも皇子たちに食べられているかもしれないよ。なんてね

 そして、厨房の俺の足元には、いつの間にか林檎が沢山詰まった樽が一つ置かれていた。

 “僕がね、風魔法でもいで、クインビーに入れてもらってここに持ってきてもらったの!”

 “ありがとう、黄色ちゃん、クインビーに林檎有難うって言っといて”

 “もう、あたしがかわりに いっといたー”

 黄色ちゃんも出来る子だな。さて、


「はい、アザレさんどうぞ」

「わあ、ホウレン草が鮮やかで、このきのこは初めて見るわ。どれどれ

 お・・・」

 うん?やばかったかな?

「美味しいー」

 よかった!

「そして、俺の土地で育った林檎を」

「デザート付き!

 シュンスケ君の料理久しぶりだけど、腕を上げたんじゃないの?」

「えー。もともと俺は、数えるほどしか料理してないですよ」

「とにかく、こんな嫁が欲しいわ」

 パコン

「何言ってんのよ」

「セレ」

 雑誌を丸めて立ってる、ここの副ギルマスが立っていた。

「シュンスケ君ほど難しい相手は大陸中探してもいないわよ」

「ふふふ。そうですね」

 母さんエルフがくすくす笑う。

「ナティエもー」

「美味しいですわ。シュンスケ様本当にお料理も上手なんですね。誰かに教わったのですか?」

 ナティエさんがつぶやくように聞いてくる。

「まあ、食べることは好きですしね、母一人子一人の家庭で、母は働いていましたから、自然と家事をやっていたんです。だから。

 でもそんな経験が今生きているんだから、何があるか分からないですよね。」

 本当に、人生何があるか分からないよね。少し思い出してしみじみしていると、


「シュンスケおにいちゃーん」

「アイラちゃん!」

 クリスの妹が駆け寄ってきた。クリスは人間寄りだけど、アイラはエルフ寄りの色だな。ローズブロンド髪とヘーゼルナッツ色の瞳。白い肌。でも笑った顔が三人ともよく似ている。


「じゃあ、行きましょうか」

 ポリゴン町の冒険者ギルドの扉から帝都の屋敷の玄関の外側に繋げる。

「まあ、もう帝都ですか」

「ええ。じゃあジャンク商会に行きますよー」

「はい」

 屋敷からお店までは徒歩十三分程度。

 アイラちゃんを真ん中にクリスと三人で手を繋いで歩く。

 その後ろにナティエさん。もしもの時のために、白色ちゃんと視界を共有している。


「すみませーん、ラーズベルトの冒険者ギルドから来ましたー」

 少し緊張しながら、クリスが叫ぶ。

「はーい、おや?シュンスケ様。今日は冒険者さんですか」

「ジャンクさんこんにちは。この子はクリス。ロードランダへの荷物の運搬に来ました」

「ああ、そっか。エルフならできるね」

「この子はハーフエルフなんだけどね、今日はギルドの依頼の他にお願いがあるんだ」

「なんでしょう」

「クリスのお母さんと妹も来ているんだけど、会ってやってほしいんだ」

「わかりました、若いのにお得意様でもあるシュンスケ様のお願いですしね、こちらへどうぞ」 

 そう言って、奥の商談用の応接に連れて行ってもらった。俺も前にここで、エリクサー(とは言わなかったけど)を詰め替える道具について相談したときに来させてもらった。

 そして、クリスが店内で控えていた母親と妹を連れてきた。

「初めまして私はナティエ。ロードランダ王国のリーニング伯爵家の娘です」

「え?ということは、この子たちは」

「はいクラッツさんとの間に生まれた子供たちです」

「ああっ。そうなんですね。そう言えば、このクリス君はクラッツに似ています。

 そうですかそうですか。改めまして、私はジャンク。このジャンク商会の会頭をしています。

 クラッツの兄です」

 ジャンクさんの目じりに光るものがある。そして、こっそり改めてジャンクさんを見ると、この人の種族が人間族ミックスだった。あ、ドワーフがちょっとだけ入っているのか。だからこういうお店をしているんだ。今になって納得!

「まあ」

「クリス、アイラ、改めて初めまして。私は貴方達の叔父です」

 ジャンクさんが両手を伸ばして二人の頭を撫でる。

「「おじさま」」

「ああ、よく来てくれたね。君たちのことはクラッツから父宛てに来ていた手紙で知っていたんだ。エルフの国で子供が出来たと」

「ああっ」

「そうなんですね」

「父は、君たちのことを気にしていたんだが、一昨年風邪をこじらせて亡くなっちまって。母はもう随分前に病気でなくなっていて、もう今は近い親族は私しかいない」

「・・・あの、それで、私はクラッツさんあてに来た弔慰金をお渡ししたくて」

「ナティエさん。私もそうですが父や母もそんなことは気にしていませんよ。確かにクラッツが戦死したのは大変悲しくて残念ですけど、そのお金は子供たちに使ってください。そのほうが、亡くなった皆は喜びますからね」

「ああ。ありがとうございます」


 なんとなく、俺は買い物のときとかでも分かってたけど、ジャンクさんはやっぱりいい人で良かったね。いつも、親切に説明してくれるし、おまけしてくれるんだよ。


「ジャンクさん、クリスは今度学園の入試を受けるんですよ」

「はい、頑張ります」

「そうか、入学できることになったら、ぜひお祝いをさせてほしい。それに、このお店はシュンスケ様をはじめ、学生の御用達になっているからね。なんなら、この店の上の空き部屋に住めば、学園が近いぞ」


 すごいなあ、ジャンクさんグイグイくるねえ。


「まあ、また詳しいことは今度ゆっくりお願いします」

「そうですな。

 さて、依頼だね。クリスが運んでくれるのかい?」

「はい、本来もう時間的には難しいのですが、シュンスケさんに手伝ってもらえば間に合うので」

「そうか。ちょっと待ってろ」

 一度奥に下がったジャンクさんはすぐに戻ってきた。手には小さめのきんちゃく袋がぶら下げられていた。

「この中には大きめの額縁が百枚入っていて、これを明日中に、ロードランダ王都の、グリーゼ フォン アルジル伯爵に持って行ってほしいのだ。王都の地図はこれ。何でも明後日の展覧会に間に合わせたいとかで」

「わかりました」


「ところで、シュンスケ殿、ロードランダまではどうやって行かれるのですか?アルジル家までは早馬で五日かかりますよ」

「もちろん、企業秘密です。

 じゃあ、ナティエさんとアイラは、一度戻ろう」

「はい」

 そう言って二人には一度お店の出口とポリゴンの冒険者ギルドの入り口を繋いだ扉から戻ってもらう。


「さて、俺達も行こうか。依頼の品は納めた?」

「はい。ここに」

 と言って、クリスがウエストの小さなポーチを叩く。

「こっちも直接ラーズベルトのギルドに行こうか。ジャンクさん、クリスは俺が責任をもって守りますんで」

「ちょ、シュンスケさん。俺を守るのはやめて」

 いつもの笑顔でジャンクさんは返事をくれる。

「はい、シュンスケ様、これからも甥をお願いします」


 そうして俺たちは、ジャンクカンパニーのドアから直接ラーズベルト辺境伯領の冒険者ギルドの出口のドアの外にでた。

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