65【金色のはずの馬車の旅路】
今日の二本目です~
学芸会の後の休み明けに、五年生の卒業式があって、六月末に学年末の修了式があった。
俺の成績はジャーン!魔法学科一年生のSクラス一位でしたーパチパチ。日本人だった時には無かった快挙!と言っても同率のセイラード殿下がいるので、二位ともいえる。
まあ、普通科(教養)の地理と歴史以外は小学校中学年レベルだからね。
魔法は、何で判断されているのか分からないけど、だって、自由研究一〇〇%みたいだったでしょ?
そんなわけで七月から二カ月ばっちり夏休みがある。まあ年々夏休みが少なくなってきていた日本人感覚からすると長って思うけど、春休みは無いし、カーリンみたいに里帰りの遠い人もいるものね。それに、宿題は絵日記だし。夏のドリルとか無いからいいぜ。
それで俺は、正面からロードランダ王国入りを目指して旅行をすることになった。しかも、堂々とロードランダの王子が帰って行くんですよってアピールしながら進むんだって。一般の旅行者として行きたかった!
この夏の帝都の海の家は、ポリゴンから別の冒険者がやってきて担当するらしい。だから今年は悪いけど、かき氷は土日限定二時間ずつだけだよ~(俺が瞬間移動んで帰ってかき氷日にする。または、作り立ての状態をキープできる魔法を付与した発泡スチロールのクーラーボックスに作りためて届ける)
方角が一緒なので、カーリンと一緒に西から回ってまずはラーズベルト領を目指す。一直線に行くルートはないらしい。
大陸の真ん中は山岳地帯か砂漠なのは、どの世界でもあるあるなのか。
なんと、カーリンも冒険者として、フィストアタッカーのメンバーみんなで依頼を受けて、要人の警護という体で同行しているのだ。そうして、帰省の旅費を浮かすどころかプラスにするなんて、しっかりしてるよね。後ろにカーリンの荷物とフィストアタッカー達が乗る小さい馬車も付いて来ている。
「だからって、カーリンも軽鎧のスタイルなんて」
「シュバイツ殿下、私は仕事ですので」キリッ
まあ、一緒に乗ってるんだけどね。
さすがにアリサねえちゃんはお貴族様のお嬢様と同じ馬車はちょっと、なんかぼろ出しそうだし。なんて言って、馬車の隣で馬に乗っている。反対側はゴダの馬。
カーリンとは一緒に風呂に入ったんだから今更だろう!
だから、いざと言う時用にミアを侍女として乗せている。アリサはなんちゃってメイドなので、貴族のカーリン嬢のお世話をするにはミアの方が良いのである。
それに、見た目六歳児とは言え男と二人の馬車内にいるのは外聞が悪いから俺が!カーリンは相変わらずグイグイ来るんだけどね。
きみ、忘れてない?俺は大人にもなれるんだぜ!
そして、俺は今回はシュバイツ殿下スタイルなのだトホホ。まあ夏休みの貴族的な感じだな。とうとう、名実ともに晴れて貴族と言うか王族になってしまう俺が、貴族としての動きを学習するためらしい。ロングヘア―は地味なシュシュで括っております。シュシュって括るのが簡単でいいね。
この一週間、学校から帰ってきては毎晩セバスチャンに「上からの対応」を仕込まれました。
二言目には。
「お坊ちゃま、それでは平民の態度でございます」
とダメだしの日々。受験勉強よりきついぜ。救いは、〈堂々と姿勢よく歩く〉が一発で合格したことだ。剣道とかのおかげかな。だめなら本を頭にのせて歩く練習をさせられるらしい。うん?母さんの漫画で見たようなシーンだな。あれって令嬢のトレーニングなのでは。
しかし、俺には一つお助けのスキルがあるのさ。それは、セイラード第三皇子殿下の友人だ!という事だ。
あの人の物言いを真似すればそれっぽくなるのだろうと、セバスチャンの前で実践したら合格をいただきました。
返事は「うむ」って感じだな。
ただ、学芸会からこっち、本当は俺の方が立場が上らしいことから、晩餐でいたメンバーや護衛二人などといるときは、俺に丁寧に話すようになってしまった。
さみしいね。くっすん。せめて、対等にしてくださいとお願いしたら、「私には対等が一番難しい」と言われてしまいました。
まあ、言葉遣いはともかく、このままこの世界で仲の良い親友になってもらえたらいいなあ。
そして悲しいことはもうひとつ。
「ほら、殿下、次の街が微かですが見えてまいりましたわ」
カーリンからも殿下呼ばわり・・・。エーン。
街を囲んでいる塀は見えてきてるけど、まっすぐ行くわけじゃないから、この窓からの風景は・・・畑?牧場もある。でも作物は?麦なら今が収穫時期なんじゃないの? ポリゴン町の麦畑は金色だったぜ?それに比べてここは冬のような枯れた風景。牛も痩せているし・・・。かすかに見える塀もなんだか遺跡か?ってぐらいにぼろい。
「カーリンこの地域って」
「ええ、ここは元トウフェズ侯爵領で、去年新しく騎士爵の貴族が陞爵して領主に就任したばかりのバジャー子爵家の領地です。
そういえばエゴンが度重なる戦で、自領からもいろいろ持ち出していたから、生活が苦しいと地理で習ったな。あの吸血鬼は、自分のために領民を顧みなかったなんて、とんでもないやつだったんだな。
これから、本格的な夏が来たら、ここの人たちはやばいのでは。
この地域は梅雨や台風が無いしなあ、海と湖が遠いから年中乾燥しているのかもしれない。
“青色ちゃん、ここっていつから雨が降ってないの?”
“いっかげつぐらいかな、みずがすくないから、あたしたちもすこしくるしいの”
窓から空を見上げれば雲一つない青空。馬車の横も見る。去年のスキンケアは続けているみたいだけど、紫外線がきついぜ馬上のアリサねえちゃん。
今年は日焼けを気にしているのか、俺があげたテンガロンハットに長袖のワイシャツとジーパンの上に革鎧。初めて会った時にオープンになってた胸元とかお腹や太ももは隠れております。
あ、馬車が停まった。
「シュバイツ殿下、ランチ休憩です」
ウリサ兄さんも殿下呼ばわり。
街道沿いにところどころある野営や休憩をするポイント。キャンプ場のように、水場と手洗いが設置されている。この国のトイレは下水完備が良いよね、と思ったけど、雨水が少ないので、流す装置が空っぽだ。汲み取らないボットン状態になっていた。臭い。
思わず、用を足しながら、ブラックライトを光らせながら、浄化の魔法を垂れ流しながら大量に下水を流して、雨水タンクも満タンにした。
ふう、やっと匂いがマシで、飯にできるぜ。
旅の腹痛ほど厄介なトラブルはないので、ここは坊ちゃんごっこをかなぐり捨てて、みんなに除菌のハンドソープと、水をジャンジャン出す。水はカーリンも出せるから、そんなに目立たないのが良い。
今日のお昼は、おむすびと唐揚げとサラダだ。もちろん卵焼きもある。
「この大きなおむすびはまさかゴダ?」
「わかっちゃった?あ、分かりましたか?」
今日はミアが馬車の荷物の確認とか、アリサの支度の手伝いで大変だったもんね。
「ええ、具もいっぱい入っていますわ」
「塩加減ばっちりだね」
「えへへ。サンドイッチもいいんですが、おむすびの方が、腹持ちいいので、いつも単独の仕事の時もおむすびにしています」
ゴダも丁寧な言葉の練習を頑張ってるそうなので、付き合わなくちゃいけない。
ご飯の後、食休みを取る。すぐに馬車に乗るとやばいからな。あの振動は特に。オロオロするんだ。
存在が面倒なので、翅は隠したままの俺、でも白っぽいエルフの姿をずうぅと続けている。よく考えたら、鏡で見続けるわけじゃないからさ、だんだん平気になって来たよ。
さてと、ウエストポーチから移動させてあるアイテムボックスから、父さんをまねて俺にぴったりサイズのミニサイズのギターと音叉を出して、少しチューニング。普通のアコギは持ってたんだけど、母さんが入れてくれたんだろうね。
うーん広く効果的にするには高さが欲しいな。
「兄さん、ちょっと行ってきます」
「え?ちょ、しゅんすけ」
「二曲で戻ってくるから!」
サンゴ礁よりは楽勝なはず。エルフのままだしね。
俺はギターを肩から掛けて空を飛ぶ。
カラカラな麦畑の上へ。
コード運びだけで行こうかな。ギターでやるのは初めてだしね。
まずは、あの優しい笑顔の水の女神様〈ウンディーナ神〉を称える曲を。
~~碧く~~澄んだ~~
~~清らかな~流れよ~
~~天からの恵みの水よ~
ふわりと雨雲が立ち込め、街道をさけて枯れた麦畑と、牧場の方へ静かに振り始める。
その聖属性の雨にはもちろん聖属性魔法のキラキラも混ぜております。
出来るだけ広くいきわたるように、ちょっとずつゆっくり。大事な土や今張ってる根が流れて行ってしまわないように。
一曲三分位かな?
全体的に、しっとりしたね。うん、少し蒸し暑くなっちゃったかも。
続いて、慈愛に満ちた大地の女神様〈アティママ神〉を称える曲を。
~~母なる大地よ~~慈愛の恵みよ~~
~~草木萌ゆる命の~ありがたさよ~
~~豊かな~実りの~~
陸地で初めて見る早送り再生で、麦畑が鬱蒼と実っていく様子と、牧場の草が青々していくところ。
牛があまりにも肥えたら、今すぐ売られちゃうかもしれないから、牧草だけね。骨皮状態だけ少し改善して。
「やった、風景が金色♪きれいじゃん」
自己満足して、出発を待つ馬車に戻る。
「ただいま」
「お帰り」
「よう、帰った」
うん?カーリン達の声じゃない。
俺が乗り込むと動き出す馬車の中には固まって後ろ向きに座っているカーリンとミアの他に二人の輝く女性が座っていた。
さっと手を取られて、真ん中に座る。
「ウンデ・・」
「こりゃ、違うじゃろ」
「アティ・・」
「ほれ」
意を決して呼ぶ前に、向かいに座っているカーリンとミアを見ると、俺の両隣の人が見えているみたいで、かなり緊張している。
もう、せっかく休憩してたのにね。文句言ってあげよう。
「叔母様たちはどうしてここに?」
「歌が聞こえたからのう。呼んでくれたかと思うて」
「可愛い甥っ子の旅に少し突き合わせてたも」
俺が神様の歌を歌うだけで来るのかこの女神たちは!
「カーリン、ひょっとしてこの人たち見えてる?」
ギギギって音が聞こえるように頷く。
「ミア、何もおもてなしとかはしなくていいからね、無理もないかもしれないけど、気楽に」
「・・・気楽になどは・・むり・・です」
「ほほほ、すまんのぅ」
「いつも、我らの甥っ子と仲良くしてくれてありがとの」
「・・・い、いえ」
「わ、わ、私たちこそ、いつもシュンスケ様には助けられているのです」
「そうかそうか」
「まあ、そんなに固くならなくともよい」
「この姿は、我らのいわば爪の先の破片のようなものじゃ」
「「は、はい」」
そう、俺が以前にお会いした時ほどの神様オーラは随分薄い。でも向いの二人はかなりの緊張感だ。
「ごめんね」
「いいえ、お二人にお会いできるなど、・・・こんな素晴らしい体験はございません」
「ほほほ、まあ、他の皆には内緒にの」
「「はい」」
とはいえ、二柱の女神を乗せた馬車は、大地への恵みをさらに振りまきながら新しいバジャー子爵領地の街へ走っていく。
“ひめさま、おうじのおうたきいた?”
緑色ちゃんがアティママ神にお話している。
「聞こえたから来たのじゃ」
“おうじのうた、あたしだいすき”
水色ちゃんもウンディーネ神の肩からお話。
「ほんに、可愛らしくて良く通る良い声じゃったのぅ」
「ええ、シュンスケ様の声は、帝都でも教会で歌を聞けたら幸せになったり、癒されたりと評判ですわ」
緊張しながらも、カーリンが女神さまの会話に同調する。
「それはどうも」
「それにしても、麦が実ってよかったのう」
「はい」
「しかしの、収穫する人間も疲弊しているのじゃ、街に着いたら、もう少し頑張りや」
「わかりました。アドバイス有難うございます」
「いや、大地の実りがこうなったのは、妾のせいでもあるのじゃ」
大地の女神の憂い顔は美しすぎて心臓に悪いです。
「お話を聞くことはかないますか」
「よい」
「聞いてくりゃれ」
そうして、馬車の旅は、超大物二人が乗っていることを他の人が知らぬまま続いていくのでした。
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