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70【夏休みはイモ洗いに行きがち】

長いので今日は1本です~

「はいはーい。女の子は三階ねー」

「男の子はこっち!」


「うわ―すげー。これなに?おふろっていうの」

「えー大丈夫?おぼれない?」

「初めて見たー」

「窓の外の水もスゲー」

「あれは海だよ」


 二階と三階のお風呂にはまず、年上の子供を入れて、その時に分からない人には入浴の仕方を教える。その後は、その年上の子が下の子の入浴を補助させるって段取りで、どんどん子供達を洗っていく。

 みんな、垢と皮脂と埃でカピカピの粉々になってたから、シャンプーとボディシャンプーとヘチマっぽいタワシを大量放出して、ごしごししてもらいました。ごしごしするのは今回だけだから我慢してね。


 地下から保護した獣人族は、昨日もう一度ポリゴンにつなげて、あっちの孤児院にエルフ親子と一緒にケアをお願いした。


 バジャー子爵領の路地や屋外でさまよっていた子供は、結局七十人。

 俺が持って行った馬車でもいいって言ったけど、冒険者ギルドで貸してもらった馬車で、一台は、けが人と病人を。もう一台は路地にさまよっている子供らをぐるぐると回収してもらった。


 俺が現地へ行ってから集めようと思ったんだけど、皇子殿下が二人も動いているので、早かったです。もうほとんど集まっていた。街の人々が自主的に動いていたらしい。


 風の神様の像のある大聖堂で、彼女の歌をはじめ三曲を聖属性魔法をまき散らしながら歌った。今日は翅は引っ込めて、エルフ姿は黒い人間族の状態より魔法がするりと効率的に出ていく。


 大人の中には戦争で、手や足を欠損した人もいたので、この人たちはエリクサーの方が良いのでは?と、少し準備したんだけど、歌だけで欠損が生えてきて治っちゃった。

「シュンスケ!ありがとう。私の虫歯も治った」っていう、第二皇子殿下の偶然のおまけ治療もあったけどね。


 いつもは片開きの一枚扉しか出さないところを、二枚の両開きのワイドな扉にして、七十人をお出迎え。その屋敷では手分けして、風呂に入れ、一階と二階の応接と食堂で食事をさせる。

 もうね、ここが孤児院みたいだよ。


 応援要員にはなんと屋敷の向かいに住んでらっしゃる、ドミニク卿のお母さんのロベリアさんが、ご自分の侍女とお花屋さんの子育て経験のある女性スタッフを連れてきてくれた。もう車いすなんか乗ってない。階段を駆け上がってらっしゃる。まじで助かります。やっぱりね、赤ちゃんに近い子はカーリンやアリサには荷が重いもんね。


 俺は、男湯の世話に行ったら、一組目で、お湯の色が凄いことになったので、一組ごとに魔法の力技でお湯を入れ替えた。

 体を洗ってから入ってもらったんだけどな。


 女湯にはカーリンが行ってて、同じ状態だったらしい。

「こっちのお風呂が小さくてよかった。二階のお風呂は私には大きいから、いきなりお湯を満たすのはきついわ」

「そうか。でもありがと。助かったよ」

「なにいってるの。私の方こそ、ありがとう。精霊ちゃんに補助を頼んでくれて。助かったわ」

 そういいながら、休憩のおやつタイムは俺の部屋で。リビングや食堂は全部稼働中だから。

 当屋敷自慢のカスタードプリンを赤色くんにあーんしていらっしゃる。

 カーリンはすっかり、自分の属性の精霊ちゃんは見えるようになっている。


 それに、ガスマニアの貴族としての毅然とした姿勢が眩しいです。フットワークの軽いお嬢様ってすばらしいよね。


 帝都の屋敷の子供たちが落ち着いたころ、俺はもう一度バジャー子爵領に入る。

 今度は単独で教会に瞬間移動()んで、そこから俺は今回初めて行くバジャー子爵領の冒険者ギルドに走って行った。受付でシュンスケの方をつい名乗るとそのまま、ギルドマスターの部屋に案内された。

 ギルドマスターの執務机に居たのはドミニク卿だった。その傍らには山ほど積まれた書類の隙間にボルドー第二皇子殿下。

「え?ドミニク卿はここのギルドマスターもされていたんですか?」

「馬鹿言え、ここも兼任するには、お前みたいに長距離の瞬間移動が出来ないと無理だ。

 それよりシュンスケ、ここのギルマスまで同じ時期に消えているんだ、サブギルマスと。ギルドは他の一般職員がいたから回ってたみたいだけどな」

 なにその、この町の要人が一気に行方不明になるのは・・・。ミステリーは専門外ですよ。

「まあ、とりあえず座って」

 と言って俺にソファを進めて、お茶を出してくれたのは、

「セイラード殿下」

「私達はまだ学園の一年を終えたばかりだからね、お話を聞くしか無理でしょ」

「そうですね」

 おっ、殿下のお茶美味い。少しミント入ってる?ホットなのに爽やか。

「それなのに、シュンスケが頑張ってて私にできることはまだあまりなくて」

 シュンとたれ耳が見えそうです殿下。隣に座ったセイラード殿下を思わずよしよしする。


 ちなみに殿下の護衛兼学友のブリドとラスは帝国の騎士団の合同訓練で強化合宿中。俺に試合で負けたことがやる気を起こさせているらしい。夏に合宿って、体育会系だなあ。


「しばらく、ポリゴンにはゲールをギルマスの席に座らせておいて、業務はセレにやってもらう」

 冒険者ギルドマスターにはAランク以上の依頼達成をある程度の数は経験した冒険者にしかなれないそうだ。冒険者と国家は別組織だから、国内での位よりランクの方が優先だそうだ。

 殿下たちも一応冒険者登録はしているが、ランクと経験が全然足りない。まあ、公務が忙しいからね。そっち優先だよ。


「すみません、いつもドミニク卿の仕事を増やしちゃって」

「まったくだ、と言いたいところだけどな」ドミニク卿がペンを置いて立ち上がる。

「はい、クッキーもあるよ。

 シュンスケ、これはな、我々ガスマニアの人間が気をつけなくちゃいけない事だったんだ。あのまま放置していたら、最悪子どもたちが死んでたかもしれないでしょ」

 セイラード殿下が、俺の頭を撫で返す。

「そうですね、間に合って良かったです」


「それで、まずは、地下で見つけてくれた虎人族たちは、種族的にも戦争の時に巻き込まれた、ベスティアランド王国の子供だ。親がどうなってるかは分からないが、これは皇帝陛下に対処してもらうべき案件だ。適当なことをすれば再度戦争になりかねん。おれも引き渡すときには一緒に行くだろう。個人的にあちらと付き合いがあったからな」


 ドミニク卿もソファーに座ってセイラード殿下が淹れたお茶を飲んで一息つく。


「それとここの領地の、これからの話だがな」


「はい」

「行方不明の幹部たちは、ギルドから国際的に指名手配を出す」

「え?」

「どうやら、エゴンが主体だったようだが、不法な人身売買をここの要職のやつらが組織だって行っていたらしい。

 お前が前回ポリゴンに連れてきた子らも被害者だ。

 ただ、バジャー子爵は恐らく関係ないだろう。奴が領地経営が出来ないことを良いことに、好き放題やっていたみたいだな。国からの戦後の復興予算も、バジャー子爵には僅かしか渡ることなく、エゴンたちの活動資金になっていた。証拠の帳簿が、その机の床下に入っていた。それと子爵の側近が夏季休暇とか言って同じ時期から居ない」

 うーん、なんか引っかかることもあるな。そんなすぐにばれる証拠を置いて、何人か固まってるとはいえ、身一つで逃げるのかな。

「教会の司祭はエゴンの関係者ですか?家名が同じですね」

「ああ、エゴンの義理の弟だ。まあ、もうこの国の政治的なことは殿下や皇帝陛下に任せて、お前は里帰りの方に集中しなさい」

 忘れてた!

 だって、あんなにやばい子供が沢山いたんだもん。


「屋敷にいる子供たちは、支度が出来たら、こっちに戻してくれ。孤児院と、大きめの子はギルドで引き取ろう。できそうなら麦の収穫をさせる。お前が豊作にしたんだろ?」

 にやりって感じで俺を見つめる。

「・・・はい」

「出来たら出口のほうの畑も頼む。あっちはワイン用の葡萄だ」

「ははは、わかりました」


 “お屋敷の子供たちは?”

 “みんな、ごはん たべおわったー”

 “いま えめらるどの ぶどうたべてる”

 “それは良かった”


 あの葡萄、結構いい働きするもんね。さすがエルフ王の葡萄だぜ。


「お屋敷の子供たちはもう落ち着いたみたいです」

「そうか、一度俺も見に行こう。殿下達、後をお願いできますか?」

「ああ、大丈夫」

 一心に書類を見ていたボルドー殿下が笑顔で手を振る。

「私は、お屋敷に行こう」

 セイラード殿下は俺についてくるみたいだ。

「うん、では行きましょう」


 三人と手を繋いで、海岸のお屋敷のロビーに戻る。


「おかえり、シュンスケ君、あら殿下とドミニク卿も」

「カーリン嬢ご苦労様です」

 セイラード殿下がエプロン姿で奮闘しているカーリンをねぎらう。

「どう?みんなもう動かせそう?」


「もう、お風呂と食事は済ませて、小さい子はお昼寝しているわ」

 階段を下りながら、ロベリアさんも姿を現す。

「母上。店は?」

「あっちは優秀なスタッフがいるから大丈夫。それより、バジャー子爵領の孤児院の人手が要るでしょう?私も寮母の補助をさせてくれない?」

「それは、願ったりですけど」と言いながらセイラード殿下とドミニク卿を見上げる。

「そうだな、母さんもシュンスケのおかげで、動けるようになったから、花屋の店番もいいけど、子供に囲まれているほうがいいだろう」

「ええ、何なら、ポストが空いているなら孤児院長だってするわよ」

 ロベリアさんがやる気満々の可愛いガッツポーズをする。すごく若々しい笑顔だ。

 うん、ドミニク卿の面倒見の良いのは遺伝だね。


「よし!決まりですね。私が父上と兄上たちに言いましょう」

 セイラード殿下も協力してくれるし、よかった。


 三階からミアが女の子たちを

 二階からはセバスチャンが男の子たちを連れてきた。

 目をこすってる子が何人か。お昼寝してたのにごめんねー


 大きな屋敷のホールとは言え、七十人は大人数だ。

 それを大きい組と小さい組に分ける。


「じゃあ、先に大きい子から並んで!バジャー子爵領の冒険者ギルドにつなげるね!」

 冒険者ギルドには、冒険者は滞在する宿舎もあって、そこにベッドを追加したらしい。

 追々、外の宿屋に行く子も出るだろう。

 ガチャリ。


 扉の向こうでは、ボルドー殿下と、ゴダがいた。不思議な組み合わせだ。


「ハーイ、冒険者登録している人はこっちです!」

 ボルドー殿下もただのスタッフ状態だ。後で王子って解ったらみんなびっくりするよねきっと

「冒険者じゃない人はおいらの方へ。お名前かける?あ、書けない?大丈夫。おいらがかわりに書くよ」

 ゴダも頑張ってる。


 大きい組は全部はけた。


「じゃあ、教会につなぐよ~そこから孤児院に行くね~」

 小さい子を孤児院に移動させる。


 おれも両手に一人ずつ、三歳ぐらいの男の子の手を繋いで潜る。

 ロベリアさんがさっそく母さん冒険者のナルスさんに現状チェックのやり取りを始めていた。


 ここはもう大丈夫だな。


「ウリアゴ達忙しいから、あと二日ぐらいバジャー子爵領地に居ようかな」

「そうだね」

 十一歳のセイラード殿下に出来ることは実はあまりない。ずっと忙しかった俺の、のんびりに付き合ってもらっている。俺も本当は全然働けるけど、年齢による働きすぎ制限に引っかかっている。

 朝の三つ編みを崩さないように長いままの黒髪日本人状態で、平民の格好で歩いている。

 殿下もキラキラしい王族のオーラを抑えた格好だ。

 俺たちの後ろには本職の近衛兵さんがお二人、私服状態で護衛についていらっしゃいます。

 もう一度冒険者ギルドに飛んでから、城に向かって、てくてく歩いている。

 途中の屋台で、串焼きを買ったりして平民歩きを楽しんでいる。

 俺が一口毒見という建前の味見をしてからセイラード殿下へ。

「うん、うまい。だいじょうぶだね、どうぞ」

「シュンスケ、お前も王子なんだから、私のための毒見をする必要はないぞ」

「俺は大丈夫、ほら、鑑定があるからね。俺のと味が違うから味見、こっちは塩味。ほら、あーん」

「お、ホントだ、こっちも美味しいな」

「でしょ」

 学園であーんを良くしていたから俺たちは麻痺していた。


「殿下達が・・・なんて素敵」

「尊い」

 なんて沿道の反対側で、ザワつきがあったことは、俺達には知らないことだ。


「殿下達は何処に滞在しているの?」

「領主館には、皇族用のエリアがあるんだよ、そこにね。シュンスケもVIPだからそこの部屋を用意されているよ」

「じゃあ、バジャー子爵のお城の補修をしようかな」

「え?そんなことできるの?」

「土魔法とかで」

「そんなの魔女(リフモル先生)には教わってないよ?」

「でも図書館にはありましたよ」

「あぁ、私は火属性の図書館しか今年度は行かなかった」

 五属性持ちなのに。

「偏りすぎです!」

「そうなんだよ、もう戦争中じゃないから攻撃魔法は極めなくていいんだよな。討伐しか使い道は無いしね。

 しかし私は結構不器用だから、一つのことしかできないのさ。来年は風属性の図書館に通って、その次に土とか考えていたんだけど」

「殿下、毎月変えて回りましょう。卒業するころには、今年のことを忘れているかもしれませんよ」

 ポン!

 殿下が手を打つ

「なるほど!そうだな。つい火魔法がカッコいいって思ってしまって」

 まあ、十一歳だもんな、それが勉強のモチベーションならあるあるだな。

「じゃあ、今から俺が土属性魔法でとりあえず花壇かな。土いじりをご披露しますね」


 城の外門に着いた。

 アイテムボックスからお花屋さんのお手伝いで使っているエプロンと軍手を出す。

「殿下、お花畑にする必要はないよね」

「ああ、この領地には今そんな余裕はない。放ったまま、また枯らすだけだ」


 ここの庭は、真ん中が石畳の馬車が2台余裕で並んで通れる通路で、その両側に広々とした花壇(今は草しかないけど)があって、さらにその両側を木が囲っている。真ん中のさらに真中に玄関の前の噴水からほっそい水路が通っている今はただの溝だ。

「殿下、この枯れきっている花畑に火を放ってまんべんなく風で煽って燃やしてくれませんか」

「うむ、やってみよう」

 東京育ちだけど、テレビでしか見たことない奈良の山焼きを思い出した。夏にやるには暑い。殿下の服には空調の付与があるけど、俺は普通に昔アウトレットで買ってもらった服だ。

 まだらに枯れている花壇は、赤色くんにも調節してもらって、まんべんなく焼く。

 火が燻ってきたら、水魔法で霧のように全体的に水を軽く撒く。埃が舞うのを抑えるためにね。先日の舞台で演出したスモークみたい。あれはドライアイスだったけど、これは雨雲だな。

 足元の雨雲が無くなったら、細かく制御した風魔法で石畳の通路と噴水のゴミを除去する。もちろんこれも精霊ちゃん達も大活躍!

「きゃー、なつなのにかれはがいっぱいー」


 黄色ちゃんが枯れ葉や枯れ枝を風で細かく刻んでくれるのを、焼いた花壇に軽く耕しながら入れていく。

「さて、じゃあ、緑色ちゃんいくよ」

 “ごにん たいせいで いきますわ” 

 今日は緑色ちゃんがたくさん来てくれているんだ。


 土に軍手をはめた手を少し突っ込んで土属性魔法を流すと、灰になったのと、枯れ切って刻まれた草や枝葉が土に混ざっていく。

「おおっ、モグラが暴れているみたいだな。よし、私はこちらをやってみよう」

 殿下も軍手を装着済み。

「面白いな。久しぶりに土いじりをしたぞ」

 楽しめて何よりです。


 やっぱり、子供たちのお腹を満たせるものを植えようかな。

「殿下、こっちに馬鈴薯を、あっちに甘藷を植えませんか?」

「いいねえ。甘藷って前にシュンスケが授業中に蛸壺と一緒に焼いてくれたのを思い出した」

「そうでしたね、では」

 と言って、畑の中でアナザーワールドの倉庫側を開く。

 先日、八百屋さんで、芽が出まくっていて廃棄処分にする手前の馬鈴薯を貰ってあるんだ。それを出して、あ、スコップと鍬も一応出す。

 甘藷は、食用に購入していた芋を幾つかこっちはアイテムボックスから出して、手近な土に横に並べて上からも土をかぶせて。

 ここは精霊ちゃんにお願いする

 “緑色ちゃんと紫色ちゃんの出番ですよ!”

 “まかせて”

 “こんなのかんたんでーす”

 見る見るうちに甘藷の蔓が生えていく。うーん凄いねー、ファンタジーだぜ。

 それを見ている傍らで、芽がいっぱいの馬鈴薯を切り分けていく。すぐに生やすから、切ったところにカビや腐るのを予防するための灰をまぶすとかをパスする。


 馬鈴薯を生やすエリアの土を鍬で少し溝を掘っていく。

 そこへ、何も言わずに、殿下が種芋を入れては土をかぶせて行ってくれる。先ほど、殿下には麦わら帽子をお渡ししております。似合うよ。向こうで護衛の人も同じことをやっております。


 甘藷の蔓がいい感じになってきたので、成長をいったん止めて、蔓を切り離していく。蔓が出ていた芋が埋まっているところは、紫色ちゃんの力で、たい肥にしていって細かくして、他のエリアに混ぜ込んでしまう。

 そしてサツマイモの芋の蔓を植え付けていく。


「さて、馬鈴薯の方を一気に行こうか」

 今度は聖属性魔法と他の魔法をまぜて急速に成長を促す。水魔法は少なめで、白色くんに光魔法を足して広がっていく葉っぱたちに急速な光合成を促す。

 “わーい、いけー”

「おおおっ、植物が動物の様だぞ」

「すごいですねぇ」

「白い花が咲きましたね」

 護衛の二人も楽しそうに観ている。


「次は、甘藷に行こうかな」

「どっちも芋なのに全然違うね」

 ジャガイモは茎が膨らんだもので、さつまいもは根っこだったっけ。

 “こっちも光らせるぜ”

 “いけー”

「こっちは花が咲かないね」

「きれいな花が咲くんですけど、朝顔みたいな。咲くときはイモの方が小さいらしくて」

 保育園児の時に芋畑で朝顔みたいな小さな花は見た。でもスマホで検索したら、咲かない方が良いんだって。

「なるほど」

 “おいものほうがだいじ”


「今日はこんなもので、続きは明日にしましょう」

「そうだな。それにしても結局シュンスケは今日も朝から働きすぎだしな」

「そうだな、二時間でこの芋畑も我ながら反則かも。ま、土遊びにしておいて」

「ははは!」


 次の日、俺と殿下はバジャー子爵領の城から歩いて、教会に出かける。

 外門の手前の甘藷芋畑はすっかり葉がびっしり茂っていて、馬鈴薯の方は少し枯れ始めのタイミングだった。試しに一株ずつ抜いてみると、どちらも見事な芋をいくつも付けていた。一晩で、本当に反則。甘藷がもし甘くなければ砂糖や蜂蜜で大学芋にしても良いしね。


「おはようございまーす」

 翌日は朝から、夏って感じのお天気。

 今日はエルフのスタイルです。

「でんかと、ちいさいおうじさまだー」

 ちいさい子供らに小さい王子って言われてた。

 誰だ、言い出したやつ。

「まあ、殿下たち二人でお揃いで」


 二人とも軍手に麦わら帽子、長ぐつの、芋畑スタイルだ。長ぐつは城の庭師の倉庫にあったものに、サイズ調節の付与をかけて履いている。あ、除菌スプレーをしてから足を突っ込んでます。

「どうだ、こちらの姿も男らしくないか?」

 見慣れてない格好が良いと思うときはあるよな。 

「すばらしいです」

 ロベリアさんと、ナルスさんが出迎えてくれた。

 二人には赤ちゃんを任せて、ナルスさんが呼びかけてくれた、孤児院にヘルプに来ていた他のママさん冒険者にも挨拶して、その人たちと子供達で外に出る。

 みんなで、手を繋ぎながら、芋畑まで歩いていく。子供たちもアリサたちが買ってくれていた中古の布や麦わらで出来た夏の帽子を被っている。

 俺は、元気に歩きたくなる歌を歌う。子供と歩くとしたらそれしかないね。二週目からは子供たちと合唱だ。

 城と教会の間は目と鼻の先だし、馬車は通らないし、もちろん車もないしね。うん日本だったら、こんなに沢山の小さい子を連れて行くなんて、そんなことは怖くてできないぜ。

 自分自身がまだ子供サイズだから。


 芋畑に到着して、みんな気合十分!

「じゃあーみんなー気合入れて、芋を掘るぞ!」

 殿下が掛け声をかける。

「「「「「「おー」」」」」」

 “おー” “やるぜー” “みんながんばれー”

 精霊ちゃんのキラキラ光る動きを目で追っている子もいる。

 お砂場セットを昨日アナザーワールドでたくさん作ったんです。シャベルと小さな熊手。そして小さなバケツを。ポリプロピレンで一気に!

 今後も、お庭遊びに使ってくれ。


「でんかーみてみてー」

「おっ凄いの採れたなー」

「ちいさいおうじーこっちはつながってる」

「おー美味しそうだねー」


「でんか、みんなの集合の絵(写真)を作ろうか」

「お、そりゃいい。おーい、みんな集まれー」

「なになに!」

「背の順に並んで」

「大体でいいよ、その大きな芋も持ってようか」

 誇らしげに芋を持って背の順に並ぶ。

 小さい子は並んで座って、だんだん大きな子を後ろに。

「行くよーみんな にーって言うぞ。

 せーの、にーーー」

 スマホでワイドに、パシャ!よし。

「王子殿下、私にさせてください。殿下達も入りましょう」

 俺の後ろで見ていた護衛の人がカメラマンを名乗り出てくれた。

「じゃあ、ここを押せばいいので、こうやってパシャっと。三回ぐらいお願いします」

 セイラード殿下と真ん中に並んで入れられた。もちろん引率のママさん冒険者も一緒。

「はい行きますよー、にー」

「「「「にー」」」」

「あ、目をつぶった子がいた。もう一度」

 って感じで、皇子と王子の入った素晴らしいスナップを撮ってもらえた。

 後日まあまあでっかい白い布三枚にでっかく複写して、一枚を孤児院の壁に貼ってもらった。もう一枚は殿下に進呈して、俺はいつか、自分の家が確定したらそこに飾ろうかとアイテムボックスに保存した。


 記念撮影が終わったら、お花見で使った赤いフェルトの絨毯を広げる。

 みんなでおにぎりと卵焼きのお弁当を食べて、お茶を飲んで休憩したら、残りの芋を掘る。もう少しだ、みんな頑張れー。

 昨日とは打って変わって今日は生き生きと元気。本当に良かったね。


 みんなが掘ってる横から、噴水で芋を洗う。水は俺が出してます。

 麦わら帽子は長耳に少し引っかかってて、うっとうしくなって背中にぶら下げている。

「あ、うわ」

 何の拍子か、手が滑って、大きな甘藷が飛んで行く。ええ、俺の手がまだ小さいのを言い訳にしていいですか?


 飛んで行った芋は、噴水の入り口を塞いでしまう。


 ブシュー

 イモ洗いのためにちょろちょろ出ていた水が勢いよく吹き出す。

「あちゃー」


「「きゃー」」

 “きゃー”

「「つめたーい」」

「あーみんなごめーん」


 “きらきらー”

 子供たちにはアクシデントじゃなくて、ただのアトラクションだった。

「「「「にじだー」」」」

 “にじがでたわー”


「なんだなんだ?」

 殿下も騒ぎに寄ってきた。

「ほんとだ、小さな虹が出来ている」

「天気いいもんね」

 一番水飛沫をもろに浴びてるのは俺だったりする。

「ちいさいおうじさまがにじでひかってきれいー」


「ほんと、水も滴る良いエルフだわ。可愛い」

 ママさん冒険者のつぶやきが聞こえてしまった。


 ・・・可愛いをせめて省いてください。


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