7.5 挿話1 【うっかり、とんでもない拾いものをしたかもしれない】
ウリサ兄さんのお話です。
俺はウリサ。物心ついた時からアリサと従弟のゴダの兄貴をやっている。
今日、街道の並木森の外の草原で、エルフの子供を拾った。
この世界全体で見たらエルフなんて珍しくない。地域によってはたくさんいる。
しかし、単に耳が長くて尖っているだけで、俺たち人間族と見た目はあまり変わらないものが多い、俺たちみたいに地黒で黒目黒髪のもいるしな。
冒険者家業をして、他国にも行ったときには人間族並みに色のバリエーションがあるのを知っている。ただ、その時に、白っぽくて明るい色身を持つものほど、ハイエルフと言って純血に近く、もはやめったにお目にかかれないほどに少数なのだそうだ。
俺たちが保護したシュンスケは、まさに伝説の色をしている。
あまりにも現実離れしていたし、アリサが馬鹿みたいにいきなり触れて頬ずりする勢いだったので、かえって俺は冷静になれて警戒できた。
シュンスケという子供を保護したことで、ギルドに入るまでは、どういう風に報告するかといつもより悩んでいた。
いつものように「この子を拾いました。後はお願いします」って感じで簡単に扱うべきではないと、俺の冒険者活動で培った直感が言う。
獲物の処理を担当の職員に託し、カウンターの端にもある水道で手を洗っていると、カウンターにサブギルドマスター兼ギルマスの秘書のセレがいて、
「ちょっとちょっと」って手招きした。
「ウリサ。どうしました?」
「耳貸してくれ」
討伐すぐの、汗や血生臭いままで、彼女に近づくのは申し訳ないと思ったけど、相手も慣れているのか、手に持っていた書類で俺の口元を隠すように耳を寄せてきた。
「母親とはぐれた子供を連れてきたんだけど、エルフでさ、なんか色もワケアリなんだよ。身のこなしとか色々」
そういうと、しばらく考えるように目をつぶった後、今度は彼女の口元を隠して、俺の耳に近づく。
「落ち着いたら三階にみんなで来ていただけますか?扉を開けておきますので、そこへお入りください。私も準備してきます」
レストランエリアのテーブルに行くと、アリサしか座っていなかった。
「おトイレだって」
「そうか」
しばらくしたら、ゴダがきれいな色のハンカチで手を拭きながらシュンスケとやってきた。あんなハンカチ持ってたかな?あ、シュンスケのなのか。納得。
あとでゴダが、「腹痛予防に手洗いが大事なんだって」それはお前、俺がいつも言ってることだ。
俺たちと同じ大きな塊肉のシチューを前にしたシュンスケをみて、ちゃんと食べられるのか?と少し心配してみていたら、何のことはない、小さな手でアリサよりうまくカトラリーを使い、ちっこい口の周りを汚すことなくきれいなしぐさで食べていた。
食事を始める前に、椅子とテーブルの高さにちょっとためらっていたと思ったら、靴を脱いで、正座っていうポーズで座り、何とかテーブルの高さを自分に合わせようとしていた。だからちびなのにこぼさずに食べられるんだな。へえ。
それでも食べ盛りなのか、
「美味しいです!」を連呼しながら、もりもりと気持ちよく食べる。
テーブルの真ん中にジュースの入ったピッチャーがあって、お代わりを自分で入れるときに、椅子の上で膝立ちになってゴダやアリスのコップにも足していた。
あんな気遣いをするやつ、このギルドでは見たことはない。
後で聞いたら、「母がうるさいんですよ」と答えた。やっぱりちゃんとしつけられたんだな。
おれも、母親が亡くなるまでは、ちゃんと育ててもらった記憶がある。ゴダの親と、俺の親がアリサが今のシュンスケと同じ五つの時に死んでしまって、ゴダなんて三つで、それからはあいつ等をただ生かすことだけに必死だった。幸い冒険者は八歳から登録して活動できた。独立して生活するなんてできないわずかな稼ぎだったが、孤児院で世話になりながらで俺もまだまだガキだったし、躾けるなんてできなかったしな。
そんなことをぼんやりと思い出しながら目の前の子供の食事を見守っていた。
食事が終わり、三階に上って開いていた扉はギルマスの部屋だけだった。
迷子の保護処理にギルマス直々に出てくるとは。
まあ、このギルマスは、辺境伯爵家の一人なのに、「直系ではないから自由なんだ」とか言って、領地の端っこであることを良いことに、人間族至上主義のこの国にいる、ほかの種族のやつを保護したり、安全な国へ行けるよう費用を工面してやったりする、ちょっと変わった貴族だ。
だからこそ、シュンスケの件で直接相談したかったのは確かだから、助かった。
そしてギルマスの部屋の、メインのステータス測定器を覗いた時は、覚悟はしていたつもりなのに、かなり驚いた。
シュンスケの名前は シュバイツ フォン ロードランダ
・・・遠い国の高貴とされる一族の名前だった。
その上、なんだこの能力は。エルフってこんなに高いのか?
いや、冒険者仲間のやつはここまでではなかった。人間族の血も交じってるとは言ってたが、俺たちより、ちょっとだけ能力が優れただけだった。
しかし、シュンスケの場合は桁が違う。
レベル 二〇
生命力 六〇〇
体力 一〇〇〇
魔力 一〇〇〇
魔法基本属性 全属性
魔法特殊属性 全属性
スキル魔法 空間・錬金・鑑定
その他スキル 算術・剣術・弓術・料理・裁縫・癒し・音楽
風の女神の加護
全属性なんて、見たことのない単語だ。
レベルは少し鍛錬していたら、年齢の数前後に上る。何もしていなければ老人になっても一桁だ。
五歳で二〇まで上げるには何をするんだ?
生命力は寿命にも絡んでくる。さすがエルフ。何事もなければかなり長生きできるだろう、俺たち人間族の十倍は。
そして加護ってなんだ?全属性だけど風魔法よりってことか?
そんな風に、俺たちや常識とは桁の違う数字に眩暈がしそうだった。
ふとドミニクを見ると目に手を当てて少し途方に暮れている。そりゃそうだ。こんな子供、俺たち時みたいに唯の孤児みたいな扱いはできないし、かといって目立ったことをすれば狙われる。命ごと。ギルマスといえ初めての案件だったんだろうな。
ギルマスの部屋で、ドミニクとシュンスケのやり取りが一通り終わって、今日はいったん帰ることになった。
階段を下りていくみんなについていく俺をドミニクが呼び止めた。
「ウリサ、まあ分かっていると思うが、絶対よそに漏らすなよ」
「もちろんですよ」
「俺も出来るだけのことはする。だがお前たちもあいつの力になってやってくれないか」
そういって、俺達の養い親でもあるおっさんは静かに言う。
弱い立場のやつを守るのは大人の義務だ。そう教えてくれたあなたの言葉は分かっていますよ。
「もちろんです。俺たちのほうが自由が利きますから」
「そうだな。ま、あのスキルを見たらある程度は自分でできるんだろう。だから、高みを目指せるよう導いて整えてやらなければもったいないと思わないか」
「はい。俺もそう思います」
改めて見上げれば、困ったように笑いながら
「お前の時もそう思っていたんだぜ」
「・・・すみません」
そうして、俺の弟分が一人増えた。
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