63【初めての運動会。異世界の】
今日の2本目でーす
ガスマニア帝国国立学園の学園祭が始まった。
初めは運動会もとい模擬戦大会からだ。
魔法を使った攻撃合戦と、魔法なしの武術の部門に分かれていて、騎士学部以外は教授の推薦か、学生からの推薦、そして自分の立候補でエントリーする。
学園内にいくつかあるグラウンドの中でも一番大きい施設は、階段状の観客席があるような、円形の闘技場兼劇場の建物だった。
「シュンスケ、大丈夫なのか」
「うん、少し鬱陶しいけど大丈夫。さっきまでの試合も見てたでしょ?」
俺は魔術なしの武術部門に騎士学部の生徒(主にブリドとラスだけどな)に推薦されて、エントリーさせられていた。
首回りと手首、足首、そして胴の周りに魔力をシャットアウトする術式を組み込まれたベルトが巻かれている。
そこへ、剣道着と袴、裸足のいでたちだ。うん、慣れたやつの方がいいよね。胴や籠手は付けていないです。小さい体格を強みだと割り切って生かした素早さしか俺の武器はないしね。
得物は勿論竹刀です!
おでこに赤いハチマキと、赤い胸当てをつけております。相手の武器か体がここに当たれば負けという解りやすいルール。他には場外と、魔法使用不可も俺の出場部門には設定されております。みんなと同じサイズの胸当てなので、ちっこい俺には、ほぼ赤胴です。
変身ピアスだけは作動中。
そして四戦勝ち越してベスト四入り。セコンドはなんとセイラード殿下。相手は騎士学部のラス。彼はショートソードの木剣と盾。
「シュンスケ殿、解ってましたけどね、君が強いのは。しかし魔法を封じてもここまで来るとは」
相対しながら褒めてくれるってどういう作戦なんでしょう。まだ十歳のくせに高校三年生だった俺と同じ身長の一六五センチもあるってことだけでも許せん存在ですけどね。
「行きます!」
カンカンバシバシ。
「うわ」
「ほらほら!」
バシバシカンカン、我ながら素早く繰り出しております。
「ちょ、なんで盾ばっかり打ち込んでくるわけ?」
「ラスが防ぐから当たるんでしょ」
カンカンバシバシ。
久しぶりに感じる竹刀の重み。いつもは無意識に魔法で軽くしたりしていたんだ。練習の時はだめだよね。うん、反省しなきゃ。
「嘘ばっかり」
嘘です。ポリカーボネートの透明なやつじゃないので、盾は死角にしかならないんだよね。
盾の下にしゃがんで、盾とお腹の隙間から、ラスの胸当てをめがけて下からジャンプしながらアッパー。
「もう、小さいのはやりにくいー!」
〈勝者、シュンスケタナカ!〉
やったぜベストツー!
「ラスぅ相手が小さい言い訳はだめだよ」
「は、殿下。申し訳ありません。もっと精進します」
「とうとう、次はブリドだけど」
殿下が俺の顔をおしぼりで拭いてくれている。
この国の王子に世話される俺。
「まあ、すばしっこくいきますよ」
決勝戦。試合に出る気が全然なかった俺を推薦しちゃったことを後悔させてやる。
セリフを忘れたら、ブリドのせいだからね!
今回の魔法なし部門では、一から五年生全員からの選抜で、それに勝ってきたラスもすごいけど、ブリドが先に卒業間際の五年生を倒して、控えのベンチで座っていた。いつもの飄々とした雰囲気とは違い、すごく真剣に取り組んでいて、うん、カッコ良かったぜ。
俺もはじめは、劇もあることだし、適当に手を抜いてやっちゃえと思ってたけど、父さんがもうさっきから観客席入りしていて、見てるんだもん。その隣にはエルフでもあるブラズィード教授が座って、解説をしていた。
息子としては、父兄のいる運動会ってやっぱり気合が入るね。日本では、母さんが見てた時も張り切っちゃった覚えはある。中学からは平日の体育祭だったから、なかなか忙しい親は見に来ない。思春期真っただ中の少年少女は親に見られるのは少し抵抗あるし、ってわけで、父兄席があんまりなかったもんね。PTAの人たちぐらい?
まあ、つまり、俺の運動会に初めて父さんがいるから、頑張らなきゃ。と気合入っております。
ちなみに父さんも人間族に変身するピアスを付けております。母さんの写真で見ていたパパです。高額貨幣の顔が来たらみんなパニックになるもんね。
さて、試合会場に意識を戻そう。
ブリドの武器は大剣の木剣だった。もうそれって板だよね。十二歳で、大剣なんてすごいよね。百八〇センチも身長があるけど、まだ育ち盛りだし、二メートル超えるんだろうな。長身のマッチョは、軍服を着て立ってるだけでも脅威になるし。殿下の横にいるだけで、その存在が彼を守るんだろうな。
おれの日本での脳筋さんのイメージと違って、頭もいいんだけど、戦うことに関してはポリシーがあるのか、頭が固い。
なんて、ブリドに向き合い、観察しながら隙を探していく。
始めは、会場を走り回って、ブリドにブンブンと不発を振らせる。まあそんなぐらいで大剣といえど木の剣では疲れないか。作戦変更かな。
そもそも、まえから、普通のロングソードでも振りが大きすぎて俺に負けたのに、なぜもっと大きな大剣にするのか。彼なりには前に言った事を意識しているのか、結構早く振り回しているが、振り出すときにちょっと止まって構えてるから、動く先の予測が分かっちゃうんだけどねぇ。
でも、それで他の人に勝ってるからやめないんだろうな。騎士学部の人は、ブリド以上に脳筋が多いしね。
後は、大剣にステータスを感じてるとかね。
ウリサ兄さんも初めて会った時は大剣を背負ってたな。帝都付近の討伐は森が多いから邪魔らしくて、最近は使ってない。兄さんに言わせると、大剣は鈍器として使ってたらしい。
ブリドの剣は・・・まあ、とっくに見切ってるけどさ。
振り回してくる大剣のうえにチョンと乗って、動きを止める。
「え?おぁ、シュンスケ殿」
「だからぁ、動きもでかい!」
ブリドにでこピン!
ふふふ、君たちはまだウリサ兄さんに及ばないんだぜ。言わないけどな。
「来年は勝つ!」
〈優勝、シュンスケタナカ!魔法学科からこの競技の優勝は何十年ぶりでしょうか!〉
「シュンスケ!やったな!」
「わわっ殿下!」
殿下にひょいと肩車されちゃった!
なんで避けられなかったんだ俺!
ブリドに勝った瞬間油断したのかな。ふふ、まだまだだな俺も。
闘技場を引き上げてバックヤードに殿下と引っ込んだ俺は、そこにはラスやブリドにやられた累々を見てしまった。
「なんで模擬用の剣であんなにダメージを負うんだよ」
「鉢巻と胸当てを庇うために、他を犠牲にするんだよ」
俺のでこピンで負けたブリドには何の怪我もない。
俺は歩きながらエフェクトを抑えて聖属性魔法を発動する。
最近地味にも発動出来るんだ。
けが人たちの足元や尻に空間魔法で飛ばして下から発動すると目立たない。
いつの間にか治ってる感じになるのさ。
俺は自分より、他人の怪我を見る方が苦手だ。
「ありがとうシュンスケ」
殿下にはばれちゃったみたいだけど。
「だって、痛そうだし」
「ポーションで治すから大丈夫だよ」
「生徒や兵士に渡すポーションはかなり飲みづらいんだ。痛いままの方がマシってくらいに」
ブリドやラスの解説も入る。
だからみんな小瓶を握りしめているんだな。
「不味いポーションの味を覚えて、それを飲まずに済むように怪我を出来るだけ回避するんだ。本来は」
痛いのが嫌だから怪我をしたくないのに、怪我をした後も苦行が待ってるなんて。体を粗末にしたらだめってことだな。
「さあ、表彰だ、シュンスケ」
「うん」
もう一度、競技場に出て、表彰台に立つ。
でも、一番高い優勝のところに建ってるのに、ブリドやラスより頭の位置が低かった!
悔しいから、飛んでホバリングしながら高さを作ると、
くすくす笑いながら、プレゼンターの皇太子殿下に花輪を首に掛けられた。
「おめでとうシュンスケ」
そして頭をポンポン
かっこよく勝ったつもりなのに、みんなの扱いが変わらないのはどういう事でしょう。
また増えてしまった、優勝賞品としてのロングソード1本。俺、洋剣は〈風の女神のミッドソード〉で十分なんだけど。
その後は、殿下やカーリンが出場する魔法を使った模擬戦とか、騎馬戦に人間チェスのような団体戦など、戦う系ばっかりの運動会という学園祭の前半が終わった。
明日は夜に二本投稿します~
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